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令息は命の危険を感じている
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ダルトン殿下から、不穏な雰囲気を感じ始めたのは、いつからだろう。
私の名は、ジャスティン・シーリー。
シーリー侯爵家の二男で、ダルトン第二王子殿下の学友であり、側近でもある。
王子達と年と家格の釣り合う貴族の令息の中から選ばれた者達が、側近候補として王城に呼ばれ絆を紡ぐ。
幸い私の主は、温厚で優しい性格の第二王子のダルトン殿下で、互いの相性も良く主従と言うよりも、近しい友人のようだった。
何でも語り合い、時には一緒に莫迦をやり、こんな事が出来るのは、成人するまでだと、笑い合う日々を過ごしていた。
それがいつからか、ふとした時に、殿下から疎ましげな空気を感じる事がある。
まるで、私の存在自体が気に入らないと、殿下の瞳に苛つく様な光が見える。
分かっている。
婚約者のグレースを紹介してからだ。
グレース・ランバート侯爵令嬢、同じく侯爵であるシーリー家とは政略的な婚約者だった。だが、グレースは容貌も心も美しい令嬢で、私はすぐに彼女の虜となった。
彼女は私だけではなく、多くの男性を魅了した、殿下もその一人だ。
でも彼女は、そんな事に気づきもしないで、私だけを愛してくれている。
純粋で美しく、愛しい、私の婚約者。
そんな日々の中、執務室で殿下から薬を盛られた、意識が遠のく私へ殿下の言葉が聞こえた。
「僕も君にこんな事はしたくなかったよ、素直に婚約を結び直してくれれば良かったのに・・・でも、安心して死なないから、君が眠っている間に婚約解消の手続きをしておくよ。次に目覚めた時には、グレースは僕の婚約者だ・・・・・・最近、仕事のし過ぎで疲れていただろう?、僕から休暇のプレゼントだ・・・・・・ゆっくりお休みジャスティン」
ダルトン殿下の皮を被った悪魔が楽しそうに話していたが、最後までは聞き取れなかった。
どうしてこうなったのか、分からない。
本当に彼は自分の知っている殿下なのか?
もう体は動かない・・・グレース、君の事が心配だ・・・グレース・・・・薄れゆく意識の中で、愛する彼女の笑顔が浮かんだ。
グレース、愛してる。
◆◇◆◇◆◇
ジャスティン・シーリー侯爵令息は眠り病を発症した後、目覚める事なくそのまま息を引き取った。
婚約者だったグレース・ランバート侯爵令嬢の憔悴振りは周囲の同情を誘った。
葬儀は侯爵家の強い希望で、近しい者だけの密葬で執り行われた。
父ジャックは、元気だった頃の息子の姿を覚えていて欲しい、衰弱し痩せ細った息子の姿は見て欲しく無いと、告別の場でも棺は閉じられたままだった。
葬儀で悲しみに暮れるグレース嬢の姿は、憔悴していても見惚れるほど美しく、喪が明ければ、多くの令息達が新たな婚約者として名乗りを上げ、そのうちの幸運な誰かが、美しい令嬢を手に入れるだろうと噂された。
だが、葬儀の翌々日、気落ちしたグレース嬢が療養ため侯爵領に向かった馬車が、崖から転落する事故を起こす。馬車は大破し、事故にあった令嬢の遺体は、本人の判別が出来ない程、激しく損傷していたそうだ。
娘を溺愛していた侯爵は、大層哀しみ、生前美しかった娘の尊厳を護る為、遺体を見る事は誰にも許さず、親族のみでひっそりと葬儀を執り行った。
その後、悲しみに暮れる侯爵は、家督を息子に譲り、自身は侯爵領に引きこもった。
二人は悲劇の恋人同士として話題となり物語が作られ、演劇の題目にもなり市井で大流行した。
物語の最後は、死した後の二人が楽園で出会い、幸せに暮らすハッピーエンドで終わる。
私の名は、ジャスティン・シーリー。
シーリー侯爵家の二男で、ダルトン第二王子殿下の学友であり、側近でもある。
王子達と年と家格の釣り合う貴族の令息の中から選ばれた者達が、側近候補として王城に呼ばれ絆を紡ぐ。
幸い私の主は、温厚で優しい性格の第二王子のダルトン殿下で、互いの相性も良く主従と言うよりも、近しい友人のようだった。
何でも語り合い、時には一緒に莫迦をやり、こんな事が出来るのは、成人するまでだと、笑い合う日々を過ごしていた。
それがいつからか、ふとした時に、殿下から疎ましげな空気を感じる事がある。
まるで、私の存在自体が気に入らないと、殿下の瞳に苛つく様な光が見える。
分かっている。
婚約者のグレースを紹介してからだ。
グレース・ランバート侯爵令嬢、同じく侯爵であるシーリー家とは政略的な婚約者だった。だが、グレースは容貌も心も美しい令嬢で、私はすぐに彼女の虜となった。
彼女は私だけではなく、多くの男性を魅了した、殿下もその一人だ。
でも彼女は、そんな事に気づきもしないで、私だけを愛してくれている。
純粋で美しく、愛しい、私の婚約者。
そんな日々の中、執務室で殿下から薬を盛られた、意識が遠のく私へ殿下の言葉が聞こえた。
「僕も君にこんな事はしたくなかったよ、素直に婚約を結び直してくれれば良かったのに・・・でも、安心して死なないから、君が眠っている間に婚約解消の手続きをしておくよ。次に目覚めた時には、グレースは僕の婚約者だ・・・・・・最近、仕事のし過ぎで疲れていただろう?、僕から休暇のプレゼントだ・・・・・・ゆっくりお休みジャスティン」
ダルトン殿下の皮を被った悪魔が楽しそうに話していたが、最後までは聞き取れなかった。
どうしてこうなったのか、分からない。
本当に彼は自分の知っている殿下なのか?
もう体は動かない・・・グレース、君の事が心配だ・・・グレース・・・・薄れゆく意識の中で、愛する彼女の笑顔が浮かんだ。
グレース、愛してる。
◆◇◆◇◆◇
ジャスティン・シーリー侯爵令息は眠り病を発症した後、目覚める事なくそのまま息を引き取った。
婚約者だったグレース・ランバート侯爵令嬢の憔悴振りは周囲の同情を誘った。
葬儀は侯爵家の強い希望で、近しい者だけの密葬で執り行われた。
父ジャックは、元気だった頃の息子の姿を覚えていて欲しい、衰弱し痩せ細った息子の姿は見て欲しく無いと、告別の場でも棺は閉じられたままだった。
葬儀で悲しみに暮れるグレース嬢の姿は、憔悴していても見惚れるほど美しく、喪が明ければ、多くの令息達が新たな婚約者として名乗りを上げ、そのうちの幸運な誰かが、美しい令嬢を手に入れるだろうと噂された。
だが、葬儀の翌々日、気落ちしたグレース嬢が療養ため侯爵領に向かった馬車が、崖から転落する事故を起こす。馬車は大破し、事故にあった令嬢の遺体は、本人の判別が出来ない程、激しく損傷していたそうだ。
娘を溺愛していた侯爵は、大層哀しみ、生前美しかった娘の尊厳を護る為、遺体を見る事は誰にも許さず、親族のみでひっそりと葬儀を執り行った。
その後、悲しみに暮れる侯爵は、家督を息子に譲り、自身は侯爵領に引きこもった。
二人は悲劇の恋人同士として話題となり物語が作られ、演劇の題目にもなり市井で大流行した。
物語の最後は、死した後の二人が楽園で出会い、幸せに暮らすハッピーエンドで終わる。
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