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第六章 愛民の王太子 メイヴィス VS 仮面伯爵
3・グリードと気になる情報
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メイヴィスの執務室でお菓子パーティーが開かれている時に、騎士団長のグリードが報告に訪れた。
「随分と賑やかですな、お久し振りですイオニス殿下、 十八歳に成られたそうで、おめでとう御座います」
グリードが頭を下げてイオニスに挨拶をする。
「有難う、グリード。報告事なら僕は退室した方が良いかな?」
暗部の仕事をするイオニスと騎士団長のグリードは、ある程度仕事の上での親交があり、気安い関係でもある。
「いえ、問題ないかと。寧ろ同席して頂いた方が良いかも知れません」
グリードは少し重たい口調で話す、どうやら明るい報告では無いようだ。
ウィリーが茶器を下げて、イオニスがお菓子を集めている、普段ズケズケ言い合う二人だがテーブルを片付ける息は合っている。
テーブルを片付け終わると、ウィリーは執務に戻り、イオニスはメイヴィスの隣に座った、そしてグリードが対面に腰掛ける。
「実は気になる情報を得たので、その報告と対応についての相談に参りました」
悩ましい顔をしているグリードに、メイヴィスは話を促した。
「聞こうグリード、どんな情報だ?」
「先日、西の辺境伯領にて保護された民からの情報です。国内で奴隷商人と取引をしている貴族が他にも居ると、奴隷商人達が話していたのを聞いた事が有るそうです」
話の重さにメイヴィスの顔も悩ましくなる。
「それが本当なら、由々しき問題だ。早急に確認して対応をすべきだが、具体的に疑わしき貴族が居るのか?」
「それが、顔も名前も分からないそうです。ただ奴隷商人達は、仮面舞踏会の仮面についても話をしていた様です」
メイヴィスは少し前の事を思い返して、グリードに確認する。
「仮面か、仮面舞踏会の時に悪評のある貴族の邸の幾つかに内偵調査を行ったが、その時に何か関連する物が見つかったか?」
「いえ、人身売買に関連した物は見当たりませんでした」
「そうか……あの時、仮面舞踏会に出席した貴族は調査出来たが、欠席した貴族は調査出来なかったな、欠席した貴族の中に不審な人物はいるか?」
グリードは少し考えてから答える
「不審と言えるかどうか、何と言えば良いのか、得体の知れない人物はいます。もう何年も姿を見せて居ない、フィッツバトン伯爵です。邸の使用人や出入り商人も、誰も姿を見ていない、謎の多い人物です」
イオニスが不思議そうに尋ねる。
「どういう事?、誰にも姿を見せないで、どうやって生活をしているの?」
メイヴィスが知っている事を話す。
「噂によるとフィッツバトン伯爵は、商人の仲介や使用人の差配は勿論の事、伯爵領内の仕事まで全て執事に任せて、本人は何年も蟄居しているらしい、直接会うのも執事だけだ」
「ええっ!、そんな事があって良いの?、と言うかそんな事が出来るの?」
驚いたイオニスが目を見開いて、メイヴィスとグリードの顔を交互に見る、メイヴィスは何事かを思案している一方で、重苦しい表情をしたグリードが口を開いた。
「フィッツバトン伯爵は特別なのです、彼は十七歳の時に火災で両親を亡くすと共に、彼自身も酷い火傷を負いました、彼は家督相続の手続きが終わると、人前に出る事を嫌って邸に引き籠ったのです」
グリードの話を聞いたイオニスは身につまされる、そして再び疑問に思う。
「そう、僕と同じ年頃にそんな大変な事があったんだ、引き籠る気持ちも分かるね。でも不正とか心配じゃ無いのかな、その執事とかなり信頼関係が厚いって事なのかな」
