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第六章 愛民の王太子 メイヴィス VS 仮面伯爵
11・仮面の下に隠された秘密
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あの日、偶然クラーク様が喉を詰まらせた事が始まりだった。
主人と共に引き籠る日々に嫌気が差していた僕は、苦しむクラーク様を助けずに見殺しにしたのだ。
勿論、罪悪感はあった、だが邸内も領下も全て自分が取り仕切っている今、蟄居している主人が居なくなっても、誰も何も困らないと悪魔が僕に囁いた、働いた分の正当な報酬を貰い、ホリーを迎えて幸せになるのだ。
時々伯爵家に金をせびりに来ていた、素行の悪い義兄のキッグスを呼び出して金を与え、遺体の処理を頼んだ。
キッグスは自分の服とクラーク様の服を交換すると、顔を潰して彼の遺体を街角に放置した。
せっかく伯爵家の金を手に入れたのに、ホリーと幸せになる計画は上手くいかず、僕はクラーク様の人形の世話をする、以前よりも無味乾燥な日々を過ごしていた。
そんな時、キッグスがホリーに似た奴隷を連れて来た、一目で夢中になった僕は、彼女を買って恋人のように大切にしたが、奴隷とホリーでは全く違う、僕は段々と彼女に失望していった。
暫くすると、キッグスは金をせびりに来た時に、勝手にホリーを抱くようになった、そして金を受け取ると帰って行く。
いつしかホリーは恋人どころか、二人の所有物になっていた。
だから扉が開いた時、キッグスが入って来たと思ったのだ、だが違った。勢いよく部屋に入って来たのは、黒髪のやせぎすな男と紫色の髪をした若い男だった。
「お前達は、誰だ!?」
僕が誰何すると、黒髪の男も僕に誰何して来た。
「アンタこそ、その仮面の下は誰だよ」
黒髪の男の方は、妙に落ち着いて太々しい奴だ、紫髪の方は簡素なワンピースを着たホリーを気にしている。
「窃盗が目的か?、伯爵邸に不法侵入してただで済むと思うなよ」
「そっちこそ、禁止されてる奴隷売買に手を染めて、ただで済むと思うなよ」
「!!」
どうして奴隷売買の事を知っているのか、一見してホリーが奴隷だとは分からない筈だ、窃盗目的でも無い様だし得体の知れない奴らだ。
「お前らの目的は何だ、金か?」
黒髪の男が僕に向かって近づいてくる、紫髪の方はホリーに何か話し掛けて、身体に異常が無いか調べているようだ。
「おい、お前、ホリーに触るな!」
僕は黒髪を無視してホリーの方へ足を踏み出したが、黒髪に腕を捻り上げられた、その隙にホリーと紫髪が執務室へ向かって移動し始める。
「痛!、何をする離せ!、待て、ホリー!」
だが突然、執務室側から現れた男がホリーを突き飛ばして、紫髪の男を背後から拘束すると細い首を掴んだ。
「おい黒髪、ソイツを離さないとコイツの首をへし折るぞ」
僕と同じ仮面をつけた男がそこにいた、驚いた黒髪が狼狽える。
「お前は!!、仮面伯爵!、どう言う事だ、何故、仮面伯爵が二人いる」
初物を抱きに来ていたキッグスだ、僕達はホリーを抱く時は必ず仮面を付けている。
◆◇◆◇◆◇
マーリオは混乱していた、男が二人いる可能性は考慮していたが、仮面伯爵が二人いる事は想定外だ、そもそも誰にも会わずに秘密裏に行動する筈だったのだ。
「早く離さないと、本当にへし折るぞ」
執務室側の仮面伯爵が首を掴む手に ぐぐぐっ と力を込めた、イオニスが苦しそうに呻く。
「ゔゔゔぅっ」
「嬢ちゃん!、こいつを離すから、そっちも離せ!」」
マーリオは居室の仮面伯爵を解放した、だがイオニスは解放されず、助けようと動き出した所を背後から置物で殴られる。
「ぐぁ!!」
「マーリオ!!、マーリオ!!」
マーリオはいきなり背後から殴打されて倒れた、意識が混濁している。
「マーリオ!、クソっ卑怯だぞ、離せ!」
イオニスは暴れるが体格差と力の差は埋められず拘束は解けない、首を掴んだ伯爵がマーリオを殴った伯爵に聞いた。
「おい、コイツらは一体何者だ?」
「分からないが、奴隷売買の事を知っていた、このままでは不味い」
「そうか、じゃあ殺しちまうか」
表情の見えない仮面の男が、イオニスの顔を覗き込む。
「ああ、そうだな」
マーリオを殴った男が、置物を持ってイオニスの方へ歩きだした。
「あ、あ、あ、あ」
イオニスは恐怖した、目の前でマーリオを殴った男が今度は自分を殴りに近づいて来る。
喉の拘束が解かれて、凶器を持った男の方へと体を突き飛ばされた、仮面の男はふらつくイオニスに向かって置物を振り上げた、そして振り下ろした。
「死ね!!」
反射的に両腕で頭を庇って身を屈めたが、イオニスは死を覚悟した。
……イオニス、絶対に無茶な事はするな……
最後までイオニスの潜入調査に反対していたメイヴィスの顔が浮かぶ。
……メイヴィス兄様、ごめんなさい……
◆◇◆◇◆◇
パキンッ!
