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第六章 愛民の王太子 メイヴィス VS 仮面伯爵
9・仮面伯爵邸への潜入調査
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商会の建物内には一組の男女がいた、闇ギルドに所属する奴隷商人だ。
二人は体に添った、動きやすそうな黒の上下服を着ている、戦闘の備えか男は剣、女は腰に鞭を下げている。
男は二十代後半、女は三十代中頃に見える、年上の女が高圧的に男に話しかけた。
「伯爵家には納品したのかい?」
「ああ、上得意様だからな、売り物と買取りを交換して差額を受け取った、売上は金庫の中に入れてある」
「買取品はどうした?」
「倉庫に入れてある、あの伯爵ヒデェ奴で精液塗れのまま渡して来やがった、きれいにする時間が必要だったから、まだ手元にある」
男はピッタリとした服越しに分かる、女の魅力的な体の線を見て、ニヤついている。
「今度の女は最上物だけど、あいつアレで満足するのかね?、こちらは商売だからどうでも良いけど、アレ程いい出物は中々無いからね」
女は伯爵に対して呆れた口調で話し、繁々と体を見てくる男を睨みつけた、それに気付いた男は表情を引き締めて、今度は思案顔になる。
「どうだかな、あそこ迄行くともう奴隷じゃ満足出来なくなるかもな、果ては人攫いまで行き着きそうだ」
男女は在庫の奴隷を売買するだけで、攫ったりとか堕としたりとか奴隷を生み出してはいない、女が店じまいを宣言する。
「もっとタチが悪い奴等が担当になるか、そうなったらアタシらは此処を引き払って国外へ出るよ、商売にならないからね」
そもそもこの国では奴隷の売買は禁止されているのだ、犯罪行為をするより合法国で商売をした方が安全だ
「そうだな、この国は奴隷商人が居ないから、独占市場で儲けさせて貰ったけど、そろそろ潮時かもな」
男も女の考えに同意する、他国では市場争いで儲けが減るが背に腹はかえらない、捕まって処罰を受けるよりマシだ。
「今夜ギルドが売上の手数料を受け取りにくる、それが終わったら数日以内に引き払おう」
奴隷商人の男女は逃げる算段をしていた。
◆◇◆◇◆◇
一方その頃、騎士団長グリードの元には待っていた情報がもたらされた。
「フィッツバトン邸に黒い袋が運び込まれました」
その報告を受けて予め予定していた、内偵調査に入る事になった。
「よし、今夜潜入調査に入るぞ、あの二人を呼べ、暗部にも連絡しろ」
暗部からはマーリオとイオニスが伯爵邸へ潜入する事になっている。
イオニスの潜入調査には反対意見が多かったのだが、本人が強く希望したのと、攻撃魔法を使えるマーリオを付ける事で何とか認められた。
夜の邸内に居ると予想される住人が、一人か居ても二人だと判断された事も大きかった。現段階で執事が怪しいが、伯爵になりすました別人がいる事も十分考えられる。
「嬢ちゃん、頼むから無茶すんなよ」
潜入調査開始の連絡を受けたマーリオが、渋面でイオニスに注意する。
「大丈夫だって!!、マーリオが居るし、兄上のペンダントも有るし」
イオニスは元気よく答えるが、そんな彼にマーリオは呆れた口調で返す。
「全部、他人頼りかよ」
「いいから、いいから、行くよマーリオ」
「ったく、嬢ちゃんに何か有ったら俺が主に叱られるんだからな、ちゃんとしてくれよ」
ぼやくマーリオの腕を取って、イオニスは伯爵邸へ向かう、程なくして二人は伯爵邸に着いた、人の居ない夜の伯爵邸は静まりかえっている。
使用人の情報を元にした邸内の見取り図を、二人はあらかじめ頭に入れてある、今回の潜入調査では伯爵の居室と執務室、執事の居室、奴隷の捜索などをする予定だ。
