永遠の愛を誓う吸血鬼のアナタ

影葉 柚希

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3章

18話「運命の女性と運命の再会」

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 ルグはここ数日リュミの追っている魔物の情報を集める事に集中していた事もあってロクに休みを取らないまま過ごしていた。だが、元々激務ではない通常の執務も含める為に身体には少し疲れが見え始めている頃合いにヘルグから不思議な手紙が届いていると聞かされて首を傾げていた。
「それで、差出人に心当たりはない……っていう手紙なのかい?」
「そうなのですが、過去に遡りますと記録があるのではと思い探りましたが記録には無く。アベリア様の経由でもないので明らかに他人ではあります」
「そうなのか……。中身は検分は済んでいる?」
「はい、魔力が使われた形跡はございません。ただ、封の印が我々吸血鬼の一族に伝わる印なので同族だとは伺い知れます」
「ふむ。開けてみよう。手紙を」
 ヘルグはトレーに乗せた手紙を差し出す。トレーの上に鎮座する手紙には確かに魔力は感じないしなんなら通常の人間達がやり取りする手紙と同じ代物を使っているのが一目で分かる程の代物だとも分かった。
 裏に封をしている蝋に押されている印を見てルグは微かにレッドアイを見開く。その印は過去にヘルグが調べても出てこないだろう印だとすぐに気付いた……古い友人が使用している印だからルグと生前の父以外は知らないだろうからだ。
 ルグはペーパーナイフを取り出して丁寧に封を開けて行く。中に入っていたのは数枚の手紙と1対のピアス。
「おや、そのピアスは……」
「この差出人はヘルグ達でも知らない訳だよ。これは賢者の印で、過去にお父様が懇意にされていた方の印だ。その方からの手紙なら問題はないだろう。一体このピアスと手紙にはどんな理由が書かれているのか……」
 手紙を開く前にピアスを机に置いて眺めてから手紙に視線を落とす。そこには達筆ではあるものの読みやすい綺麗な文字で挨拶から始まりルグを気遣い言葉が綴られていた。
 ルグは手紙の内容を読み進めている間にリュミとアベリアが部屋に訪れている事にも気付かない程に集中していた。簡潔に書かれている内容ではあるが近々ルグに会いに来ると書かれており久々の再会を心待ちにしている、と書かれていたのである。
「……」
「あの……兄さん?」
「邪魔をしただろうか」
「ん? あぁ、2人ともどうかしたのかい」
「兄さんに休憩用の紅茶を淹れたからリュミ様もお誘いしてお休みをお誘いに来たの。どうかしたの?」
「古い友人が近々会いに来てくれるという知らせをくれたんだよ。大事な友人だから出来る限り時間の許す状態で出迎えたい」
「それだけルグ氏の大事な友人なんだな。俺の方は時間を割かないでいい。まだ焦ってもいい結果は得れないと分かっているし、自分の腕前を鍛える必要もある」
 リュミの言葉にルグもお礼を小さな声で告げると椅子から立ち上がり壁際にある本棚に近寄り一冊の本を取り出す。その本を開くとアベリアは不思議な感覚を感じてキョロキョロと部屋の中を見回した。
 リュミは自分の愛用のシグナルス種の武器が光を帯びているのに気付き、視線を武器に向けて何事かと注意深く確認していた。ルグが本から1枚の写真を取り出すと本を閉じて本棚に本を戻すとリュミの武器も光が収まり、アベリアも不思議な感覚から解放される。
「何か不思議な感覚を感じたんだけれど……」
「俺のシグナルス種の武器にも光が灯った。何が起こったんだ?」
「この写真を見てくれるかな? 今度会う友人と生前の父が撮った写真だよ」
 ルグが机に置いた写真をアベリアとリュミが覗き込む。そこにはシルバーの肩までの長さを持ち、ゴールドアイを持つ美青年とルグとアベリア父が写真になってるのが見られた。
 アベリアはその美青年の姿は知らないが、父の姿に思わず瞳を細めて懐かしそうに見つめる。リュミは父親の姿と青年の姿を見て何か感じる部分を持っていた。
 ルグが写真の上にコトリとある物体を置いて手を乗せる。その物体は写真や絵画の中に封じられた記憶を映像化する事の出来る写映機と呼ばれる古代のアーティファクトであった。
「この写真の記憶を2人に見せてあげよう。お父様の声が聞ける唯一の記憶だ」
 ルグの魔力が写映機に注がれて写真に魔力が流れ込む、そして同時にゆっくりではあるもの写真に込められた記憶の一部がアーティファクトの力により映像化されて、会話の一部が聞こえてくる。アベリアもリュミもその会話に耳を寄せた。
『君とこうして写真を撮るとは思ってもいなかったよ』
『私も同じだ。だが、君の様にルデス大陸を旅する賢者の事を記憶に残すよりこうして形にして残す事は大事だと思ってね。息子達が成長したら君に教えを乞う事もあるだろうから、こうして君の姿を残すのにも意義はあるのだよ』
「お父様のご友人様はご賢者様なんですか?」
「賢者と言うならばそれなりの知識人だろう? 旅をしているのであれば今回このアルード地方にやってくるのか」
