騎士の勇気・世界樹の願い

影葉 柚希

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2章

14話「囁かれた伝説の地」

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 休暇を堪能している間のガイアは久々に自分に知識を蓄えていこうと本を読破している所に穏やかな時間を過ごしていた。フェランドとは食事の時は一緒に過ごしてはいるもののそれ以外の時間は自分達の時間として過ごす事で時間を潰していく。
 それはフェランドも同じであるがフェランドはこの日はスジエルの市街地にあった。特に目当てがあって市街地を歩いている訳ではないが、ある場所を通り掛かったフェランドの耳に聞こえてくる声に視線を向ける。
「待てよ~!」
「やだよ~!」
「私も遊ぶ~!」
「僕も~!」
「……」
 聞こえてきた声にフェランドは微笑みを浮かべる。そう、通り掛かったのはスジエルの小さな公園でありそこには子供達が数人集まってボールを蹴ったり、追い掛けっこしている光景があった。
 大人達もいるが皆が子供達の親なのだろう、母親と思われる女性が多いが男性も数人いるのでここは親の情報交換の場でもあるのだとフェランドは思った。その子供の1人がボールを追い掛けてきてフェランドの足元に転がってきたボールを見て微笑みを浮かべるとボールを手に取るとしゃがんで子供にボールを差し出す。
「はい、どうぞ」
「ありがとうお兄ちゃん! あれ~? お兄ちゃん騎士様?」
「ん? そうだよ。分かるのかい?」
「だって、お兄ちゃんのお手お父さんと同じだもん!」
「へぇ、お父さんのお名前は聞いてもいいかな?」
「私の娘だ」
「!!、エヴァ様!」
「お父さん!」
 子供が近付いてきた人物に抱き着き抱き上げられると嬉しそうに父親に甘え始める。その父親はエヴァであり、フェランドは驚いて立ち上がると急いで敬礼し礼を尽くす。
 娘に子供達と一緒に遊んでおいで、と告げて遊びに行かせるとエヴァはフェランドに優しく微笑んで楽にさせると近くにあったベンチに座る様に促してきて2人は並んで座る。エヴァは遊んでいる子供達の姿を見守りながらもフェランドにある話をし始める。
 その頃のガイアは読書に集中していたが来訪者の訪れに気付き顔を上げる。椅子から立ち上がりドアに向かえば来訪者を迎え入れる。
「レイナル?」
「よっ、ちょいといいかい?」
「どうした? お前は今日から遠征の準備だろう?」
「その前にお前に知らせておくべき事を伝えておこうと思ってね」
「知らせておくべき事? お前がそういう事なら大事な事なんだろうな」
「実は今噂されている内容を知っているか?」
「噂か?」
「スジエルは魔神アガルダ封印の準備に入ると言う噂だ」
「!!」
 来訪者はレイナルと呼ばれる金糸の髪を三つ編みにして後ろに流した少し童顔である青年であった。その青年はガイアの元に訪れて今本部内で囁かれている噂についての情報を伝えに来たのだと告げた。
 そして、本部内で囁かれている噂をレイナルから聞いたガイアは驚きを隠せないがそれでもレイナルは続ける。するとレイナルはガイアの前に何かを差し出す。
 それはガイアにも見覚えはあった、騎士達に配られるのは重要な任務の時に与えられる防護壁を生み出すマナの宝珠であった。それをレイナルが持っているという事はそういう事だというのはガイアに告げる。
「それじゃスジエルは何か重要な任務を与えたんだな」
「可能性として上げられているのが魔神アガルダの封印に関する事なんだろう。それは殆ど間違いないと思うんだ。俺の部隊はラーデルス国に向かう事になった」
「ラーデルス国……魔神アガルダの支配下においては重要国じゃないか」
「だからだろう。ガイア、この先の事を考えて色々と行動をしないといけないと思うぜ。お互いに生きて帰ろう。そして、また祝宴を開こう」
「無事にな」
 レイナルはそれだけ告げて立ち去っていた。そして、ガイアの元に雑用係の少年騎士見習いがやってきた。
 少年から伝えられた内容はアベルゾとユリウスのスジエルが次に行う任務についての軍議に出て欲しいと伝えてきた。それに従ってガイアはアーマーを着込んで軍議が行われている作戦会議室に向かった。
 ガイアの胸の中には不安があったが、それでもどんな事実があったとしてもそれはまだガイアの目の前に現れている訳ではない。ガイアの脳裏にフェランドの笑顔が浮かんだのは自然だろう。
「それじゃエヴァ様はアルフォード団長とこのスジエルを取り返す為に家族を故郷に……?」
「そうだ。アルフォードには優しい妻と聡明な息子がいた。だが私達は世界樹の希望を担う為にスジエルを奪還する事を選んだ。その結果……最愛の家族を俺達は犠牲にして奪還に成功した。今私とアルフォードには新しい家族がいる……彼女達は犠牲になった家族を失った事も受け入れてくれて今傍にいる。だからこそ、私達はこのスジエルを守り通す為に剣を振るう事を忘れない」
「……エヴァ様、俺は騎士として大事な何かが欠けているのでしょうか。俺はこの騎士となったのは運命の転生者として産まれたからです。でも、俺個人の心にはどうしても認めれない感情があるのです」
