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ジェラルドのありふれた日常

ジェラルドと落とし物❶

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 ジェラルドはいつものカフェにいた。
気が向いた時に立ち寄りくつろぐ、コーヒーが美味い馴染みの店だ。


 俺の前には今日もリーフとスカイが座っている、何故か彼らとは三日に一度の頻度で会っていた。


「リーフ、例の彼女とはどうなったんだ?」


 俺は食後のコーヒーを飲みながら聞いてみる、リーフは心もち顔を赤らめた。


「そんなに簡単に進展しない」


 リーフはぶっきら棒に答えたが、あれから結構日が経っている、何も進展が無いという事があるのだろうか?、俺はスカイの方を見た。


「彼は慎重派なんですよ、少しづつ進展してます」


 俺の無言の問いかけに気付いたスカイが、にっこり笑って友人を肯定する。


 今ではすっかり仲良くなった俺たちは、食後の会話を暫く楽しんでから別れた。
 店を出ようと席を立った俺は、二人が座っていた席に何か落ちている事に気付いて、近寄りそれを拾う。


 綺麗な琥珀色の石がついたペンダントだ。


 位置的にスカイの落とし物のようだが、先に店を出た二人の姿はもう見えない、ジェラルドは取り敢えず保管して、次に会った時に渡そうと上着の内ポケットに仕舞った。


 今日はジェシカの仕事が早く終わる日だ、愛する彼女と少しでも長く一緒にいたい俺は、ジェシカを迎えに行く事にした。


 途中で花屋に寄り真紅の薔薇を一輪買う。


 俺の薔薇ローズにはやはり真紅の薔薇が良く似合う、美しい彼女の姿と薔薇が重なる。
 ジェラルドは薔薇の香りを楽しむと、それを胸ポケットに刺した。


 深青な髪をした美形の男性と、真紅の薔薇の組み合わせは人目を引く、ジェシカがコーディネートしたお洒落な服は、美形のジェラルドを更に素敵に魅せて、彼に見惚れる男女がちらほらといる。 


 図らずとも自然体で過ごすだけでジェラルドは広告塔の役割を果たしていた。


「よう、マリン。久し振りだな」


 ジェラルドに声を掛けて来たのは、楽園で一緒だった紫の色を持つ男、アイリスだった。


「アイリスか、元気そうだな」


 ジェラルドは目的地へ向かって歩き出し、アイリスが彼に付いて来る、二人は歩きながら話をし始めた。

「お前は本当に上手い事やりやがったな、あの女を手に入れて、情夫として贅沢三昧か、羨ましいぜ」


 アイリスのクズ根性は相変わらずだなとジェラルドは内心思う、こいつこそ情夫とかヒモとかジゴロとか、そんな奴だった筈だ。


「俺は情夫じゃない、歴とした彼女の夫だ。お前こそ今は何をしているんだ?」


「それだよ、俺も金持ち女にはべってたんだが、そいつが急に別の男に貢ぎ初めて捨てられちまった」


 不思議な話だ、アイリスの能力は魅了だ普通ならそんな事にはならない。


「お前は魅了の能力者だろう?、その女に魅了を掛けてなかったのか?」


「掛けてたさ、だが別の奴に解かれた。それで女の目が覚めて他の男に目移りしたんだ。なぁマリン、少し金を貸してくれよ、急に家を追い出されたから手持ちが少なくて、困ってるんだ」


 ジェシカの会社に近づいたジェラルドは、アイリスの事が面倒臭くなり、言われるがままに金をいくらか渡すと、アイリスは直ぐに去って行った。


 その姿を見送るとジェラルドの頭の中から彼の事は消えて無くなり、愛しいジェシカの事で頭の中がいっぱいになる、ジェラルドは逸る気持ちで彼女の元へと急いだ。





 ◆◇◆◇◆◇





「ねぇジェラルド、このペンダントはどうしたの?」


 ジェラルドが脱いだ上着からペンダントを見つけたジェシカが問いかける。


「ペンダント?、ああ、落とし物だ。次に落とし主会った時に渡そうと思って拾っておいた」


「持ち主は知り合いなの?、これ凄い魔石よ」


 ジェシカが琥珀色の石を光に透かして、じっくり鑑定している、彼女は商売がら宝石に詳しく、その繋がりで魔石鑑定も出来る。


「多分スカイの物だ、これは魔石なのか?」


 魔石に夢中な彼女が可愛くて、魔石に全く興味のない俺は、背後から彼女の身体を抱き締めて聞いてみる。


「うん、そう。物凄く密度の濃い魔力が込められているとても貴重な物だわ、持ち主からこのペンダントについて色々と聞いてみたいわ」


「なら、渡す時に聞いてみるよ。でもその前に俺も色々と聞きたい事がある、俺の可愛い奥さんの身体にね」


 背後からすっぽりとジェシカを包み込んでいた俺は、彼女の張りのある豊かな胸を両手で優しく揉んで耳下に口付ける、そして彼女の魅力的な身体にゆっくりと手を這わせて撫でていった。


「んっ、ジェラルド・・・」


 ジェシカの首筋に顔を埋めて香りを楽しみ、うなじや首に口付けの雨を降らせていると、ジェシカが俺に体を預けて来た、愛しい彼女の体温と体の重みが心地良い。


「ジェシカ」


 彼女の体温や鼓動から生命の灯火を感じる、ジェシカがこの世に存在している事、彼女と巡り逢えた事、いま俺の腕の中に彼女がいる事、全ての事が尊く思えた俺は、込み上げる熱情を彼女に伝えた。


「愛してる、ジェシカ」


 熱い想いを伝えた筈なのに、口から出て来た言葉はありきたりで、何の捻りも無いものだった。でもそれは、遥か昔から数えきれないほどの恋人達が口にしてきた、一番シンプルで有名な愛の言葉だ。


「私も愛してる」


 ジェラルドを振り向いて愛の言葉を返すジェシカは、愛されている幸せで輝きに満ちていて、とても美しかった。


 ジェラルドはそんな彼女に接吻キスを贈る、言葉では伝えきれない想いを乗せて……  君の事がとても大切なんだ  ……彼は重なる唇から熱く伝えた。







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