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ジェラルドのありふれた日常
ジェラルドと落とし物❷
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ペンダントを拾った次の日。
ジェラルドはいつものカフェに向かっていた、その道すがらアイリスが現れて、ジェラルドは強引に路地に連れ込まれる。
「マリン、ちょっとそこまで付き合ってくれ」
「何だ、アイリス、いい加減に……うっ!」
全く自分勝手な奴だと文句を言いかけた俺は、路地に潜んでいた男に背後から薬を嗅がされて、意識を失った。
そして、次に目覚めた時は何処かの建物の中で、椅子に縛り付けられて座らされていた。部屋にはアイリスともう一人大柄な男がいる、多分こいつが実行犯だ。
「アイリス、一体、どう言うつもりだ?」
「悪いなマリン。ちょっと借金があって、まとまった金が必要なんだ。それでお前を使って金を作る事にした」
やはりコイツはクズ男だと俺は再認識した。
「俺を使っても金にはならないだろう」
自慢じゃ無いが俺は貧乏令息だった、金は殆ど持っていない。
「いや、身代金だよ、あの女から貰うのさ」
その言葉を聞いた途端、俺の中で怒りが膨れ上がる、愛するジェシカにこの男の指一本でも触れさせるものか!
「ジェシカに何かして見ろ、俺は絶対にお前を許さないからな!」
「言うねぇ色男、でもそんな縛られた状態じゃ何も出来ないだろう?」
アイリスがニヤけた顔で馬鹿にしてきた、俺はその顔を思いっきり殴りつける。
「がはっ!!、な、なんだ、何で縄が外れてる、ぐはっ!!、一体どうなってるんだ、げぼっ!!」
ジェシカに手出し出来ない様に、俺はアイリスをボコボコに殴って威嚇した。
「俺は少しだけ風魔法が使える、小さな風の刃で縄を切るぐらいの事は造作もなく出来るんだ、いいか、絶対にジェシカには手を出すな!」
アイリスに激昂していた俺は、もう一人の男の存在を失念していた、背後に男の気配を感じて振り向くと、いま正に振り下ろされようとしている棍棒が目に入った。
…しまった!、これは避けられない…
もう逃げる時間はない、打撃を防ごうと咄嗟に両腕で体の前を覆った、そして俺は腕が折れる位の覚悟で、次に来る衝撃に備えた。
その刹那、ポケットに入れていたペンダントが光り、琥珀石が砕けて転がり落ちた、男が棍棒ごと弾き飛ばされて、部屋の壁に叩き付けられる。
「なっ、何が起きたんだ」
俺は自分の目が信じられなかった、有り得ない事が起きている、アイリスも驚愕して目を見開いている、だが更に不可思議な事が続けて起こる。
砕けた琥珀石の破片から、黄金色の魔法陣が展開され始めて、床一面が黄金色に輝く幻想的な光景が広がった。やがて魔法陣の中に煌めく男が現れると、あまりの眩しさに一瞬ジェラルドの目が眩む。
…まさか、神か?……神が降臨したのか?…
黄金色の髪はふわりと浮いて、琥珀色の瞳の奥がバチバチと輝いている、纏わりつく光の粒子のせいか全身が発光している様に見えて、そして何より、滅多にお目にかかれない美形だ。
…やはり、神か!……しかし何故ここに?…
「ここは、どこだ?」
…どうやら………神は迷子になったらしい…
何故ここに神が現れたのかと、不思議に思っていたが、神の第一声を聞いたジェラルドは納得した、迷子なら分からなくも無い。
「お前は、誰だ?」
…やれやれ……神は質問ばかりしてくるな…
「俺の名前はジェラルド。ここが何処かは知らないが、ジュール王国の何処かだ」
