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番外編 深遠な王太子 メイヴィス & 周囲の人々
マーリオは休暇中
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仮面伯爵邸で頭部を殴打されたマーリオは、医療班の治療後に弟妹の宿屋で休養していた。
体は殆ど問題なく元気だが、これまで休みを取って無かったマーリオを休ませる良い機会だからと、主の命で纏まった休暇を取る事になったのだ。
「あー、暇だぜ」
休み慣れしていないマーリオは暇を持て余していた、シーツの交換をしている弟のガースがそんな兄に言う。
「いっぱい寝てれば良いじゃないか、兄さん」
「莫迦言うな、そんなに寝てばかりいられるか!、体が鈍って仕方ない」
マーリオは弟を睨むが、ガースは気にせずシーツ交換を続ける。
「ふーん、それじゃ兄さん、ここの仕事を手伝ってみる?」
ロラーナの食堂の方は無理だが、宿屋なら出来そうだと考えたマーリオは、休みの間ガースの仕事を手伝う事にした。
ガースが外したシーツを洗い場で洗って外に干す、口で言うのは簡単だが実際にやると、とんでも無い重労働だ。
マーリオは頑張ってきた弟に頭が下がる思いがした、自分も弟妹の為に頑張ってきたが、弟妹もその間頑張っていたのだと改めて実感したのだ。
……俺は魔力持ちだがガースは魔力を持っていない、これを乾かすのは大変だろうな……
ガリガリの自分とは反対に弟は筋肉質な体をしている、直ぐに魔力に頼る自分と違い、ガースが体を使って働いている証拠だ。
外に干したシーツを風魔法で乾かしていると、チャーリーがお見舞いに来た。
「よう、マーリオ。調子はどうだ?」
「おう、チャーリー、あん時はありがとな!、もう大丈夫だ」
休み時間に立ち寄ったのか、チャーリーは騎士団の制服を着ている。
「今日は一人か?、ジョンはどうした?」
チャーリーは珍しく一人だった、いつも一緒にいる相棒がいない。
「あー、アイツは副団長をシゴいてる」
聞かれたチャーリーは困ったような薄笑いを浮かべて教えてくれた。
「ほら、アイツは西の辺境伯の所に行けなかっただろ?、それは副団長がだらしないからだって怒っててさ」
それを聞いたマーリオも苦笑いを浮かべる。
「あー、まあ、気持ちは分からんでもない、ジョンは主が大好きだからな」
マーリオとジョンとチャーリーは、あの誘拐事件の時に出会った。
救出した側のマーリオと、救出された側の二人は同い年で、恵まれない幼少期や攻撃魔法が使える等、共通点が多く直ぐに仲良くなった。
三人がメイヴィスを主と呼ぶのは、自分達は王国に仕えているのではなく、メイヴィス個人に忠誠を誓っている、その事を周囲にも明らかにしたいからだ。
「でも、どうせ御前試合で対戦するんだろ?、そん時にコテンパンにすれば良いんじゃないか」
確かそろそろ御前試合の予選が始まる筈だ、チャーリーが空気を暖めてマーリオの風を温風にしてくれる。
「俺とジョンはシード枠だから、組合せによっては対戦出来ないからだろ、アイツ相当根に持ってんだよ」
チャーリーは少し呆れ気味だが、マーリオは微笑ましく感じる。
「可愛いよな、最早主の熱狂的なファンだろ?、そもそも主はあんまり雷帝の力を使わないから、従者の俺だって片手で余る位しか見た事がない」
歴代の雷帝はパフォーマンスとして力を使う事が度々あったが、主が力を使うのは誰かを助ける時だけだ、だから巷では本当は雷帝の力を持っていない、とか噂されている。
あの姿を見せたら全王国民が虜になるだろうに、沢山見せてカリスマ性で統治した方が全て上手くいきそうだとマーリオは勝手に思っている。
「今度の御前試合で、華々しく力を使って見せたら面白いのにな」
マーリオは軽い口調で話したが、チャーリーは意外にも真面目な答えを返してきた。
「ああ、でも人は圧倒的な力に対峙すると、本能で恐れを感じるからな、侮られる位で丁度良いのかもしれないぜ?」
マーリオにも彼が言わんとしている事は分かる、彼も初対面の時に感じたからだ。
主が持つ膨大な魔力の圧で、大なり小なり重苦しさを覚える、個人差は有るが魔力を持っている人間なら特にそうだ。
「そうかもな、主自身も望んでいないだろうし、でも勿体無いよな、あの綺麗な姿を知るのが一握りの人間だけだなんて」
マーリオとチャーリーは青空の下ではためく、乾いたシーツをぼんやりと見ていた、頭の中にはあの誘拐事件の時に見た、主の姿が浮かんでいる。
……黄金色の髪がふわりと浮いて、琥珀色の瞳の奥がバチバチと輝き、体の周りには光の粒子が煌めいて漂っている、あの美しく神々しい姿……
「俺たち幸運だな」
