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2章
21話「スジエル国の本当の存在意味」
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ルーベリド王女の正式な女王着任式の告知は国民を大きな希望として、喜びとして、国全体を包み込むだけの盛り上がりを見せた。そのルーベリド王女は女王になる為の習わしとしてレジェースの総団長アルフォードと今までスジエルを守り通してきた防衛の指揮を執ってきたエヴァの両名と共に急いで設立されたスジエルの王族のみが使う事の出来る大陸の地中を流れる魔力、マナを読み、そして、そのマナの中に含まれている膨大な知識を読み解く事が出来る「マナの解読」を行う為の神殿に入り心身共にスジエルのマナで清めて、その身にマナの知識を宿す事を行う事になる。
アルフォードとエヴァの両名が付き従うのは両者が世界樹の祝福を受け、この暗黒の時代で希望の国としてスジエルを奪還した勇気ある騎士であるから、儀式の間に何かが行った時の王女の護衛を出来ると判断された結果である。
「アルフォード様、エヴァ様、それでは行って参ります」
「王女、我々はこの控えの間にてお待ちしております。何か異変や異常が起こりましたらすぐにお知らせ下さい」
「女官達も控えているので周囲の事は大丈夫かと思います。くれぐれも「飲まれぬ」ように……」
「はい。スジエルの為にも必ず私は戻ります」
ルーベリド王女が儀式の間に入って行くのを控えの間にて見送ったエヴァとアルフォードは静かに息を吐き出す。この神殿も急いで建設したが細部までマナの力に耐えうるだけの強度は誇れている様であった。
アルフォードが控えの間の椅子に座りエヴァに一言呟く。エヴァも向かい側の椅子に座ってアルフォードの言葉に耳を傾ける。
「儀式をまさか再開させるとは思わなかったぞ」
「それは俺だって同じだ。だが、王女が自分は未熟でまだ幼く、国を治めるのは到底民の信頼を得る程ではない。ならば少しでも国の、民の為に出来うる事をしたい。とのお言葉で儀式を執り行う事をお決めになられたのだ」
「あの年齢でマナの解読は相当危険だと説明しなかったのか? 大人の王族でも死者が出る程だと言うのに……」
「それは充分に説明した。だが、頑として王女はお譲りにならなかった……。王女自身もお悩みにはなられていたのだろう。このスジエルの存在がどれだけこのオルガスタン大陸の希望として意味を持っているのかと」
「だが、王女は知らぬまい……スジエルの本当の存在意味は……」
「知る時は近いだろう。その時までに運命の騎士達にも知らせねばならないだろう……世界樹の愛とオルガスタン大陸の関係を」
アルフォードもエヴァも深いため息を吐き出す。2人はガイアとフェランドの知らない事実を知っているからこそ、そして、同時に運命の事も知る者として自分達の役目を知っている。
この先の戦いと、そして、魔神アガルダが破壊神バルシスを何故復活させようとしているのか。エヴァもアルフォードもそれなりに世界樹の言葉で知ってはいたが、2人の運命がその先の真実を2人には見せていたのである。
破壊神バルシス、創造神ディゼッグ、そして、世界樹……この全てが絡み合った運命の糸を全て解き、1本の糸へと戻した時に運命の騎士であるガイアとフェランドは真実にどう抗うだろうかと2人は考える。2人の残された時間はそう多くは無い。
「おはようございます」
「おはようございますフェランド君。体調はどうですか?」
「かなり整いました。これなら女王着任式にも間に合うかと思います」
「それは良かった。君とガイア君には是非城の守護に入ってもらいたいと考えているところでしたので」
「その、ガイアを知りませんか?」
「おや、部屋にいませんか? 朝ルーデリッシュが顔を身に行ってる時にはいたと聞いていましたが」
「それが朝飯を食べに誘いに行ったら既にいなかったんです。本部内にはいないみたいで」
「ふむ……」
「ガイアなら城下の白の騎士団の詰所だ」
「ルーデリッシュさん。白の騎士団って白の神殿の騎士団でしたよね?」
「ルーデリッシュ、理由は聞いていますか?」
「アサンスレーっていう騎士を探しに行くとは聞いている」
