【R18】傲慢な王子

やまたろう

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第四章 皇子の狂愛  サイラス feat ラグランド

留学生サイラス

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 ダルトンは自身の記憶を探っていた。


 かつて貴族学校で同級生だった帝国からの留学生サイラス皇子、灰色の髪と瞳をした帝国の第八皇子。多分そんな奴が居たと思う。
 確か最終学年の一年間だけこの国で過ごした筈だ。

 ダルトンは余り覚えていなかった、ただ何となく不快感の有る男だったと記憶している。かなり近距離から眼を見つめてくる事が何度か有り、それを不快に感じていたからだ。


 同学年だったジャスティンやロランも同様に彼を避けていたと記憶している。


 あの頃は学校が終わると、よくロランにメイヴィス兄上の執務室へ連れて行かれた。僕達は皆んな兄上が大好きで、色んな話をして楽しくて、サイラスの記憶は殆ど無いが、こちらは鮮明に覚えている。


「で、グリード、サイラス皇子がどうかしたのか?」


 ダルトンは執務室で騎士団長のグリードから久しぶりに名を聞いた同級生について尋ねた。


「公にはされていませんが、メイヴィス殿下と婚約を解消された隣国のナターシャ姫の新しい婚約者が、サイラス皇子のようです」


「ふうん、それでグリードは何が言いたいのかな」


 わざわざ執務室まで騎士団長のグリードが来て話す程の内容とは思えない。


「帝国の王家には『制圧』の能力を持つ者が生まれます、サイラス皇子もその魔力が使えます、もしかするとナターシャ王女の婚約にもその能力が関係している可能性を考えています」


「セローニャ家と同じ能力か、ロランとどちらが上だ?」


「ロランが10としたら、サイラス皇子は5ですね。ロランは10人中10人制圧出来ますが、サイラス皇子が制圧出来るのは10人中5人です」


「だとしたら可能性としては五分五分だが、仮に制圧したとしてどうなる。

 ナターシャ王女は第二王女だ、上に兄二人と姉が一人いる、現時点でも王位継承権は低いが、兄王子に子供が産まれれば更に低くなる。王配になって国を取るのは難しいだろう。

 可能性としてはナターシャ王女本人に何らかの価値を見出している事だが、あのサイラスが愛だの恋だのに惑わされるとは思えない。恐らく自分の目的達成に対して彼女に利用価値を見出した、そんなとこだろう。

 表向きは暫く様子を見て裏でサイラスの目的を探ろう、有事の際はこちらが優位に立てるよう隣国の状況を調べておくぞ、グリード」


 ダルトンは理性的に状況を判断してグリードに指示を出す。


「メイヴィス殿下が近々隣国へ赴く予定です、その際に殿下ご自身でその辺りを探られるお積もりの様です。本当に制圧されていたら隣国だけの問題では無くなりますからね」


「何だと!、グリード、許さないぞ!、絶対兄上を危険な目に合わせるな!、僕は反対だ、サイラスは兄上に執着していた、会わない方が良いに決まってる!!、駄目だ、駄目だ、許可できない、隣国なんてどうなっても良いじゃ無いか!」


 冷静だったダルトンが急に椅子から立ち上がり、激昂して駄々っ子の様に腕を振り回す。そして先程とは反対の事を叫びながらグリードへ近づいて来た。


「ダルトン殿下、落ち着いて下さい。メイヴィス殿下を害する事が出来る人間はそうは居ません。サイラス皇子程度なら全く問題は無いでしょう。ロランですらメイヴィス殿下を制圧する事は出来ないのですから」


 ダルトンに詰め寄られたグリードは、冷静に説明する。


「むっ、そうか、そうだな。やはり僕の兄上は素晴らしい人だ。流石はメイヴィス兄上、全て一流だが能力も超一流だな、あはははは、僕の兄上は最高だ、お前もそう思うだろう?、グリード、はは、はははは」


 先程まで激昂していたダルトンは、今や瞳を輝かせて満面の笑顔で兄を褒め讃えている、余りにも早すぎる変わり身に、グリードは眉間を押さえて溜息を噛み殺した、彼は兄を愛し過ぎている。




 ◆◇◆◇◆◇ 




 この国の侯爵家の一つで特殊な能力を受け継ぐ家、セローニャ家は(制圧の緑)と呼ばれている。


 ロラン・セローニャは新緑色の瞳と髪を持つ青年で、普段は王宮の書庫を管理している。


「さてロランは今、何処に居るのかな?」


 メイヴィスは自分の執務室で独りごちる。サイラスに勝る制圧の能力を持つ彼は、楽園を探るために潜っている。


 制圧とは言わば洗脳と同じ効果を持つ、魅了と違うのは好意に限らない所だ。精神に干渉するため能力値と相手の精神状態によって効く効かないがある。


 サイラスの出身国は厄介な国で、代々の皇帝は制圧の能力を有していた。お国柄なのか、これまた代々好色家で沢山成した子の中から、一番能力の高い子供を後継ぎにしてきた。


 世継ぎを決める為に、能力を有する子供を各地に留学させて、他国の次代を支える若者に制圧を使い、傀儡化して他国を内部から乗っ取り国土を増やしてきた歴史がある。


 このラグランドは帝国から距離がある為、手に入れても旨みは無い、第八皇子のサイラスを寄越した事から見ても、傀儡の期待はしておらず、サイラスの腕試し的なものだろう。


 たまたま同学年だった、ダルトン、ロラン、ジャスティンに制圧を試していた様だが、私と言う精神的支柱を持つダルトンには効かず、ロランはサイラスと同じ能力者で能力値が上なので当然効かない。


 ジャスティンは危なかったので、ロランに命じて定期的に私の執務室へ来させて、サイラスの影響を取り除いていた、そして彼に近づかないよう注意した。 

 サイラスがジャスティンを見る目つきは男が欲しい女を見る目つきと同じだった。国民性なのか帝国では男女の区別なく楽しむそうだ、サイラスの性欲の強さも国民性として納得出来る部分もある。


 ・・・・・それにしても帝国とは恐ろしく好色な国民性だな、現皇帝の子供は皇子だけでも10人、他に皇女もいれば庶子もいる。皇族として普通では考えられない人数だ・・・・・・・・・・・私には無理だ。


 さて隣国の様子はどうなっているのか、我国の制圧に失敗したから、隣国へ移ったのだろうか、隣国を制圧するつもりなのか?、と思考するメイヴィスを通信用の魔道具から聞こえるロランの声が遮った。


「・・・・メイヴィス殿下・・・・・・」








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