最強竜騎士と狩人の物語

影葉 柚樹

文字の大きさ
上 下
97 / 105
聖戦後編

97話「父神の願い」

しおりを挟む
 アルドウラ神を始めとする3神とルーディス神を生み出した親でもある失われし神ガデルズがルーディス神に面会を求めてきた。ハルトも同席した上で面会をする事を決めたルーディス神はテント内で久々に再会した父神に頭を下げる。

「久しき再会です、父上」
「君も大きくなったねルーディス。さて、僕が来た理由は分かってるね?」
「3神とのこの聖戦をお止めに来られた、と察してはいますが私も馬鹿ではありません。きちんとした理由があってこの聖戦に身を落としているのです」
「だからって兄弟で争う必要があるのかい? 君が過去に3神によって魔界に封じられたのも3神側の怒りを買ったからだろう? 僕は君達をそんな風にする為に生み出したんじゃない。どうしてこうも僕の心を苦しめるんだ」
「父上、3神は神としてやってはいけぬ愚行を行っております。それを正すのが間違いだと父上は申されますか。もし、それを認めれば私はこの世界に生まれた事を酷く悲しみ、死を望むでしょう」
「3神が人間達を餌にして、世界を維持している事が間違いだと言うのかい?」
「……知ってて何も言わなかったのですか」
「僕達神々は人間の為だけに存在しているんじゃない。他にも生きる命あるもの達はいる……その命たちを守るのも神々の役目だ。3神は確かに愚行を犯したかも知れない。でも、長い目で見ればそれは必要だと君も分かるだろう」
「それでしたら父上はアルドウラを守られればいい。私は人間達と共にこの聖戦を貫きましょう。神として、人間達の願いを聞き届ける為に。これが母神様の望む世界だと信じて」
「ルーディス……」

 ハルトは言葉を出す事はしなかった。親子の会話に他人が不用意に言葉を差し込むべきではない。
 だが、これでハッキリした。アルドウラ神達のやっていた事を父であるガデルズ神は黙認し、尚且つ認めている。
 人間を餌とする事に異論を唱えるルーディス神を止めに来たのは明らかに人間達が滅んでも構わないと取っていいのだろう。ルーディス神はハルトと共にガデルズ神に向き合うと瞳に鋭い敵意を見せる。

「それが僕に対するルーディス……君の答えか」
「父上、この世界は美しい。生きる者達の心がそう見せている。そして、私はこの世界を愛している、守りたいと願おう。それが例え貴方の望む神としての定義から外れる存在だとしても、私を神として慕う者達の為にも私は戦う」
「……ならば僕は父として君を止めないといけない。アルドウラを討たせる事はさせない」
「!!」
「父上……!」
「愚かな息子を教育するのも創造神としては当たり前だね。さぁ、挑んできなさい。真っ向から叩き潰してあげよう」

 ルーディス神とハルトに強大な神力を叩き付ける目の前で青年の姿を解除して、創造神としての姿を見せるガデルズは細長い剣を片手に身体中を眩い光を放つ鎧に身を包んだ状態で、黄金色の髪の毛は神力に当てられ長い髪はフワフワと揺れている。ハルトを庇う様に結界を張ったルーディス神はハルトと共にテントの外に出て追ってくるガデルズに向かって両手を突き出す。
 神々同士の戦いが幕を上げる。本陣に異変を感じたのは誰もおらず、皆がアルドウラ神を撃破する為の戦闘用意をしていた。
 アルス達も神狩り武器と共にアルドウラ神が誘き出されるのを待ちながら士気を高めていた。エテルナが台地の中央に姿を見せれば台地が大きな音を立てて揺れ始めるとアルス達がエテルナに駆け寄る。

『その力を寄こせ……!!!』
「来たな! 行くぞ!」
「私の力を欲するのであれば、その身が滅んで後悔するがいいでしょう。私はルーディス神と共にあるのですから」
『この際、ルーディスの聖女だろうが構わぬ! 滅ぶ運命からは逃げれんのだ! 父により滅ぼされる位ならば潔く滅びの道を貫こうではないか!!』
「アルドウラ!!」
「アルス様!!」

 アルス達は神狩りの武器を持ってアルドウラ神を維持する白き竜へと攻撃を仕掛ける。ボドルックを始めとする神狩り武器達は具現化し、その白い身体に鮮血を流させる為に力を解放していく。
 白き竜も抵抗を試みる、大きな戦いが2か所で幕を開けリーデル台地を硬直させる。まずはアルドウラ神を撃破しようとするアルス達はエテルナの力を受けて白き竜へ攻撃を仕掛けている。
 白き竜は空に上がって光線を口から放ち、地上の人間達を焼き払っているが神狩り武器達の攻撃を受けて身体中からスコールを流しているが怯む事はない。それ以上に命を捨てても構わないという意志を感じて鬼気迫る威圧感を出していた。
 アルスやアルシェード、コルとベリオはその威圧感を押し返す勢いで攻撃を繰り返していき、神狩り武器達と共に徐々にアルドウラ神を追い込んでいく。しかし、アルドウラ神を守ろうと守護者達も参戦し始め地上は大混乱を極め、戦場は血が数多に流れていく。

「コル!」
「ベリオ!」
「くそっ、近寄れねぇ!」
「ルーピンで行くんだ! 他の竜騎士達と連携を取りながら突破するしかない!」
『このまま滅ぼしてやるわ!! どうせこの世界は私やルーディスでは維持は出来ないのだ! 父が、創造神がいる以上人間の手にだろうと神々の手にだろうと渡る事はないのだからな!!』
「んなの、創造神まで滅ぼすまでだ!! 俺達は、俺達の手でこの世界を取り戻して生きていくんだよぉぉぉぉ!!」
『!!!』

