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「そういえば、さっきセバスさんから連絡があったぞ。今日は、夕食には旦那様も帰れそうらしい。夕食のあとでお時間いただけるように連絡しといたからな」
「おー、ありがと!これでやっと旅に出る話が出来るね」
温泉~おにぎり~味噌汁~と歌うアルフレッドは、うどんを切るギルバートの後ろで食事用のテーブルに書類を広げている。
「ギルのうどん本当においしいんだけど、醤油が出来ればまた違う味になるし、味噌煮込みうどんなんかも食べさせてあげたいなぁ」
「それは楽しみだな」
主の楽しそうな声に柔らかく返す執事の手は止まらない。
切り分けた麺を流れるような手付きで鍋へと投入し、茹で上がりのお湯をきる手付きも慣れたものだ。
そろそろ出来上がり、というタイミングを見計らったようにドアを叩く音がした。
控えめにノックする音を聞くとすぐに、アルフレッドが自らドアを開けに向かう。
「いらっしゃい。フレディ」
「すみません。兄上。今、お時間をいただいてもよろしいですか?」
ドアの向こうには、弟のフレデリックが立っていた。その視線は目の前の兄ではなく、部屋の中のギルバートにおずおずと向けられている。
「どうぞ。フレデリック様。ちょうど昼食ができましたので、よろしけれぱご一緒にいかがですか?」
「…いいんですか?ありがとうギルバート」
フレデリックの視線を受けた執事が、ニコリと微笑みながら返答する。
それを受けたフレデリックも目を細めて礼を述べた。
「ありがと!ギル!じゃあ、フレディ。テーブルを片付けるからちょっとソファーで待っててな」
嬉しそうに礼を述べたアルフレッドは、いそいそと仕事道具を片付けるとギルバートのいるキッチンスペースへと向かう。
「ほら。どうだ?」
「んー。うまい!」
隣に立ったアルフレッドの口元に、短めに切られた麺が運ばれる。見事に箸を使いこなすギルバートに差し出されたそれを、ためらうことなく口に入れたアルフレッドは顔を綻ばせる。
「兄上…。はしたないですよ…」
「あ!フレディごめん!」
片付いたテーブルに近づいてきた弟は、笑いながらごまかす兄にため息をつく。それを見たアルフレッドはしょんぼりと眉を下げた。
「申し訳ありません。フレデリック様。もう準備が出来ますのでどうぞこちらでお待ち下さい」
いつの間にか後ろに来ていたギルバートが椅子を引く。
わずかにギルバートと視線を合わせたフレデリックは、もう一度小さく息をつきながらもおとなしく座った。
続いて、執事に促されたアルフレッドもおとなしく向かいの席に座り、すぐに二人の前に丼と飲み物が置かれる。
「ギルも一緒に食べよう。うどんは打ちたてが一番だし、皆で食べたほうがおいしいよね?」
後半は自身に向けられたと判断したフレデリックがニコリと微笑みながら「どうぞ。ぜひ」と返したので、眉が下がったままだったアルフレッドもパッと表情を明るくした。
「フレデリック様。お気遣いありがとうございます」
礼を述べたギルバートにフレデリックが微笑み返し、3人揃って「いただきます」と手を合わせた。
「フレディも箸を使うの上手になったね」
器用に箸を使ってうどんをすする弟をアルフレッドが褒める。
「ありがとうございます。兄上」
照れたように笑うフレデリックを見つめ、アルフレッドもニコニコしながら緑茶をすすった。
「初めは使いにくいと思いましたが、慣れると色々な使い方ができて便利なものですね」
ギルバートも緑茶の入った湯呑を口に運びながら話に加わる。
「私も色々頑張るので、兄上また時々一緒に食事してくださいね?」
果実水の入ったグラスを両手で握りながら、懸命に訴えるフレデリックにアルフレッドが困ったように、再び眉をさげながら言い淀む。
「そうだな。いつでも、と言いたいところだけど…」
「…やっぱり、兄上はこの家を出てしまうのですか…?」
「いや!別に、家を出る…というわけじゃないんだ!」
泣きそうに歪んだ顔に慌てて言い募ると、フレデリックがパッと顔を明るくする。
「では、ずっと家にいてくださるのですね?!」
「いや…えっと…ずっと家にいるかというと…」
アルフレッドが言葉を濁すと、再びフレデリックが泣きそうな表情を浮かべた。
「いや、ほら、ちょっと色々有ったし、色々騒がしいし、ちょっと気分転換に旅行にでも行こうかなーって…」
「…どれくらいの期間ですか…?」
フレデリックが泣かずに顔を上げたので、ほっとしながら話を続ける。
「そんなに長い期間にはならないつもりだよ」
「…なら、私も一緒に連れて行って下さい」
「うーん?フレディは学校があるでしょう?」
「…新年度までまだ1ヶ月あります。ちょっとした旅行なら充分では…?」
「…えーと」
困ったアルフレッドがギルバートに助けを求めるように視線を送る。その視線に誘われるように、フレデリックもギルバートを見る。
二人の視線を浴びた執事が、そっと湯呑を置いて言った。
「1ヶ月では足りませんね。最低でも1年はかかるでしょう」
「Oh…」
あまりのキッパリとした物言いにアルフレッドが感嘆とも呆れとも付かぬ声を漏らす。
と、同時に
