父への手紙

七枚目

そんなこんなで、なんだかんだで。

私は高校卒業後は無事に就職できました。
結論としていえば、あのタイミングで就職して正解だったのでしょう。

ほとんどの人が知っているレベルの企業が、試験的に行なった「高卒総合職」の採用に滑り込めたのです。
この年しか行われなかったので、本当に運が良かったのでしょう。

仕事の内容は簡単なものではありませんでしたが、幸い私には合っていたようで、数年で昇進もし、４大卒の歳上の部下を複数持つ立場になりました。
部下にも恵まれ、私の経歴も年齢も知っていてもおかしな態度をとられることもなく。

収入も、田舎の高卒者としては間違いなくトップクラスでしょう。

お陰で、父さんの医療費用や、家族の生活費の不安は無くなりました。

これまでは、親戚から譲ってもらった古い小さな車を使っていたので、大きな新車を買ってあげることもできました。
ただ、父さんの運転は少々田舎らしさに溢れていたので、この車は私用にしますが。
小さめの車を買い直します。

とはいえ、私も仕事が初めから順調ではありませんでしたね。
大人になっても、甘えるのが下手なのは変わらないので、不調を隠すのだけはうまくなった私ですが、慣れない業務と、責任に潰されそうになり、まともに食事が取れないことを隠しきれなくなったことがありました。

母も同時に風邪を引いて寝込んでしまっていたものの、自身の不調はもちろん、看病のために休む余裕もなく。食事は取らずに出勤する覚悟で朝無理やり起き上がってみると、父が台所に立っていました。

父が料理をしているのは始めて見ました。
昔、元気だった頃に、家族で釣った魚を捌いているのは見ましたが、料理は母でした。

父は、早くから起きて母と私のお粥を作ってくれていたようです。

「父さんが作ったからおいしくないけど」と言って差し出されたものは、塩味だけのもので（それも薄かったです）なんの付け合せもない朝食でしたが。
久しぶりに一食分のご飯が喉を越しました。


それ以来、全く食べられないほど胃を痛めることはありませんが、若干胃痛は持病と化してます。
父さんも胃潰瘍で血を吐いたこともあるので、やっぱりそんなところまで似ているのですね。

いや、これはさすがに似たくなかったですよ。