【R18】傲慢な王子

やまたろ

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番外編 深遠な王太子  メイヴィス & 周囲の人々

副団長は胃が痛い

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 フィリップ・ショーネシーは騎士団棟の一室で自分の身を嘆いていた、若き副団長の胃はシクシクと痛んでいる。


 原因はある部下が、ほぼ八つ当たりに近い苦情を言ってくる事にあった、しかしその主張にも一理あり筋違いとも言えない。


 そう、ショーネシーの実力が副団長として不十分だと、ジョンが責めている件だ。
 ショーネシーの実力は充分に有るのだが、ジョンに比べれば劣る、他の部下が言うなら筋違いだが、ジョンが言うなら一理ある。


 そもそもジョンの方が実力が上なのだ、自分は水の魔力、ジョンは氷の魔力、魔力戦なら水の上位の氷が勝つに決まってる、剣術や体術どれを取ってもジョンの方が上だ。


 そう俺は圧倒的に弱い


 ……立場も年齢も上なのに、呼び捨てにされるのはそのせいなのか?……


 ショーネシーはシクシクと痛む胃を押さえながら、埒も無い事をダラダラと考える、覇気の無いその姿はとても頼りない。


 ……大体、あの二人は勝手が過ぎる……


 ジョンとチャーリーは本当なら小隊長になっている筈なのに、ただの騎士の方が自由が効くと断り続けているのだ。


 ……グリード団長も色々と丸投げしてくるし、西の辺境だって団長が残って俺とあの二人で良かったじゃないか、恨みを買ったのは団長のせいだ……


 グリードが王太子命令で同行した事を知っていても、ショーネシーの心の愚痴は止まらない、胃のシクシクも止まらない。


 …仮面伯爵の時だって、伯爵家の事以外は全部俺に丸投げしてきたし、王都の警護全部だぞ!………頑張ったな、偉いぞ、俺………よくやった、俺……すごいぞ、俺!、やれば出来るぞ、俺!!


 頑張っても誰も褒めてくれないショーネシーは、自分で自分を褒めた。
 気分が良くなり胃のシクシクも落ち着いた。


 金髪碧眼で整った容姿を持つショーネシーと、藍色の髪と瞳をした涼やかな容姿のジョンは、巷の女性人気を二分している。


「ショーネシー、鍛錬するぞ!」


 ……………今日も来た


 ショーネシーはここ最近、ジョンに扱かれる日が続いている、再びシクシクと胃が痛み始めた時に、部下が急ぎの報告をしに来る。


「副団長!、王都の外れで商隊が襲われて、警ら隊から至急の応援要請が入りました、風魔法の使い手がいるそうです」


 それを聞いたショーネシーの顔がピリリッと引き締まり、別人のように凛とした雰囲気になる。


「団長には報告したか?」


 部下に確認しつつ自身の装備を確認して足早に移動する。早さについていけず部下は小走りに後を追いかけて報告を続ける。


「いえ、団長は王太子殿下の元に行かれたままで、まだ報告出来ていません」 


「分かった、俺とジョンで応援に向かう、お前は団長が戻ったらその旨を報告しろ、聞いたかジョン、出るぞ!!」


 ショーネシーは近くにいる筈のジョンに声を掛ける、その姿は胃痛に嘆いていた先程までとは違い、力強さと威厳に満ちている。


「ああ、早くしろ、ショーネシー」


 どちらが上か分からない物言いだが、ジョンは既に準備万端で、二人が乗る馬まで連れていた。


 ……流石はジョン初動が早い、正に疾風……


 ショーネシーは内心舌を巻いたが、そんな素振りは見せずに、詳しい場所を部下に確認すると、二人で現地まで早駆けした。


「ショーネシー、風魔法の使い手を目視出来たら、直ぐに水浸しにしろ」


 馬上でジョンが指示をしてくる、立場も年も俺の方が上だが、まあいい。


「それは良いが、どうする気だ?」


「戦う間、邪魔されないよう先に凍らせておく。僕一人でも充分出来るが、水を凍らせる方が早くて楽だからな」


 自分だけで出来るのに何故ワザワザ俺を使う、俺の心のモヤモヤを感じたのかジョンが真顔で言う。


「これも鍛錬だ、ショーネシー」


 ……お前は俺の師匠なのか?……


 暫く黙って早駆けすると、前方に小さく小競り合いをしている姿が見えてきた。
 窃盗団が馬車の荷を持ち出し、風魔法の使い手が応戦する警ら隊の邪魔をしていた、商隊は物陰に隠れているようだ。


「ショーネシー」


 ジョンが催促をしてくる、俺は風魔法の使い手を球形の水で包んだ。


「ウォータースフィア」


「氷結縛弾」


 俺が放った水魔法を使って、すかさずジョンが相手を凍らせる。
 突然の出来事に現場は混乱した様だが、訓練された警ら隊は直ぐに盛り返して、俺達がつく頃には片がついていた。
 警ら隊の隊長が挨拶をしてくる。


「ショーネシー殿、応援有難うございます、魔力持ちさえいなければ早々に取り押さえられたのですが、あれに苦戦しまして面目有りません」


「いや、皆んな怪我が無くて良かった、では後の事は任せたぞ」


 俺は馬上から会話を交わした、ジョンは魔力持ちの氷を解かして魔力封じの手枷を付けている。


「御前試合を楽しみにしております、お二人とも頑張って下さい」


「ああ、有難う、では失礼する」


 励ましの言葉を受け取って馬の向きを変えると、戻ってきたジョンと一緒に来た道を引き返す、その道すがら横に並んだジョンが一言放った。


「戻ったら、鍛錬だ」


 実に執念深い男だ。




 


 
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