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第六章 愛民の王太子 メイヴィス VS 仮面伯爵
2・イオニスとお菓子と紅茶
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「メイヴィス兄上、居ますか?」
第三王子のイオニスが、両手いっぱいのお菓子を抱えて、メイヴィスの執務室を訪れた。
「イオニス、そのお菓子はどうした?」
執務室内のテーブルにお菓子を並べていくイオニスにメイヴィスが問う。
「僕、この間十八歳になったでしょう、それで騎士団の皆んなや王城の近しい人達から貰ったんだ。一人では食べきれないから、兄上やウィリーと一緒に食べようと思って持って来た」
イオニスの趣味は女装だがスイーツも大好きだ、それを知っている者達からの贈り物らしい。
「ウィリー、美味しい紅茶を三人分淹れて」
以前、イオニスから紅茶の淹れ方が下手だと言われたウィリーは、不満顔で眼鏡のブリッジを押し上げる。
「心外です、イオニス殿下。僕の淹れる紅茶はいつでも美味しいです、先程レモンティーを飲まれたメイヴィス殿下も満足されていました」
イオニスがメイヴィスの方をみると、彼は飄々とした態度で答える。
「満足しているよ、私がレモンティーに求めているのは味では無く、あの独特な赤茶金色だからな」
思惑が外れたウィリーは、ムッとした顔で紅茶を淹れる準備を始めた。その様子をみてイオニスとメイヴィスは微笑みを交わす。
ウィリー本人は気付いていないが、良くも悪くも嘘がつけない正直な彼は、悪意の渦巻く場所では一種の清涼剤のような存在だった。
せっせとお菓子を並べているイオニスは、今日も賑やかな髪色をしている、白い髪に黄色やオレンジ、赤にピンクのメッシュが入り、元気な彼を益々エネルギッシュに見せている。
「綺麗な髪だなイオニス、お花畑のように明るくて、お前に良く似合っている」
メイヴィスは可愛い異母弟を褒める、褒められたイオニスは嬉しそうだ、メイヴィスは成長した彼の姿を感慨深く見つめた。
「イオニス、私が渡したペンダントをちゃんと身に付けているか?」
メイヴィスはふと、イオニスが幼い頃にダルトンと共に攫われた時の事を思い出して、念の為に守護石の確認をした。
「ああ、コレ?、ちゃんと付けてる」
イオニスは服の下から琥珀石のペンダントを取り出して見せた。
「そうか、それなら良い。これからも毎日身に付けておけ、危険からお前を護ってくれる筈だ」
仲良く話す二人にウィリーが、得意気な顔で紅茶をサーブする。
「殿下方、どうぞ、美味しい紅茶です」
「有難うウィリー」
「ウィリー、それはどうかな。美味しいかどうかは飲んだ後に分かることで、今はまだ分からないよ」
メイヴィスは素直にウィリーに礼を言うが、イオニスは彼に悪態をつく。意地悪とかでは無く、素直になれない二人のいつもの戯れあいだ。
「ふふ、折角だから頂こうか?」
バチバチしている二人にメイヴィスがふんわり声を掛けると、二人は大人しくお菓子を食べ始めた。お菓子に手を伸ばしたウィリーは、イオニスのペンダントに気付いてメイヴィスに問う。
「イオニス殿下もペンダントをお持ちでしたか、他にはどなたが持たれているのですか?」
「そうだな、殆どの物は壊れたが、シャーロットと、確かジャスティンも持っている筈だ」
「ジャスティン?、ああ!、ジュール王国に送ったアレですか」
ウィリーが思い当たる、万が一に備えてメイヴィスから渡すように言われた物だ。
「そうだ、だが失敗だったかも知れない。ジャスティンは迂闊だから、どこかで落としたり盗まれたりしそうで、割れてもジャスティンかどうか分からないから、そっとしておこうかな」
ばん!!
メイヴィスの言葉が終わった途端に、ウィリーが机を叩いた。
「待って下さい殿下、それはジャスティンを助けないと云う事ですか?、僕の弟を見捨てるつもりですか?」
ウィリーの剣幕に押され気味にメイヴィスは理由を告げる。
「うーん、見捨てるとかでは無く、ジャスティンが今もちゃんと持っている保証が無いから、簡単に動けないと云う事だ、私はこれでも王太子だからな」
ウィリーは難しい顔をしている、確かに弟を助ける為に王太子を使うのは間違っている、だが彼しか助けられない状況なら、助けて欲しいとも思う。
「あの遠隔魔法陣はどこに繋がるのか私にも分からない、キュリアスの時は帝国に繋がった、はっきり言えば私は不法入国者だよ、だから保持者が国外の場合は慎重な行動が必要になる」
ウィリーやイオニスも ハッとする、下手をすると国際問題に発展する可能性もあるのだ。
「何度も言うが私はこれでも王太子で、一年半後には国王になる身だからな、軽々しい事は出来ない、だからジャスティンに何事も無い事を祈ろう」
弟に何も起こらなければ問題無いのだとウィリーは納得する、厳しい顔のウィリーにイオニスが声を掛けた。
「今日の紅茶は美味しいよ、ウィリー」
「心外です、僕の淹れる紅茶はいつも美味しいですよ、イオニス殿下」
ウィリーは不満気な顔でイオニスを見て、眼鏡のブリッジを押し上げながら反論する。
相変わらずな二人のやり取りを、メイヴィスは優しい瞳で見ている。三人はお菓子を食べながらワイワイと雑談をして、楽しい一時を過ごした。
後日、メイヴィスの心配した通りの事が起きるのだが、それはまた別の話である。
ジャスティンのペンダントが別の人間の手に渡って、結果、関係の無い騒動に巻き込まれる事になるとは、この時は誰も知らない。
