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第一部 愉快なQちゃん

塩屋岬にて

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 恋人同士に違いない男女は、我々が駐車すると、慌てて去っていった。碑の周辺に誰もいなくなった。

 津波は沖からではなく、海岸線に沿ってやってきた。塩屋岬が防波堤となり、ひばりの碑は難を免れた。

「これが……」と私が言うと同時に、眼の前の遺影碑から前奏が流れた。そして、歌声が流れた。

 見事なひばりさんの歌。「塩屋岬」

 私もひばりさんに合わせて歌う。

 おー 
 Qちゃんも参加してきた。

 Qちゃんが歌い始めたので、私は歌うのを止めた。

「Qちゃん そこに 座って 歌ったら」
 ひばりさんの碑の前に座るのは失礼だが、何しろ、Qちゃんは102歳だ。
 どこまで歌うか知れないが、立って歌うのはしんどいはずだ。

 あやふやなところは適当にして、結局、Qちゃんは最後まで歌った。

 歌い終わって、妙に静かにしているQちゃんに、
「ここだけは、大津波でも被害が出なかったんだよ。ひばりさんが守ってくれたんだね」と私。

「馬鹿だねえ、お前は。いくらひばりさんだって、津波に勝てるわけないでしょ。本当に、馬鹿だねえ。」とQちゃん。

 どこまでも現実的なQちゃんです。夢がない。

 しかし……。

 そこまで言うか!
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