グリードが我が意を得たりと頷き、自身の疑念を話し出す。
「私が懸念している事が、正しくそれなのです。伯爵家自体が謎に包まれていて、邸内で何が起きているか分からない」
これまで何事か考えて沈黙していたメイヴィスが、ここで口を挟んだ。
「いい機会だ、疑わしい貴族の邸内に何人か潜り込ませて、内偵調査を行おう。まずはフィッツバトン伯爵家からだ」
「あっ、じゃあ僕が行きます!」
イオニスが元気よく片手を挙げて立候補した、こうなる事を予想していたメイヴィスとグリードは苦笑する。
「誰を潜入させるかは、暗部とグリードで調整してからの話だな、第三王子を危険な目には合わせられない」
「イオニス殿下、メイヴィス殿下の仰る通りです、まず我々が外部調査を行ってから、人選に入ります」
メイヴィスとグリードの二人から軽く窘められたイオニスだが、やる気に満ちていて諦めた様子は見えない。
そんな懲りない異母弟が可愛くて、でも心配でメイヴィスはイオニスの頭を撫でる。
「イオニス、フィッツバトン伯爵について一つ教えてやろう、火事で顔面にも火傷を負った彼は、仮面舞踏会を思わせる仮面をつけている。あれ以来、誰も彼の素顔を見た者は居ない、彼は『仮面伯爵』と呼ばれているんだ」
「…仮面伯爵」
「そう、奴隷商人が話していたのは、彼の事かも知れない」
グリードとイオニスは軽く目を見開きメイヴィスを見ると、彼はどこか物悲しそうな雰囲気で微笑んでいた。
「悲しい出来事にあった彼を思いやる余りに接触を控えていたが、放置し過ぎていたようだな、これを機に是正するとしよう」
メイヴィスの脳裏に、在りし日の伯爵の姿が浮かぶ、果たして仮面をつけた今の彼は、かつて快活に笑っていた、あの彼なのだろうか。数年前から燻り続ける疑念を晴らす時が近づいていた。
……遂に仮面伯爵の仮面を暴く時が来たようだ、その仮面の下に有るものは、一体何だろうか……
メイヴィスの心は千々に乱れていた。
「随分と賑やかですな、お久し振りですイオニス殿下、 十八歳に成られたそうで、おめでとう御座います」
グリードが頭を下げてイオニスに挨拶をする。
「有難う、グリード。報告事なら僕は退室した方が良いかな?」
暗部の仕事をするイオニスと騎士団長のグリードは、ある程度仕事の上での親交があり、気安い関係でもある。
「いえ、問題ないかと。寧ろ同席して頂いた方が良いかも知れません」
グリードは少し重たい口調で話す、どうやら明るい報告では無いようだ。
ウィリーが茶器を下げて、イオニスがお菓子を集めている、普段ズケズケ言い合う二人だがテーブルを片付ける息は合っている。
テーブルを片付け終わると、ウィリーは執務に戻り、イオニスはメイヴィスの隣に座った、そしてグリードが対面に腰掛ける。
「実は気になる情報を得たので、その報告と対応についての相談に参りました」
悩ましい顔をしているグリードに、メイヴィスは話を促した。
「聞こうグリード、どんな情報だ?」
「先日、西の辺境伯領にて保護された民からの情報です。国内で奴隷商人と取引をしている貴族が他にも居ると、奴隷商人達が話していたのを聞いた事が有るそうです」
話の重さにメイヴィスの顔も悩ましくなる。
「それが本当なら、由々しき問題だ。早急に確認して対応をすべきだが、具体的に疑わしき貴族が居るのか?」
「それが、顔も名前も分からないそうです。ただ奴隷商人達は、仮面舞踏会の仮面についても話をしていた様です」
メイヴィスは少し前の事を思い返して、グリードに確認する。
「仮面か、仮面舞踏会の時に悪評のある貴族の邸の幾つかに内偵調査を行ったが、その時に何か関連する物が見つかったか?」
