最強竜騎士と狩人の物語

影葉 柚樹

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ルーディス神の覚醒編

63話「象徴としての役目」

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 エテルナに頼まれたのは、この聖戦でアルスとハルトには象徴として仲間達の士気を上げる存在になって欲しい、そう伝えられた。だが、アルスはともかくハルトはその役目には応じれないと言って断ってしまう。
 ハルトの性格を考えればアルスはこの判断は間違っていないのだと考え、象徴には自分だけで充分だとエテルナに伝える。実際アルスの様に守護者として神々に近い存在でありながらも、今回の聖戦では神々への対抗軍として立ち上がっている姿は同志達の士気を上げるのには充分な効果を持っているのは事実だ。

「それじゃ俺はリーダー的存在にでもなりゃいいのか?」
「このローガドを中心にアルガスト大陸全土にその名を広げる必要があります。ルーディス神の覚醒が済めばこの世界にルーディス神は降臨されて、聖戦の準備は整います。その前にアルス様の部隊を編成し、神々の配下となった守護者達の撃破が必要になるでしょう」
「そう言えば……ガルーダの守護者はアルスだけじゃないでしょ? 他の人達には協力仰げないの?」
「それは話してみねぇと分かんねぇ。その為に一度ガルーダに戻るつもりだ。親父達の協力も欲しい」
「簡単じゃない道のりではありますが、これも世界を取り戻す為の戦い。アルス様、ハルト様、お力をお貸し下さい」
「エテルナ、お前の方も無理はするなよ。お前が倒れたら誰が神々の戦いを指示するか分からないんだからな」
「僕達が戻るまで無理はされないで」
「はい。ありがとうございます」

 アルスとハルトはルーピンの元に赴き、アルファを抱き締めて跨るとガルーダへまずは向かう事になった。ガルーダの守護者達であるコルとベリオにはランドル経由で神々の事は知らせているが、それで旅立っていたなら敵として迎えなくてはならない。
 アルスの仲間ではあるのだとハルトも知っている、だからこそ引き入れたいのはハルトも同じなのである。アルスの背を見つめながら飛ぶ空の青さをこの時はあまり記憶には残らなかった。
 ローガドを出て数日後、ガルーダまで戻ってきた2人はアルスの実家にルーピンが降り立つとすぐにルーシュ達が出迎えてくれて、ランドル達に知らせに行ってくれた。ルーシュの話ではガルーダは神々との戦いに挑むローガドを支援する事を決めたと言う。

「ラルフル達に無理させたかな」
「でも、これはアルガスト大陸を巻き込んだ戦いになる。どうにか戦力を少しでも集めないと僕達は不利な状況でもあるんだ。お義父さん達の話を聞こう」
「アルス、ハルト君」
「親父。悪い、急な帰りで」
「ご無沙汰していますお義父さん。話はルーシュさんからある程度お伺いしました」
「今回、神々の事に関してはアルスからの手紙だけの判断ではない。原始の竜を始めとする古代を生き抜いてきた者達による話もあったからラルフル様はご決断されたのだ。2人とも、この戦いでどうなるかはお互いに分からない。今日再会出来た事を喜ぼう」

 ランドルはハルトの状態を見てそれだけ激しい旅をしてきた事を知って労う様に出迎えてくれた。ランドル以外にもガルディアとルート、ルルとルカもハルトやアルスからの連絡を聞いた上で共に戦う為の準備をしてくれている。
 実家に戻ってきたアルスはハルトを置いてコルとベリオへ会いに向かった。守護者として2人は神々側に就くのだろうか、その不安を抱えたままアルスは2人の家に向かって歩く。
 まずはコルに、と思っているとベリオがコルを連れてアルス宅に向かう道中で再会を果たす。一瞬身構えるアルスにベリオとコルは微笑みを浮かべて再会を喜んだ。

「それじゃお前達は神々側じゃなくて、ガルーダ側に就くって事に?」
「あぁ。コルとも話し合ったが……俺達が守護者として存在しているのは神々の為なんかじゃない。自分達の故郷を守りたい一心でなった事を考えたら神々に就く理由は無い訳だ。コルも同じだぞ」
「俺、ガルーダ好き、守りたい……神々、嫌い」
「コル、ベリオ……サンキュ」
「お前も大変だな? 風の噂には聞いているが奥さん、色々と大変なんだろ?」
「アルス、覚悟している、それ分かる」
「ハルトがこの戦いで死ぬのは避けれない。残されるのを事前に分かって心構えはしているつもりだが……それでも悲しみにはくれるとは思う。でも、いつか、いつかはハルトは帰って来ると信じて今は戦うしかねぇって考えている。それが俺達の運命だとしても、だ」
「お前さんも強くなった。昔は自分本位の事しか考えなかった生意気なガキだったのが……だからだろうな、俺達はお前の手紙に書かれていた「愛する世界を取り返したい」って言う一文に心打たれたのは」
「アルス、成長した、それ俺は嬉しい」
「コル、ベリオ、この戦いでお互いに生きて帰る為にも力を貸してくれ。未来を、この世界を見届ける為にも」
「任せろ」
「任せて」

