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2章
15話「繋がる心と邪悪な視線」
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ガイアの心はフェランドを独占したい、しきりにガイアへと訴えていた事をフェランドに告げている。フェランドは顔を赤く染めながらどう返事をするべきだろうかと少し考えているが、エヴァの言葉が自然と浮かんでくる。
「自分の心に素直に」、その言葉に従って果たしてガイアは受け入れてくれるのだろうか? と不安も少なくない。だけれども、ベッドからガイアに視線を向けるとガイアも戸惑っているようではあった。
「ガイア、は……俺がどう答えるか不安?」
「そりゃそうだろう。拒否されたらどうしようって思うしな……怖いよ」
「ガイア……」
「俺は転生者同士だからっていう繋がりだけじゃ満足できない。フェランド個人の全てになりたいんだよ」
「ガイア、自分の心に従えばいい……俺も、従ってみたい……」
「フェランド……」
エヴァに言われた言葉をガイアにも伝えていく。それは自分の心にも言い聞かせるだけの効果はあった。
ガイアの心の中にあるのはフェランドを独占したいという気持ち。それをフェランドに見せてもいいのだろうか……? と悩んでいた矢先にこの言葉。
フェランドの事を想って動けないガイアに気付いたフェランドは、自分の心に問い掛ける。自分はガイアを受け入れれるだけの心を持っているのだろうか? それとも出来ないのか? とか。
だが、素直に従ってみる事にした。ベッドから立ち上がり椅子に座るガイアへと近寄り抱き締めてみた。
「ガイア……大好き……」
「フェランド……」
「俺、迷っていた。ガイアの心が分からなかった時は自分の気持ちは殺して、ただ運命を果たすまでのパートナーとして傍にいるしかないと思っていた。もし……もし許されるのであれば俺をガイアの傍にいさせて?」
「いいんだな? 本当に俺の愛を、受けてくれるんだな?」
「ガイアがいい……ガイアのものになりたい」
ガイアの肩口に顔を埋めるフェランドは目を伏せる。そのフェランドの身体を抱き締めるガイアの腕が背中に回ってからそっと寄り添っていく。
転生者だから、同じ村の生まれだから、それだけじゃない。それだけじゃ通らない理屈があるのだから。
寄り添っている2人はお互いの心が繋がった事に微笑みを浮かべる。だが、ガイアの顔がフェランドに近付いてそっとその潤っている唇を奪った。
「んんっ!」
「んっ……」
「はっ、んんっ、が、いあ……んふっ」
「可愛い……フェランド……」
重ねた唇を何度でも重ね合わせて、触れ合うだけの口付けをしていく。フェランドには初めての口付けで、ガイアは愛情の爆発した果ての口付け。
フェランドが理性的に一杯一杯になってきたのを察したガイアがそっと唇を離すとフェランドはガイアの胸元に寄り掛かった。肩で息をしながら耳まで真っ赤になっているのが愛らしい、とガイアは思ってしまう。
ガイアは騎士団見習いの時から女性に好まれている事もあって、それなりの女性経験はある方だ。だがフェランドは女性と遊ぶくらいなら剣や魔法の鍛錬に、と時間を割くタイプの人間であった。
「が、いあ……」
「すまない、お前があまりにも愛おしく思っちまって……しっかり理性に鍵しないとな」
「ん、でも……口付けってこんなに……その……幸せなんだな……」
「……もう一度してやろうか?」
「だ、ダメだ! 腰砕けになってしまう!」
「させようと思っている、って言ったら?」
「が、ガイア!」
「はははっ」
若いだけで暴走しそうな身体、それだけで愛する者を傷付ける事は望まない。だからガイアもフェランドも線引きはしっかりしていく。
それだけじゃない、ガイアには一種の麻薬に近い中毒症状が出始めている。フェランドの唇を味わったのだ、その先の快感を知る身体からの欲望を発散しなくてはと密かに考えている。
女の身体でもいい、今はただこの欲望でフェランドを傷付けたいとは思っていない。フェランドがどうにか自力でベッドに戻って横になったのを見届けてから、椅子から立ち上がりドアに向かう。
「もう、行くのか……?」
「これ以上お前の色香に当てられたら抱くしかない。それで傷付ける位なら売婦でも買って発散させておく。でも……お前を抱き始めたら抱き潰されるのは覚悟しとけ? おやすみ」
