騎士の勇気・世界樹の願い

影葉 柚希

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1章

6話「オルターナ国内の現状と指導者」

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 ガイアとフェランドはアベルゾ達と共にオルターナ国の国内に入ったと同時に国内の惨状に息を飲む。至る所に国民だろう死体がぶら下げられていたり、張り付けられて見せしめの為の姿で放置されている光景が広がっている。
 モンスターの姿は今の所は確認はされていないが警戒はしっかり持つ様に、そうアベルゾはガイアとフェランドに言い聞かせていた。2人は先導するルーデリッシュの後ろで剣をいつでも引き抜ける様に構えはしていたが、この異様な光景に顔を歪めるだけの事はしていた。
「真面目に魔神アガルダは残忍って事だな……」
「いや、それだけで済ませれるものじゃない……非道過ぎる存在だ」
「この程度はまだ可愛らしいですよ。スジエルはこれよりもまだ酷かったと聞きます。ですが、これはこれで精神的に悪影響を与えますね……」
「それだけで済むならいいんだがな」
 ルーデリッシュは目前に見えてきた広場に通じるルートに差し掛かった時、愛用の武器であるバトルアックスを背中から取り出す。それと同時にガイアとフェランド達は剣を引き抜く。
 広場には新しい国民の姿があった、まだ生きている。それを助けるのをルーデリッシュに続いて入ったアベルゾの言葉でガイアとフェランドも従った。
「頭を下げろ!」
「きゃぁぁぁぁ!」
「フェランド君は右側! ガイア君は正面を! 他の者達はルーデリッシュと共に撹乱行動を!」
「はぁぁ!」
 ガイアとアベルゾが正面を突破して張り付けでまだ息がある国民を救出しに、フェランドと2人の騎士が右側から広場に入り込んでくるモンスターを足止め、ルーデリッシュと残りの騎士達が撹乱しながら広場中を馬で駆け回る。素早い行動にモンスター達の数も減り続け、最後の1匹が切り捨てられると国民達はガイアとアベルゾの手により救出されて生きている事に涙する。
 だが、国民達はガイアとアベルゾにまだ他の地区で同じ事が起こっている事を伝えると、モンスターがいないルートを通って国外へと脱出していく。アベルゾはガイアと共に戻ってきた騎士達と共に他のエリアへと向かった。
「あそこもだ!」
「行きますよ。目的はモンスターの殲滅と国民の救出です!」
「切り開く!」
「背後は俺達が守ります!」
 他のエリアに到着すると同時にモンスターの大群に突っ込んでいくルーデリッシュの背後を守っていたのはガイアと数名の騎士。アベルゾはフェランドと共に国民達を避難させる為に退路を切り開きに掛かる。
 しかし、思っていた以上にモンスターの抵抗が激しく退路も迎撃も時間を要していた。国民の動きが恐怖により固まっているのをモンスターが捉えて襲い掛かる。
 それをフェランドが身体を滑り込ませて塞ぐと腕のアーマーがピシっと亀裂が入ってもモンスターの攻撃を受け止めている。国民達はもはや嬲り殺されるのを待つだけの状態になってしまっているのがアベルゾ達の焦りを生み出す。
 このままでは全滅か国民の全滅を生み出すのがそう遠くはないとアベルゾは考えていた。そして、モンスターの増援が入った瞬間アベルゾは撤退の言葉を口にする寸前だった。
「行け! 騎士達を補佐するんだ!」
「!!」
「なんだ!?」
「モンスターは俺達義勇軍として貴方方を支援する! 国民を逃がしてくれ!」
「こんなに武装した人々が……!?」
「……退路を切り開きます! ガイア君! フェランド君! モンスターを切り伏せて下さい!」
 アベルゾはすぐに指示をガイア達に出して、新しく入ってきたモンスターの増援を切り崩していく。義勇軍だと思われる人間達によってそのエリアのモンスターは殲滅させていかれる。
 少しして、モンスターを切り伏せて退路を確保したガイア達の誘導で国民達は無事に逃げ出せたがガイア達は義勇軍の人間達をまとめている人間に気付く。その人物はオルターナの色だと言われるオレンジ色を持つ肩にまでの長さを持つ髪を風に靡かせて、額にバンダナを巻き、右手には長い刃渡りを持つ剣を持ち、スラっと背を伸ばした男だった。
「彼が義勇軍の指導者のようですね」
「なんだろう……目が離せない」
「人を惹き付けるカリスマ性のオーラを持っている、そんな感じだな」
「失礼。貴方方はもしかして騎士国、スジエルの騎士様達では?」
「はい、我々はスジエルを母国に持つ騎士団の騎士でございます。貴方は?」
「俺はユリウス。このオルターナの魔神アガルダ抵抗軍のリーダーです」
 ユリウス、と名乗る男はアベルゾやガイア達に微笑みを浮かべてはすぐに空を見上げた。それに従ってオレンジ色の髪がパサリとユリウスの顔を隠す。
 ガイアはユリウスの右手の甲に刻まれている模様に気付く。それはオルターナの国内では王族のみに出ると言われている王家の証の模様。
 アベルゾも同じ様に気付いたのだろう、ユリウスがオルターナの王族で最後に残った王族だとも。ユリウスはガイアとアベルゾの視線に気付き苦笑を浮かべて右手を握り締める。