 ガイアへの想い、転生者の輝きの代価としての自分の命を捧げる事、そして同時に自分の未来への不安がある事。だが、それは転生者として産まれた時に覚悟をしていた事、自分は一体どんな感情を持って自分は縛られているのかと考える事である。
 エヴァは静かにフェランドの言葉を聞いているが、それでもエヴァには分かる合える内容でもあった。そう、今のフェランドの姿は昔のエヴァと重なる部分があるからだ。
「フェランド、君はもう少しだけ自分に素直になってみるといい」
「自分に素直に……なる?」
「君は恐らく転生者のしがらみに絡め取られて身動きが出来ないだけで、本当の自分が持っている心に気付いている。その心に素直になってみればいい、それが君に未来を与えるだけの大きさになってくれる」
「……」
 エヴァの言葉にフェランドは静かに考える。それだけの事をエヴァも体験しているからこそ自分に向けてくれたのだろう。
 そう、エヴァもこの感情に向き合ったからこそ世界樹の希望を担った騎士である事を。フェランドにはまだ時間を掛けないといけないんだろうがエヴァにはある希望を見出していた。
 本部ではアベルゾとユリウスとガイアが作戦会議室で次なる任務を決める為に話し合いをしていた。それは真剣ではあったがまだ決定的な話し合いの結果が出せてない。
 そこに訪れたのは総団長アルフォードと見慣れないアーマーの騎士2名の姿。アベルゾとユリウス、ガイアは深々と礼をしてからアルフォードの言葉を待つ。
「作戦会議を進めている所ですまない。彼らの意見も聞いてもらえないかと思って連れてきた。彼らは白の騎士団から派遣されてきた騎士達だ。サベールナ、イエリッス、君達の意見を聞かしてやってほしい」
「はい、私は白の騎士団のサベールナと申します。私は白の騎士団の中では団員達と団長を橋渡しする為の副団長を務めております。まだ未熟ではありますが皆様のお力になりたく思います」
「俺はイエリッスと言います。サベールナの右腕として今回皆様の為にお力になりたく参上致しました。我々は白の騎士団からの命令ではありますが、一個人として希望して参上した事をお伝えしたい」
 白の騎士団から配属された騎士のサベールナは青色の髪を肩にまで伸ばして顔付きは少しだけ青年の顔付きと言うよりもまだ少年のように見えた顔付きであった。それに対してイエリッスは緑の髪を耳までの長さを維持して、右頬に小さな爪痕が沢山付いている顔立ちをしている。
 その2人を従えているアルフォードはアベルゾとユリウス、ガイアに静かに話し始める。そして、その話しにはある決意が秘められていた。
「スジエルの地下に巡るマナを使って魔神アガルダを封印する作戦を考えている。それは決して楽な道ではない、だが……今こそ我々は立ち向かう為にもここで後世を残す為に立ち上がるべきだという事を踏まえてな」
「我々白の騎士団はこのお考えの元、この騎士団を「レジェース」と名付けて、白の騎士団はレジェースに統合されて同じレジェースとして活動していく事になります。だからこそ、我々は目指すべきなのです……伝説の地と呼ばれる「ワーリンス」を生み出すのです」
 伝説の地ワーリンス、長い時間を掛けてマナが形成した争いのない平和の楽園と言われる大地の事。だが、それを成す為には今オルガスタン大陸を覆う魔神アガルダの力は邪魔であり、あってはならない事なのである。
 アベルゾとユリウスはそのワーリンスの形成をする為に必要なのはオルガスタン大陸の平和が絶対なのも理解はしている。それはガイアも同じだった。
 作戦会議で次の任務が決まったのは夕方頃、正式な決定と辞令が出るまでは少しの間の休息ではあるとアベルゾからガイアとユリウスに話した。そして、ガイアは自室に戻って隣室の住人であるフェランドの部屋のドアを見つめた。
「ガイア」
「フェランド、どっかに行っていたのか?」
「市街地を散歩していたんだ。ガイアはなんだか疲れているね?」
「次の任務を決める為に作戦会議に参加していたんだ。少し話さないか?」
「うん、いいよ。それじゃどっちの部屋に行く?」
「フェランドの部屋でいいか?」
「どうぞ。それじゃ椅子準備する」
「悪いな」
 フェランドの部屋に入るとガイアに椅子を用意してベッドに座るフェランドは少しスッキリした顔をしているのをガイアは気付く。ガイアの視線に気付いてフェランドは視線を合わせて首を傾げてどうしたのかと視線で語り掛けてくる。
 ガイアはフェランドにそっと手を伸ばして頬に触れるとフェランドはキョトンとする。それがガイアの心に深い波紋を浮かべていた。
「ガイア?」
「あのさ……フェランドは俺の事をどう想っている……?」
「えっ……?」
「……俺は見ているんだ……コーネルドとガラハッドがお互いに持ち合わせていた感情を……重ねた記憶を」
「っ」
「俺は……お前の気持ちを知りたい」
「……」
「どうしてもお前だけの気持ちを独占したいと、そう思ってしまう。これはコーネルドと同じ気持ちだって事は理解している……」
 ガラハッドの転生者であるフェランドはその言葉に心当たりは充分にある。だからこそ、ガイアの言葉を戸惑いながらも真剣に向き合っている。
 もし、この先の運命を共に果たしていく為にもお互いの心を知るのは必要な事ではある。そして、フェランドはエヴァに言われていた言葉に従おうと思うのも運命なのだ――――。
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