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番外編 王太子は濃密 メイヴィス×周囲の人々
ウィリアムは清廉
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男達の話し声が聞こえてくる。
「本当は、弟の方を攫う予定だったんだが、死んじまったからな」
・・・ジャスティンが狙われていた?・・・
「こいつらの水色の髪と眼が魅力的らしい、弟の方が美丈夫でスタイルも良いから高値が付いていたんだが、まあヒョロイ眼鏡ちびのコイツも髪色は同じだからな」
・・・ヒョロイ眼鏡ちび・・・凄い暴言を吐かれた。僕ってそんな感じなのか?・・・
どうやら僕は攫われたらしい。
◆◇◆◇◆◇
「貴族の令息、連続失踪事件?」
イオニス殿下がお茶請けにと、大量のお菓子を持ってメイヴィス殿下の執務室へ現れ、その話をし始めた。
「大袈裟だが、数年前から幾人かが行方不明になっている、自ら失踪する動機も無く、取り立てて事件性も無い」
メイヴィス殿下も概知の事件だったようだ。
「遺体も見つかって居ないから、生死の確認も出来ない、国外にいる可能性もあるし、何にせよ今はまだ調査中だ」
僕は殿下方の話しを聞きながら、紅茶を淹れて、お菓子を摘んでいたイオニス殿下に差し出した。ソファに座りお菓子を取り分け始めた僕に、紅茶を飲んだイオニス殿下が文句を言う。
「ウィリーの淹れる紅茶は美味しくない、いつまで経っても上達しないね」
私は側近であってメイドでも侍従でも無いのだから当たり前だと、眼鏡のブリッジを押し上げ、顔の表情で不満を表した。
「ジャスティンの淹れる紅茶は美味しかったよ」
・・・聞き捨てならない、ジャスティンめ、顔も頭脳も身長もスタイルも、全部俺より上なのに紅茶まで・・・・・・・・・・・・悔しい。
「ねぇ兄上、前から知りたかったけど、ウィリーのどこが良くて側近にしたの?だってジャスティンも選べたよね?」
「僕も知りたいです」
メイヴィス殿下の向かいに腰掛けていた僕も身を乗り出して同意した。あの時は側近候補の令息達が十数人居たはずだ、何故僕が選ばれたのだろう。
紅茶を飲んでいたメイヴィス殿下は、記憶を探るような遠い目をして話す。
「うん?、そうだね・・・・・・あの時ウィリーは何もない所で躓いて転んでた、そして庭園の噴水にはまりびしょ濡れだった・・・・・・その姿を見た私は、側近はウィリーしか居ないと思ったんだ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
その答えにイオニス殿下も僕も何も言えなかった。もしかして馬鹿にされているのか?、でもそれなら側近にはしないよな?、もやもやしつつお菓子を摘んでいた所、ノック音が聞こえた。
「メイヴィス殿下、例のものが出来上がりました」
魔法省のジリアンが入室して来て、メイヴィス殿下に何かを渡した。
「あら、イオニス殿下、いらしてたんですね」
「やあ、母上、お久しぶりです」
ジリアンは陛下の学生時代からの友人の一人で、酒に酔って一夜の過ちで懐妊し、イオニスを出産した。イオニスを産んだ後は、王家に子育てを任せて自分は職場に復帰した、故に親子の関係は希薄だった。
「丁度良い所に、ウィリー、暫くこれを身に付けていてくれ、守護石だよ」
それは琥珀色の石がついたペンダントだった。
「守護石とは?」
「それを身に付けていれば、何か物理的な危険がある際に、一度だけ護ってくれる」
・・・・・・まさか以前に匂わされた、嫡子に何かあったらとかじゃ無いよな?、僕の身に危険が迫ってるとか・・・僕の考えを読み取ったのか殿下が続ける。