「オルターナの王族はもう俺以外は存命しておりません。でも、俺がこのオルターナを取り返さないと死んでいった者達の魂を成仏させてやれないですから……」
「抵抗軍として魔神アガルダの支配から取り返すのにリーダーとして立っているのです。それだけでも死した者達の誇りになりましょう。ユリウス様、我々はオルターナ救出を命じられております。お力になれるかと思いますので共に戦いましょう」
「ありがとうございます。では俺達のホームにご案内します。正直そんなに居心地いいホームではありませんが……」
 ユリウスは苦笑しながらゆっくりとアベルゾ達を抵抗軍のホームへと案内し始める。案内されたホームは崩れた教会の中を進み、隠し階段を下って地下に広がる空間の中にあった。
 アベルゾとルーデリッシュを先頭に、ガイアとフェランドが中間に位置しながらホーム内部に入っていきそこに滞在している人間の多さに驚きを見せる。多くはないのだ……数えて30人もいない。
 それなのにモンスター相手に有利に戦っていた抵抗軍を見ていたガイア達は衝撃を隠せないでいる。ユリウスは仲間達に声を掛けて出迎える者にガイア達の事を紹介する。
「それではスジエルが立ち上がったのは事実だったんですね!! 我々もいよいよ立ち上がる時ではありませんかユリウス様!」
「ここで立ち上がりスジエルと共に魔神アガルダを倒すべき動きましょう!」
「皆、焦らないでくれ。彼らはまだこのオルターナを救出する為に派遣された騎士様達です。まずはこのオルターナを取り戻す事が必要だ。俺達はこの解放戦でオルターナを取り戻す。そして、スジエルと共に魔人アガルダを撃破する為に立ち上がる!」
「「おぉー!!」
「ユリウス様がこのオルターナの最後の希望、という事ですね」
「凄い……」
 ユリウスが仲間達を落ち着かせて士気を上げれば仲間達は解放戦の為の準備に取り掛かっていく。それを見ていたアベルゾはユリウスに何かの作戦を考えていると思っていた。
 ユリウスは静かになったホームの中でガイア達の前にある地図を広げて見せる。それはオルターナ城の城内を記した地図である。
 それにユリウスが静かに指先を這わせてガイア達に話し始める。ガイア達はその話を聞いてオルターナを支配する魔族の詳細を知る。
「このオルターナを魔神アガルダから任されている魔族は「デデル」と呼ばれる魔族です。その身体内部には猛毒を要しており、どんな攻撃を受けても猛毒を吐き出して距離と時間を稼いで回復をしていると思われます。このデデルを撃破しなくてはオルターナを取り返す事は不可能です」
「このデデルとは何処にいるのですか? 城内でも定石だとしたら王の間だとは思うのですが……例外もありますからね」
「デデルは城の地下にある「魔力の間」にいると思われます。この魔力の間はオルターナの地下に流れる魔力の水を組み上げている部屋です。ここにいる間は撃破は不可能だと思います。どうにか誘き出す必要があるのです」
 デデルの事を話すユリウスも何回か戦った上での経験談を話しているのだろう、険しい表情を浮かべている。アベルゾとガイアはデデルの情報を聞きながら静かに考え込む。
 フェランドはそんな2人の姿を見ながらもデデルという魔族の事を想像してみるがそれはあくまでイメージでは限界がある。ユリウスは地図の上をスススッと指先を動かしてルートを示す。
「このルートで城内には入り込む事は出来ます。幸いとでも言うべきか城内にモンスターはいない。いないですが、デデルの魔力が入り込んでいるので気を抜くと毒素で身体の機能を奪われます」
「それは同時に毒素だけでもどうにか出来ればこちらにまだ手はある、と言う事ですね?」
「えぇ、デデルは猛毒魔族と言う程に毒を使います。対毒耐性を持って行けばある程度は対応出来るかと。とにかく今回の解放戦でデデルを倒せないと抵抗軍も終わりです。オルターナの火を消される事でしょう」
「ガイア、俺達の力は使えないのかな?」
「それも今考えている。だが、魔力の間にいる間は使えないだろうな」
「誘き出すのに何かいい方法あればいいんだけれど……」
「それに関しては少し心当たりがあります。デデルはその美しい外見を見るのを好みます。それを逆手に取ってデデルの外見を醜く出来れば怒りで我を忘れて出てくるのでは、と予想出来ます」
 ユリウスはデデルが寝室に使っている元王妃の部屋だと思われる場所をトントンと指先を叩く。アベルゾとガイアの知力が活かされ始めるのをルーデリッシュとフェランドは大人しく見守っていた。
 そして、軍師騎士としての知識から導き出される戦略をアベルゾが提案し始める。ガイアがその戦略に出来る方法を付け足す様に後から話をし始める。
 フェランドはそんな2人を見守りながらも自分の中にある転生者としての記憶に残されている感情を思い出される。その感情は本来ならば向ける相手が異なっている筈なのだとフェランドは知っている。
 だが、それはどう頑張っても同じ転生者であるガイアへと向けられてしまうのだ。フェランドの中に微かに生まれるこの感情をフェランドはどうするのだろうか――――。
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