 アルスの槍がアルドウラ神の片目を潰す、それに追撃する様にボドルックが槍の様に鋭い突きでアルドウラ神の反対側の目を貫く。激痛に声にならない悲鳴を上げて白き竜は空に高く舞い上がっていく。
 ボドルック達武器達が追撃を仕掛け、竜騎士達も愛竜と共にアルドウラ神の身体に攻撃を仕掛ける為に舞い上がる。アルスとアルシェードもルーピン達愛竜に上がる様に指示を出して舞い上がった。
 ベリオとコルは地上の守護者達への対応に降りていき、空と地上で最終決戦が始まっていた。地上の方では反乱軍の方に分は有利に進んでおり守護者以外の人間達は既に息絶えている。
 守護者達も深い怪我を負っているが最後まで神々の力になろうと死力を尽くして反乱軍を倒そうとしていた。ベリオ達は先陣を切って守護者部隊を撃破すると空を見上げてアルドウラ神の様子を見ていた。

『こうなれば……この台地を焼き払ってくれる……!』
「そうはさせるかよ! ルーピン!」
『キュオ!!』
「他の者達は胴体を狙うんだ! 僕に続け!」

 アルドウラ神の口元に突っ込んだアルスはボドルックの力を借りてアルドウラ神の喉元に聖槍アーノルドを突き立てて突き刺した聖槍アーノルドを思い切り蹴る。その蹴りで喉深くまで突き刺さったお陰で光線を集めていた口元からスコールが溢れ出して地上に流れ落ちていく。
 ルーピンの身体にも掛かってしまうがルーピンは気にした様子も見せずに動き回り、アルスの攻撃をサポートしていた。ボドルックがアルスに叫ぶ、それはアルドウラ神の最後の攻撃を知らせる叫び。

〔攻撃来るよ! 避けて!!〕
「くっそ、止めれねぇか!?」
『グォノン!!』
「ルーピン!?」
〔スコールを浴びて神力に神経が侵されているんだ! 私が取り除くから地上に降ろしてあげて! それにアルドウラも直に地上に落ちる!〕
「分かった! ルーピン、降りてくれ!」
『クォォォ……』

 アルスの指示通りに地上に降りたルーピンから降りてボドルックに治療を任せれば、フヨフヨと落ち始めているアルドウラ神の身体を見上げたアルスは物理的にしか使えない槍を握り締めているとベリオ達がやってくる。ベリオ達も物理的な攻撃で挑むしかないらしく、神狩り武器達と攻撃しているアルシェードに希望を託す。
 アルシェードは具現化している武器達と共にアルドウラ神への攻撃を継続していた。攻撃をしようとしているアルドウラ神の攻撃範囲から味方を避難させてからアルシェードは愛竜から跳躍して空に上がる。

「プレッシャル!」
〈ここに!〉
「行くよ! ここで体力を削るんだ!」
〈御意!〉
『最後だ! 私の最後を人間よ見届けよ!!!』

 プレッシャルを右手に装備したアルシェードは、落下する勢いを使って白き竜の頭上にプレッシャルを突き刺す。激痛を味わいながらもまだ攻撃する意志を見せているアルドウラ神にアルシェードは引かない。
 プレッシャルを更に食い込ませて顎まで貫通させると同時に愛竜によるブレス攻撃で傷口を焼き尽くす。それによるダメージでアルドウラ神は浮遊する力を失い勢いよく地上へと落下していき、ドシンと土埃を上げて落下した。
 落下したアルドウラ神の身体を囲む様にアルス達地上の者達が武器を構えて息を絶え絶えなアルシェードを迎える。アルシェードと共に主達の元に戻ってきた武器達も具現化を解いて武器になればベリオとコルの手に収まる。

〔あの子の治療完了! 私も戻るね!〕
「サンキュボドルック。行くぞ! ここで仕留めるんだ!!」
「尻尾に注意しろ! 相手は神様だ! 確実に仕留めるぞ!」
「ここで、終わらせる!!」
「さぁ、最後の戦いだっ!」

 アルス達は瀕死のアルドウラ神の身体へ武器を突き立てていく、その攻撃に抵抗を見せるアルドウラ神は神力を集める事も出来ないままで次第に弱体化していく。そしてスコールを流し狩られる時が訪れようとしていた、それは見るに堪えない姿に成り果てたアルドウラ神最後の瞬間であった。
 白き竜の姿のままで至る所に矢や槍、剣等が突き刺さり、そこから緑の血であるスコールを流しながら纏う神力を弱々しく輝かせていたがその光も消え果て様としている。アルスが顔の近くに立ってアルドウラ神へと言葉を掛ける、最後の慈悲であった。

「これで最後だアルドウラ。何か言い残した事はあるか?」
『……私など……所詮……駒だったのだ……父の……願いを叶える為だけの……駒』
「ガデルズがお前を駒にしたのなら、ルーディスのやっている事も駒だって事になっちまう。そんなの人間の俺達が許さねぇ」
『許す、許さないではない……もはや……父は動いた……この世界は……終わるっ』
「どういう事だ?」
『創造神の怒りは……世界を消す……父が願うのは……愛する妻がいる……その世界……妻がいない世界など……興味はない……ガデルズ父神様は……この世界を見捨てる……もう誰にも止めれない……私達の願いも儚く消えた……ぐはっ……!』
「本当の敵はガデルズ……って事だな」
「アルス君! 本陣が!!」
「!!。行くぞ! これが本当に最後の決戦だ!」

 息絶えたアルドウラ神の身体は台地に沈み込んで消えていく、それを見届ける事もなくアルス達は本陣に向かって移動し始める。本陣の惨状に息を飲む事になるのはそう遠くはない――――。
しおりを挟む

処理中です...