「っ、が、ガイア……おやすみ……」
真っ赤になって見送るフェランドはガイアが自分を気遣って売婦を買うのも嫌ではない。ただ、その欲望を自分に注ぐ時フェランドは少なくとも翌日筋肉痛とかには苛まれるのは避けようのない事実だ、と気付くのであった。
ガイアは軽装に上着を羽織ってから市街地へと出て行く。時間的に売婦が出ている時間でもあるのは確認しているので欲望を発散したらすぐに本部に戻る予定である。
フェランドもガイアとの口付けを思い返してドキドキする心を鎮めて眠りへと落ちて行く。そして、そんな2人を見ている存在があった。
「まさか、こんなにも成長したとはな……生かした甲斐があるという事か」
暗い部屋の中、ぼんやりと浮かんでいる青白い炎に室内は照らし出され始めてその存在を明らかにしていく。巨大な水晶を中央に、その背後に漆黒の髪を持ち、そして血に飢えたような深紅の瞳、ハリのある皮膚で覆われた身体。
その存在は闇の王国とも言われているオルガスタン大陸の国の1つ「オジナル」の国王の間にあった。魔神アガルダはその水晶に映る2人の青年の姿を眺めている。
1人は黒い髪を肩にまで伸ばしている青年、フェランド。もう1人は茶色の髪を腰にまで伸ばしている青年、ガイア。
魔神アガルダはフェランドとガイアの姿を水晶で見ながらニヤリと口元に笑みを刻む。それはどう見ても2人を知っている者の笑みでもある。
「あのカーネルが宣告しただけの転生者としての道を充分に歩いているのは良き。そのまま成熟してくれるだろう……そう、このオルガスタン大陸の本当の生贄はお前達なのだから……ククククッ」
魔神アガルダは何をフェランドとガイアに見ているのだろうか。そして、魔神アガルダは一体このオルガスタン大陸に何をもたらそうとしているのか。
そんな視線を向けられているとは気付かないフェランド達は朝を迎えていた。ガイアは早朝から隣の部屋にいるフェランドが動いているのを気配で察していた。
朝練に向かおうとしていたフェランドはアーマーを着込んでから部屋を出て行く。いつでも朝練だけは本部にいる間は欠かさないのがフェランドの自分に課した日課でもあった。
鍛錬場にはルーデリッシュの姿と数名の騎士達の姿。フェランドが入ってくるとルーデリッシュが声を掛けてくる。
「朝練か?」
「あ、はい。本部にいる間はどんなに疲れてても朝練だけは休まないようにしているんです。ルーデリッシュさんは?」
「この間のオルターナ任務で自分の弱点を見抜いてな。それでその部分の克服に挑んでいた所だ。どうしても俺自身の剣だと横からの攻撃に弱いようでな」
「あぁ、それでこの人形を回転させて攻撃を? 俺で良かったらお手伝いしますが?」
「構わないのか? 自分の修練もあるだろう」
「ルーデリッシュさんの動きを見ながら学ぶ事も多いと思って。先輩達の剣筋を見て学べとも教育係りの先輩騎士からも言われていますから」
「スノーゾルの言葉か。彼らしい……なら相手を頼む」
「はいっ!」
ルーデリッシュと向き合うフェランドは真剣にその時間を過ごす。一歩でも間違える事があればルーデリッシュの剣筋を見極める事も、騎士としても未熟だと知っているから。
その頃のガイアはアベルゾの部屋に来ていた。昨日の間にアベルゾが時間が出来次第部屋に来てほしい、と連絡をガイアにしていたからである。
アベルゾの部屋は軍師騎士と言われるだけあって本が溢れており、だが、床に散乱しているのではなく上手い様に収納されているのは性格が出ていると思えた。だが、それだけの収納をしている部屋であっても圧迫感は少ないがあるのはある。
「失礼します」
「あぁ、すみませんね朝早くから来てもらって」
「いえ。それでお話とは?」
「白の神殿の事を少しお聴きしたいと思いましてね」
「白の神殿の事? それはアベルゾさん達の方がご存知なのでは?」
「表向きの白の神殿については。でも、君達転生者を見つけ出すのは、正直聞いた事がないんですよ……我々には一切その手の情報は降りてきていません」
「……」
ガイアはすぐにその言葉に隠された意図に気付く。それは白の神殿が極秘裏に転生者を探し出している事に不満とかではない、意図が見えないで警戒しなくてはならない事に繋がっているのだという事に。
白の騎士団を有する白の神殿、その神殿内部については誰も知る事が出来る……筈だとガイアは思ったが、少しだけ自分の中にある疑問にも引っ掛かっていた。あの日、巫女カーネルが自分とフェランドを転生者だと告げに来た日を思い出す。
