【R18】傲慢な王子

やまたろう

文字の大きさ
上 下
54 / 88
第六章 愛民の王太子  メイヴィス VS 仮面伯爵

2・イオニスとお菓子と紅茶

しおりを挟む
「メイヴィス兄上、居ますか?」


 第三王子のイオニスが、両手いっぱいのお菓子を抱えて、メイヴィスの執務室を訪れた。


「イオニス、そのお菓子はどうした?」


 執務室内のテーブルにお菓子を並べていくイオニスにメイヴィスが問う。


「僕、この間十八歳になったでしょう、それで騎士団の皆んなや王城の近しい人達から貰ったんだ。一人では食べきれないから、兄上やウィリーと一緒に食べようと思って持って来た」


 イオニスの趣味は女装だがスイーツも大好きだ、それを知っている者達からの贈り物らしい。


「ウィリー、美味しい紅茶を三人分淹れて」


 以前、イオニスから紅茶の淹れ方が下手だと言われたウィリーは、不満顔で眼鏡のブリッジを押し上げる。


「心外です、イオニス殿下。僕の淹れる紅茶はいつでも美味しいです、先程レモンティーを飲まれたメイヴィス殿下も満足されていました」


 イオニスがメイヴィスの方をみると、彼は飄々とした態度で答える。


「満足しているよ、私がレモンティーに求めているのは味では無く、あの独特な赤茶金色だからな」


 思惑が外れたウィリーは、ムッとした顔で紅茶を淹れる準備を始めた。その様子をみてイオニスとメイヴィスは微笑みを交わす。


 ウィリー本人は気付いていないが、良くも悪くも嘘がつけない正直な彼は、悪意の渦巻く場所では一種の清涼剤のような存在だった。


 せっせとお菓子を並べているイオニスは、今日も賑やかな髪色をしている、白い髪に黄色やオレンジ、赤にピンクのメッシュが入り、元気な彼を益々エネルギッシュに見せている。


「綺麗な髪だなイオニス、お花畑のように明るくて、お前に良く似合っている」


 メイヴィスは可愛い異母弟を褒める、褒められたイオニスは嬉しそうだ、メイヴィスは成長した彼の姿を感慨深く見つめた。


「イオニス、私が渡したペンダントをちゃんと身に付けているか?」


 メイヴィスはふと、イオニスが幼い頃にダルトンと共に攫われた時の事を思い出して、念の為に守護石の確認をした。


「ああ、コレ?、ちゃんと付けてる」


 イオニスは服の下から琥珀石のペンダントを取り出して見せた。


「そうか、それなら良い。これからも毎日身に付けておけ、危険からお前を護ってくれる筈だ」


 仲良く話す二人にウィリーが、得意気な顔で紅茶をサーブする。


「殿下方、どうぞ、紅茶です」


「有難うウィリー」


「ウィリー、それはどうかな。美味しいかどうかは飲んだ後に分かることで、今はまだ分からないよ」


 メイヴィスは素直にウィリーに礼を言うが、イオニスは彼に悪態をつく。意地悪とかでは無く、素直になれない二人のいつものじゃれあいだ。


「ふふ、折角だから頂こうか?」


 バチバチしている二人にメイヴィスがふんわり声を掛けると、二人は大人しくお菓子を食べ始めた。お菓子に手を伸ばしたウィリーは、イオニスのペンダントに気付いてメイヴィスに問う。


「イオニス殿下もペンダントをお持ちでしたか、他にはどなたが持たれているのですか?」


「そうだな、殆どの物は壊れたが、シャーロットと、確かジャスティンも持っている筈だ」


「ジャスティン?、ああ!、ジュール王国に送ったアレですか」


 ウィリーが思い当たる、万が一に備えてメイヴィスから渡すように言われた物だ。


「そうだ、だが失敗だったかも知れない。ジャスティンは迂闊だから、どこかで落としたり盗まれたりしそうで、割れてもジャスティンかどうか分からないから、そっとしておこうかな」


 ばん!!


 メイヴィスの言葉が終わった途端に、ウィリーが机を叩いた。


「待って下さい殿下、それはジャスティンを助けないと云う事ですか?、僕の弟を見捨てるつもりですか?」


 ウィリーの剣幕に押され気味にメイヴィスは理由を告げる。


「うーん、見捨てるとかでは無く、ジャスティンが今もちゃんと持っている保証が無いから、簡単に動けないと云う事だ、私はこれでも王太子だからな」


 ウィリーは難しい顔をしている、確かに弟を助ける為に王太子を使うのは間違っている、だが彼しか助けられない状況なら、助けて欲しいとも思う。


「あの遠隔魔法陣はどこに繋がるのか私にも分からない、キュリアスの時は帝国に繋がった、はっきり言えば私は不法入国者だよ、だから保持者が国外の場合は慎重な行動が必要になる」


 ウィリーやイオニスも ハッとする、下手をすると国際問題に発展する可能性もあるのだ。


「何度も言うが私はこれでも王太子で、一年半後には国王になる身だからな、軽々しい事は出来ない、だからジャスティンに何事も無い事を祈ろう」


 弟に何も起こらなければ問題無いのだとウィリーは納得する、厳しい顔のウィリーにイオニスが声を掛けた。


の紅茶は美味しいよ、ウィリー」


「心外です、僕の淹れる紅茶は美味しいですよ、イオニス殿下」


 ウィリーは不満気な顔でイオニスを見て、眼鏡のブリッジを押し上げながら反論する。


 相変わらずな二人のやり取りを、メイヴィスは優しい瞳で見ている。三人はお菓子を食べながらワイワイと雑談をして、楽しい一時を過ごした。


 後日、メイヴィスの心配した通りの事が起きるのだが、それはまた別の話である。


 ジャスティンのペンダントが別の人間の手に渡って、結果、関係の無い騒動に巻き込まれる事になるとは、この時は誰も知らない。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

* 関連話 *

ジェラルドと落とし物  ❶ ❷ 【薔薇と海】








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...