「そうか、お前がジェラルドか」
神は少し興味を引かれたようにジェラルドを見ると、驚くべき事を告げる。
「お前、記憶障害が有るな、治したいか?」
確かにジェラルドは、ある一時期の間の記憶が無い、だがその事は家族しか知らない、ジェシカも知らない話なのに、神はそれを一目で看破した。
ジェラルドが何と応えようか迷っていると、神から時間切れを告げられる。
「もう時間が無い、返事は次に会った時に聞こう、あいつらは散らしておく」
神の言葉が終わると同時に、部屋の中が眩い閃光に包まれて バチッバチッと云う音が響いた、そして光が消え去った後には、もう神の姿はなかった。
◆◇◆◇◆◇
あの後、ジェラルドは意識を失っている二人を警ら隊に引き渡した。大男には懸賞金が掛かっており、予想外のお小遣いを手に入れたジェラルドは、黄金色の神に感謝した。
そして今ジェラルドは、いつものカフェでテーブルに頭を付けて、スカイに謝っていた。
「済まないスカイ、落とし物として預かっている間に壊れてしまったんだ」
俺は拾い集めた琥珀石の欠片をスカイに渡した。スカイは一瞬、唖然としたが直ぐに微笑んで許してくれた。
「気にしないで下さい、ジェラルド、このペンダントは役割を終えただけです」
「スカイ!!」
俺は感動のあまり、スカイの手を両手で握る、ジェシカの話ではこの琥珀石はかなり貴重な物だった筈だ、それなのにこの鷹揚な態度、やはりスカイは素晴らしくいい奴だ。
海、空、植物の自然界トリオは、いつもの様に仲良く雑談をし始めた。
少し離れた席でその光景を見ている人物がいた、漆黒の髪と瞳を持つ大柄な男は、三人を興味深く観察している。
…あの琥珀石はメイヴィスの魔石、ジェラルドとメイヴィスに接点が出来たのか…
以前から気になっていた二人、普通なら出逢う筈の無い世界線で生きている二人、その二人が出会うとは、世界は思うより狭くて面白い、【闇夜の龍】ギデオンは愉快になる。
…広いはずの世の中がこれほど狭いとは、いずれ俺もメイヴィスと出会う日が来るのかも知れない…
自分達が見られている事など少しも気付かない自然界トリオを後目にして、ギデオンは店を出てキュリアスとの待合せ場所へ向う。
キュリアスに面白い話を聞かせてやれそうだと、ギデオンの足取りは常より早くなっていた。
* 関連話 *
闇夜の龍は銀月と戯れる【闇夜の龍は銀月と戯れる】
イオニスとお菓子と紅茶【愛民の王太子】
♦︎【愛民の王太子】は【傲慢な王子】に収録♦︎
ジェラルドはいつものカフェに向かっていた、その道すがらアイリスが現れて、ジェラルドは強引に路地に連れ込まれる。
「マリン、ちょっとそこまで付き合ってくれ」
「何だ、アイリス、いい加減に……うっ!」
全く自分勝手な奴だと文句を言いかけた俺は、路地に潜んでいた男に背後から薬を嗅がされて、意識を失った。
そして、次に目覚めた時は何処かの建物の中で、椅子に縛り付けられて座らされていた。部屋にはアイリスともう一人大柄な男がいる、多分こいつが実行犯だ。
「アイリス、一体、どう言うつもりだ?」
「悪いなマリン。ちょっと借金があって、まとまった金が必要なんだ。それでお前を使って金を作る事にした」
やはりコイツはクズ男だと俺は再認識した。
「俺を使っても金にはならないだろう」
自慢じゃ無いが俺は貧乏令息だった、金は殆ど持っていない。
「いや、身代金だよ、あの女から貰うのさ」
その言葉を聞いた途端、俺の中で怒りが膨れ上がる、愛するジェシカにこの男の指一本でも触れさせるものか!
