10 / 14
十枚目※
しおりを挟む
転職してからは、収入は半減しましたが、無理な勤務も無くなり、父の入院や手術の立ち会いも出来るようになりました。
それまでは、例え父が命がけの手術をしていようとも休むこともなく、いつもどおりの仕事をこなしていたので。
幸い、最初の会社で荒稼ぎ出来たので、父と母の介護費用の不安もほとんどありません。
これからの将来どんと来いです。
しかし、なんでしょうね。
父の人生は、なぜこうも落ち着かないのでしょうか。
父に、今度は癌が見つかりました。
心臓への負担もあり、本当に命がけの最後のチャンスです。
病室で長時間の手術を待つ間。
私はスマホで小説を読んでいました。
父も好みそうな、時代物の人情話です。
1冊分読み終えてもまだ終わりません。
ロビーでは、母と数人の親戚が待機していましたが、手術が終われば病室に人が来るので、私は病室を離れませんでした。
2冊目をほとんど読み終える頃に、看護師さんが呼びに来てくれました。
無事に終わったそうです。
色々な管に繋がれた父が運ばれるのを見ることができました。
色んな管に繋がれた父を見るのはこれで何度目でしょうか。
管に繋がれたまま、私をチラリと視線だけで見て、父が涙を流したのはいつのことだったでしょう。
父はまだ、意識はありません。
意識があっても、不器用な私はきっと声はかけられなかったでしょうけど。
手術室へ見送るときも、母と親戚の後ろに立って、何でもない顔をして小さく手を振るのがせいいっぱいでした。
そのあと、術後の説明を聞きに医師の元へ呼ばれました。
切り取った患部を見ながら説明を聞きます。
疲れた顔の母が、噛み合わない質問をしながらも簡単に説明は終わりました。
あとは、父の体力の回復を待つだけです。
何度も大きな手術を乗り越えた父は、今回も頑張りました。
無事に手術後もくっつき、退院できたのです。
しかし、内臓を切除した負担は大きく、体力の回復は少々遅れ気味でした。
それでも、なんとか日々を過ごしていた頃。
病院からの知らせが入ります。
病理検査の結果、切断面から癌細胞が見つかり、更に大きく切除の再手術の話でした。
手術には体力が耐えきらないかもしれない。
けれど、このままにはできない。
何度も聞いたセリフです。
それを父さんは毎回乗り切ってくれたので。
今まで何度聞いても、不思議と不安にはあまりならなかったのに。
今度は、手が震えるんですよ。父さん。
それまでは、例え父が命がけの手術をしていようとも休むこともなく、いつもどおりの仕事をこなしていたので。
幸い、最初の会社で荒稼ぎ出来たので、父と母の介護費用の不安もほとんどありません。
これからの将来どんと来いです。
しかし、なんでしょうね。
父の人生は、なぜこうも落ち着かないのでしょうか。
父に、今度は癌が見つかりました。
心臓への負担もあり、本当に命がけの最後のチャンスです。
病室で長時間の手術を待つ間。
私はスマホで小説を読んでいました。
父も好みそうな、時代物の人情話です。
1冊分読み終えてもまだ終わりません。
ロビーでは、母と数人の親戚が待機していましたが、手術が終われば病室に人が来るので、私は病室を離れませんでした。
2冊目をほとんど読み終える頃に、看護師さんが呼びに来てくれました。
無事に終わったそうです。
色々な管に繋がれた父が運ばれるのを見ることができました。
色んな管に繋がれた父を見るのはこれで何度目でしょうか。
管に繋がれたまま、私をチラリと視線だけで見て、父が涙を流したのはいつのことだったでしょう。
父はまだ、意識はありません。
意識があっても、不器用な私はきっと声はかけられなかったでしょうけど。
手術室へ見送るときも、母と親戚の後ろに立って、何でもない顔をして小さく手を振るのがせいいっぱいでした。
そのあと、術後の説明を聞きに医師の元へ呼ばれました。
切り取った患部を見ながら説明を聞きます。
疲れた顔の母が、噛み合わない質問をしながらも簡単に説明は終わりました。
あとは、父の体力の回復を待つだけです。
何度も大きな手術を乗り越えた父は、今回も頑張りました。
無事に手術後もくっつき、退院できたのです。
しかし、内臓を切除した負担は大きく、体力の回復は少々遅れ気味でした。
それでも、なんとか日々を過ごしていた頃。
病院からの知らせが入ります。
病理検査の結果、切断面から癌細胞が見つかり、更に大きく切除の再手術の話でした。
手術には体力が耐えきらないかもしれない。
けれど、このままにはできない。
何度も聞いたセリフです。
それを父さんは毎回乗り切ってくれたので。
今まで何度聞いても、不思議と不安にはあまりならなかったのに。
今度は、手が震えるんですよ。父さん。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

おれ、ユーキ
あつあげ
現代文学
『さよならマユミちゃん』のその後を描くスピンオフ作品。叔母のマユミちゃんが残してくれた家でシェアハウスを始めた佑樹、だがやってきたのは未知の感染症だった。先の見えない世界で彼が見つけたものとは――?80年代生まれのひりひり現在進行形物語!
大人への門
相良武有
現代文学
思春期から大人へと向かう青春の一時期、それは驟雨の如くに激しく、強く、そして、短い。
が、男であれ女であれ、人はその時期に大人への確たる何かを、成熟した人生を送るのに無くてはならないものを掴む為に、喪失をも含めて、獲ち得るのである。人は人生の新しい局面を切り拓いて行くチャレンジャブルな大人への階段を、時には激しく、時には沈静して、昇降する。それは、驟雨の如く、強烈で、然も短く、将に人生の時の瞬なのである。
無垢で透明
はぎわら歓
現代文学
真琴は奨学金の返済のために会社勤めをしながら夜、水商売のバイトをしている。苦学生だった頃から一日中働きづくめだった。夜の店で、過去の恩人に似ている葵と出会う。葵は真琴を気に入ったようで、初めて店外デートをすることになった。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


🍶 夢を織る旅 🍶 ~三代続く小さな酒屋の主人と妻の愛と絆の物語~
光り輝く未来
現代文学
家業を息子に引き継いだ華村醸(はなむら・じょう)の頭の中には、小さい頃からの日々が浮かんでいた。
祖父の膝にちょこんと座っている幼い頃のこと、
東京オリンピックで活躍する日本人選手に刺激されて、「世界と戦って勝つ!」と叫んだこと、
醸造学の大学院を卒業後、パリで仕事をしていた時、訪問先のバルセロナで愛媛県出身の女性と出会って恋に落ちたこと、
彼女と二人でカリフォルニアに渡って、著名なワイナリーで働いたこと、
結婚して子供ができ、翔(しょう)という名前を付けたこと、
父の死後、過剰な在庫や厳しい資金繰りに苦しみながらも、妻や親戚や多くの知人に支えられて建て直したこと、
それらすべてが蘇ってくると、胸にグッとくるものが込み上げてきた。
すると、どこからか声が聞こえてきたような気がした。
それは、とても懐かしい声だった。
祖父と父の声に違いなかった。
✧ ✧
美味しいお酒と料理と共に愛情あふれる物語をお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる