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2話
しおりを挟む名家や権力者の子息たちが通う私立都塚学園。
都心から離れた山に校舎を構え、全寮制であるための豪華な寮を設備。
……監獄を彷彿とさせる閉鎖空間、というのは俺の感想だ。
寮では協調性や最低限の生活能力を養うために、基本は2人部屋。
だが、『役員持ち』つまり会長や委員長、副委員長など、委員会で何かしらの役員を務めている者は、1人部屋を選択できる。まあ拒否するやつはいないが……
つまるところ、俺は1人部屋を確保している。
まあ2人部屋でも良かったのだが、キッチン付きなのは1人部屋だからな。
風紀副委員長を務めていた2年の時から1人部屋を選択させてもらっている。
役員棟寮のとある1室で生活する俺は、毎朝早くに起きて弁当の準備をしながら自身を覚醒させていくのがルーティンみたいなものだ。
「くぁ…あふ……今日なんかあったっけ?」
欠伸を噛み殺し、フライパンを温めながら風紀の仕事を思い出す。
あぁ…転入生だ。
2年だから直接の関わりはないだろうが気には留めておく事柄だろう。
慣れた手つきで卵焼きを作り、冷ましている間に冷蔵庫から作り置きしていた品を弁当に詰めていく。
明らかに寝起きの状態、いつも整えている髪は邪魔になる前髪だけをピンで留め、他は無造作だ。
服装も寝るときに着ているTシャツにジャージという格好。きっちりと制服を着こなしている堅物の風紀委員長という姿からはまったく想像のつかない、気の抜いた格好。
こんな姿を見られたら慕ってくれている奴らに幻滅されるだろうな。
_______
なんて的外れな主観をこの男は浮かべているが逆である。
いつも隙のない人の気の抜けたところはギャップになり、とてつもなく萌えるということをこの男は知らない。
「よし、こんなもんだろ。」
作り終わった弁当の熱を取るためテーブルに置き、その間に自身の準備を始める。
寝室のクローゼットを開き、制服を順に手にする。
シュルッと白いワイシャツに腕を通し、第1ボタンまで留め、濃緑のネクタイを締める。そして同色のチェック柄のズボンを履き、ブレザーを手に持ってリビングへと向かう。
「さて、どうしたものか。」
いつも通り早く学校に着くのもいいが、転入生と鉢合わせすることは避けたい。
正門で行なっている風紀の仕事、身だしなみチェック兼挨拶運動も当番制のため行かなくてもいい。
まあ当番じゃなくても行っているが、今日は何故か行く気がない。
……裏門から校内に行けば誰にも見つからないな。ホームルームまで執務室にいればいいか。
そう思い至った俺は前髪を留めていたピンを外し、いつもの髪型、左耳にかけた髪をワックスで固定して撫で付ける。右側の前髪は少し目にかかるくらいだが、オールバックにするのはなぁ……将来禿げそうだし。
身だしなみを完璧に整え、弁当を鞄に詰めたことを確認して部屋を後にする。
裏門に行くなんて思ったのは、所謂虫の知らせというやつだったのかもしれない。
習慣を乱すことなどなかったのに、裏門へ誘われるように俺は向かってしまった。
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