イオニスとマーリオは、手始めに伯爵の執務室から奴隷売買の記録を探す事にした、マーリオが鍵を外して邸内に潜入する、捜索予定の部屋は全て二階にあり、それぞれ隣合って一ヶ所に纏まっている。
二人は伯爵の執務室へ忍びこんだ、捜索し慣れているマーリオが記録を探して、イオニスは見張りをする手筈だったが、二人は入室して直ぐに女の泣き声を聞きつけた。
「聞こえた、マーリオ?」
「ああ、この邸に女は居ない筈だから奴隷の女かもな、奴隷を先に助けて記録は後で男から聞き出すか」
二人は泣き声が聞こえた方へ静かに移動した、どうやら執務室の隣にある、伯爵の居室から声が漏れているようだ、二人は扉の前まで移動して中の様子を伺う。
風魔法を使うマーリオが、力を使って部屋の中の声を聞き取ろうとする。
………
『痛い!、やめてぇ、痛い!、ぃたぃの、ぃたぃ、ぅっ、ぅっ』
『ホリー、少し黙ってろ』
………
「胸糞悪い事になってるな」
会話を聞き取ったマーリオが、顔を歪めて呟く、会話が聞こえていないイオニスが、マーリオに問いかける。
「部屋の中はどういう状況なの?」
「どうやら、無理矢理ヤラれてる最中らしい」
イオニスが息を呑む、奴隷制度がない国で本当に奴隷の売買が行われていた事と、その扱いを知って何とも言えない重苦しさを感じる。
部屋から漏れていた女性の声が、徐々に小さくなり、男の暴力がおさまったのか、やがて聞こえなくなった。
「乗り込むか?」
良い頃合いだと判断したマーリオが、イオニスに突入の確認をする、イオニスが頷く。
「行こう!」
◆◇◆◇◆◇
王城では、グリードから潜入調査を決行する連絡を受けたメイヴィスが、騎士団の棟へ向かっていた。
イオニスが伯爵邸に潜入している事を心配して、グリードのいる統括本部で待機をする事にしたのだ。
「グリード、状況説明を頼む」
統括本部に到着したメイヴィスは、開口一番にそう言った。
二人は体に添った、動きやすそうな黒の上下服を着ている、戦闘の備えか男は剣、女は腰に鞭を下げている。
男は二十代後半、女は三十代中頃に見える、年上の女が高圧的に男に話しかけた。
「伯爵家には納品したのかい?」
「ああ、上得意様だからな、売り物と買取りを交換して差額を受け取った、売上は金庫の中に入れてある」
「買取品はどうした?」
「倉庫に入れてある、あの伯爵ヒデェ奴で精液塗れのまま渡して来やがった、きれいにする時間が必要だったから、まだ手元にある」
男はピッタリとした服越しに分かる、女の魅力的な体の線を見て、ニヤついている。
「今度の女は最上物だけど、あいつアレで満足するのかね?、こちらは商売だからどうでも良いけど、アレ程いい出物は中々無いからね」
女は伯爵に対して呆れた口調で話し、繁々と体を見てくる男を睨みつけた、それに気付いた男は表情を引き締めて、今度は思案顔になる。
「どうだかな、あそこ迄行くともう奴隷じゃ満足出来なくなるかもな、果ては人攫いまで行き着きそうだ」
男女は在庫の奴隷を売買するだけで、攫ったりとか堕としたりとか奴隷を生み出してはいない、女が店じまいを宣言する。
「もっとタチが悪い奴等が担当になるか、そうなったらアタシらは此処を引き払って国外へ出るよ、商売にならないからね」
そもそもこの国では奴隷の売買は禁止されているのだ、犯罪行為をするより合法国で商売をした方が安全だ
「そうだな、この国は奴隷商人が居ないから、独占市場で儲けさせて貰ったけど、そろそろ潮時かもな」
男も女の考えに同意する、他国では市場争いで儲けが減るが背に腹はかえらない、捕まって処罰を受けるよりマシだ。