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* 関連話 *
ジェラルドと落とし物 ❶ ❷ 【薔薇と海】
第三王子のイオニスが、両手いっぱいのお菓子を抱えて、メイヴィスの執務室を訪れた。
「イオニス、そのお菓子はどうした?」
執務室内のテーブルにお菓子を並べていくイオニスにメイヴィスが問う。
「僕、この間十八歳になったでしょう、それで騎士団の皆んなや王城の近しい人達から貰ったんだ。一人では食べきれないから、兄上やウィリーと一緒に食べようと思って持って来た」
イオニスの趣味は女装だがスイーツも大好きだ、それを知っている者達からの贈り物らしい。
「ウィリー、美味しい紅茶を三人分淹れて」
以前、イオニスから紅茶の淹れ方が下手だと言われたウィリーは、不満顔で眼鏡のブリッジを押し上げる。
「心外です、イオニス殿下。僕の淹れる紅茶はいつでも美味しいです、先程レモンティーを飲まれたメイヴィス殿下も満足されていました」
イオニスがメイヴィスの方をみると、彼は飄々とした態度で答える。
「満足しているよ、私がレモンティーに求めているのは味では無く、あの独特な赤茶金色だからな」
思惑が外れたウィリーは、ムッとした顔で紅茶を淹れる準備を始めた。その様子をみてイオニスとメイヴィスは微笑みを交わす。
ウィリー本人は気付いていないが、良くも悪くも嘘がつけない正直な彼は、悪意の渦巻く場所では一種の清涼剤のような存在だった。
せっせとお菓子を並べているイオニスは、今日も賑やかな髪色をしている、白い髪に黄色やオレンジ、赤にピンクのメッシュが入り、元気な彼を益々エネルギッシュに見せている。
「綺麗な髪だなイオニス、お花畑のように明るくて、お前に良く似合っている」
メイヴィスは可愛い異母弟を褒める、褒められたイオニスは嬉しそうだ、メイヴィスは成長した彼の姿を感慨深く見つめた。
「イオニス、私が渡したペンダントをちゃんと身に付けているか?」
メイヴィスはふと、イオニスが幼い頃にダルトンと共に攫われた時の事を思い出して、念の為に守護石の確認をした。
「ああ、コレ?、ちゃんと付けてる」
イオニスは服の下から琥珀石のペンダントを取り出して見せた。
「そうか、それなら良い。これからも毎日身に付けておけ、危険からお前を護ってくれる筈だ」
仲良く話す二人にウィリーが、得意気な顔で紅茶をサーブする。
「殿下方、どうぞ、美味しい紅茶です」
「有難うウィリー」
「ウィリー、それはどうかな。美味しいかどうかは飲んだ後に分かることで、今はまだ分からないよ」
メイヴィスは素直にウィリーに礼を言うが、イオニスは彼に悪態をつく。意地悪とかでは無く、素直になれない二人のいつもの戯れあいだ。
「ふふ、折角だから頂こうか?」
バチバチしている二人にメイヴィスがふんわり声を掛けると、二人は大人しくお菓子を食べ始めた。お菓子に手を伸ばしたウィリーは、イオニスのペンダントに気付いてメイヴィスに問う。
「イオニス殿下もペンダントをお持ちでしたか、他にはどなたが持たれているのですか?」
「そうだな、殆どの物は壊れたが、シャーロットと、確かジャスティンも持っている筈だ」
「ジャスティン?、ああ!、ジュール王国に送ったアレですか」
ウィリーが思い当たる、万が一に備えてメイヴィスから渡すように言われた物だ。
「そうだ、だが失敗だったかも知れない。ジャスティンは迂闊だから、どこかで落としたり盗まれたりしそうで、割れてもジャスティンかどうか分からないから、そっとしておこうかな」
ばん!!
メイヴィスの言葉が終わった途端に、ウィリーが机を叩いた。
「待って下さい殿下、それはジャスティンを助けないと云う事ですか?、僕の弟を見捨てるつもりですか?」
ウィリーの剣幕に押され気味にメイヴィスは理由を告げる。
「うーん、見捨てるとかでは無く、ジャスティンが今もちゃんと持っている保証が無いから、簡単に動けないと云う事だ、私はこれでも王太子だからな」
ウィリーは難しい顔をしている、確かに弟を助ける為に王太子を使うのは間違っている、だが彼しか助けられない状況なら、助けて欲しいとも思う。
「あの遠隔魔法陣はどこに繋がるのか私にも分からない、キュリアスの時は帝国に繋がった、はっきり言えば私は不法入国者だよ、だから保持者が国外の場合は慎重な行動が必要になる」
ウィリーやイオニスも ハッとする、下手をすると国際問題に発展する可能性もあるのだ。
「何度も言うが私はこれでも王太子で、一年半後には国王になる身だからな、軽々しい事は出来ない、だからジャスティンに何事も無い事を祈ろう」
弟に何も起こらなければ問題無いのだとウィリーは納得する、厳しい顔のウィリーにイオニスが声を掛けた。
「今日の紅茶は美味しいよ、ウィリー」
「心外です、僕の淹れる紅茶はいつも美味しいですよ、イオニス殿下」
ウィリーは不満気な顔でイオニスを見て、眼鏡のブリッジを押し上げながら反論する。
相変わらずな二人のやり取りを、メイヴィスは優しい瞳で見ている。三人はお菓子を食べながらワイワイと雑談をして、楽しい一時を過ごした。
後日、メイヴィスの心配した通りの事が起きるのだが、それはまた別の話である。
ジャスティンのペンダントが別の人間の手に渡って、結果、関係の無い騒動に巻き込まれる事になるとは、この時は誰も知らない。
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