Agent★ジェラルドのありふれた日常

やまたろう

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ジェラルドのありふれた日常

迷子の子猫と旦那様🐾

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 ジェシカはランズベリー男爵家の一人娘でやり手の女性経営者でもある。


 おしゃれな雑貨をメインに取扱うラズベリー商会は、貴族や裕福な女性に人気のお店だ。
 

 流行を牽引するカリスマ美女として社交界で有名なジェシカの店には、様々な人が訪れて色々な話をしていく。


 今日も常連の伯爵夫人が店の奥にある応接室で、お喋りに花を咲かせていた。


「実はね、友達の娘さんの友達が飼っていた子猫ちゃんが行方不明なの、とても嘆いているそうで、何とか見つけてあげられないかしら?」


 ・・・・えっと、友達の娘の友達?、殆ど関係ない人よね?・・・・この伯爵夫人は本当によく面倒ごとを持ち込んでくるわね・・・・・以前も、誰の主催か解らないお茶会で飲んだ、名前も判らない茶葉を求められたり・・・・・


「分かりました奥様、当商会でもチラシを作って呼び掛けて見ます、子猫ちゃんの外見を教えて下さいませ」


 やはりと言うか、またしても面倒な事を言ってきた伯爵夫人を相手に、ジェシカは内心では不満一杯でも、にこやかな笑顔で対応してサッサとお帰り頂いた。




 ◆◇◆◇◆◇




 ジェラルドはいつものカフェにいた。
 ジェシカと二人でランチを取ったり、一人の時間をゆったりと過ごす馴染みの店だ。


 ジェラルドがコーヒーを飲んで道行く人々を眺めていると、浮かない顔のジェシカが店に入ってきた、ジェラルドは前の席に座った彼女に声を掛ける。


「どうしたジェシカ?、俺の薔薇ローズ。何があったか聞かせてくれ、お前にそんな暗い顔は似合わない」


 ジェラルドは今朝ジェシカがコーディネートした服を着ていて、洗練された姿がとても素敵だ。
 ジェシカは伯爵夫人のお願い事を素敵な旦那様に話した。


「そうか、取り敢えず子猫は俺が探してみるよ。それで駄目なら仕方がない、その時は力が及ば無かったと伝えればいいさ」


 ジェラルドはそれ位は何でも無いと鷹揚な態度だが、ジェシカは難しい顔をして俯いている。


「でも、ジェラルド、うちのお店は何でも屋じゃないのよ。何でも対応するのはどうかと思うの」


 あの伯爵夫人はこれからも無理難題を押し付けて来そうで、ジェシカはどう対応すべきか迷っていた。


「ジェシカ、お得意様は大切にしないといけないよ、御婦人方はあちこちで店の宣伝もしてくれているし、そのお礼に猫を探すのも悪くないさ。俺なら時間もあるから問題ない」


 ジェラルドは俯いていたジェシカの顔に手を伸ばして頬を撫でた、そして瞳を見つめて微笑むと甘い声で強請る。


「ねぇ薔薇ローズ、子猫を見つけられたらご褒美が欲しい、くれる?」


 急にジェラルドがおねだりしてきた、かつてのマリンみたいで癒される、ジェシカはジェラルドを愛しているが、年下男のマリンも大好きなのだ。


「ふふっ ジェラルドったら、分かった。その時は何でもしてあげちゃう」


 彼のおかげで憂鬱な気分が吹き飛んだジェシカはご機嫌で肯定する。


「約束だよ  ジェシカ。忘れないで 俺の薔薇ローズ


 ジェラルドはジェシカの手を取って ちゅっ と口付ける、そして二人は店を出て別れた。




 ◆◇◆◇◆◇





 ジェラルドはジェシカから貰った子猫の特徴を記したメモを片手に、早速探し始める。


 路地裏に入り辺りを見回しながら細い道を行くと、木箱の上にちょこんと座っている猫がいた。


「やあ、かわい子ちゃん」


 ジェラルドは灰色で足だけ白い色をした綺麗な猫に話しかけた、そして子猫に心辺りが無いか聞いてみる。