「……まさか……」
「恐らく、白の神殿は本当に神の声を聞いているのでしょう……それも我々が崇拝している神とは別の神の声を」
「それじゃ俺やフェランドを導いたのは……」
「何か我々は危ない道を進む運命にあるのかも知れません。その結果として君とフェランド君がこのスジエルに来た、そして、騎士となった事を示したと言っていいかも知れないのです」
アベルゾの言葉にガイアは背筋に寒い悪寒が走った。知らなくてはならない、知って立ち向かわないといけない。
そして、ガイアの心にはもう1つ立ち向かうべきの理由である存在が浮かぶ。最愛のフェランドの存在を守る為に剣を握る事を選ぶべきであると。
「白の神殿、国内でも崇拝者は多いです。ですが、内部の事を知る者達は少ない。そして、転生者達の事を知っている巫女達に関しても謎が多い。私はその内部に切り込む必要性があるように思えるのです」
「それで、俺に何をお求めなのですか? 俺を呼ぶって事はそれなりに確信があってのお呼び出しかと思いますが……」
「ガイア君の知識の高さを活かして……」
アベルゾの言葉にガイアは従うつもりだが、告げられた内容に驚きが滲み出る。それでもアベルゾは止める事のない内容を伝えた。
ガイアの額に汗が浮かぶ、そして、それを告げているアベルゾも同じように汗が額から流れ落ちていた。一歩間違えればアベルゾも自分の命が落とす事は確実だと理解している。
ガイアはその内容を聞いて静かにはしていたが、内心では困惑と焦りが生じていた。それだけの内容をアベルゾはガイアに言い聞かせている。
「分かっています。私のあくまで推測に過ぎないこの状態でお話した事を実行する事は、私の騎士生命を断つ事になると。ですが、内部の膿を出さないと清潔な傷口はまた化膿して永遠に治りません。そうなるようであれば誰かが処置をしなくてはならないのです」
「だからって……白の騎士団を敵に回すなんて、総団長がお許しになるか……」
「総団長のご意思もお伺いするつもりです。まぁ、あまり期待は出来ないかも知れませんが……。ですが、魔神アガルダの手が及ばない保証はありません。内部から崩される訳にはいかないのです」
アベルゾが告げた内容とは? そしてガイアの決断は? まだスジエルに迫る闇に気付けるのだろうか――――?
「自分の心に素直に」、その言葉に従って果たしてガイアは受け入れてくれるのだろうか? と不安も少なくない。だけれども、ベッドからガイアに視線を向けるとガイアも戸惑っているようではあった。
「ガイア、は……俺がどう答えるか不安?」
「そりゃそうだろう。拒否されたらどうしようって思うしな……怖いよ」
「ガイア……」
「俺は転生者同士だからっていう繋がりだけじゃ満足できない。フェランド個人の全てになりたいんだよ」
「ガイア、自分の心に従えばいい……俺も、従ってみたい……」
「フェランド……」
エヴァに言われた言葉をガイアにも伝えていく。それは自分の心にも言い聞かせるだけの効果はあった。
ガイアの心の中にあるのはフェランドを独占したいという気持ち。それをフェランドに見せてもいいのだろうか……? と悩んでいた矢先にこの言葉。
フェランドの事を想って動けないガイアに気付いたフェランドは、自分の心に問い掛ける。自分はガイアを受け入れれるだけの心を持っているのだろうか? それとも出来ないのか? とか。
だが、素直に従ってみる事にした。ベッドから立ち上がり椅子に座るガイアへと近寄り抱き締めてみた。
「ガイア……大好き……」
「フェランド……」
「俺、迷っていた。ガイアの心が分からなかった時は自分の気持ちは殺して、ただ運命を果たすまでのパートナーとして傍にいるしかないと思っていた。もし……もし許されるのであれば俺をガイアの傍にいさせて?」
「いいんだな? 本当に俺の愛を、受けてくれるんだな?」
「ガイアがいい……ガイアのものになりたい」
ガイアの肩口に顔を埋めるフェランドは目を伏せる。そのフェランドの身体を抱き締めるガイアの腕が背中に回ってからそっと寄り添っていく。
転生者だから、同じ村の生まれだから、それだけじゃない。それだけじゃ通らない理屈があるのだから。
寄り添っている2人はお互いの心が繋がった事に微笑みを浮かべる。だが、ガイアの顔がフェランドに近付いてそっとその潤っている唇を奪った。