「今夜ギルドが売上の手数料を受け取りにくる、それが終わったら数日以内に引き払おう」
奴隷商人の男女は逃げる算段をしていた。
◆◇◆◇◆◇
一方その頃、騎士団長グリードの元には待っていた情報がもたらされた。
「フィッツバトン邸に黒い袋が運び込まれました」
その報告を受けて予め予定していた、内偵調査に入る事になった。
「よし、今夜潜入調査に入るぞ、あの二人を呼べ、暗部にも連絡しろ」
暗部からはマーリオとイオニスが伯爵邸へ潜入する事になっている。
イオニスの潜入調査には反対意見が多かったのだが、本人が強く希望したのと、攻撃魔法を使えるマーリオを付ける事で何とか認められた。
夜の邸内に居ると予想される住人が、一人か居ても二人だと判断された事も大きかった。現段階で執事が怪しいが、伯爵になりすました別人がいる事も十分考えられる。
「嬢ちゃん、頼むから無茶すんなよ」
潜入調査開始の連絡を受けたマーリオが、渋面でイオニスに注意する。
「大丈夫だって!!、マーリオが居るし、兄上のペンダントも有るし」
イオニスは元気よく答えるが、そんな彼にマーリオは呆れた口調で返す。
「全部、他人頼りかよ」
「いいから、いいから、行くよマーリオ」
「ったく、嬢ちゃんに何か有ったら俺が主に叱られるんだからな、ちゃんとしてくれよ」
ぼやくマーリオの腕を取って、イオニスは伯爵邸へ向かう、程なくして二人は伯爵邸に着いた、人の居ない夜の伯爵邸は静まりかえっている。
使用人の情報を元にした邸内の見取り図を、二人はあらかじめ頭に入れてある、今回の潜入調査では伯爵の居室と執務室、執事の居室、奴隷の捜索などをする予定だ。
イオニスとマーリオは、手始めに伯爵の執務室から奴隷売買の記録を探す事にした、マーリオが鍵を外して邸内に潜入する、捜索予定の部屋は全て二階にあり、それぞれ隣合って一ヶ所に纏まっている。
二人は伯爵の執務室へ忍びこんだ、捜索し慣れているマーリオが記録を探して、イオニスは見張りをする手筈だったが、二人は入室して直ぐに女の泣き声を聞きつけた。
「聞こえた、マーリオ?」
「ああ、この邸に女は居ない筈だから奴隷の女かもな、奴隷を先に助けて記録は後で男から聞き出すか」
二人は泣き声が聞こえた方へ静かに移動した、どうやら執務室の隣にある、伯爵の居室から声が漏れているようだ、二人は扉の前まで移動して中の様子を伺う。
風魔法を使うマーリオが、力を使って部屋の中の声を聞き取ろうとする。
………
『痛い!、やめてぇ、痛い!、ぃたぃの、ぃたぃ、ぅっ、ぅっ』
『ホリー、少し黙ってろ』
………
「胸糞悪い事になってるな」
会話を聞き取ったマーリオが、顔を歪めて呟く、会話が聞こえていないイオニスが、マーリオに問いかける。
「部屋の中はどういう状況なの?」
「どうやら、無理矢理ヤラれてる最中らしい」
イオニスが息を呑む、奴隷制度がない国で本当に奴隷の売買が行われていた事と、その扱いを知って何とも言えない重苦しさを感じる。
部屋から漏れていた女性の声が、徐々に小さくなり、男の暴力がおさまったのか、やがて聞こえなくなった。
「乗り込むか?」
良い頃合いだと判断したマーリオが、イオニスに突入の確認をする、イオニスが頷く。
「行こう!」
◆◇◆◇◆◇
王城では、グリードから潜入調査を決行する連絡を受けたメイヴィスが、騎士団の棟へ向かっていた。
イオニスが伯爵邸に潜入している事を心配して、グリードのいる統括本部で待機をする事にしたのだ。
「グリード、状況説明を頼む」
統括本部に到着したメイヴィスは、開口一番にそう言った。
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