 猫はしばしジェラルドの顔を見てから ツンッと横を向く、それを見たジェラルドはポケットから猫の好きそうな菓子を一つ出して、かわい子ちゃんの前に置いた。


 猫は匂いを嗅いでそれを食べると、立ち上がって ぶるぶるっと体を揺すり、ストンと箱から降りた。そしてジェラルドを振り返り、ニャッと鳴いて歩きだす。


「ふふっ、ついて来いって?、OK、かわい子ちゃん」


 灰色猫の後をついて行くと、その先に有る石畳の上に、大きな茶色の縞猫がいた、灰色猫はニャッと鳴いて走り去る。


「案内してくれて有難う、かわい子ちゃん。さて君は見るからに貫禄があるな、この辺のボスかい?、子猫を探してるんだボス、知ってたら教えてくれないか」


 ボス猫は前足で石畳をトントンッと叩いた。ジェラルドはボス猫の前にお菓子を二つ置いた。ボス猫は ぶふっぶふっと鼻を鳴らしてそれを食べる。


 食べ終わるとジェラルドを見て、また前足で トントンッと石畳みを叩いた。


「流石だね、後二つお菓子が有るのが分かるんだ。でも残りは子猫を見つけてからだ、案内してしてくれるかな?」


 ボス猫は少し不満そうに立ち上がって歩き出す、そしてジェラルドを振り返って、ヴニャッと鳴く。


「OK、ボス。さぁ行こう、頼りにしてるよ」


 でっぷり太ったボス猫は尻尾をピンッと立てて歩いて行く。時々、ジェラルドがついて来ているか振り向いて確認している。


 ジェラルドは少しだけ魅了の魔法が使える。『あっ、あの人素敵!』と思われる程度なので役には立たない。美形のジェラルドはその位の反応なら普通にあるからだ。


 ただ彼の魅了は珍しく人間以外にも効果があった、猫や犬などある程度の知能を有する生き物も魅了出来る。そして夜会でナルシス皇太子が看破した通り、稀有なマルチ能力者でもある。


 ボス猫に連れられて暫く歩くと廃屋に着いた、覗けとボス猫が合図してくる。ジェラルドが覗いて見ると奥の物陰に小さくうずくまる白い子猫が居た、メモと照らし合わせて探し猫と判断する。


「サンキューボス、助かったよ」


 ジェラルドはボスの前に、成功報酬のお菓子を二つ置いた。そしてぐったりしている子猫をそっと抱き抱えるとジャケットの中へしまう。


小さなレディ子猫ちゃん、よく頑張ったね。もう大丈夫だ」


 ぐったりしていた子猫にジェラルドは回復魔法を掛けた。これまた余り役に立たないが、ぐったりしていた子猫がくったりした状態位には回復する。


 ジェラルドはジェシカの店に行き、捕獲した子猫をみせる、回復魔法を何度か重ね掛けした子猫はそれなりに元気になっていた。


「えっと、妹の友達のお姉さん、だっけ?、連絡をして迎えに来てもらおう」


「違うわ、ジェラルド、友達の妹の友達よ」


「どっちでも良いよ、ねっ子猫ちゃん」


 ジェラルドに笑顔で見つめられて優しく撫でられた子猫は、ジェラルドの胸元でウニャウニャと甘えて鳴いている、ジェシカは何だか子猫に負けた気がして悔しい。


 迎えにきた飼い主に子猫を無事に渡すとジェシカはジェラルド抱きついた。彼からは爽やかで少し甘い香りがする、ジェシカがマリンをイメージして作った香水だ。


「どうしたジェシカ?」


 突然甘えるジェシカにジェラルドが笑いながら問いかける。子猫に嫉妬したとは言えないジェシカは適当な事を喋る。


「何でも無い。私の旦那様はやっぱり素敵だと再認識しただけなの」


 ジェシカの心を知ってか知らずか、ジェラルドは クククッと笑ってジェシカを優しく抱き返すと、こめかみに  ちゅっ と口付ける。


 資産家で美しく相思相愛の二人は、いまや理想の夫婦として社交界で憧れの対象となっている、ラブラブな二人は仲良く手を繋いで帰路についた。









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