「ウィリーが危ないとかではなく、まだ試験段階だから、試しに着用して貰って効果を確認したいんだ、頼むよ」
「はい、分かりました」
お試しと言う言葉に安心したが、まさか直ぐに効果を試す機会が訪れるとは・・・
その日の夜、王宮から帰宅する途中で馬車の事故現場に遭遇した。何か手助け出来るかと近づいた僕は、突然後ろから口にハンカチを当てられ意識を失う。気がつくと後ろ手に縛られて、床に転がされていた。
「こいつは不要だろ」
「顔を見られたかも知れないから念の為だ。それに一年位前の依頼の関係者だから、ついでに売っちまおうぜ」
何だか不穏な話しが聞こえてきた。
どうやら誘拐されたらしいと察したので辺りを見回し逃げ道を探す。腕の拘束を外そうと、ゴソゴソしていると男達に気付かれた。
「おい!、お前、逃げられると思うなよ」
僕を蹴ろうとした男の足が腹部に当たりそうになった時、守護石が光り男の体を弾いて石は砕けた。
「こいつ変な物着けてやがる」
ペンダントを取り上げられ、床に投げ捨てられる、そして何発か殴られ生命の危険を感じ始めた。
『・・・このままじゃ、拙い。僕は死ぬのかな・・・・・・』
その時、壊れた守護石から光が溢れて魔法陣が顕現し、聴き慣れた声が聞こえた。
「ウィリアム・シーリー、死ぬ事は許さない」
顕現した魔法陣の中に、綺麗な悪魔が立っていた、男達の焦る声がする。
「なっ、何だ、お前は!」
「どっから、出てきた!!」
黄金色の髪がふわりと浮き、琥珀色の瞳の奥がバチバチと輝く、金の粒子がまわりを漂い煌めいている、それは人間ではなく、何か別の神々しい存在で・・・・・・
【煌く太陽】メイヴィス殿下がそこに居た。
「・・・・・・殿下」
彼の姿を確認した瞬間、真っ白な光が辺りを照らし、光りが収まると破落戸どもは全員倒れていて、夢でも見ていたのか殿下の姿は無かった。僕はそこで意識を失い、次に目覚めたのは、王宮の医務室だった。
そこで、以前から秘密裏に調査していたらしい、メイヴィス殿下から事件の概要を教えて貰う。
主犯は各国を股に掛けた犯罪集団で、主に好事家から依頼を受けて、特定の人物を攫い人身売買を行なっていたらしい。僕は今回巻き込まれついでに、ジャスティンの代わりにされかけたようだ。
「私は以前からジャスティンが狙われている事は把握していた、だからダルトンが眠り薬を使う事を止めなかったんだ。攫われて国外へ売られるより、眠っている方がいいだろう?、流石に病人を攫ったりしないからね」
メイヴィス殿下から裏事情を聞かされ驚いた、まさかあの件にこんな裏が有ったとは。
「ジャスティンを護るためと、ダルトンの暴走を抑えるのに眠り薬は丁度良かったから、それとなくダルトンを誘導したんだよ、三十日位の空白の期間を置くようにね」
やはりこの人の掌の上で踊らされていたのか。メイヴィス殿下は微笑みながら僕の頭を撫でる。
「さぁ、ウィリー、もう少しお休み」
僕を助けてくれたのは殿下なのか、あれは夢では無かったのか聞きたかったが、殿下の言葉で急に眠気を覚えた僕は、眠りに落ちた。
だからその後、殿下が僕に語り掛けた言葉は知らなかった。
「ウィリー、君を側近に選んだ理由は、君が清廉だっからだ。嫉妬で脚をかけられ転ばされても、噴水に突き飛ばされても、君は前だけを見ていて泣き言は言わなかった、眩しかったよ・・・・・・君はよく私の事を綺麗だと言うけれど、それはウィリー、君の心が綺麗だからそう見えるだけだ」
