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第ニ章 王子の盲愛 ダルトン with メイヴィス
第三王子は憂いている
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この国には王子が三人いる。
第一王子にして、王太子のメイヴィスと第二王子のダルトン、第三王子のイオニスである。
三人とも母親の違う異母兄弟だが、驚くほど兄弟仲は良く、これまでも後継者争いなどは全く起こらなかった。
そして二年後に、王太子である第一王子が即位し、新しい国王が誕生する事が決定した。それと同時に、急遽、新国王の結婚式も執り行われる事になり、異例の事態に国全体でお祝いムードが高まっている。
王城内は、即位式や結婚式の準備に追われて、大臣や文官、武官や侍従やメイドに至るまで、其々がこれまでにない忙しさで、動き回っていた。活気に満ち普段より少し騒めいている中、主役である第一王子の執務室は静かだった。
長兄メイヴィスの執務室を訪れたイオニスは、呆れて溜息をついた。何故なら、メイヴィスは横長のソファーに寝転がりながら、明らかに執務と関係のない流行りの本を、読んでいたからだ。
「ふぅ、兄上、少しゆったりし過ぎではありませんか?、ウィリーも困ってますよ」
ウィリーと呼ばれた側近のウィリアムは、確かに困り顔をしている。
「良いではないか、どうせ私のやる事は何も無い、私はお飾りだからな。」
そう言うメイヴィスの見目は麗しい、肩上までの濃い金髪は柔らかなクセ毛で、目力の強い琥珀色の瞳、すっきりした鼻筋に鮮やかな唇、迫力のある美形だ。華美な装飾の式典衣裳に身を包めば、確かに綺麗な人形になるだろう。
異母兄弟達は、それぞれ美しい容貌をしていた。母親が違うため髪色や瞳の色は全員違っていて、それぞれの持つ色合いから、長兄は金獅子、次兄は黒豹と呼ばれている。
ちなみに僕は、白猫。
獅子、豹ときて、猫って何?・・・僕、馬鹿にされてるのかな?・・・・・・もしそうなら、男の子だけど僕泣いちゃうぞ?
「何を言っているのですか、兄上が主役でしょ、即位式と結婚式をするのですよ、準備する事は山程あるはずでは?」
「あるなぁ、でも大体はダルトンに丸投げして任せている。あいつは凄く有能だから私がやるより処理も早くて、宰相や大臣、文官も皆喜んでる。」
悪びれもせず、呑気な態度の長兄に苦笑する。
「いや、まあ、確かにダルトン兄上は執務能力においては、格別に有能ですからね。」
女性関係は問題が有りすぎるが、その一点を除けば、ダルトンは完璧だった。主に外交は長兄、内政は次兄が担っている。
「そうだね。で、私は時間に余裕が出来たし、急に聖女と結婚する事になったから、聖女に対して市井はどんな感情を持っているのか知りたくて、聖女関連の本を読んでいた訳だ。」
「聖女関連って、それ単なる流行りの恋愛本ですよね?、よくある王子と聖女の結婚する前までの恋物語。兄上が聖女と関わるのは結婚後でしょ、何の参考にもならないような。」
尊敬出来る兄だが、全てに於いて感情の揺れが少ない人で、自身の結婚についても他人事のような態度を見せている、だがイオニスは大好きな長兄には、絶対幸せになって欲しいと願っている。
メイヴィスが長兄でなかったら、弟兄弟は今とは比べ物にならない程、殺伐とした悲惨な日々を過ごしていた筈だ。
メイヴィスの母は正妃で、彼は血統も能力も全てに於いて優秀だった。弱い立場の弟達を可愛がり自分の庇護下に置いて、様々な悪意や危険から守ってくれた。
イオニスは子供の頃ダルトンと共に攫われた事がある、イオニスは5才、ダルトンは7才だった。
第二王子と第三王子と言う立場は第一王子に比べると警備も甘く、内部に手引きをした者がいた事も有り、簡単に城の外へ連れ出された。
幸い発見が早かった為、事なきを得たが、いち早く駆け付けて助けてくれたのが、当時10才のメイヴィスだった。
可笑しな話だが、自分達は攫われて怖かったとかは全く覚えていなくて、記憶に有るのは、犯人と対峙した兄の、黄金色の髪が逆立ち、琥珀色の瞳は苛烈な色で輝き、まさに怒れる金獅子のオーラを纏ったメイヴィスの美しい姿だけだ。
その時の兄上の姿は、未だにイオニスの脳裏に焼き付いて離れない、恐らくダルトンもそうだと思う。そして二人はメイヴィスに対して崇拝に近い気持ちを持っている。
メイヴィスの性格は普段は飄々として掴みどころが無いが、清濁を合わせ持ち、視野の広い賢王になると皆が期待している、後は、似合の王妃が欲しいところだ。
「兄上、好きな女性とかいないの?」
長兄は元々、自分は政略結婚に決まっていると醒めていて、急に結婚相手が変わっても全く動揺していない。
「特には。国の利害関係で政略結婚するだろう私が、恋愛とかしたら周りが迷惑だろう、多分当人達も報われないし。ま、でもお前は遠慮せずに好きにしろよ。」
「兄上・・・」
イオニスは何とも言えない気持ちになる、切ないような、もどかしいような・・・自分には叶わない自由を弟には与える、メイヴィスはどこまでも優しい兄だった。
彼は12才の時に、隣国の姫と婚約を結んだが、つい最近、隣国の事情により婚約が解消された。急遽、国内から婚約者を探す事になったが、年齢の釣り合う令嬢は皆もう婚約や婚姻済みで、仕方なく神殿との関係強化の名目で、聖女との婚姻が決まったのだ。