「彼の名はガーリーンと言って、アベリアが産まれる50年前にお父様に会いに来た時の写真だ。この頃のガーリーンは賢者として各地の同胞達の元を尋ね歩いていたと聞いている。その賢者であるガーリーンがこの時期にこのアルード地方に来ると言う事は僕達の運命について何か知り得た事があるんだと思っている」
 ルグの魔力が収まり写映機の力が止まり映像化も終わるとアベリアとリュミはルグに視線を向ける。そこにヘルグが来客を知らせにやってきた。
「ルグ様、首都アルードから魔法道具屋のご息女が参られております」
「あぁ、頼んでいた魔法道具が出来上がったのかな。エントランスに、行くよ」
「それではアベリア様とリュミ様はこのままここでお待ち下さい。ご案内します」
 ルグは2人に先に休んでいる様に告げてエントランスへ向かう。まだ降水期のアルード地方では馬車の移動が主たる移動手段であるが、エントランスで待っていた魔法道具屋の娘は雨具をシレッダに預けて、跳ねている黒髪を気にしながらルグの到着を待っていた。
「お待たせしたね。領主のルグ・ディースだ」
「あ、初めま……して……っ!」
「君、は……」
 振り向いた娘は黒髪のセミロングを大きく揺らし、黒色の瞳を大きく見開いてルグの事を見つめる。それはルグも同じで娘の姿を一目見た瞬間に脳裏にある映像が浮かび上がって困惑を生んだ。
 会った事があるとの感覚と、このどうしようもない程の愛おしさを感じる心にルグはいきなりの出来事に戸惑いと困惑が入り混じって息が詰まっていた。娘の方も同じなのだろうが幾分か衝撃は落ち着いているのか不安げに白い肌の右手をルグに差し伸べてフワリとルグの右手に触れた瞬間だった。
「「!?」」
 触れた瞬間に2人の脳内に知らない筈のお互いの事が流れ込んでくる。膨大な記憶で理性が圧迫されている筈なのにルグも娘も、この記憶にどうしようもない愛情を感じていた。
 最後に2人の脳裏に聞こえてくる言葉……それを聞いた瞬間に娘はルグの名を。ルグは娘の名を無意識に言葉にしていた。
「ルグ……」
「レイン……」
「「愛している……」」
 交わる事の無かったかも知れない運命。そうじゃない運命かも知れない。
 でも、ここで結ばれるして結ばれる2人が再会という名の出逢いを果たす。娘の名を口にしたルグは戸惑いながらも娘、レインの身体を両腕で包み込んだ。
 レインも戸惑いながらもルグの腕に包まれて身を預けている、この出逢いを、再会は必然だったのだろうかとルグは落ち着かない心臓の音を聞きながら腕の中で身を預けているレインを抱き締めるのだった。
 部屋の中でリュミと待っていたアベリアはリュミに旅の出来事などを聞きながらルグの事を待っていた。リュミとこうして色々な事を話して知らなかった事を知る事が楽しいと感じているアベリアの背筋に電気の様な痺れが走って、アベリアはビクッとして呆然としてしまった。
「ミスアベリア?」
「あっ……何か、何か電気が走った様な衝撃を感じたのですが……」
「電気が走った様な衝撃? ルグ氏に何か起きたのだろうか」
「分かりません。でも、嫌な衝撃ではない気がします」
「失礼します」
「ヘルグさん、兄さんは?」
「それが……」
 ヘルグはエントランスで魔法道具を届けに来た娘とルグが私室に向かったと告げて、アベリア達に待っていて欲しいと伝言を残した事を伝えに来たのだと告げる。アベリアもリュミもルグがその娘に何かあったのだろうかと心配になったが、ルグの私室には限られた者しか近寄れない状態になっているとヘルグに聞かされて待つしかないと知る。
「人間の女性に何かあったのでしょうか?」
「それ以外にルグ氏が私室に連れて行く理由はないだろうとは思うのだが……。まさか血を?」
「それはないですよ! 私達は確かに人間の血を食事にしていた時期もありますが、今は共存の時代を歩む事になってからは動物の血とかで喉を潤す方法を確立しています。兄さんに限って女性の血を求めるなんて……信じたくないです……」
「アベリア様、リュミ様。少しよろしいでしょうか?」
「なんだろうか?」
「なんですかヘルグさん」
「ルグ様はその娘の名を知っておいででした。何か会う前に変わった事はございませんでしたか? 魔力の流れに乱れがあったとか」
「一切その傾向は見られてない様に思う。普段通りにしていたと思うが……」
「リュミ様の言う通りです。ガーリーン様の事とお父様の事をお話してくれた以外に何も変わった事はありませんでした」
「それでは一体何故娘の名を知って私室へお招きしたのでしょうか……」
 ヘルグもアベリアもリュミも疑問でしか分からなかった。でも、そんな元になっている2人はルグの私室でベッドに隣り合って座り合って寄り添って時間を過ごしていた。
 まるで離れていた間の時間も取り戻すかの様に離れる事を拒んでいるかの様にも見えていたが、ルグはこのレインという娘の事が愛おしくて仕方ない状態に陥っていた。そして、レインもまたルグの事を離すのが嫌だと言わんばかりにルグの手を服を握り締めて寄り添って抱き合っている状態になっていた。
 運命の相手と運命の再会。何がこの運命をもたらしたのか? そして、この運命がルグとレインの運命にどう影響するのか?
 愛する者達の歴史の物語の幕開けが始まって行く――――。
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