・・・・・・君は汚泥の上に咲く蓮の花のようだ、だからどうか綺麗なままで・・・もし私が黒い炎に呑まれたとしても、君だけはそのままで居て欲しい・・・・・・君が綺麗なら私も綺麗でいられるから。
「本当は、弟の方を攫う予定だったんだが、死んじまったからな」
・・・ジャスティンが狙われていた?・・・
「こいつらの水色の髪と眼が魅力的らしい、弟の方が美丈夫でスタイルも良いから高値が付いていたんだが、まあヒョロイ眼鏡ちびのコイツも髪色は同じだからな」
・・・ヒョロイ眼鏡ちび・・・凄い暴言を吐かれた。僕ってそんな感じなのか?・・・
どうやら僕は攫われたらしい。
◆◇◆◇◆◇
「貴族の令息、連続失踪事件?」
イオニス殿下がお茶請けにと、大量のお菓子を持ってメイヴィス殿下の執務室へ現れ、その話をし始めた。
「大袈裟だが、数年前から幾人かが行方不明になっている、自ら失踪する動機も無く、取り立てて事件性も無い」
メイヴィス殿下も概知の事件だったようだ。
「遺体も見つかって居ないから、生死の確認も出来ない、国外にいる可能性もあるし、何にせよ今はまだ調査中だ」
僕は殿下方の話しを聞きながら、紅茶を淹れて、お菓子を摘んでいたイオニス殿下に差し出した。ソファに座りお菓子を取り分け始めた僕に、紅茶を飲んだイオニス殿下が文句を言う。
「ウィリーの淹れる紅茶は美味しくない、いつまで経っても上達しないね」
私は側近であってメイドでも侍従でも無いのだから当たり前だと、眼鏡のブリッジを押し上げ、顔の表情で不満を表した。
「ジャスティンの淹れる紅茶は美味しかったよ」
・・・聞き捨てならない、ジャスティンめ、顔も頭脳も身長もスタイルも、全部俺より上なのに紅茶まで・・・・・・・・・・・・悔しい。
「ねぇ兄上、前から知りたかったけど、ウィリーのどこが良くて側近にしたの?だってジャスティンも選べたよね?」
「僕も知りたいです」
メイヴィス殿下の向かいに腰掛けていた僕も身を乗り出して同意した。あの時は側近候補の令息達が十数人居たはずだ、何故僕が選ばれたのだろう。
紅茶を飲んでいたメイヴィス殿下は、記憶を探るような遠い目をして話す。
「うん?、そうだね・・・・・・あの時ウィリーは何もない所で躓いて転んでた、そして庭園の噴水にはまりびしょ濡れだった・・・・・・その姿を見た私は、側近はウィリーしか居ないと思ったんだ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
その答えにイオニス殿下も僕も何も言えなかった。もしかして馬鹿にされているのか?、でもそれなら側近にはしないよな?、もやもやしつつお菓子を摘んでいた所、ノック音が聞こえた。
「メイヴィス殿下、例のものが出来上がりました」
魔法省のジリアンが入室して来て、メイヴィス殿下に何かを渡した。
「あら、イオニス殿下、いらしてたんですね」
「やあ、母上、お久しぶりです」
ジリアンは陛下の学生時代からの友人の一人で、酒に酔って一夜の過ちで懐妊し、イオニスを出産した。イオニスを産んだ後は、王家に子育てを任せて自分は職場に復帰した、故に親子の関係は希薄だった。
「丁度良い所に、ウィリー、暫くこれを身に付けていてくれ、守護石だよ」
それは琥珀色の石がついたペンダントだった。
「守護石とは?」
「それを身に付けていれば、何か物理的な危険がある際に、一度だけ護ってくれる」
・・・・・・まさか以前に匂わされた、嫡子に何かあったらとかじゃ無いよな?、僕の身に危険が迫ってるとか・・・僕の考えを読み取ったのか殿下が続ける。
「ウィリーが危ないとかではなく、まだ試験段階だから、試しに着用して貰って効果を確認したいんだ、頼むよ」
「はい、分かりました」