「ジェシカに何かして見ろ、俺は絶対にお前を許さないからな!」
「言うねぇ色男、でもそんな縛られた状態じゃ何も出来ないだろう?」
アイリスがニヤけた顔で馬鹿にしてきた、俺はその顔を思いっきり殴りつける。
「がはっ!!、な、なんだ、何で縄が外れてる、ぐはっ!!、一体どうなってるんだ、げぼっ!!」
ジェシカに手出し出来ない様に、俺はアイリスをボコボコに殴って威嚇した。
「俺は少しだけ風魔法が使える、小さな風の刃で縄を切るぐらいの事は造作もなく出来るんだ、いいか、絶対にジェシカには手を出すな!」
アイリスに激昂していた俺は、もう一人の男の存在を失念していた、背後に男の気配を感じて振り向くと、いま正に振り下ろされようとしている棍棒が目に入った。
…しまった!、これは避けられない…
もう逃げる時間はない、打撃を防ごうと咄嗟に両腕で体の前を覆った、そして俺は腕が折れる位の覚悟で、次に来る衝撃に備えた。
その刹那、ポケットに入れていたペンダントが光り、琥珀石が砕けて転がり落ちた、男が棍棒ごと弾き飛ばされて、部屋の壁に叩き付けられる。
「なっ、何が起きたんだ」
俺は自分の目が信じられなかった、有り得ない事が起きている、アイリスも驚愕して目を見開いている、だが更に不可思議な事が続けて起こる。
砕けた琥珀石の破片から、黄金色の魔法陣が展開され始めて、床一面が黄金色に輝く幻想的な光景が広がった。やがて魔法陣の中に煌めく男が現れると、あまりの眩しさに一瞬ジェラルドの目が眩む。
…まさか、神か?……神が降臨したのか?…
黄金色の髪はふわりと浮いて、琥珀色の瞳の奥がバチバチと輝いている、纏わりつく光の粒子のせいか全身が発光している様に見えて、そして何より、滅多にお目にかかれない美形だ。
…やはり、神か!……しかし何故ここに?…
「ここは、どこだ?」
…どうやら………神は迷子になったらしい…
何故ここに神が現れたのかと、不思議に思っていたが、神の第一声を聞いたジェラルドは納得した、迷子なら分からなくも無い。
「お前は、誰だ?」
…やれやれ……神は質問ばかりしてくるな…
「俺の名前はジェラルド。ここが何処かは知らないが、ジュール王国の何処かだ」
「そうか、お前がジェラルドか」
神は少し興味を引かれたようにジェラルドを見ると、驚くべき事を告げる。
「お前、記憶障害が有るな、治したいか?」
確かにジェラルドは、ある一時期の間の記憶が無い、だがその事は家族しか知らない、ジェシカも知らない話なのに、神はそれを一目で看破した。
ジェラルドが何と応えようか迷っていると、神から時間切れを告げられる。
「もう時間が無い、返事は次に会った時に聞こう、あいつらは散らしておく」
神の言葉が終わると同時に、部屋の中が眩い閃光に包まれて バチッバチッと云う音が響いた、そして光が消え去った後には、もう神の姿はなかった。
◆◇◆◇◆◇
あの後、ジェラルドは意識を失っている二人を警ら隊に引き渡した。大男には懸賞金が掛かっており、予想外のお小遣いを手に入れたジェラルドは、黄金色の神に感謝した。
そして今ジェラルドは、いつものカフェでテーブルに頭を付けて、スカイに謝っていた。
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俺は拾い集めた琥珀石の欠片をスカイに渡した。スカイは一瞬、唖然としたが直ぐに微笑んで許してくれた。
「気にしないで下さい、ジェラルド、このペンダントは役割を終えただけです」
「スカイ!!」
俺は感動のあまり、スカイの手を両手で握る、ジェシカの話ではこの琥珀石はかなり貴重な物だった筈だ、それなのにこの鷹揚な態度、やはりスカイは素晴らしくいい奴だ。
海、空、植物の自然界トリオは、いつもの様に仲良く雑談をし始めた。
少し離れた席でその光景を見ている人物がいた、漆黒の髪と瞳を持つ大柄な男は、三人を興味深く観察している。
…あの琥珀石はメイヴィスの魔石、ジェラルドとメイヴィスに接点が出来たのか…
以前から気になっていた二人、普通なら出逢う筈の無い世界線で生きている二人、その二人が出会うとは、世界は思うより狭くて面白い、【闇夜の龍】ギデオンは愉快になる。
…広いはずの世の中がこれほど狭いとは、いずれ俺もメイヴィスと出会う日が来るのかも知れない…
自分達が見られている事など少しも気付かない自然界トリオを後目にして、ギデオンは店を出てキュリアスとの待合せ場所へ向う。
キュリアスに面白い話を聞かせてやれそうだと、ギデオンの足取りは常より早くなっていた。
* 関連話 *
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