【R18】傲慢な王子

やまたろう

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第五章 王太子の愛情 メイヴィス×シャーロット❷

12・王都への帰還と移送

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 翌朝のザカリー邸は静寂とは程遠く騒ついていた。王太子や聖女一行の出立準備、ザカリー達の身柄を移送する準備でそれぞれが忙しく立ち動いている。

 帰路ではアリーが近くにあるドートリー男爵領に寄るため別行動となり、メイヴィスとシャーロットは同じ馬車で王都へ向かう。


 王都まで移送されるザカリーとプリシラ、ガラムの三人は手首を縄で縛られ騎士に連れられて護送用の馬車まで歩いていた。


 精神的な敗北を味わったザカリーとプリシラは大人しくなっているが、ガラムはまだ反抗的な目つきで周りを見回している。


 そこへザカリー邸を出て来た一行が、同じく馬車の方へと向かって歩み出した。
 一人で先を歩くアリー、その後ろに騎士達、チャーリーとグリード、最後にシャーロットとメイヴィスが続いている。


 先を歩いていたガラムが騎士の隙をついて不意打ちを食らわし、メイヴィス達の方へ駆け出した、そしてアリーを人質に取ると首に腕を回して締め上げる。


「きゃあ!」

「アリー!!」

「お下がりください、婚約者殿」


 騎士達がガラムを囲む様に動き、グリードとチャーリーはアリーの側に駆け寄ろうとするシャーロットを庇いつつ背中で止める。


 使用人や騎士、そこにいる全ての者が、前方のガラムの行動に気を取られて慌てているが、グリードとチャーリーはそれよりも後方に異変を感じて焦っていた。


 二人は背後にいるメイヴィスから強烈な圧を感じているが、ガラムから目を離すわけにもいかず、振り向いて確認する事が出来ない。
 メイヴィスが今どんな様子なのかを目視出来ないが故に余計に怖い、グリードもチャーリーも尋常では無い緊迫感に襲われていた。


 ・・・まずい、背後から凄い圧を感じる、殿下の魔力がどんどん大きくなっていく・・・

 ・・・うわ~、まずいよ、ヤバいよ、どーすんだよ、これ、団長~・・・


 二人の焦りを他所に、ガラムが大声で自分の要求を主張し始めた。


「この女を殺されたく無かったら、俺を解放しろ!、他領へ行く馬車を一台用意しろ!」


「馬鹿な事をするな!、その女性を離せ!」


 ガラムを取り囲んでいる小隊長の騎士が説得する、アリーを人質にしているガラムには手が出せないでいる、ザカリーやプリシラは移送騎士に手首の縄を掴まれて怯えた様子でなり行きを見ている。


 前方の緊迫感も増しているが後方の緊迫感も増してきて、いよいよメイヴィスが弾けそうだと、グリードとチャーリーも心なしか怯える。
 その直後に二人はビリビリとした空気の振動を背中に感じた。

 ・・・来た!、殿下が雷帝の力を使う予兆だ・・・

 ・・・あ~あ、やっちゃった、怒らせちゃった、あの男もう終わりだな・・・


 アリーを引きずって馬車まで後ずさっていたガラムが急に雷に打たれたかの様に硬直して倒れた、首を拘束されていたアリーも一緒に転ぶ。


「きゃああぁ!」

「ぐっ、な、何だこれは。体が痺れて動けない」


 倒れたガラムが苦しげに呻く、騎士達が二人に駆け寄り、アリーを保護してガラムを拘束した。


「アリー!!、大丈夫、アリー」

「ロッテ!」


 シャーロットが駆け寄り、アリーの体に怪我が無いか調べている、ガラムが拘束されたのを確認したグリードとチャーリーは、恐る恐る振り返ってメイヴィスを見た。


 黄金色の髪がふわりと浮いて、琥珀色の瞳の奥がバチバチと輝き、体の周りには光の粒子が漂って煌めいている・・・・・・そして常とは違い、右手の人差し指の上に小さな光の玉が渦巻く様に回転していた


 ・・・なっ、あの光球は何だ!、殿下、一体何をするつもりですか!・・・

 ・・・うわ~、何だよアレ、凄い事になってる、俺もうヤダ~・・・


 グリードとチャーリーが常とは違うメイヴィスの姿に ごくりと唾を呑み込み、心の中で怯えてぼやいている内に、指の上にあった光球が消えてメイヴィスは普段の姿に戻った。


 バチィッッ!!

「ぐがぁっ!!」



「何だ、どうした?」 

「この臭いは、何だ?」

「一体何が起きたんだ?」


 騎士に拘束されていたガラムが、突然悲鳴を上げて意識を失い崩れ落ちた、辺りには肉が焦げた様な匂いが微かに漂う。
 突然起きた不可解な出来事に、周りの人々は怯えて騒然としているが、グリードとチャーリーだけは雷帝の仕業だと分かっていた。


「殿下、今、何をなさったのですか?」


 グリードが深刻な面持ちで聞いてきた、隣のチャーリーも憂いを含んだ顔でもの問いたげにメイヴィスを見ている。
 メイヴィスは表情一つ変えずに、まるで些細な事のように( 実際彼にとってはそうなのだろうが )淡々と答えた。


「頭の中にある黒い影を焼いただけだ、少し知能に影響が出るかも知れないが、日常生活には問題ない程度だろう」


 メイヴィスの言葉にグリードは内心頭を抱えた、ジュール王国でサイラスを処罰した顛末はロランから聞いていたが、聞くのと実際に目にするのとでは感じる事が違う。


 雷の魔力は脳の一部分に直接作用して脳から体に送る指令を止めたり、流れを変えたり出来ると聞くが、強大な魔力を極小にして狙った所に寸分違わず放つなんて普通は出来ない、それをこんなに簡単にやってのけてしまうなんて。


 麗しい容姿と歴代最高と言われる雷帝の力を持つメイヴィスは、人間と神の中間に位置する別の生命体に思えて、グリードにとっては主君と云うより崇拝の対象に近い存在となっている。


 魔法剣士としてメイヴィスに信頼されているチャーリーも、彼の規格外の力を見る度に畏怖と畏敬の念を覚える、煌めく光を従えたメイヴィスの姿は人間とは別次元の存在のようだ。


 メイヴィスはガラムの事など素知らぬ相好で静かに佇んでいる、柔らかい黄金色のくせ毛はふんわりと風に揺られ陽の光を浴びてキラキラと輝いている、先程まで苛烈に輝いていた琥珀色の瞳も今は穏やかに凪いでいた。


 グリードとチャーリー以外に、ガラムの身に起きた不可解な出来事が雷帝の力に寄るものだと気付いている者はいない。


 人智を超えた存在に厳粛な気持ちになり、グリードとチャーリーは自然と主君の前に片膝をついて頭を垂れた、二人は態度で恭敬の念を示したのだ。













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