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番外編 王太子は濃密 メイヴィス×周囲の人々
イオニスは変幻自在
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イオニスは鏡を見て考える、今日の女装はどんな風にしようかな?、女装すると誰も僕だと分からない。
使用人は僕に見向きもしないし、ダルトン兄上も僕だと気付かない、ウィリーは不審者を確認する目つきで僕を見る。僕だと気付かれないのは楽しい、僕は昔からイオニス以外の誰かになりたかった。
でも・・・・・・
【貴族令息 連続失踪事件】
仮面舞踏会の間に捜査した貴族邸で偶然、失踪事件に関係した証言が得られた。証言内容は、ある伯爵家へ連れ込まれる子爵令息を見かけたと言うものだった。
ダナン子爵家の子息トーマスは、行方不明とされていたが、ある伯爵夫人がそれに関係している可能性が有り、イオニスが内偵調査に入っていた。
◆◇◆◇◆◇
メイドのイオナは、同じメイドの先輩リリーと休憩中にお喋りしていた。
「リリーさんは彼氏とか居ないんですか?」
「えー、私は家族に仕送りとかしてるから、自分で使えるお金があんまり無いのよ。だから彼氏は当分無理かも、イオナはどうなの?」
「うーん、彼氏では無いけど気になる人はいる」
イオナこと女装したイオニスは、頭にウィリーを思い浮かべて話す。ある程度骨子がある方が話に真実味が出るので、こう言う時はいつもウィリーを仮想恋人にしていた。
「えー、どんな人、教えてよ」
「昔から知ってる人なの、眼鏡をかけて鈍臭いけど話していると楽しいの」
菓子を摘むリリーは目を見張る。
「えー、意外!、イオナって凄く綺麗じゃない、だから彼氏もすっごく素敵な人だと思ってた。」
「外見は確かに違うかも知れないけど、中身は最高に素敵な人なの」
自分で話しておきながらイオナは照れた、ウィリーの人間性には絶対の信頼を持っている。
「ねぇ、奥様はお一人だけど恋人とかいらっしゃらないのかしら?」
それとなく聞いてみると、リリーは声を潜めて教えてくれる。
「あんまり大きな声で言えないけど、若い男のパトロンになって、敷地内の別宅に住まわせてるのよ」
「別宅?、ここの敷地にそんなの有ったかしら?」
イオナは不思議そうに聞き返した、そんな建物は見た事が無いからだ。
「裏庭の森の中に有る小さい建物よ、人目につきにくくて、柵で囲ってあって簡単には入れないし、メイドは許可が無ければ誰も行けないの」
怪しく感じたイオナは、秘密裏に調査する事に決めた。
◆◇◆◇◆◇
チャリッ
余り広くない室内に鎖の音が響く。
トーマスは自分がここに連れて来られてから幾日経ったのか分からなかった。気が付いたらここに居て、裸にされて片足には鎖がかけられ、室内の柱に繋がれていた。
ガチャッ、・・・コツ、コツコツ
『あいつだ、あの女がきた!』
トーマスをここに閉じ込めた女、以前から舐めるようにトーマスを見ていた、独り身の女伯爵。
「あら、随分大人しくなったわね、いい子だこと。さぁこれから朝まで遊びましょ」
女の姿を見たトーマスは恐怖で体の震えが止まらない。性的な奉仕を要求され、言う事を聞かなければ鞭で叩かれる。
「さあ、私の脚を舐めなさい」
トーマスは逃げ場の無い絶望に顔を歪めた。
◆◇◆◇◆◇
イオナは女主人の後をつけてきて、別宅の外から中の様子を伺っていた。
「嬢ちゃん、危ない事すんなよ。主が怒る」
直ぐ後ろからマーリオの声が聞こえる、闇に紛れてその姿は見えない。何故だかマーリオは昔からイオニスのことを『嬢ちゃん』と呼ぶ。
「マーリオ、脅かさないでよ。ねぇ、中の話が聞き取れるかしら?」
マーリオは風魔法が使えるので、遠くからでも会話が聞き取れる。
「大した事は話してねぇ、男の名前も呼ばないし、会話だけじゃわかんねぇな」
「それじゃ中に入って、本人に確認するしかないかな?」
その言葉にマーリオがイラッとした感じで答える。
「だから危ない真似すんなって言ってんだろ、俺が主に怒られんだから」
イオナはクスッと笑って言う。
「マーリオが手伝ってくれたら危なくないよ」
「分かった、今日は無理だから日を改めるぞ」
「了解です」
◆◇◆◇◆◇