「んんっ!」
「んっ……」
「はっ、んんっ、が、いあ……んふっ」
「可愛い……フェランド……」
重ねた唇を何度でも重ね合わせて、触れ合うだけの口付けをしていく。フェランドには初めての口付けで、ガイアは愛情の爆発した果ての口付け。
フェランドが理性的に一杯一杯になってきたのを察したガイアがそっと唇を離すとフェランドはガイアの胸元に寄り掛かった。肩で息をしながら耳まで真っ赤になっているのが愛らしい、とガイアは思ってしまう。
ガイアは騎士団見習いの時から女性に好まれている事もあって、それなりの女性経験はある方だ。だがフェランドは女性と遊ぶくらいなら剣や魔法の鍛錬に、と時間を割くタイプの人間であった。
「が、いあ……」
「すまない、お前があまりにも愛おしく思っちまって……しっかり理性に鍵しないとな」
「ん、でも……口付けってこんなに……その……幸せなんだな……」
「……もう一度してやろうか?」
「だ、ダメだ! 腰砕けになってしまう!」
「させようと思っている、って言ったら?」
「が、ガイア!」
「はははっ」
若いだけで暴走しそうな身体、それだけで愛する者を傷付ける事は望まない。だからガイアもフェランドも線引きはしっかりしていく。
それだけじゃない、ガイアには一種の麻薬に近い中毒症状が出始めている。フェランドの唇を味わったのだ、その先の快感を知る身体からの欲望を発散しなくてはと密かに考えている。
女の身体でもいい、今はただこの欲望でフェランドを傷付けたいとは思っていない。フェランドがどうにか自力でベッドに戻って横になったのを見届けてから、椅子から立ち上がりドアに向かう。
「もう、行くのか……?」
「これ以上お前の色香に当てられたら抱くしかない。それで傷付ける位なら売婦でも買って発散させておく。でも……お前を抱き始めたら抱き潰されるのは覚悟しとけ? おやすみ」
「っ、が、ガイア……おやすみ……」
真っ赤になって見送るフェランドはガイアが自分を気遣って売婦を買うのも嫌ではない。ただ、その欲望を自分に注ぐ時フェランドは少なくとも翌日筋肉痛とかには苛まれるのは避けようのない事実だ、と気付くのであった。
ガイアは軽装に上着を羽織ってから市街地へと出て行く。時間的に売婦が出ている時間でもあるのは確認しているので欲望を発散したらすぐに本部に戻る予定である。
フェランドもガイアとの口付けを思い返してドキドキする心を鎮めて眠りへと落ちて行く。そして、そんな2人を見ている存在があった。
「まさか、こんなにも成長したとはな……生かした甲斐があるという事か」
暗い部屋の中、ぼんやりと浮かんでいる青白い炎に室内は照らし出され始めてその存在を明らかにしていく。巨大な水晶を中央に、その背後に漆黒の髪を持ち、そして血に飢えたような深紅の瞳、ハリのある皮膚で覆われた身体。
その存在は闇の王国とも言われているオルガスタン大陸の国の1つ「オジナル」の国王の間にあった。魔神アガルダはその水晶に映る2人の青年の姿を眺めている。
1人は黒い髪を肩にまで伸ばしている青年、フェランド。もう1人は茶色の髪を腰にまで伸ばしている青年、ガイア。
魔神アガルダはフェランドとガイアの姿を水晶で見ながらニヤリと口元に笑みを刻む。それはどう見ても2人を知っている者の笑みでもある。
「あのカーネルが宣告しただけの転生者としての道を充分に歩いているのは良き。そのまま成熟してくれるだろう……そう、このオルガスタン大陸の本当の生贄はお前達なのだから……ククククッ」
魔神アガルダは何をフェランドとガイアに見ているのだろうか。そして、魔神アガルダは一体このオルガスタン大陸に何をもたらそうとしているのか。
そんな視線を向けられているとは気付かないフェランド達は朝を迎えていた。ガイアは早朝から隣の部屋にいるフェランドが動いているのを気配で察していた。
朝練に向かおうとしていたフェランドはアーマーを着込んでから部屋を出て行く。いつでも朝練だけは本部にいる間は欠かさないのがフェランドの自分に課した日課でもあった。
鍛錬場にはルーデリッシュの姿と数名の騎士達の姿。フェランドが入ってくるとルーデリッシュが声を掛けてくる。
「朝練か?」
「あ、はい。本部にいる間はどんなに疲れてても朝練だけは休まないようにしているんです。ルーデリッシュさんは?」