ルーデリッシュから聞かされた人物の何はフェランドも心当たりは無かった。だが、アベルゾはルーデリッシュに視線を向けたまま静かに考える。
フェランドはガイアが白の騎士団のアサンスレーと言う人物に何か用事があったのだろうかと考えて1人で朝食を食べるしかないか、と考えてアベルゾとルーデリッシュに一礼してその場から立ち去った。
フェランドの姿が見えなくなってからルーデリッシュにアベルゾが静かに怒りを含んだ言葉を投げる。それはルーデリッシュにも伝わり、そして同時に謝罪を口にする。
「ガイア君の会いに行った騎士は……フェランド君の父親ですね?」
「あぁ……。何処から仕入れて来たかは知らないがガイアはアサンスレーと言う騎士がフェランドの父親である事を知って何かの話をしに向かった。止めたぞ俺は」
「なら最後まで責任を持って止めなさい。もし、ガイア君に何かあったらどうするんですか?」
「そんな危ない男なのか?」
「アサンスレーと言う男性騎士は……白の騎士団の幹部騎士でもあり、その実力は私や貴方に近いです。新人のガイア君では返り討ちが関の山でしょう」
「……」
「私の見立てが確かなら……フェランド君の生存はアサンスレーは知らないでしょうから動揺は誘えるでしょう。ルーデリッシュ、迎えに行って最悪の状態だったら手負いにしてでもガイア君を連れ戻しなさい」
「分かった」
アベルゾはルーデリッシュがすぐにレジェース本部を後にして白の騎士団詰所に向かうのを見送る。アサンスレー・デューリングがフェランドの父親である、その情報は白の騎士団を敵に回した時に捕えた白の神殿巫女であり、魔神アガルダの信者だったカーネルからもたらされた情報であった。
それが事実とは最初は信じれなかったが、フェランドと同じ姓の持ち主だと言う事と同時にフェランドが持っている剣の柄に刻まれている模様がアサンスレーの持つプレートメイルに刻まれている模様と同じだったのが確認されていたのである。それをガイアが知って会いに行ったのだとしたら……少々厄介な状態に陥る可能性もあるとアベルゾは考えてのルーデリッシュを向かわせたのである。
「何事も起きなければ……いいのですが」
アベルゾは静かに腕を組んで曇り空に染まりつつある空を見上げる。その頃のスジエル城下町の一角にある元白の神殿があった区画にガイアの姿はあった。
私服姿で腰には何も差していない、丸腰の状態で城下に出てきていた。元白の神殿の守護をしていた騎士団である白の騎士団の詰所までもう少しと言う所でガイアの前に一組の老婆と子供が歩いていた。
「お婆ちゃん、この先にお爺ちゃんがいるの?」
「そうだよ。もう会いに行っても許されていると思うから。だって……お爺さんは誇り高い白の騎士団の騎士様だもの」
「お爺ちゃんに会ったらお婆ちゃんが寂しいって言っていたのお話するんだ!」
「あらあら、坊やは本当に私の事を見ているわねぇ……」
「……」
ガイアはその老婆と孫の会話に考える部分もあった。同じスジエルの守りをしている白の騎士団もスジエルの中では人気もあれば有名な騎士団でもある。
そして、その騎士団に属する者達はレジェースの騎士達と違って剣技で戦う事を主にしている騎士団でもある。その騎士団は実力者が揃うレジェースと共にこのスジエルを守る為に設立された騎士団ではない……魔神アガルダの信者を守る騎士団としての役目を持っていたと今では認知され始めている。
そして、ガイアはその白の騎士団の騎士であるアサンスレーと言う男に会いに城下町に出てきた。自分の愛する男で相棒で共に運命の騎士として転生者としての人生を歩むフェランドの父親だと知って。
前にフェランドから聞いた事があったのである、自分の父は誇り高い騎士であり夜盗に襲われていた母をその剣で助けて愛し合う仲になって自分は産まれたのだと。その誇り高い父親が自分達が倒さねばならない魔神アガルダの信者達を守る騎士団の騎士だと知ればフェランドは……。
「失礼。ここにアサンスレー・デューリングって騎士様はいるか?」
「アサンスレーはここにはいない。今の時間は国の郊外にある墓地にいるぞ」
「墓地に? またなんで」
「戦友達の墓を1人で作っているんだ。それが償いだと本人は話しているが実際は自分の指示ミスで死なせた部下達の墓だろうよ」
詰所の騎士にアサンスレーの居場所を聞いたガイアは墓地へと向かう。別に争うつもりはない。