部屋の隅でトーマスは、しゃがんで項垂れていた。一体いつまで此処に監禁されるのか、昨晩も女に体を弄ばれ、何度も鞭打ちされた。鞭で打たれた体は発熱して怠い。
体を支えられなくなって崩れ落ちた。
床に寝転んだトーマスの目に、小机の裏側が目に入った。そこを見たトーマスは幾度目かの絶望に悲鳴が出た。
「うわああああぁぁぁー」
机の天板裏には、血文字である令息の名前が書かれていた。その名前の彼は先月遺体で見つかった。
トーマスは悟った、あの女が別の男を見つけたら自分は処分される事を・・・・・・
今すぐに逃げなければ、トーマスは何とか体を起こすと狭い室内を見回した。扉には鍵がかけられ、窓は小さくてとても外には出られない、足の鎖も外せない。トーマスは、はめ殺しの窓から外を覗き、窓を叩いて助けを呼んだ。
暫く大声で助けを読んでいると、扉が開く音がした、トーマスは女が戻って来たのかと怯えたが、見やると見覚えのない男女が居た。
「ねぇ、貴方、トーマス・ダナン卿で間違いない?」
女が何故かトーマスの名前を知っていたので、頷く。
「はい、終了!」
男が短く呟くと、パキン、と音がしてトーマスの足枷が外れていた。
外に連れ出されて見ると、そこには騎士団が待機していて、トーマスはようやく自分が助かった事が分かった。
◆◇◆◇◆◇
イオニスは鏡の前で考える、今日の女装はどんなのにしよう?
僕は望まれない子供だった、ダルトン兄上もそんな感じがあるけど、それよりももっと僕は要らない子だった。しかも僕は第三王子だからスペアの更にスペアで誰にも期待されていない。
だから愛されないイオニスではなく、愛される他の『誰か』になってもっと大切にされて必要とされたい。多分そんな欲求があって女装が趣味になったのかも知れない。
女装する事で暗部の仕事も手伝うようになり、僕はそれなりに必要な『誰か』にはなったと思う、でも何故だろう、心は満たされない。女装した僕には誰も気付かない、誰でもない僕。
けれどメイヴィス兄上だけは違った、どんな時でも、どんな格好でも僕だと気付いてくれる。兄上だけはイオニスをイオニスのまま受け入れて、認めて愛情を注いでくれた。
だから僕はもう他の誰かにはならない、女装しても僕はイオニスだ。認めて貰いたくて女装していた子供はもういない。大好きな兄上のために僕は女装を趣味から武器に変えた。
使用人は僕に見向きもしないし、ダルトン兄上も僕だと気付かない、ウィリーは不審者を確認する目つきで僕を見る。僕だと気付かれないのは楽しい、僕は昔からイオニス以外の誰かになりたかった。
でも・・・・・・
【貴族令息 連続失踪事件】
仮面舞踏会の間に捜査した貴族邸で偶然、失踪事件に関係した証言が得られた。証言内容は、ある伯爵家へ連れ込まれる子爵令息を見かけたと言うものだった。
ダナン子爵家の子息トーマスは、行方不明とされていたが、ある伯爵夫人がそれに関係している可能性が有り、イオニスが内偵調査に入っていた。
◆◇◆◇◆◇
メイドのイオナは、同じメイドの先輩リリーと休憩中にお喋りしていた。
「リリーさんは彼氏とか居ないんですか?」
「えー、私は家族に仕送りとかしてるから、自分で使えるお金があんまり無いのよ。だから彼氏は当分無理かも、イオナはどうなの?」
「うーん、彼氏では無いけど気になる人はいる」
イオナこと女装したイオニスは、頭にウィリーを思い浮かべて話す。ある程度骨子がある方が話に真実味が出るので、こう言う時はいつもウィリーを仮想恋人にしていた。
「えー、どんな人、教えてよ」
「昔から知ってる人なの、眼鏡をかけて鈍臭いけど話していると楽しいの」
菓子を摘むリリーは目を見張る。
「えー、意外!、イオナって凄く綺麗じゃない、だから彼氏もすっごく素敵な人だと思ってた。」
「外見は確かに違うかも知れないけど、中身は最高に素敵な人なの」
自分で話しておきながらイオナは照れた、ウィリーの人間性には絶対の信頼を持っている。
「ねぇ、奥様はお一人だけど恋人とかいらっしゃらないのかしら?」
それとなく聞いてみると、リリーは声を潜めて教えてくれる。
「あんまり大きな声で言えないけど、若い男のパトロンになって、敷地内の別宅に住まわせてるのよ」
「別宅?、ここの敷地にそんなの有ったかしら?」
イオナは不思議そうに聞き返した、そんな建物は見た事が無いからだ。
