父への手紙

オオトリ

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一枚目

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小さな頃の私は、親にも甘えることが苦手な子供でした。

甘えたいけれど、どうしていいのかわからず。
両親にこれでもかと甘えを示す姉を見ながら、いつも一歩引いていたことを覚えています。

私はおもちゃやお菓子をねだることもうまくできませんでした。

自分の家庭が、あまり贅沢ができる生活ではないということを幼いながらに理解していた、ということもあります。

しかし、親に「いらないもの」と否定されることや、困らせることを想像すると、何も言えなくなるのです。


それは、私がまだ幼稚園に通う歳のことでした。
両親と共に出かけた先のスーパーのちいさなおもちゃコーナーにあった、U字型の磁石に、とてつもない興味を惹かれた私は、じっとそれを見つめていました。

用事の終わった母が私と、近くにいた姉を呼び、姉はすぐに母に駆け寄り手を繋ぎます。
歩きはじめてしまった母と姉を横目に、チラリと磁石を見た私に、父が「欲しいのか?」と尋ねてくれました。

スーパーのおもちゃコーナーの物なので、それほど高いものでもありませんし、恐らくは頷くだけで良かったのかもしれません。
なのに、歩き始めた母と姉を思うと、首を横に振ることしか出来ませんでした。

そんな私を見た父は、軽く顔をしかめたあとで、私の手を引いて歩きました。

その数日後。
自動車部品の工場で働いている父が、仕事場から磁石の欠片を貰ってきてくれました。

とても正直に言うと、あくまでもU字型の磁石に興味を持っていた私は、ちょっと違うな…と思ってしまったのですが。

父の気持ちを無駄にするつもりはなく、色んなものをくっつけたり。外に持って出たり。
遊んでなくしたりしないよう、お気に入りのおもちゃとして大切に扱いました。


あの時の、父のしかめた顔は、我儘を言わない私を不憫に思ったものだったのでしょうか。

工場の廃品で嬉しそうに遊ぶ私を見た父は、安心してくれたでしょうか。

私には答えはわかりませんし、そんなことを聞くこともできません。
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