「兄上の嘘つきー!!!!!!!」
フレデリックの叫びと泣き声が屋敷中に響き渡った。
「おー、ありがと!これでやっと旅に出る話が出来るね」
温泉~おにぎり~味噌汁~と歌うアルフレッドは、うどんを切るギルバートの後ろで食事用のテーブルに書類を広げている。
「ギルのうどん本当においしいんだけど、醤油が出来ればまた違う味になるし、味噌煮込みうどんなんかも食べさせてあげたいなぁ」
「それは楽しみだな」
主の楽しそうな声に柔らかく返す執事の手は止まらない。
切り分けた麺を流れるような手付きで鍋へと投入し、茹で上がりのお湯をきる手付きも慣れたものだ。
そろそろ出来上がり、というタイミングを見計らったようにドアを叩く音がした。
控えめにノックする音を聞くとすぐに、アルフレッドが自らドアを開けに向かう。
「いらっしゃい。フレディ」
「すみません。兄上。今、お時間をいただいてもよろしいですか?」
ドアの向こうには、弟のフレデリックが立っていた。その視線は目の前の兄ではなく、部屋の中のギルバートにおずおずと向けられている。
「どうぞ。フレデリック様。ちょうど昼食ができましたので、よろしけれぱご一緒にいかがですか?」
「…いいんですか?ありがとうギルバート」
フレデリックの視線を受けた執事が、ニコリと微笑みながら返答する。
それを受けたフレデリックも目を細めて礼を述べた。
「ありがと!ギル!じゃあ、フレディ。テーブルを片付けるからちょっとソファーで待っててな」
嬉しそうに礼を述べたアルフレッドは、いそいそと仕事道具を片付けるとギルバートのいるキッチンスペースへと向かう。
「ほら。どうだ?」
「んー。うまい!」
隣に立ったアルフレッドの口元に、短めに切られた麺が運ばれる。見事に箸を使いこなすギルバートに差し出されたそれを、ためらうことなく口に入れたアルフレッドは顔を綻ばせる。
「兄上…。はしたないですよ…」
「あ!フレディごめん!」
片付いたテーブルに近づいてきた弟は、笑いながらごまかす兄にため息をつく。それを見たアルフレッドはしょんぼりと眉を下げた。
「申し訳ありません。フレデリック様。もう準備が出来ますのでどうぞこちらでお待ち下さい」
いつの間にか後ろに来ていたギルバートが椅子を引く。
わずかにギルバートと視線を合わせたフレデリックは、もう一度小さく息をつきながらもおとなしく座った。
続いて、執事に促されたアルフレッドもおとなしく向かいの席に座り、すぐに二人の前に丼と飲み物が置かれる。
「ギルも一緒に食べよう。うどんは打ちたてが一番だし、皆で食べたほうがおいしいよね?」
後半は自身に向けられたと判断したフレデリックがニコリと微笑みながら「どうぞ。ぜひ」と返したので、眉が下がったままだったアルフレッドもパッと表情を明るくした。
「フレデリック様。お気遣いありがとうございます」
礼を述べたギルバートにフレデリックが微笑み返し、3人揃って「いただきます」と手を合わせた。
「フレディも箸を使うの上手になったね」
器用に箸を使ってうどんをすする弟をアルフレッドが褒める。
「ありがとうございます。兄上」
照れたように笑うフレデリックを見つめ、アルフレッドもニコニコしながら緑茶をすすった。
「初めは使いにくいと思いましたが、慣れると色々な使い方ができて便利なものですね」
ギルバートも緑茶の入った湯呑を口に運びながら話に加わる。
「私も色々頑張るので、兄上また時々一緒に食事してくださいね?」
果実水の入ったグラスを両手で握りながら、懸命に訴えるフレデリックにアルフレッドが困ったように、再び眉をさげながら言い淀む。
「そうだな。いつでも、と言いたいところだけど…」
「…やっぱり、兄上はこの家を出てしまうのですか…?」
「いや!別に、家を出る…というわけじゃないんだ!」
泣きそうに歪んだ顔に慌てて言い募ると、フレデリックがパッと顔を明るくする。
「では、ずっと家にいてくださるのですね?!」
「いや…えっと…ずっと家にいるかというと…」
アルフレッドが言葉を濁すと、再びフレデリックが泣きそうな表情を浮かべた。
「いや、ほら、ちょっと色々有ったし、色々騒がしいし、ちょっと気分転換に旅行にでも行こうかなーって…」
「…どれくらいの期間ですか…?」
フレデリックが泣かずに顔を上げたので、ほっとしながら話を続ける。
「そんなに長い期間にはならないつもりだよ」
「…なら、私も一緒に連れて行って下さい」
「うーん?フレディは学校があるでしょう?」
「…新年度までまだ1ヶ月あります。ちょっとした旅行なら充分では…?」
「…えーと」
困ったアルフレッドがギルバートに助けを求めるように視線を送る。その視線に誘われるように、フレデリックもギルバートを見る。
二人の視線を浴びた執事が、そっと湯呑を置いて言った。
「1ヶ月では足りませんね。最低でも1年はかかるでしょう」
「Oh…」
あまりのキッパリとした物言いにアルフレッドが感嘆とも呆れとも付かぬ声を漏らす。
と、同時に
「兄上の嘘つきー!!!!!!!」
フレデリックの叫びと泣き声が屋敷中に響き渡った。
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