イオニスは大好きな長兄の結婚を心から祝いたいのに、残り物の花嫁を迎えるような気がして、何となく憂いてしまうのだった。
第一王子にして、王太子のメイヴィスと第二王子のダルトン、第三王子のイオニスである。
三人とも母親の違う異母兄弟だが、驚くほど兄弟仲は良く、これまでも後継者争いなどは全く起こらなかった。
そして二年後に、王太子である第一王子が即位し、新しい国王が誕生する事が決定した。それと同時に、急遽、新国王の結婚式も執り行われる事になり、異例の事態に国全体でお祝いムードが高まっている。
王城内は、即位式や結婚式の準備に追われて、大臣や文官、武官や侍従やメイドに至るまで、其々がこれまでにない忙しさで、動き回っていた。活気に満ち普段より少し騒めいている中、主役である第一王子の執務室は静かだった。
長兄メイヴィスの執務室を訪れたイオニスは、呆れて溜息をついた。何故なら、メイヴィスは横長のソファーに寝転がりながら、明らかに執務と関係のない流行りの本を、読んでいたからだ。
「ふぅ、兄上、少しゆったりし過ぎではありませんか?、ウィリーも困ってますよ」
ウィリーと呼ばれた側近のウィリアムは、確かに困り顔をしている。
「良いではないか、どうせ私のやる事は何も無い、私はお飾りだからな。」
そう言うメイヴィスの見目は麗しい、肩上までの濃い金髪は柔らかなクセ毛で、目力の強い琥珀色の瞳、すっきりした鼻筋に鮮やかな唇、迫力のある美形だ。華美な装飾の式典衣裳に身を包めば、確かに綺麗な人形になるだろう。
異母兄弟達は、それぞれ美しい容貌をしていた。母親が違うため髪色や瞳の色は全員違っていて、それぞれの持つ色合いから、長兄は金獅子、次兄は黒豹と呼ばれている。
ちなみに僕は、白猫。
獅子、豹ときて、猫って何?・・・僕、馬鹿にされてるのかな?・・・・・・もしそうなら、男の子だけど僕泣いちゃうぞ?
「何を言っているのですか、兄上が主役でしょ、即位式と結婚式をするのですよ、準備する事は山程あるはずでは?」
「あるなぁ、でも大体はダルトンに丸投げして任せている。あいつは凄く有能だから私がやるより処理も早くて、宰相や大臣、文官も皆喜んでる。」
悪びれもせず、呑気な態度の長兄に苦笑する。
「いや、まあ、確かにダルトン兄上は執務能力においては、格別に有能ですからね。」
女性関係は問題が有りすぎるが、その一点を除けば、ダルトンは完璧だった。主に外交は長兄、内政は次兄が担っている。
「そうだね。で、私は時間に余裕が出来たし、急に聖女と結婚する事になったから、聖女に対して市井はどんな感情を持っているのか知りたくて、聖女関連の本を読んでいた訳だ。」
「聖女関連って、それ単なる流行りの恋愛本ですよね?、よくある王子と聖女の結婚する前までの恋物語。兄上が聖女と関わるのは結婚後でしょ、何の参考にもならないような。」
尊敬出来る兄だが、全てに於いて感情の揺れが少ない人で、自身の結婚についても他人事のような態度を見せている、だがイオニスは大好きな長兄には、絶対幸せになって欲しいと願っている。
メイヴィスが長兄でなかったら、弟兄弟は今とは比べ物にならない程、殺伐とした悲惨な日々を過ごしていた筈だ。
メイヴィスの母は正妃で、彼は血統も能力も全てに於いて優秀だった。弱い立場の弟達を可愛がり自分の庇護下に置いて、様々な悪意や危険から守ってくれた。
イオニスは子供の頃ダルトンと共に攫われた事がある、イオニスは5才、ダルトンは7才だった。
第二王子と第三王子と言う立場は第一王子に比べると警備も甘く、内部に手引きをした者がいた事も有り、簡単に城の外へ連れ出された。
幸い発見が早かった為、事なきを得たが、いち早く駆け付けて助けてくれたのが、当時10才のメイヴィスだった。
可笑しな話だが、自分達は攫われて怖かったとかは全く覚えていなくて、記憶に有るのは、犯人と対峙した兄の、黄金色の髪が逆立ち、琥珀色の瞳は苛烈な色で輝き、まさに怒れる金獅子のオーラを纏ったメイヴィスの美しい姿だけだ。
その時の兄上の姿は、未だにイオニスの脳裏に焼き付いて離れない、恐らくダルトンもそうだと思う。そして二人はメイヴィスに対して崇拝に近い気持ちを持っている。
メイヴィスの性格は普段は飄々として掴みどころが無いが、清濁を合わせ持ち、視野の広い賢王になると皆が期待している、後は、似合の王妃が欲しいところだ。
「兄上、好きな女性とかいないの?」
長兄は元々、自分は政略結婚に決まっていると醒めていて、急に結婚相手が変わっても全く動揺していない。
「特には。国の利害関係で政略結婚するだろう私が、恋愛とかしたら周りが迷惑だろう、多分当人達も報われないし。ま、でもお前は遠慮せずに好きにしろよ。」
「兄上・・・」
イオニスは何とも言えない気持ちになる、切ないような、もどかしいような・・・自分には叶わない自由を弟には与える、メイヴィスはどこまでも優しい兄だった。
彼は12才の時に、隣国の姫と婚約を結んだが、つい最近、隣国の事情により婚約が解消された。急遽、国内から婚約者を探す事になったが、年齢の釣り合う令嬢は皆もう婚約や婚姻済みで、仕方なく神殿との関係強化の名目で、聖女との婚姻が決まったのだ。
イオニスは大好きな長兄の結婚を心から祝いたいのに、残り物の花嫁を迎えるような気がして、何となく憂いてしまうのだった。
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