お試しと言う言葉に安心したが、まさか直ぐに効果を試す機会が訪れるとは・・・
その日の夜、王宮から帰宅する途中で馬車の事故現場に遭遇した。何か手助け出来るかと近づいた僕は、突然後ろから口にハンカチを当てられ意識を失う。気がつくと後ろ手に縛られて、床に転がされていた。
「こいつは不要だろ」
「顔を見られたかも知れないから念の為だ。それに一年位前の依頼の関係者だから、ついでに売っちまおうぜ」
何だか不穏な話しが聞こえてきた。
どうやら誘拐されたらしいと察したので辺りを見回し逃げ道を探す。腕の拘束を外そうと、ゴソゴソしていると男達に気付かれた。
「おい!、お前、逃げられると思うなよ」
僕を蹴ろうとした男の足が腹部に当たりそうになった時、守護石が光り男の体を弾いて石は砕けた。
「こいつ変な物着けてやがる」
ペンダントを取り上げられ、床に投げ捨てられる、そして何発か殴られ生命の危険を感じ始めた。
『・・・このままじゃ、拙い。僕は死ぬのかな・・・・・・』
その時、壊れた守護石から光が溢れて魔法陣が顕現し、聴き慣れた声が聞こえた。
「ウィリアム・シーリー、死ぬ事は許さない」
顕現した魔法陣の中に、綺麗な悪魔が立っていた、男達の焦る声がする。
「なっ、何だ、お前は!」
「どっから、出てきた!!」
黄金色の髪がふわりと浮き、琥珀色の瞳の奥がバチバチと輝く、金の粒子がまわりを漂い煌めいている、それは人間ではなく、何か別の神々しい存在で・・・・・・
【煌く太陽】メイヴィス殿下がそこに居た。
「・・・・・・殿下」
彼の姿を確認した瞬間、真っ白な光が辺りを照らし、光りが収まると破落戸どもは全員倒れていて、夢でも見ていたのか殿下の姿は無かった。僕はそこで意識を失い、次に目覚めたのは、王宮の医務室だった。
そこで、以前から秘密裏に調査していたらしい、メイヴィス殿下から事件の概要を教えて貰う。
主犯は各国を股に掛けた犯罪集団で、主に好事家から依頼を受けて、特定の人物を攫い人身売買を行なっていたらしい。僕は今回巻き込まれついでに、ジャスティンの代わりにされかけたようだ。
「私は以前からジャスティンが狙われている事は把握していた、だからダルトンが眠り薬を使う事を止めなかったんだ。攫われて国外へ売られるより、眠っている方がいいだろう?、流石に病人を攫ったりしないからね」
メイヴィス殿下から裏事情を聞かされ驚いた、まさかあの件にこんな裏が有ったとは。
「ジャスティンを護るためと、ダルトンの暴走を抑えるのに眠り薬は丁度良かったから、それとなくダルトンを誘導したんだよ、三十日位の空白の期間を置くようにね」
やはりこの人の掌の上で踊らされていたのか。メイヴィス殿下は微笑みながら僕の頭を撫でる。
「さぁ、ウィリー、もう少しお休み」
僕を助けてくれたのは殿下なのか、あれは夢では無かったのか聞きたかったが、殿下の言葉で急に眠気を覚えた僕は、眠りに落ちた。
だからその後、殿下が僕に語り掛けた言葉は知らなかった。
「ウィリー、君を側近に選んだ理由は、君が清廉だっからだ。嫉妬で脚をかけられ転ばされても、噴水に突き飛ばされても、君は前だけを見ていて泣き言は言わなかった、眩しかったよ・・・・・・君はよく私の事を綺麗だと言うけれど、それはウィリー、君の心が綺麗だからそう見えるだけだ」
・・・・・・君は汚泥の上に咲く蓮の花のようだ、だからどうか綺麗なままで・・・もし私が黒い炎に呑まれたとしても、君だけはそのままで居て欲しい・・・・・・君が綺麗なら私も綺麗でいられるから。
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