【R18】傲慢な王子

やまたろ

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第七章 王太子の偏愛  王国騎士団 & 王国民

5・予選に現れた新星

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 ダッ!、ダッ!、ダッ!、ダッ!、ダッ!

 大衆酒場に向かって、勢いよく通りを駆けてくる足音が店の客にも聞こえて来た。

 バーーン!!

 酒場の扉が思いっきり開いて、息を切らせた男が駆け込んでくる。


「おい!、小隊長の一人が負けたらしいぞ、番狂せが起きたんだ!」


 大衆酒場に入って来た男が店内の客達に向かって大声で言い放った、それを聞いた客達は一瞬静まった後に、ザワザワと騒ぎ出した。


「嘘だろ!?、まだ二回戦だぞ?」

「本当かよ、誰に負けたんだ?」

「小隊長だぞ?、負ける訳無いだろ」


 今日も大衆酒場での話題の中心は、御前試合の予選結果についてだ。最新情報をもたらした男は、水で喉を潤して続きを話す。


「本当だって、まだ若い騎士にやられたんだ」

「小隊長つっても下位の奴なら、有り得るぜ」

「ああ、それは言えるな」

「違う、違う、去年準決勝まで進んだ、一番隊の小隊長だよ!!」

「嘘だろ!、あの小隊長が負けたのか?」

「あの人が二回戦で負ける訳無いだろ!」

「だから、大番狂わせが起きたんだ!!」


 その話を聞いた客達は、店のそこかしこで一斉に思い思いの話をし始めた。


「けっ、小隊長のヤツだらしねーなー」

「いや待てよ、新星ニュースターの誕生かも知れないぜ?」

「だよな?、ジョンとチャーリーが出てきた時も、こんな話をしたもんだ」

「もしかして凄い奴が出てきたのか?」

「ワクワクするな!、どうするよ!」

「どうするって、何がだよ?」

「ほら、アレだよ、大穴はオッズが上がるだろ?」


 毎年、御前試合の優勝争いで賭けが行われている。これは庶民の間では公然の秘密で、御前試合が盛り上がる理由の一つでもある。


「そいつが優勝したら、凄い事だぜ!」

「気が早いな、予選を通過してからの話だ」


 予選の出場者が分からない庶民は、御前試合の四人が決まってから、オッズを決めて賭ける。もしダークホースが優勝したら賭けた奴は大金を手にできる。
 夢のような展開にワクワクが止まらないのは仕方がない。
 毎年盛り上がる御前試合の話が、新星ニュースターの登場で更に加熱していった。

「その新星ニュースターは一体どんな奴だ?」

「誰か知ってるか?」

「よく知らねえが、土魔法の使い手らしいぞ」

「魔法剣士か楽しみだな、追加の酒をくれ!」

「俺にも酒をくれ、きっと凄い奴だぜ」

「なあ、準決勝まで勝ち上がるかな?」

「ワクワクするな!、もう一杯酒をくれ!」

「俺も追加だ!、面白くなってきたな」


 今日も御前試合の話題で盛り上がり、王国民だけでなく他国民も巻き込んで、ワイワイと雑談する声で酒場は賑わう。


 新星ニュースターの登場に興奮した客達はお喋りが止まらず酒量も増える、それに比例して酒場の賑やかさも増していった。




 ◆◇◆◇◆




 翌日になっても昨日の興奮がまだ冷めず、ガヤガヤと賑わう酒場に、追加の爆弾が落とされた。

「おい!!、新星ニュースターがまた勝ったぞ!!」


 もたらされた最新情報に酒場の客達は興奮して湧き立つ、最高に面白い展開に、大声でお喋りする声が店のあちこちから聞こえ始めた。


「うおおおおーー!!」
「それ、本当か?」 
「凄えぞ、新星ニュースター
「まてまて、嘘だろ?」 
「うわ~、信じられねぇ!!」
「最高の展開がきたな、ワクワクするぜ!」

「これで三回戦突破って事か?」

「凄えな!、次も勝つかな?、新星ニュースター

「なぁ予選突破まで、後幾つだ、二つか?」

「おいおい、無名の若造が本戦に出るのか?」

「ええっ?、本戦出場はさすがに無理だろ」

「ここ数年来で一番の注目株だな」

「凄えぞ、ジョンとチャーリーの再来か?」

「こりゃ見逃せ無いぞ、おい酒をくれ」

「観戦の申し込みはいつからだ?」

「四人が出揃ってからだ、こっちも酒だ」

「俺も追加だ!、絶対観戦を申し込むぜ」

「今年の御前試合は最高に面白くなりそうだ」

「早く本戦の顔ぶれが見たいな、酒をくれ!」

「酒はまだか!?、お前は誰に賭ける?」

「顔ぶれを見てから考えるさ、酒がねぇぞ!」


 盛り上がり過ぎて酒場は大混乱だ、新星ニュースターの登場と活躍に客達が湧き立ち、王都の酒場はどこも活気に満ちている。


 そんな中、酒場のカウンター席の端で、一人の若い男が酒を飲んでいた、話には加わらず暗い顔をしている。


「よう兄ちゃん、一人で辛気臭くねぇか、こっち来て一緒に飲もうぜ」


 陽気な男達が一人酒の若者を誘う、既に酔いが回っている男達は、返事を聞く前に若者を取り囲んで話し出した。


「聞いたか兄ちゃん?、新星ニュースターの話をよう」


「は、はい」


 若者は明らかに気乗りしない返事をするが、酔った男達は気付かず話を続ける。


「すげーよな!、一番隊の小隊長に勝っちまうなんて、兄ちゃんもそう思うだろ?」


「は、はい」


「どんな奴かな、筋肉ムキムキですげぇ怪力とか、見た目から他の奴と違うのかな、兄ちゃんはどう思うよ?」


「は、はい、普通かと」


「ば~か、普通な訳ないだろ小隊長に勝ったんだぞ、スゲェ奴に決まってる!」


「は、はい」


「俺はさ、もっと勝ち上がると予想してんだ、兄ちゃんはどう思うよ?」


 男の一人がカウンターにもたれて若者の方へ身を乗り出した。


「それは難しいと思います、まぐれ勝ちは続きませんから」


 若者の真面目な反論に男達は鼻白んだ。


「チェッ、つまんねー事言うなよ」
「なぁ、あっちに行こうぜ」
「何だか、気分が盛り下がったな」
「ああ、向こうで飲み直そうぜ」


 高揚した気分に水を差された男達は自分達のテーブルに戻って行った。


「……体格なんて関係ない実力がある方が勝つんだ、それが普通なのに、今回は何か変だ」


 残された若者はポツンと呟くと居心地の悪さに店を出た。外には酒場帰りの酔客が何人もフラフラと歩いている。


 若者の目の前でスリが一人の酔客の財布を狙って動き出した、それに気付いた彼はさり気なく酔客とスリの間に入る。邪魔をされたスリは舌打ちをして離れて行った。


 スリと若者の攻防を見ていた者は誰もいない、誰にも注目される事なく彼は、静かにその場を立ち去った。


 若者の名前はネイト・アーガン、まだ実力が低い者達が配属される八番隊の騎士だ。


 そして彼こそが、話題の新星ニュースターだった。











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