【R18】傲慢な王子

やまたろ

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番外編 深遠な王太子  メイヴィス & 周囲の人々

マーリオは休暇中

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 仮面伯爵邸で頭部を殴打されたマーリオは、医療班の治療後に弟妹の宿屋で休養していた。


 体は殆ど問題なく元気だが、これまで休みを取って無かったマーリオを休ませる良い機会だからと、主の命で纏まった休暇を取る事になったのだ。


「あー、暇だぜ」


 休み慣れしていないマーリオは暇を持て余していた、シーツの交換をしている弟のガースがそんな兄に言う。


「いっぱい寝てれば良いじゃないか、兄さん」


「莫迦言うな、そんなに寝てばかりいられるか!、体が鈍って仕方ない」


 マーリオは弟を睨むが、ガースは気にせずシーツ交換を続ける。


「ふーん、それじゃ兄さん、ここの仕事を手伝ってみる?」


 ロラーナの食堂の方は無理だが、宿屋なら出来そうだと考えたマーリオは、休みの間ガースの仕事を手伝う事にした。


 ガースが外したシーツを洗い場で洗って外に干す、口で言うのは簡単だが実際にやると、とんでも無い重労働だ。


 マーリオは頑張ってきた弟に頭が下がる思いがした、自分も弟妹の為に頑張ってきたが、弟妹もその間頑張っていたのだと改めて実感したのだ。


 ……俺は魔力持ちだがガースは魔力を持っていない、これを乾かすのは大変だろうな……


 ガリガリの自分とは反対に弟は筋肉質な体をしている、直ぐに魔力に頼る自分と違い、ガースが体を使って働いている証拠だ。


 外に干したシーツを風魔法で乾かしていると、チャーリーがお見舞いに来た。


「よう、マーリオ。調子はどうだ?」


「おう、チャーリー、あん時はありがとな!、もう大丈夫だ」


 休み時間に立ち寄ったのか、チャーリーは騎士団の制服を着ている。


「今日は一人か?、ジョンはどうした?」


 チャーリーは珍しく一人だった、いつも一緒にいる相棒がいない。


「あー、アイツは副団長をシゴいてる」


 聞かれたチャーリーは困ったような薄笑いを浮かべて教えてくれた。


「ほら、アイツは西の辺境伯の所に行けなかっただろ?、それは副団長がだらしないからだって怒っててさ」


 それを聞いたマーリオも苦笑いを浮かべる。


「あー、まあ、気持ちは分からんでもない、ジョンは主が大好きだからな」


 マーリオとジョンとチャーリーは、あの誘拐事件の時に出会った。
 救出した側のマーリオと、救出された側の二人は同い年で、恵まれない幼少期や攻撃魔法が使える等、共通点が多く直ぐに仲良くなった。 


 三人がメイヴィスをあるじと呼ぶのは、自分達は王国に仕えているのではなく、メイヴィス個人に忠誠を誓っている、その事を周囲にも明らかにしたいからだ。


「でも、どうせ御前試合で対戦するんだろ?、そん時にコテンパンにすれば良いんじゃないか」


 確かそろそろ御前試合の予選が始まる筈だ、チャーリーが空気を暖めてマーリオの風を温風にしてくれる。


「俺とジョンはシード枠だから、組合せによっては対戦出来ないからだろ、アイツ相当根に持ってんだよ」


 チャーリーは少し呆れ気味だが、マーリオは微笑ましく感じる。


「可愛いよな、最早あるじの熱狂的なファンだろ?、そもそも主はあんまり雷帝の力を使わないから、従者の俺だって片手で余る位しか見た事がない」


 歴代の雷帝はパフォーマンスとして力を使う事が度々あったが、主が力を使うのは誰かを助ける時だけだ、だから巷では本当は雷帝の力を持っていない、とか噂されている。


 あの姿を見せたら全王国民が虜になるだろうに、沢山見せてカリスマ性で統治した方が、全て上手くいきそうだとマーリオは勝手に思っている。


「今度の御前試合で、華々しく力を使って見せたら面白いのにな」


 マーリオは軽い口調で話したが、チャーリーは意外にも真面目な答えを返してきた。


「ああ、でも人は圧倒的な力に対峙すると、本能で恐れを感じるからな、侮られる位で丁度良いのかもしれないぜ?」


 マーリオにも彼が言わんとしている事は分かる、彼も初対面の時に感じたからだ。
 主が持つ膨大な魔力の圧で、大なり小なり重苦しさを覚える、個人差は有るが魔力を持っている人間なら特にそうだ。


「そうかもな、主自身も望んでいないだろうし、でも勿体無いよな、あの綺麗な姿を知るのが一握りの人間だけだなんて」


 マーリオとチャーリーは青空の下ではためく、乾いたシーツをぼんやりと見ていた、頭の中にはあの誘拐事件の時に見た、主の姿が浮かんでいる。


 ……黄金色の髪がふわりと浮いて、琥珀色の瞳の奥がバチバチと輝き、体の周りには光の粒子が煌めいて漂っている、あの美しく神々しい姿……


「俺たち幸運だな」


「ああ、本当にな」


 マーリオとチャーリーは並んで青空を見上げる、穏やかな時間を過ごす二人は、主に出逢えた僥倖ぎょうこうを噛み締めていた。
 








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