 ベリオの右手がアルスの肩を叩き、コルの灰色の尻尾がフワフワと揺れて喜びを示し、3人はアルスの実家へと歩き始める。ハルトはアルガスの診察を受けて右目の状態と左耳の状態をカルテに書き込んでいる。
 アルガスはあまりよろしくない顔でアルス達に伝える内容を考えていたが、ハルトが診察台から起き上がるとハッキリと告げる。もう後悔をするつもりはないらしい事をアルガスはこの時点で知る事になるのだが。

「僕の状態はアルスにはハッキリ伝えて下さい」
「だが、あまり思わしくないぞ」
「それも踏まえて僕達は戦います。それが僕達の姿なので」
「難儀な夫婦だ。しかし、禁呪を会得してこの程度で収まっているのは不思議だな」
「僕もそう思います。でも、運が良かった……それだけだと思います」
「右目の方だが魔力を感じる。禁呪の影響だとは思うが左耳は完全に死んでいるな」
「そうですか。生きているだけ不思議って事ですね」
「本当にな。お前さん悪運が強い」
「あはははっ」

 アルガスの言葉にハルトも心から笑う、それだけの悪運が強ければ聖戦で死ぬ事もないんじゃないか? そう考えてしまうのもまだ希望を抱いているという証拠。アルスとコル達が家に戻ってきたのを受けて出迎えにハルトは動く。
 アルガスはアルス達家族にどうハルトの診断結果を伝えればいいだろうか? そう考えてカルテを片手にランドルの部屋に向かう。ハルトがアルス達を出迎えるとコルとベリオがハルトの状態に息を飲んだ、それは守護者としてすぐに分かる状態でもあったからだ。

「マジか……」
「大丈夫じゃない……」
「あ、分かります? でも、今は慣れたので困っていないんですよ?」
「ハルトの頑張りは見てて思わず止めたくなる程の努力していたからな。コル、ベリオ、それでも俺達は戦うしかねぇんだ。これが俺達の生きた証なんだよ」
「……猶更俺達も戦いに気合い入るな。コル?」
「うん。負けたくない。アルスとハルト、未来を掴む」
「ありがとうございます」
「サンキュ」

 ハルトの右側に立って見えない右側をカバーしているアルス、それを見てハルトへの愛情を感じたコルとベリオは2人の強い絆を感じる事が出来た。だからこそ、2人が聖戦で死に別れるなんて運命を信じたくないのも本心ではあった。
 アルスの家族とコル達を含めた人間達で集まった食卓で、ランドルはこの戦いにおいてのガルーダの方針を伝えてくる。ガルーダはローガドを支援する名目で協定を結び、魔界におけるルーディス神の覚醒を支援する事にした、そして、ラルフルの決断で竜騎士と騎士達を聖戦の地へ派遣する事を決めたという。
 アルスとハルトはエテルナの事、ルーディス神の覚醒を確実にする為に選ばれた青年達の生贄の事、アルスが聖戦時の象徴として部隊を率いる事……それらを隠さないで話す。場が鎮まり空気も重くなりそうな時にハルトがハッキリと自分の運命について2人で話し合って決めている事を伝える。
 ガルディアやルル達は驚きと悲しみに涙を浮かべているが、決してハルトの想いを、アルスとの時間を否定する事はなかった。皆が一丸となって聖戦を生き抜く、その決意を固めた所で今回は休む様にランドルが号令を掛ける。

「アルス」
「お袋」
「少し話しておきたい事があります。お部屋に来てくれますか?」
「分かった。俺だけ?」
「えぇ、ハルトさんには後日話します」
「それじゃ行くか。ルート、ハルトにお袋と話すからって伝えておいてくれ」
「分かりました」

 ハルトに伝えに行くルートを見送りアルスとガルディアはランドルとガルディアの部屋に赴く。2人が部屋に入るとランドルがまだ家族になって浅いシェンルを抱き締めて話をしていた。
 シェンルは兄のアルスが部屋に来たのに気付きパタパタと駆け寄り足元に抱き着く。そんなシェンルを抱き上げて髪を撫でてやりながらアルスは両親の様子に違和感を感じた。

「アルス、お前だけは話しておこうと思ってな」
「なんだ?」
「実は、ガルディアのお腹に子がいる」
「……出来たのか」
「分かったのが先日で、まだ性別も判断は出来てないんです。でも、この子の生きる未来を私も守りたい。だから私も戦場に出るつもりです」
「これはルカ達にも話している。これで失ってしまっても後悔する事のない判断をしたと思える様に」
「仮に産まれてきたら……アルスの子として育てて欲しいのです」
「俺の……子?」
「ハルト君とアルスの子供として養子にしてほしいのだ」

 突如持ち上がったアルスとハルトの養子の話。だが、それにはランドルとガルディアの深い愛情が込めれているのを感じ取らないアルスじゃない。
 ハルトがもしその話を受け入れたら子供を育てる事を喜ぶだろうか? そう考えるアルスの瞳には戸惑いよりもハルトとの子供を得る事への希望が満ち始めていた。聖戦を生き抜く為の希望として、それは確かにアルスの心に強く根付いていく――――。
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