「ああ、本当にな」
マーリオとチャーリーは並んで青空を見上げる、穏やかな時間を過ごす二人は、主に出逢えた僥倖を噛み締めていた。
体は殆ど問題なく元気だが、これまで休みを取って無かったマーリオを休ませる良い機会だからと、主の命で纏まった休暇を取る事になったのだ。
「あー、暇だぜ」
休み慣れしていないマーリオは暇を持て余していた、シーツの交換をしている弟のガースがそんな兄に言う。
「いっぱい寝てれば良いじゃないか、兄さん」
「莫迦言うな、そんなに寝てばかりいられるか!、体が鈍って仕方ない」
マーリオは弟を睨むが、ガースは気にせずシーツ交換を続ける。
「ふーん、それじゃ兄さん、ここの仕事を手伝ってみる?」
ロラーナの食堂の方は無理だが、宿屋なら出来そうだと考えたマーリオは、休みの間ガースの仕事を手伝う事にした。
ガースが外したシーツを洗い場で洗って外に干す、口で言うのは簡単だが実際にやると、とんでも無い重労働だ。
マーリオは頑張ってきた弟に頭が下がる思いがした、自分も弟妹の為に頑張ってきたが、弟妹もその間頑張っていたのだと改めて実感したのだ。
……俺は魔力持ちだがガースは魔力を持っていない、これを乾かすのは大変だろうな……
ガリガリの自分とは反対に弟は筋肉質な体をしている、直ぐに魔力に頼る自分と違い、ガースが体を使って働いている証拠だ。
外に干したシーツを風魔法で乾かしていると、チャーリーがお見舞いに来た。
「よう、マーリオ。調子はどうだ?」
「おう、チャーリー、あん時はありがとな!、もう大丈夫だ」
休み時間に立ち寄ったのか、チャーリーは騎士団の制服を着ている。
「今日は一人か?、ジョンはどうした?」
チャーリーは珍しく一人だった、いつも一緒にいる相棒がいない。
「あー、アイツは副団長をシゴいてる」
聞かれたチャーリーは困ったような薄笑いを浮かべて教えてくれた。
「ほら、アイツは西の辺境伯の所に行けなかっただろ?、それは副団長がだらしないからだって怒っててさ」
それを聞いたマーリオも苦笑いを浮かべる。
「あー、まあ、気持ちは分からんでもない、ジョンは主が大好きだからな」
マーリオとジョンとチャーリーは、あの誘拐事件の時に出会った。
救出した側のマーリオと、救出された側の二人は同い年で、恵まれない幼少期や攻撃魔法が使える等、共通点が多く直ぐに仲良くなった。
三人がメイヴィスを主と呼ぶのは、自分達は王国に仕えているのではなく、メイヴィス個人に忠誠を誓っている、その事を周囲にも明らかにしたいからだ。
「でも、どうせ御前試合で対戦するんだろ?、そん時にコテンパンにすれば良いんじゃないか」
確かそろそろ御前試合の予選が始まる筈だ、チャーリーが空気を暖めてマーリオの風を温風にしてくれる。
「俺とジョンはシード枠だから、組合せによっては対戦出来ないからだろ、アイツ相当根に持ってんだよ」
チャーリーは少し呆れ気味だが、マーリオは微笑ましく感じる。
「可愛いよな、最早主の熱狂的なファンだろ?、そもそも主はあんまり雷帝の力を使わないから、従者の俺だって片手で余る位しか見た事がない」
歴代の雷帝はパフォーマンスとして力を使う事が度々あったが、主が力を使うのは誰かを助ける時だけだ、だから巷では本当は雷帝の力を持っていない、とか噂されている。
あの姿を見せたら全王国民が虜になるだろうに、沢山見せてカリスマ性で統治した方が全て上手くいきそうだとマーリオは勝手に思っている。
「今度の御前試合で、華々しく力を使って見せたら面白いのにな」
マーリオは軽い口調で話したが、チャーリーは意外にも真面目な答えを返してきた。
「ああ、でも人は圧倒的な力に対峙すると、本能で恐れを感じるからな、侮られる位で丁度良いのかもしれないぜ?」
マーリオにも彼が言わんとしている事は分かる、彼も初対面の時に感じたからだ。
主が持つ膨大な魔力の圧で、大なり小なり重苦しさを覚える、個人差は有るが魔力を持っている人間なら特にそうだ。
「そうかもな、主自身も望んでいないだろうし、でも勿体無いよな、あの綺麗な姿を知るのが一握りの人間だけだなんて」
マーリオとチャーリーは青空の下ではためく、乾いたシーツをぼんやりと見ていた、頭の中にはあの誘拐事件の時に見た、主の姿が浮かんでいる。
……黄金色の髪がふわりと浮いて、琥珀色の瞳の奥がバチバチと輝き、体の周りには光の粒子が煌めいて漂っている、あの美しく神々しい姿……
「俺たち幸運だな」
「ああ、本当にな」
マーリオとチャーリーは並んで青空を見上げる、穏やかな時間を過ごす二人は、主に出逢えた僥倖を噛み締めていた。
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