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第二部 Qちゃんが出会った、佳き人々
長井海岸にて
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子犬を連れた女性が、私に声をかけた。
「お優しいんですのね。お母様ですか?」
その女性の存在に、私は気付いていた。かなり離れた場所で、動かず、ずっと私たちを見ていた。
横須賀市長井海岸の防潮堤に私たちはいる。Qちゃんは、階段状ブロックに腰をかけて、海を見ている。私はその後ろに立っていた。
「男の方のほうが、優しいのかもしれません。私は、ダメでした。どうして、あんなに辛く当たってしまったのか。今から考えると不思議なくらいです」
女性は、私と目を合わせることもなく、はるか遠くの海を見ながら、私に言った。
「私は母が衰えていくのが許せなかったんです。認めたくなかった……」女性は泣いていた。
「私も同じです。ずっと逃げていました。母の面倒は二人の姉に任せて、1年に1度も実家に行かないような親不孝を続けました。今、私は、自分の犯してきた過去の贖罪をしているようなものです」
私の素直な気持ちだった。私も回想に入った。
「贖罪だなんて・・・。そんな・・・。私こそ贖罪が必要だわ」
尋常でない、彼女の心の負担を、少しでも和らげる言葉を私は必死に探したが、何一つ浮かばない。沈黙が虚ろに流れた。
「ごめんなさい。せっかくのお二人の時間を汚してしまいました」
長い沈黙を破って、笑顔だが、どこか悔しそうな、済まなそうな表情を浮かべて、女性は言った。
そう言うと、彼女はQちゃんの正面に場所を変え、Qちゃんの目線の位置まで腰を屈め、Qちゃんの左肩に手を置いて、更に言った。きれいな、優しい眼をQちゃんに向けながら。
「いい息子さんで、お幸せですね」
Qちゃんは、愛想笑いを浮かべながら軽くお辞儀をした。
話しかけられればQちゃんはいつもそうする。
私にはその笑顔が痛い。
何年も、何年も前から、Qちゃんは私を知らない。
「お優しいんですのね。お母様ですか?」
その女性の存在に、私は気付いていた。かなり離れた場所で、動かず、ずっと私たちを見ていた。
横須賀市長井海岸の防潮堤に私たちはいる。Qちゃんは、階段状ブロックに腰をかけて、海を見ている。私はその後ろに立っていた。
「男の方のほうが、優しいのかもしれません。私は、ダメでした。どうして、あんなに辛く当たってしまったのか。今から考えると不思議なくらいです」
女性は、私と目を合わせることもなく、はるか遠くの海を見ながら、私に言った。
「私は母が衰えていくのが許せなかったんです。認めたくなかった……」女性は泣いていた。
「私も同じです。ずっと逃げていました。母の面倒は二人の姉に任せて、1年に1度も実家に行かないような親不孝を続けました。今、私は、自分の犯してきた過去の贖罪をしているようなものです」
私の素直な気持ちだった。私も回想に入った。
「贖罪だなんて・・・。そんな・・・。私こそ贖罪が必要だわ」
尋常でない、彼女の心の負担を、少しでも和らげる言葉を私は必死に探したが、何一つ浮かばない。沈黙が虚ろに流れた。
「ごめんなさい。せっかくのお二人の時間を汚してしまいました」
長い沈黙を破って、笑顔だが、どこか悔しそうな、済まなそうな表情を浮かべて、女性は言った。
そう言うと、彼女はQちゃんの正面に場所を変え、Qちゃんの目線の位置まで腰を屈め、Qちゃんの左肩に手を置いて、更に言った。きれいな、優しい眼をQちゃんに向けながら。
「いい息子さんで、お幸せですね」
Qちゃんは、愛想笑いを浮かべながら軽くお辞儀をした。
話しかけられればQちゃんはいつもそうする。
私にはその笑顔が痛い。
何年も、何年も前から、Qちゃんは私を知らない。
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