同じ頃、騎士団の統括本部にいたメイヴィスの腕輪から、一つの魔石が割れ落ちた。
「イオニス!、グリード、イオニスが危ない!、私は先にフィッツバトン邸に行く。お前も直ぐに来い」
「えっ、殿下!?」
危機迫る勢いでグリードに指示を出したメイヴィスの足元に、黄金の魔法陣が展開され始めた。そしてメイヴィスの姿が光に包まれ輝き出しその姿が消える。
「殿下!!、おい直ぐにフィッツバトン邸に乗り込むぞ、馬を出せ!!」
騒然とする統括本部にジョンとチャーリーが戻って来た、慌ただしく動く団員を見て、藍色髪の騎士ジョンがグリードに質問する。
「団長、何の騒ぎですか?」
「ああ、戻ったか、ジョン、どうやらイオニス殿下がフィッツバトン邸で危険な目に遭っているらしく、メイヴィス殿下が先乗りされた」
「えっ、本当ですか!、団長、僕が先行します」
ジョンの目がキラーンと輝いたかと思うと、疾風の如く部屋を駆け出していった。
「おい、ジョン!、ああ、また勝手に動いて」
「仕方ないっすよ、団長。ジョンは主の黄金に輝く姿に飢えているんですから、辺境に連れて行って貰えなかった事も根に持ってますよ」
相棒のチャーリーは悠々としている、グリードはそんな彼に聞かせるともなく言う。
「マーリオが一緒だから大丈夫だと考えていたんだが、彼の身も危険かも知れない、急がなくては」
「ええっ!、マーリオも危ないんすか?、俺も急行します!」
友人のマーリオの危機と聞いて、義に厚いチャーリーも駆け出して行った。
「ああ、待て!、チャーリー、勝手に動くな!!」
「副団長、後は任せた。私が遅れを取る訳にはいかない、何かあったらサラマンディアを使って連絡しろ、出るぞ!」
グリードも指示を出すと急いで部屋を後にして、副団長はポツンと取り残された。
「………………団長、また勝手な事を」
グリードに丸投げされて嘆く副団長の声は、統括本部内の喧騒にかき消された。
主人と共に引き籠る日々に嫌気が差していた僕は、苦しむクラーク様を助けずに見殺しにしたのだ。
勿論、罪悪感はあった、だが邸内も領下も全て自分が取り仕切っている今、蟄居している主人が居なくなっても、誰も何も困らないと悪魔が僕に囁いた、働いた分の正当な報酬を貰い、ホリーを迎えて幸せになるのだ。
時々伯爵家に金をせびりに来ていた、素行の悪い義兄のキッグスを呼び出して金を与え、遺体の処理を頼んだ。
キッグスは自分の服とクラーク様の服を交換すると、顔を潰して彼の遺体を街角に放置した。
せっかく伯爵家の金を手に入れたのに、ホリーと幸せになる計画は上手くいかず、僕はクラーク様の人形の世話をする、以前よりも無味乾燥な日々を過ごしていた。
そんな時、キッグスがホリーに似た奴隷を連れて来た、一目で夢中になった僕は、彼女を買って恋人のように大切にしたが、奴隷とホリーでは全く違う、僕は段々と彼女に失望していった。
暫くすると、キッグスは金をせびりに来た時に、勝手にホリーを抱くようになった、そして金を受け取ると帰って行く。
いつしかホリーは恋人どころか、二人の所有物になっていた。
だから扉が開いた時、キッグスが入って来たと思ったのだ、だが違った。勢いよく部屋に入って来たのは、黒髪のやせぎすな男と紫色の髪をした若い男だった。
「お前達は、誰だ!?」
僕が誰何すると、黒髪の男も僕に誰何して来た。
「アンタこそ、その仮面の下は誰だよ」
黒髪の男の方は、妙に落ち着いて太々しい奴だ、紫髪の方は簡素なワンピースを着たホリーを気にしている。
「窃盗が目的か?、伯爵邸に不法侵入してただで済むと思うなよ」
「そっちこそ、禁止されてる奴隷売買に手を染めて、ただで済むと思うなよ」
「!!」
どうして奴隷売買の事を知っているのか、一見してホリーが奴隷だとは分からない筈だ、窃盗目的でも無い様だし得体の知れない奴らだ。
「お前らの目的は何だ、金か?」
黒髪の男が僕に向かって近づいてくる、紫髪の方はホリーに何か話し掛けて、身体に異常が無いか調べているようだ。
「おい、お前、ホリーに触るな!」
僕は黒髪を無視してホリーの方へ足を踏み出したが、黒髪に腕を捻り上げられた、その隙にホリーと紫髪が執務室へ向かって移動し始める。
