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第五章 王太子の愛情 メイヴィス×シャーロット❷
8・ザカリー辺境伯邸
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このラグランド王国には、かつて狂王と呼ばれた雷帝がいた。狂王は近隣の三ヵ国の王城をたった一人で襲撃すると、僅か三十日で三ヵ国の王城を支配して雷帝の恐ろしさを世に知らしめた。
ラグランドに於ける辺境伯とは名ばかりの存在だ。本来なら国境を守護する為の武力に長けた者達の筈だが、かつて三十日戦争を起こした狂王を知る国々は、この国に雷帝がいる限り攻めてはこない。
名ばかりの辺境伯ザカリーは武力とは縁もなく、背も低くて小太りな男だった。そんなザカリーにとって隣国との緊張感がない辺境は、王都の役人の目が届かない楽園と化していた。
好きなだけ不正を行い金を儲けて贅沢な暮らしをしていたが、聖女の巡回治癒に同行してきた王太子が地方視察に帯同させた監査官によって、次々と不正が暴かれて隠していた書類を証拠として突き付けられた。
そして今ザカリーは邸の一室に軟禁されて、扉の前には見張りが立っている。
・・・・・やはり、あの王太子は馬鹿に出来ない男だった、恐らく巡回治癒と地方視察はザカリーが怪しまない為の隠れ蓑で、真の目的はザカリーの監査だったのだろう。そうで無ければ監査官を帯同したりはしない。・・・・
「どうやらかなり狡猾な男だったか」
・・・・我が領下に来れば我が邸に滞在するのは普通で誰もその事を疑いもしない。来た時にはもう証拠も揃っていた、いつ探られたのかも解らない。雷帝として派手な動きをしないのも計算のうちか?・・・・
「だが、まだだ。あの男の弱みを握ればこの状況を覆せる、あの企みが役に立ちそうだ」
軟禁されているのはザカリーとガラムの二人で、それぞれ別々の部屋にいるが、他の者はある程度の自由が与えられている様だ、ならばプリシラは動ける筈だ。
ノックの音がして代理執事のマオが入室して来た。
「旦那様、王太子殿下と聖女の一行が邸に到着されました、当初の予定通りのお部屋へ案内をしております」
「マオ、お前は自由に動けるのか?」
「はい、私は代理執事でまだこちらの邸での日が浅い為、普段通りに業務をこなす様にと申し渡されました」
「そうか、プリシラは如何している?」
「はい、プリシラ様は出入り禁止になっている旦那様の書斎と私室以外は、自由に動かれております」
「では、これをプリシラに渡してくれ」
ザカリーはマオに手紙をわたす、それを受け取ったマオは他に用事が無いかザカリーに確認すると部屋を出ていった。
部屋を出たマオは一度自室に戻った。そしてザカリーの手紙を盗み読みをすると笑い出した。
「あはははは、こりゃいいや。このまま黙ってやらせるか?、くっくっくっくっ」
マオはひとしきり笑った後で厨房に行き、紅茶を用意すると特別貴賓室へ向かった。
◆◇◆◇◆◇
ザカリー邸の特別貴賓室で寛いでいたメイヴィスは、マーリオからの報告を聞いていた。
「奴隷として扱われていた人々は無事に救助出来たんだな?」
「ああ、問題ない、健康状態もそう悪く無かった。食事を取らせて今は邸内の空いていた部屋で休ませている」
マーリオから事前に連絡を受けていたグリードが部下に命じて彼らを救助させていた。今回のザカリーに関係した一連の事はメイヴィスが邸に入る前に全てが終わっている。
「それで、探し物はみつかったのか?」
「ああ、二つな」
「そうか、良かったな」
紅茶を飲んでいたメイヴィスはマーリオが愉快なそうな顔で笑いを噛み殺している事に気付いた。
「何だ、マーリオ、何が可笑しい?」
ニヤニヤしながらマーリオが手紙を差し出してくる、それを受け取って中を見たメイヴィスは危うく紅茶を噴き出す所だった。
「なっ何だ、これは!!」
「本当はそれ、教えたく無かったんだけど、でも後で叱られるのは嫌だからな、くっくっくっくっ、どーする?、主」
もはや笑いを噛み殺す気も無くなったマーリオが笑い声を上げながら聞いて来る。自分に対するとんでもない企てを知ったメイヴィスは渋面顔で指示を出した。
「取り敢えずこれは預かる。お前は一旦下がってグリードに来る様に伝えてくれ」
「了解、どうなるのか楽しみだなあ」
苦虫を噛み潰した様な顔のメイヴィスとは反対に、マーリオは益々ニヤニヤしながら茶器を下げて部屋を出た、そして入れ違いにグリードが入室して来る。
「メイヴィス殿下、お呼びですか?」
グリードは苦々しい顔をしているメイヴィスを見て、何か問題が起きた事を察するが、メイヴィスはちらっとグリードを見るだけで言葉を発しない。
「殿下、何か問題が生じたのですか?」
グリードが訝しげに問いかけると、メイヴィスは嫌そうな顔をして無言で手紙を渡して来た。それを受け取り読んだグリードは複雑な顔になる。
「まず殿下のお考えをお聞かせ下さい」
「考えるまでも無いだろう!、このままコレを握り潰せばいいだけの事だ!」
珍しく激昂したメイヴィスが強い口調でグリードに話す、まあ手紙の内容的に殿下が憤慨するのは仕方がない。
「チャーリーに相手をさせましょう、今の所あの女は捕縛出来ませんが、これに便乗すれば罪状を追わせる事が出来ます」
メイヴィスはグリードの言葉に不承不承頷いた。
「・・・分かった。グリードこの件はお前に任せる、手筈が整ったら教えてくれ」
