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6話

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「おや、会長との話し合いは終わったのですか?なら早く退室してください。」



執務室から生徒会室へ出ると古田がこちらを一瞥してから告げる。丁寧な口調には共感が持てるが、内容がな。
つまるところ『視界から出て行け。』だからなぁ。


「生憎だが、まだ用はある。転入生くんに2、3聞きたい。いいか?」


「だめー、風紀委員長にいじめられちゃう。」
「そうだよ、ひろひろは俺らが守ってんの。」

お前達に問いかけたんじゃない、転入生に問いかけたんだ。それに拒否は受け付けない。

青筋を立てそうになったが、心を落ち着かせ3人を見やる。


転入生を庇うように両サイドから抱きしめている生徒会名物の双子。咲山さきやま真斗まさとと咲山塁斗るいと。一卵性双生児でよく似ている。

確か親も見分けれない、そんな双子を見分けた転入生とかで懐いたらしいが……俺も分かるし京本も分かるぞ?

確かに、顔はそっくりだが筋肉のつき方は全く違う。
武道を嗜む者には一目瞭然だろう、真斗は体術を、塁斗は棒術に適した体だ。

それにコイツらは意識して互いに似せているが、たまに素がでる。言葉遣いや表情にだ。

まあ、転入生を好きになることのきっかけだろう。見分けられたというのは。


「咲山、お前たちではなくて転入生に聞いている。」

「あの!なんで俺のこと転入生って言うんですか?俺には若松比呂って名前があるんですけど!」


両サイドに咲山兄弟、机を挟んだ向かいに古田と学園1の軟派男ろくでなしで生徒会会計の西條さいじょう辰也たつやが想いを寄せる相手、転入生の若松比呂。

若松くんは庇護欲を誘うように震えながら、しかしはっきりと俺に宣言した。


「すまない、名乗られたのはこれが初めてだからな。君の名前を気安く呼んではいけないと思っていた。改めてよろしく若松くん。敬語が使えるようになったんだな、素晴らしい。」

「そうだろ!蛍に褒められたくて俺頑張ったんだぜ!」


崩壊が早い、まあ褒めれば育つということはわかった。

飼い主に褒めてもらいたそうな犬のような若松くん。うん、しつけは大事だな。


「仲神先輩な、ところで若松くん。この生徒会室は重要な書類もあるからね、部外者は立ち入り禁止なんだ知っていたかい?」


名前呼びは断固として許さない、お前と馴れ合うつもりはないと意思表示しても、こいつはきっと無視するだろう。


「でもそれさ、生徒会に用があっても来ちゃダメってことか?」


あくまで俺は悪くないという態度に、純粋な疑問という目で俺を見てくる若松くん。



「その場合は生徒会の中ではなくて外で用を済ませるといい。はい解決。じゃあ次、若松くんいじめられてるって本当かい?」

有無を言わさず、次の問いかけをする。


「その件は俺が目撃したけど?仲神ってば子猫ちゃんがいじめられてるのに仕事しないの?」

間の抜けた話し方で西條が会話に入る。
口調も下半身もゆるゆるなこの男は、今日も指導しなくてはならない奇抜な髪色に染めている。

何色だあれは……

「事実確認だ。あと西條、お前いつ染めた。」
「これ?これは昨日ちょっとね。自分でやったのにこの仕上がり!俺天才じゃね?裾カラーとインナーカラーで同系統の色合わせ!映えるわぁ。」

染髪は奇抜過ぎなければよしという、変なところでゆるい校則だが、この男の髪は奇抜の部類に入る。よって指導対象の常連だ。

「西條……次やったら坊主にしてやるって言わなかったか?」
「えーいいじゃん、こんな山奥で楽しみなんて少ないんだからさ。仲神も染めてやろっか?」
「結構だ。話がズレたな……若松くん、いじめの件だが。」

西條と向き合っていたのを、向きを戻して若松くんに改めて問おうとしたが、それを若松くん本人に遮られる。

「なぁ!染めるのだめなら、流星はどうなんだよ!あいつ金髪だろ?風紀だからって見逃すのか!だいたい、俺いじめてきたの流星もだからな!蛍は俺を守ってくれないのかよ!」

こいつは本当に馬鹿だ地雷を踏み抜くなぁ。


「若松くん、蜂須賀は地毛なんだよ?風紀だからと見逃す訳がないだろう?現に西條は生徒会役員なのに怒られている。校則に勝る権力なんてこの学園にはないんだよ。君のおじいさまが決めたね。」

触るのなんて嫌だったが、若松くんの顎をくいっと掴み、強制的に目を合わせる。

「ちょっと!ひろひろに近づかないで!」
「触らないでよ!」

煩い双子を目で黙らせて、再び若松くんに視線を合わせ問いかける。


「若松くん、蜂須賀が君をいじめたと言ったが、その証拠は?生徒会の親衛隊たちが君に何を言った?何をした?いじめられるほど君は弱いのか?俺に守って欲しいなら証拠を持ってこい、物じゃなくて音声をね。できるかい?」

言い終わると同時に口元だけで微笑みかける。こうすればだいたいのやつは俺の言った通りの行動をしてくれる。『お願い』の仕方だ。


「はい…音声持ってきたら、蛍は俺を守ってくれるのか?」


惚けた顔、上目遣いで聞いてくる若松くん。
もう少しだけしつけるか。


「仲神先輩」
「あ……仲神先輩…持ってきたら、守ってくれますか?」


上出来だな。
若松くんの顎を掴むのをやめて、いい子だと目で伝え微笑むと、嬉しそうに顔を綻ばせていた。


「若松くんが俺に嘘を言ってないならね。風紀も手伝わせてもらう。それじゃ、失礼する。」


教えたことができたら褒美をあげる、しつけの基本だ。
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