「この間のオルターナ任務で自分の弱点を見抜いてな。それでその部分の克服に挑んでいた所だ。どうしても俺自身の剣だと横からの攻撃に弱いようでな」
「あぁ、それでこの人形を回転させて攻撃を? 俺で良かったらお手伝いしますが?」
「構わないのか? 自分の修練もあるだろう」
「ルーデリッシュさんの動きを見ながら学ぶ事も多いと思って。先輩達の剣筋を見て学べとも教育係りの先輩騎士からも言われていますから」
「スノーゾルの言葉か。彼らしい……なら相手を頼む」
「はいっ!」
ルーデリッシュと向き合うフェランドは真剣にその時間を過ごす。一歩でも間違える事があればルーデリッシュの剣筋を見極める事も、騎士としても未熟だと知っているから。
その頃のガイアはアベルゾの部屋に来ていた。昨日の間にアベルゾが時間が出来次第部屋に来てほしい、と連絡をガイアにしていたからである。
アベルゾの部屋は軍師騎士と言われるだけあって本が溢れており、だが、床に散乱しているのではなく上手い様に収納されているのは性格が出ていると思えた。だが、それだけの収納をしている部屋であっても圧迫感は少ないがあるのはある。
「失礼します」
「あぁ、すみませんね朝早くから来てもらって」
「いえ。それでお話とは?」
「白の神殿の事を少しお聴きしたいと思いましてね」
「白の神殿の事? それはアベルゾさん達の方がご存知なのでは?」
「表向きの白の神殿については。でも、君達転生者を見つけ出すのは、正直聞いた事がないんですよ……我々には一切その手の情報は降りてきていません」
「……」
ガイアはすぐにその言葉に隠された意図に気付く。それは白の神殿が極秘裏に転生者を探し出している事に不満とかではない、意図が見えないで警戒しなくてはならない事に繋がっているのだという事に。
白の騎士団を有する白の神殿、その神殿内部については誰も知る事が出来る……筈だとガイアは思ったが、少しだけ自分の中にある疑問にも引っ掛かっていた。あの日、巫女カーネルが自分とフェランドを転生者だと告げに来た日を思い出す。
「……まさか……」
「恐らく、白の神殿は本当に神の声を聞いているのでしょう……それも我々が崇拝している神とは別の神の声を」
「それじゃ俺やフェランドを導いたのは……」
「何か我々は危ない道を進む運命にあるのかも知れません。その結果として君とフェランド君がこのスジエルに来た、そして、騎士となった事を示したと言っていいかも知れないのです」
アベルゾの言葉にガイアは背筋に寒い悪寒が走った。知らなくてはならない、知って立ち向かわないといけない。
そして、ガイアの心にはもう1つ立ち向かうべきの理由である存在が浮かぶ。最愛のフェランドの存在を守る為に剣を握る事を選ぶべきであると。
「白の神殿、国内でも崇拝者は多いです。ですが、内部の事を知る者達は少ない。そして、転生者達の事を知っている巫女達に関しても謎が多い。私はその内部に切り込む必要性があるように思えるのです」
「それで、俺に何をお求めなのですか? 俺を呼ぶって事はそれなりに確信があってのお呼び出しかと思いますが……」
「ガイア君の知識の高さを活かして……」
アベルゾの言葉にガイアは従うつもりだが、告げられた内容に驚きが滲み出る。それでもアベルゾは止める事のない内容を伝えた。
ガイアの額に汗が浮かぶ、そして、それを告げているアベルゾも同じように汗が額から流れ落ちていた。一歩間違えればアベルゾも自分の命が落とす事は確実だと理解している。
ガイアはその内容を聞いて静かにはしていたが、内心では困惑と焦りが生じていた。それだけの内容をアベルゾはガイアに言い聞かせている。
「分かっています。私のあくまで推測に過ぎないこの状態でお話した事を実行する事は、私の騎士生命を断つ事になると。ですが、内部の膿を出さないと清潔な傷口はまた化膿して永遠に治りません。そうなるようであれば誰かが処置をしなくてはならないのです」
「だからって……白の騎士団を敵に回すなんて、総団長がお許しになるか……」
「総団長のご意思もお伺いするつもりです。まぁ、あまり期待は出来ないかも知れませんが……。ですが、魔神アガルダの手が及ばない保証はありません。内部から崩される訳にはいかないのです」
アベルゾが告げた内容とは? そしてガイアの決断は? まだスジエルに迫る闇に気付けるのだろうか――――?
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