ザカリー達の不正を知って尚、止める事もなく贅沢をしていた女も同罪だ。多少の犠牲を払っても女を処罰出来るのなら致し方ないとメイヴィスは諦めた。
ラグランドに於ける辺境伯とは名ばかりの存在だ。本来なら国境を守護する為の武力に長けた者達の筈だが、かつて三十日戦争を起こした狂王を知る国々は、この国に雷帝がいる限り攻めてはこない。
名ばかりの辺境伯ザカリーは武力とは縁もなく、背も低くて小太りな男だった。そんなザカリーにとって隣国との緊張感がない辺境は、王都の役人の目が届かない楽園と化していた。
好きなだけ不正を行い金を儲けて贅沢な暮らしをしていたが、聖女の巡回治癒に同行してきた王太子が地方視察に帯同させた監査官によって、次々と不正が暴かれて隠していた書類を証拠として突き付けられた。
そして今ザカリーは邸の一室に軟禁されて、扉の前には見張りが立っている。
・・・・・やはり、あの王太子は馬鹿に出来ない男だった、恐らく巡回治癒と地方視察はザカリーが怪しまない為の隠れ蓑で、真の目的はザカリーの監査だったのだろう。そうで無ければ監査官を帯同したりはしない。・・・・
「どうやらかなり狡猾な男だったか」
・・・・我が領下に来れば我が邸に滞在するのは普通で誰もその事を疑いもしない。来た時にはもう証拠も揃っていた、いつ探られたのかも解らない。雷帝として派手な動きをしないのも計算のうちか?・・・・
「だが、まだだ。あの男の弱みを握ればこの状況を覆せる、あの企みが役に立ちそうだ」
軟禁されているのはザカリーとガラムの二人で、それぞれ別々の部屋にいるが、他の者はある程度の自由が与えられている様だ、ならばプリシラは動ける筈だ。
ノックの音がして代理執事のマオが入室して来た。
「旦那様、王太子殿下と聖女の一行が邸に到着されました、当初の予定通りのお部屋へ案内をしております」
「マオ、お前は自由に動けるのか?」
「はい、私は代理執事でまだこちらの邸での日が浅い為、普段通りに業務をこなす様にと申し渡されました」
「そうか、プリシラは如何している?」
「はい、プリシラ様は出入り禁止になっている旦那様の書斎と私室以外は、自由に動かれております」
「では、これをプリシラに渡してくれ」
ザカリーはマオに手紙をわたす、それを受け取ったマオは他に用事が無いかザカリーに確認すると部屋を出ていった。
部屋を出たマオは一度自室に戻った。そしてザカリーの手紙を盗み読みをすると笑い出した。
「あはははは、こりゃいいや。このまま黙ってやらせるか?、くっくっくっくっ」
マオはひとしきり笑った後で厨房に行き、紅茶を用意すると特別貴賓室へ向かった。
◆◇◆◇◆◇
ザカリー邸の特別貴賓室で寛いでいたメイヴィスは、マーリオからの報告を聞いていた。
「奴隷として扱われていた人々は無事に救助出来たんだな?」
「ああ、問題ない、健康状態もそう悪く無かった。食事を取らせて今は邸内の空いていた部屋で休ませている」
マーリオから事前に連絡を受けていたグリードが部下に命じて彼らを救助させていた。今回のザカリーに関係した一連の事はメイヴィスが邸に入る前に全てが終わっている。
「それで、探し物はみつかったのか?」
「ああ、二つな」
「そうか、良かったな」
紅茶を飲んでいたメイヴィスはマーリオが愉快なそうな顔で笑いを噛み殺している事に気付いた。
「何だ、マーリオ、何が可笑しい?」
ニヤニヤしながらマーリオが手紙を差し出してくる、それを受け取って中を見たメイヴィスは危うく紅茶を噴き出す所だった。
「なっ何だ、これは!!」
「本当はそれ、教えたく無かったんだけど、でも後で叱られるのは嫌だからな、くっくっくっくっ、どーする?、主」
もはや笑いを噛み殺す気も無くなったマーリオが笑い声を上げながら聞いて来る。自分に対するとんでもない企てを知ったメイヴィスは渋面顔で指示を出した。
「取り敢えずこれは預かる。お前は一旦下がってグリードに来る様に伝えてくれ」
「了解、どうなるのか楽しみだなあ」
苦虫を噛み潰した様な顔のメイヴィスとは反対に、マーリオは益々ニヤニヤしながら茶器を下げて部屋を出た、そして入れ違いにグリードが入室して来る。
「メイヴィス殿下、お呼びですか?」
グリードは苦々しい顔をしているメイヴィスを見て、何か問題が起きた事を察するが、メイヴィスはちらっとグリードを見るだけで言葉を発しない。
「殿下、何か問題が生じたのですか?」
グリードが訝しげに問いかけると、メイヴィスは嫌そうな顔をして無言で手紙を渡して来た。それを受け取り読んだグリードは複雑な顔になる。
「まず殿下のお考えをお聞かせ下さい」
「考えるまでも無いだろう!、このままコレを握り潰せばいいだけの事だ!」
珍しく激昂したメイヴィスが強い口調でグリードに話す、まあ手紙の内容的に殿下が憤慨するのは仕方がない。
「チャーリーに相手をさせましょう、今の所あの女は捕縛出来ませんが、これに便乗すれば罪状を追わせる事が出来ます」
メイヴィスはグリードの言葉に不承不承頷いた。
「・・・分かった。グリードこの件はお前に任せる、手筈が整ったら教えてくれ」
ザカリー達の不正を知って尚、止める事もなく贅沢をしていた女も同罪だ。多少の犠牲を払っても女を処罰出来るのなら致し方ないとメイヴィスは諦めた。
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