「裏庭の森の中に有る小さい建物よ、人目につきにくくて、柵で囲ってあって簡単には入れないし、メイドは許可が無ければ誰も行けないの」
怪しく感じたイオナは、秘密裏に調査する事に決めた。
◆◇◆◇◆◇
チャリッ
余り広くない室内に鎖の音が響く。
トーマスは自分がここに連れて来られてから幾日経ったのか分からなかった。気が付いたらここに居て、裸にされて片足には鎖がかけられ、室内の柱に繋がれていた。
ガチャッ、・・・コツ、コツコツ
『あいつだ、あの女がきた!』
トーマスをここに閉じ込めた女、以前から舐めるようにトーマスを見ていた、独り身の女伯爵。
「あら、随分大人しくなったわね、いい子だこと。さぁこれから朝まで遊びましょ」
女の姿を見たトーマスは恐怖で体の震えが止まらない。性的な奉仕を要求され、言う事を聞かなければ鞭で叩かれる。
「さあ、私の脚を舐めなさい」
トーマスは逃げ場の無い絶望に顔を歪めた。
◆◇◆◇◆◇
イオナは女主人の後をつけてきて、別宅の外から中の様子を伺っていた。
「嬢ちゃん、危ない事すんなよ。主が怒る」
直ぐ後ろからマーリオの声が聞こえる、闇に紛れてその姿は見えない。何故だかマーリオは昔からイオニスのことを『嬢ちゃん』と呼ぶ。
「マーリオ、脅かさないでよ。ねぇ、中の話が聞き取れるかしら?」
マーリオは風魔法が使えるので、遠くからでも会話が聞き取れる。
「大した事は話してねぇ、男の名前も呼ばないし、会話だけじゃわかんねぇな」
「それじゃ中に入って、本人に確認するしかないかな?」
その言葉にマーリオがイラッとした感じで答える。
「だから危ない真似すんなって言ってんだろ、俺が主に怒られんだから」
イオナはクスッと笑って言う。
「マーリオが手伝ってくれたら危なくないよ」
「分かった、今日は無理だから日を改めるぞ」
「了解です」
◆◇◆◇◆◇
部屋の隅でトーマスは、しゃがんで項垂れていた。一体いつまで此処に監禁されるのか、昨晩も女に体を弄ばれ、何度も鞭打ちされた。鞭で打たれた体は発熱して怠い。
体を支えられなくなって崩れ落ちた。
床に寝転んだトーマスの目に、小机の裏側が目に入った。そこを見たトーマスは幾度目かの絶望に悲鳴が出た。
「うわああああぁぁぁー」
机の天板裏には、血文字である令息の名前が書かれていた。その名前の彼は先月遺体で見つかった。
トーマスは悟った、あの女が別の男を見つけたら自分は処分される事を・・・・・・
今すぐに逃げなければ、トーマスは何とか体を起こすと狭い室内を見回した。扉には鍵がかけられ、窓は小さくてとても外には出られない、足の鎖も外せない。トーマスは、はめ殺しの窓から外を覗き、窓を叩いて助けを呼んだ。
暫く大声で助けを読んでいると、扉が開く音がした、トーマスは女が戻って来たのかと怯えたが、見やると見覚えのない男女が居た。
「ねぇ、貴方、トーマス・ダナン卿で間違いない?」
女が何故かトーマスの名前を知っていたので、頷く。
「はい、終了!」
男が短く呟くと、パキン、と音がしてトーマスの足枷が外れていた。
外に連れ出されて見ると、そこには騎士団が待機していて、トーマスはようやく自分が助かった事が分かった。
◆◇◆◇◆◇
イオニスは鏡の前で考える、今日の女装はどんなのにしよう?
僕は望まれない子供だった、ダルトン兄上もそんな感じがあるけど、それよりももっと僕は要らない子だった。しかも僕は第三王子だからスペアの更にスペアで誰にも期待されていない。
だから愛されないイオニスではなく、愛される他の『誰か』になってもっと大切にされて必要とされたい。多分そんな欲求があって女装が趣味になったのかも知れない。
女装する事で暗部の仕事も手伝うようになり、僕はそれなりに必要な『誰か』にはなったと思う、でも何故だろう、心は満たされない。女装した僕には誰も気付かない、誰でもない僕。
けれどメイヴィス兄上だけは違った、どんな時でも、どんな格好でも僕だと気付いてくれる。兄上だけはイオニスをイオニスのまま受け入れて、認めて愛情を注いでくれた。
だから僕はもう他の誰かにはならない、女装しても僕はイオニスだ。認めて貰いたくて女装していた子供はもういない。大好きな兄上のために僕は女装を趣味から武器に変えた。
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