ただ、フェランドの前に現れないでほしい事と父親だと名乗るのは止めてほしいとの話をしに行くだけである。墓地には数人の女性と子供、そして、奥の方では1人の騎士が穴を掘り棺を埋めている姿が見えていた。
女性と子供達はそれぞれ墓に華を添えて祈りを捧げて墓地を去って行く。だが、騎士の男は棺を掘った穴に入れて埋めてしまったら、次の穴を掘り棺を入れて行くという作業を繰り返していた。
ガイアはその男に近付き一言問い掛ける。ガイアの問い掛けに騎士の男は穴を掘る手を止めて顔を上げてガイアの顔を見た。
「アサンスレー・デューリングさんか?」
「そうだが……君は?」
「俺はガイア。ガイア・シューリングと言う男だ。あんたに用があってここまで来た。今時間はいいだろうか?」
「ふむ、ならばもう少し待っててはくれないだろうか。この棺で終わりなのだ」
「分かった」
ガイアはアサンスレーが手甲を外して素手でシャベルを握り締めて穴を掘り、そして、ある程度の深さを掘り終えると棺を慎重に穴へと下ろし上から土を掛けて行く作業を見守った。そして、その作業が終わりを迎えてシャベルを地面に置いて出来たばかりの墓に祈りを捧げたアサンスレーは土で手が汚れているのを布で拭いてからガイアへ向き合った。
「待たせてすまなかった。さて、用件を伺おうか」
「アサンスレー・デューリング……息子を覚えているか?」
「……」
「忘れたとかはナシだぜ。あんたのそのプレートメイルに刻まれた模様と同じ模様の剣を持つ男を俺は知っている」
「そう、か……。息子は、フェランドは元気だろうか」
「そう思うのであればどうして魔神アガルダの信者の集まりの白の神殿を守護する騎士団にいた? フェランドは、あんたの事を誇り高き騎士だと嬉しそうに話していたんだぞ」
「……そうだったのか……。私も最初は白の騎士団で騎士をするつもりはなかった。だが……白の神殿は市民の心の拠り所でもあった。その神殿を守る騎士団の騎士は誇り高い騎士として存在出来る、そう信じてしまったのだ……」
「……今はどうなんだ」
「私に剣を握る資格はない……あるとすれば仲間達の墓を作り、そして、残された騎士達と共に静かに生きるしか出来ない。そんな私をフェランドが知ればどう思うかは想像がつく。2度とあの子とは会う事も出来ぬまい……」
アサンスレーはそこまで言って空から落ちてくる水滴を顔に受け止め静かに瞳を伏せる。ガイアにはフェランドとこの男の関係をどうするべきなのか、それを考えても答えは出なかった――――。
アルフォードとエヴァの両名が付き従うのは両者が世界樹の祝福を受け、この暗黒の時代で希望の国としてスジエルを奪還した勇気ある騎士であるから、儀式の間に何かが行った時の王女の護衛を出来ると判断された結果である。
「アルフォード様、エヴァ様、それでは行って参ります」
「王女、我々はこの控えの間にてお待ちしております。何か異変や異常が起こりましたらすぐにお知らせ下さい」
「女官達も控えているので周囲の事は大丈夫かと思います。くれぐれも「飲まれぬ」ように……」
「はい。スジエルの為にも必ず私は戻ります」
ルーベリド王女が儀式の間に入って行くのを控えの間にて見送ったエヴァとアルフォードは静かに息を吐き出す。この神殿も急いで建設したが細部までマナの力に耐えうるだけの強度は誇れている様であった。
アルフォードが控えの間の椅子に座りエヴァに一言呟く。エヴァも向かい側の椅子に座ってアルフォードの言葉に耳を傾ける。
「儀式をまさか再開させるとは思わなかったぞ」
「それは俺だって同じだ。だが、王女が自分は未熟でまだ幼く、国を治めるのは到底民の信頼を得る程ではない。ならば少しでも国の、民の為に出来うる事をしたい。とのお言葉で儀式を執り行う事をお決めになられたのだ」
「あの年齢でマナの解読は相当危険だと説明しなかったのか? 大人の王族でも死者が出る程だと言うのに……」
「それは充分に説明した。だが、頑として王女はお譲りにならなかった……。王女自身もお悩みにはなられていたのだろう。このスジエルの存在がどれだけこのオルガスタン大陸の希望として意味を持っているのかと」
「だが、王女は知らぬまい……スジエルの本当の存在意味は……」