「いえ、人身売買に関連した物は見当たりませんでした」
「そうか……あの時、仮面舞踏会に出席した貴族は調査出来たが、欠席した貴族は調査出来なかったな、欠席した貴族の中に不審な人物はいるか?」
グリードは少し考えてから答える
「不審と言えるかどうか、何と言えば良いのか、得体の知れない人物はいます。もう何年も姿を見せて居ない、フィッツバトン伯爵です。邸の使用人や出入り商人も、誰も姿を見ていない、謎の多い人物です」
イオニスが不思議そうに尋ねる。
「どういう事?、誰にも姿を見せないで、どうやって生活をしているの?」
メイヴィスが知っている事を話す。
「噂によるとフィッツバトン伯爵は、商人の仲介や使用人の差配は勿論の事、伯爵領内の仕事まで全て執事に任せて、本人は何年も蟄居しているらしい、直接会うのも執事だけだ」
「ええっ!、そんな事があって良いの?、と言うかそんな事が出来るの?」
驚いたイオニスが目を見開いて、メイヴィスとグリードの顔を交互に見る、メイヴィスは何事かを思案している一方で、重苦しい表情をしたグリードが口を開いた。
「フィッツバトン伯爵は特別なのです、彼は十七歳の時に火災で両親を亡くすと共に、彼自身も酷い火傷を負いました、彼は家督相続の手続きが終わると、人前に出る事を嫌って邸に引き籠ったのです」
グリードの話を聞いたイオニスは身につまされる、そして再び疑問に思う。
「そう、僕と同じ年頃にそんな大変な事があったんだ、引き籠る気持ちも分かるね。でも不正とか心配じゃ無いのかな、その執事とかなり信頼関係が厚いって事なのかな」
グリードが我が意を得たりと頷き、自身の疑念を話し出す。
「私が懸念している事が、正しくそれなのです。伯爵家自体が謎に包まれていて、邸内で何が起きているか分からない」
これまで何事か考えて沈黙していたメイヴィスが、ここで口を挟んだ。
「いい機会だ、疑わしい貴族の邸内に何人か潜り込ませて、内偵調査を行おう。まずはフィッツバトン伯爵家からだ」
「あっ、じゃあ僕が行きます!」
イオニスが元気よく片手を挙げて立候補した、こうなる事を予想していたメイヴィスとグリードは苦笑する。
「誰を潜入させるかは、暗部とグリードで調整してからの話だな、第三王子を危険な目には合わせられない」
「イオニス殿下、メイヴィス殿下の仰る通りです、まず我々が外部調査を行ってから、人選に入ります」
メイヴィスとグリードの二人から軽く窘められたイオニスだが、やる気に満ちていて諦めた様子は見えない。
そんな懲りない異母弟が可愛くて、でも心配でメイヴィスはイオニスの頭を撫でる。
「イオニス、フィッツバトン伯爵について一つ教えてやろう、火事で顔面にも火傷を負った彼は、仮面舞踏会を思わせる仮面をつけている。あれ以来、誰も彼の素顔を見た者は居ない、彼は『仮面伯爵』と呼ばれているんだ」
「…仮面伯爵」
「そう、奴隷商人が話していたのは、彼の事かも知れない」
グリードとイオニスは軽く目を見開きメイヴィスを見ると、彼はどこか物悲しそうな雰囲気で微笑んでいた。
「悲しい出来事にあった彼を思いやる余りに接触を控えていたが、放置し過ぎていたようだな、これを機に是正するとしよう」
メイヴィスの脳裏に、在りし日の伯爵の姿が浮かぶ、果たして仮面をつけた今の彼は、かつて快活に笑っていた、あの彼なのだろうか。数年前から燻り続ける疑念を晴らす時が近づいていた。
……遂に仮面伯爵の仮面を暴く時が来たようだ、その仮面の下に有るものは、一体何だろうか……
メイヴィスの心は千々に乱れていた。
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