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5話
しおりを挟む「おや、噂は本当だったようだな。」
生徒会室の入室を許可され扉を開けると、転入生が1名を除いた生徒会役員を侍らせていた。
侍らせているは聞こえが悪いか……転入生を中心に役員が周りを取り囲んで座っている。うん、このほうが聞こえはいい。
「これはどーも、風紀委員長様がお一人とは珍しい。生憎俺は忙しいからな、用ならこっちで聞く。」
隣の執務室から顔を出してきた、ハーレムから除外されていた人物がいつものように嫌味ったらしく俺を呼ぶ。
転入生とその他を素通りして招かれた執務室まで進む。
その際、転入生と目があった気がするが、お前には後で話しがあるとの意味を込めてチラッと目を合わせる。
が、何を勘違いしたか、顔を真っ赤にさせ両手を所在なさげに組んだり外したりをしている。
執務室へ入ると生徒会室と繋がる扉を閉められる。少しくらい失言しても、隣には聞こえないということだ。
「生徒会長殿、どうもこうも新入生の親睦会は来週だ。各自打ち合わせを始めているが生徒会は仕事をしないのか?」
いつからか顔を合わせば嫌味の言い合いになる俺と生徒会長を務める京本誠一郎。
執務机の前で座った京本に向かい合い、腰に左手を当て問いかける。
「用はそれだけか?生憎生徒会は他にも仕事があってな、最終確認はしているつもりだ。」
夕陽に透け髪が赤く見える。
京本はまさに王者の風格と言える圧倒的オーラを持ったカリスマだ。
それが今や、1人の男の尻を追いかけるなんて……少しガッカリだな。
俺は視線は逸らさず、扉を親指で指して煽るように京本に問う。
「忙しいとは転入生のことか?誇張報告という告げ口で生徒会を味方につけ、今じゃやりたい放題だとか?京本、お前にはガッカリだ。」
「ガッカリ?」
想い人を悪く言われたからか反応が早いな。
だがその眼はどこか…獲物を捕らえた肉食獣のようにギラリと光る。
想像と違ったからか、俺は少し驚いた。
「あ、ああ。言わせてもらうが、なぜ部外者を生徒会室に入れている。お前が許したのか?」
「ああ、俺だ。」
悪びれることもなく、何故か機嫌のいい京本に少し苛立ちを覚える。
「理由を聞いても?」
分が悪いのは京本の方だというのに……
俺は腕組みをして本来の目的、今まさに隣の部屋でハーレムを築いている転入生について探りを入れる。
「理事長から生徒会へのお達しだ。学園にいる間、若松比呂がストレスなく快適に過ごせるようにバックアップをしろってな。」
「は?なんだそれは、いくら孫だからと過保護すぎるだろう。」
いやまて、こいつらはあいつに惚れているらしい。理事長の命令という大義名分を笠に行動をしているということか?
「だからといって、役員でもないあいつは現時点では部外者だ。何かしらの役員にでもさせればいい。
そうすればあいつの立場もしっかりしたものになり、生徒会長直々に守らなくても快適に過ごせるだろ。」
「なんだ?俺を心配してくれてるのか?」
いきなり何を言い出すのだろう、この頓珍漢は。
「話を聞いていたか?お前達の親衛隊は今までのルールを重じて、それを転入生に説いただけだ。お前達は親衛隊にいじめられただの言っているが、本当に現場をみたのか?」
「俺だって信じているわけじゃない、あいつらがせっかく人に好意を持ったんだ。応援してやりたいだろう?」
「ちょっと待て。それにお前その言い方だと……何を企んでいる。」
「ん~?」
初めてみる恍惚とした瞳に魅了する悪戯っ子のような笑み。
どういうことだ。
京本は転入生に惚れていないのか?
「と、とにかく!対処を考えているなら早く行動に移せ。うちの蜂須賀に被害が及んでいる、さっさとしろ。」
対処できるのなら任せたほうが早いだろう。
言うべきことは言ったし、もう用はない。
執務室を後にしようとすると京本に後ろから声をかけられる。
「転入生にも用があるんだろ?ついでに話していけよ。」
「丁寧にどうも、2、3聞きたいことがあるだけだ。済んだら失礼する。」
さっきはじめて京本を怖いと思った。自分でも気付いてないうちにだいぶ気を許していたのだろう……
たった1度の得体の知れない表情を見ただけで、一体俺があいつの何を知っていたのだと思わされた。
そんな自分が恥ずかしい。
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