「知る時は近いだろう。その時までに運命の騎士達にも知らせねばならないだろう……世界樹の愛とオルガスタン大陸の関係を」
アルフォードもエヴァも深いため息を吐き出す。2人はガイアとフェランドの知らない事実を知っているからこそ、そして、同時に運命の事も知る者として自分達の役目を知っている。
この先の戦いと、そして、魔神アガルダが破壊神バルシスを何故復活させようとしているのか。エヴァもアルフォードもそれなりに世界樹の言葉で知ってはいたが、2人の運命がその先の真実を2人には見せていたのである。
破壊神バルシス、創造神ディゼッグ、そして、世界樹……この全てが絡み合った運命の糸を全て解き、1本の糸へと戻した時に運命の騎士であるガイアとフェランドは真実にどう抗うだろうかと2人は考える。2人の残された時間はそう多くは無い。
「おはようございます」
「おはようございますフェランド君。体調はどうですか?」
「かなり整いました。これなら女王着任式にも間に合うかと思います」
「それは良かった。君とガイア君には是非城の守護に入ってもらいたいと考えているところでしたので」
「その、ガイアを知りませんか?」
「おや、部屋にいませんか? 朝ルーデリッシュが顔を身に行ってる時にはいたと聞いていましたが」
「それが朝飯を食べに誘いに行ったら既にいなかったんです。本部内にはいないみたいで」
「ふむ……」
「ガイアなら城下の白の騎士団の詰所だ」
「ルーデリッシュさん。白の騎士団って白の神殿の騎士団でしたよね?」
「ルーデリッシュ、理由は聞いていますか?」
「アサンスレーっていう騎士を探しに行くとは聞いている」
ルーデリッシュから聞かされた人物の何はフェランドも心当たりは無かった。だが、アベルゾはルーデリッシュに視線を向けたまま静かに考える。
フェランドはガイアが白の騎士団のアサンスレーと言う人物に何か用事があったのだろうかと考えて1人で朝食を食べるしかないか、と考えてアベルゾとルーデリッシュに一礼してその場から立ち去った。
フェランドの姿が見えなくなってからルーデリッシュにアベルゾが静かに怒りを含んだ言葉を投げる。それはルーデリッシュにも伝わり、そして同時に謝罪を口にする。
「ガイア君の会いに行った騎士は……フェランド君の父親ですね?」
「あぁ……。何処から仕入れて来たかは知らないがガイアはアサンスレーと言う騎士がフェランドの父親である事を知って何かの話をしに向かった。止めたぞ俺は」
「なら最後まで責任を持って止めなさい。もし、ガイア君に何かあったらどうするんですか?」
「そんな危ない男なのか?」
「アサンスレーと言う男性騎士は……白の騎士団の幹部騎士でもあり、その実力は私や貴方に近いです。新人のガイア君では返り討ちが関の山でしょう」
「……」
「私の見立てが確かなら……フェランド君の生存はアサンスレーは知らないでしょうから動揺は誘えるでしょう。ルーデリッシュ、迎えに行って最悪の状態だったら手負いにしてでもガイア君を連れ戻しなさい」
「分かった」
アベルゾはルーデリッシュがすぐにレジェース本部を後にして白の騎士団詰所に向かうのを見送る。アサンスレー・デューリングがフェランドの父親である、その情報は白の騎士団を敵に回した時に捕えた白の神殿巫女であり、魔神アガルダの信者だったカーネルからもたらされた情報であった。
それが事実とは最初は信じれなかったが、フェランドと同じ姓の持ち主だと言う事と同時にフェランドが持っている剣の柄に刻まれている模様がアサンスレーの持つプレートメイルに刻まれている模様と同じだったのが確認されていたのである。それをガイアが知って会いに行ったのだとしたら……少々厄介な状態に陥る可能性もあるとアベルゾは考えてのルーデリッシュを向かわせたのである。
「何事も起きなければ……いいのですが」
アベルゾは静かに腕を組んで曇り空に染まりつつある空を見上げる。その頃のスジエル城下町の一角にある元白の神殿があった区画にガイアの姿はあった。
私服姿で腰には何も差していない、丸腰の状態で城下に出てきていた。元白の神殿の守護をしていた騎士団である白の騎士団の詰所までもう少しと言う所でガイアの前に一組の老婆と子供が歩いていた。
「お婆ちゃん、この先にお爺ちゃんがいるの?」
「そうだよ。もう会いに行っても許されていると思うから。だって……お爺さんは誇り高い白の騎士団の騎士様だもの」