「痛!、何をする離せ!、待て、ホリー!」
だが突然、執務室側から現れた男がホリーを突き飛ばして、紫髪の男を背後から拘束すると細い首を掴んだ。
「おい黒髪、ソイツを離さないとコイツの首をへし折るぞ」
僕と同じ仮面をつけた男がそこにいた、驚いた黒髪が狼狽える。
「お前は!!、仮面伯爵!、どう言う事だ、何故、仮面伯爵が二人いる」
初物を抱きに来ていたキッグスだ、僕達はホリーを抱く時は必ず仮面を付けている。
◆◇◆◇◆◇
マーリオは混乱していた、男が二人いる可能性は考慮していたが、仮面伯爵が二人いる事は想定外だ、そもそも誰にも会わずに秘密裏に行動する筈だったのだ。
「早く離さないと、本当にへし折るぞ」
執務室側の仮面伯爵が首を掴む手に ぐぐぐっ と力を込めた、イオニスが苦しそうに呻く。
「ゔゔゔぅっ」
「嬢ちゃん!、こいつを離すから、そっちも離せ!」」
マーリオは居室の仮面伯爵を解放した、だがイオニスは解放されず、助けようと動き出した所を背後から置物で殴られる。
「ぐぁ!!」
「マーリオ!!、マーリオ!!」
マーリオはいきなり背後から殴打されて倒れた、意識が混濁している。
「マーリオ!、クソっ卑怯だぞ、離せ!」
イオニスは暴れるが体格差と力の差は埋められず拘束は解けない、首を掴んだ伯爵がマーリオを殴った伯爵に聞いた。
「おい、コイツらは一体何者だ?」
「分からないが、奴隷売買の事を知っていた、このままでは不味い」
「そうか、じゃあ殺しちまうか」
表情の見えない仮面の男が、イオニスの顔を覗き込む。
「ああ、そうだな」
マーリオを殴った男が、置物を持ってイオニスの方へ歩きだした。
「あ、あ、あ、あ」
イオニスは恐怖した、目の前でマーリオを殴った男が今度は自分を殴りに近づいて来る。
喉の拘束が解かれて、凶器を持った男の方へと体を突き飛ばされた、仮面の男はふらつくイオニスに向かって置物を振り上げた、そして振り下ろした。
「死ね!!」
反射的に両腕で頭を庇って身を屈めたが、イオニスは死を覚悟した。
……イオニス、絶対に無茶な事はするな……
最後までイオニスの潜入調査に反対していたメイヴィスの顔が浮かぶ。
……メイヴィス兄様、ごめんなさい……
◆◇◆◇◆◇
パキンッ!
同じ頃、騎士団の統括本部にいたメイヴィスの腕輪から、一つの魔石が割れ落ちた。
「イオニス!、グリード、イオニスが危ない!、私は先にフィッツバトン邸に行く。お前も直ぐに来い」
「えっ、殿下!?」
危機迫る勢いでグリードに指示を出したメイヴィスの足元に、黄金の魔法陣が展開され始めた。そしてメイヴィスの姿が光に包まれ輝き出しその姿が消える。
「殿下!!、おい直ぐにフィッツバトン邸に乗り込むぞ、馬を出せ!!」
騒然とする統括本部にジョンとチャーリーが戻って来た、慌ただしく動く団員を見て、藍色髪の騎士ジョンがグリードに質問する。
「団長、何の騒ぎですか?」
「ああ、戻ったか、ジョン、どうやらイオニス殿下がフィッツバトン邸で危険な目に遭っているらしく、メイヴィス殿下が先乗りされた」
「えっ、本当ですか!、団長、僕が先行します」
ジョンの目がキラーンと輝いたかと思うと、疾風の如く部屋を駆け出していった。
「おい、ジョン!、ああ、また勝手に動いて」
「仕方ないっすよ、団長。ジョンは主の黄金に輝く姿に飢えているんですから、辺境に連れて行って貰えなかった事も根に持ってますよ」
相棒のチャーリーは悠々としている、グリードはそんな彼に聞かせるともなく言う。
「マーリオが一緒だから大丈夫だと考えていたんだが、彼の身も危険かも知れない、急がなくては」
「ええっ!、マーリオも危ないんすか?、俺も急行します!」
友人のマーリオの危機と聞いて、義に厚いチャーリーも駆け出して行った。
「ああ、待て!、チャーリー、勝手に動くな!!」
「副団長、後は任せた。私が遅れを取る訳にはいかない、何かあったらサラマンディアを使って連絡しろ、出るぞ!」
グリードも指示を出すと急いで部屋を後にして、副団長はポツンと取り残された。
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