Agent★ジェラルドのありふれた日常

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ジェラルドのありふれた日常

執事ダグラスと旦那様❷

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 我がランズベリー男爵家の一人娘ジェシカお嬢様は、ラズベリー商会の経営を一人で担う女傑でございます。


 旦那様と奥様は男爵領にあるお邸で過ごされ、領地経営に専念されておられるので、こちらのタウンハウスにはジェシカお嬢様とジェラルド様のお二人がお住まいになられています。


 ジェラルド様は実に不思議なお方です。


 今朝の事、仕事に向かわれるお嬢様を常に無くジェラルド様が引き留められました。


「ジェシカ、ちょっと待って、今日はこれを着けて行くと良い」


「ジェラルド、私の年齢にしたらこれは廉価過ぎるわ」

 ジェラルドが持って来たのはラズベリー商会を立ち上げた頃に作った、若い子向けの廉価なアクセサリーで、今はもう生産していない物だった。


「裕福な御婦人方にあなどられてしまうわ」


「莫迦だな、俺の美しい薔薇ローズが侮られるものか。どんな物でも君が身に付ければ高価に見えるよ」


 ジェラルドは息をするのと同じく自然にジェシカを褒める、ジェシカは自分がコーディネートした服を着る素敵な旦那様に見惚れる。
 二人は今日も相思相愛でラブラブだった。


「俺が付けてあげるよ、後ろを向いて」


 ジェシカは後ろを向いて髪をよけると、ジェラルドがペンダントを付けてくれるのを待った。
 しかし剥き出しになった頸に、ちゅっちゅっ とジェラルドが口付ける。


「!!、ジェラルド!!」


 旦那様の不意打ちラブ攻撃に、ジェシカは頬を染めて抗議する。


「君のうなじが綺麗だからだ、やはり俺の薔薇ローズはどこを見ても美しい」


 悪びれる様子も無くペンダントを付けると、今度はジェシカを抱きしめてくる。


「ジェシカ、今日はもう仕事を休んで、俺と一緒に過ごさないか?」


「!!」


 ジェシカは甘える旦那様を何とか振り切り商会へ向かったが、完全に遅刻だった。


「ダグラス、俺も出かける」


 お嬢様を揶揄からかって満足されたのか、ご機嫌のジェラルド様もいつものカフェに向かわれた。


 暫くして、お嬢様を送って行った御者が邸に戻ってくる。


「いや~、商会の近くで大きな事故が起きていて、大変な事になっていたよ」


 使用人達が使う部屋で、暖かい飲み物を飲みながら雑談をする。


「何だと、それでお嬢様は大丈夫なのか?」


 お嬢様の身が心配で勢い込んで確認する。


「ああ、いつもの時間に出てたら危なかったが、今日は少し遅かっただろう?、だから巻き込まれずに済んだんだ」


 御者は幸運だったと何気無く話している、だがそれは、今日に限ってジェラルド様がお嬢様を引き留めたからに他ならない。


 知ってか知らずかジェラルド様はおどけた態度でさらっとお嬢様を危機から遠ざけられたのです。
 一体、ジェラルド様は何者なのでしょうか。




 ◆◇◆◇◆◇




 ジェシカがいつもより遅れて商会に着くと、ケイティが声を掛けて来る。


「社長、お店の直ぐ前で衝突事故が起きてましたけど、大丈夫でしたか?」


「えっそうなの?、私は大丈夫よ」


 ジェシカは驚くがそれよりも、来店されたお客様の方に意識を取られた、先日ジェラルドが見つけた子猫の飼い主だ。


「先日はどうも有難うございました、おかげで娘も元気になりました」


 ホワイト伯爵夫人の、友達の妹の友達である子爵夫人が娘と一緒に店に立ち寄ったのだ。
 どうやら子猫の飼い主は娘の方だったらしく、10歳位の若い娘を連れている。


「いいえ、お役に立てて光栄です。本当に子猫ちゃんが見つかって良かったですわ」


 ほほほほっと暫く和やかに話をすると、子爵夫人が娘について相談して来た。


「この子の誕生日に記念になる物が何かないかと考えているんです」 


 子爵夫人が娘を見て話す、女の子はキラキラした目で店内を見回している。


「ここのお店は雑貨が沢山あるから、何か有るかなって来てみたの、お姉さんが付けているペンダントも素敵だわ」


 女の子からキラキラした眼で見られたジェシカは嬉しくなる、親子は色々見ていたが今日は決めずに、また後日来店する事になった。
 ジェシカは身に付けていた廉価ペンダントを女の子にプレゼントする事にした。 


「まあ、頂いても宜しいんですの?」


「はい、ご来店頂いた御礼とお嬢様の誕生日のお祝いを兼ねて、宜しかったらお持ち帰り下さい」


 ペンダントを磨いて綺麗にした後、可愛くラッピングして彼女に渡す。


「わあ!、お姉さん有難う!」


 子爵夫人と女の子は満面の笑顔で帰って行った。




 
 ◆◇◆◇◆◇





 ジェラルドはいつものカフェにいた。
店主が豆までこだわった美味しいコーヒーが飲める馴染みの店だ。


 彼は珍しくカウンター席に座っている。


「マスター、例の件は何か進展があったか?」


 グラスを磨いていた店主がジェラルドを見た、彼は艶やかな黒髪を首の後で一つに纏めている。


「いえ、何もありません」


 ジェラルドは居抜きでこの店を買ったマスターのヤンに、以前の持ち主について心当たりを尋ねて貰っていた。


「…そうか………今日は何だか客が少ないな」


 ジェラルドは何気なく呟いた、それを聞いた店主のヤンは苦笑いを浮かべる。


「実はこの時間帯は、常連の方に限って営業することにしたんです」


「ふーん」


 ジェラルドは静かな方が好みなので、どんな事情か深くは聞かず相槌を打つ。


「ゴシップ記者がウロついていたり、マナーの悪いお客がいたりと、常連の方々が不快感を覚えておられましてね、苦肉の策ですよ」


「そうか、俺は気付かなかったが、そんな事があったのか」


 覚えが無かったジェラルドの受け答えは呑気なものだったが、それを聞いたヤンの苦笑いが深くなる。


「呑気なものだ、ゴシップ記者の狙いは貴方です、私も色々と聞かれました、気をつけて下さい」


 眼を見張るジェラルドの前に、ヤンはゴシップ記者の名刺を置いた。


 ジュール■■■ニュース
      記者 バーナビー・クロス


 名刺にはそう書かれてあった。






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