「お爺ちゃんに会ったらお婆ちゃんが寂しいって言っていたのお話するんだ!」
「あらあら、坊やは本当に私の事を見ているわねぇ……」
「……」
ガイアはその老婆と孫の会話に考える部分もあった。同じスジエルの守りをしている白の騎士団もスジエルの中では人気もあれば有名な騎士団でもある。
そして、その騎士団に属する者達はレジェースの騎士達と違って剣技で戦う事を主にしている騎士団でもある。その騎士団は実力者が揃うレジェースと共にこのスジエルを守る為に設立された騎士団ではない……魔神アガルダの信者を守る騎士団としての役目を持っていたと今では認知され始めている。
そして、ガイアはその白の騎士団の騎士であるアサンスレーと言う男に会いに城下町に出てきた。自分の愛する男で相棒で共に運命の騎士として転生者としての人生を歩むフェランドの父親だと知って。
前にフェランドから聞いた事があったのである、自分の父は誇り高い騎士であり夜盗に襲われていた母をその剣で助けて愛し合う仲になって自分は産まれたのだと。その誇り高い父親が自分達が倒さねばならない魔神アガルダの信者達を守る騎士団の騎士だと知ればフェランドは……。
「失礼。ここにアサンスレー・デューリングって騎士様はいるか?」
「アサンスレーはここにはいない。今の時間は国の郊外にある墓地にいるぞ」
「墓地に? またなんで」
「戦友達の墓を1人で作っているんだ。それが償いだと本人は話しているが実際は自分の指示ミスで死なせた部下達の墓だろうよ」
詰所の騎士にアサンスレーの居場所を聞いたガイアは墓地へと向かう。別に争うつもりはない。
ただ、フェランドの前に現れないでほしい事と父親だと名乗るのは止めてほしいとの話をしに行くだけである。墓地には数人の女性と子供、そして、奥の方では1人の騎士が穴を掘り棺を埋めている姿が見えていた。
女性と子供達はそれぞれ墓に華を添えて祈りを捧げて墓地を去って行く。だが、騎士の男は棺を掘った穴に入れて埋めてしまったら、次の穴を掘り棺を入れて行くという作業を繰り返していた。
ガイアはその男に近付き一言問い掛ける。ガイアの問い掛けに騎士の男は穴を掘る手を止めて顔を上げてガイアの顔を見た。
「アサンスレー・デューリングさんか?」
「そうだが……君は?」
「俺はガイア。ガイア・シューリングと言う男だ。あんたに用があってここまで来た。今時間はいいだろうか?」
「ふむ、ならばもう少し待っててはくれないだろうか。この棺で終わりなのだ」
「分かった」
ガイアはアサンスレーが手甲を外して素手でシャベルを握り締めて穴を掘り、そして、ある程度の深さを掘り終えると棺を慎重に穴へと下ろし上から土を掛けて行く作業を見守った。そして、その作業が終わりを迎えてシャベルを地面に置いて出来たばかりの墓に祈りを捧げたアサンスレーは土で手が汚れているのを布で拭いてからガイアへ向き合った。
「待たせてすまなかった。さて、用件を伺おうか」
「アサンスレー・デューリング……息子を覚えているか?」
「……」
「忘れたとかはナシだぜ。あんたのそのプレートメイルに刻まれた模様と同じ模様の剣を持つ男を俺は知っている」
「そう、か……。息子は、フェランドは元気だろうか」
「そう思うのであればどうして魔神アガルダの信者の集まりの白の神殿を守護する騎士団にいた? フェランドは、あんたの事を誇り高き騎士だと嬉しそうに話していたんだぞ」
「……そうだったのか……。私も最初は白の騎士団で騎士をするつもりはなかった。だが……白の神殿は市民の心の拠り所でもあった。その神殿を守る騎士団の騎士は誇り高い騎士として存在出来る、そう信じてしまったのだ……」
「……今はどうなんだ」
「私に剣を握る資格はない……あるとすれば仲間達の墓を作り、そして、残された騎士達と共に静かに生きるしか出来ない。そんな私をフェランドが知ればどう思うかは想像がつく。2度とあの子とは会う事も出来ぬまい……」
アサンスレーはそこまで言って空から落ちてくる水滴を顔に受け止め静かに瞳を伏せる。ガイアにはフェランドとこの男の関係をどうするべきなのか、それを考えても答えは出なかった――――。
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