永遠の愛を誓う吸血鬼のアナタ

影葉 柚希

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2章

14話「旅する者との出逢い」

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 アベリアはルグと暮らし始めて最初にこの館の不思議な現象を知る事となった。魔力で構築されているのだろうかと思われる位に至る物に意思が宿っているので、勝手に掃除をする事もあったり、時に会話まで出来てしまう道具たちが動いている事に。
 アベリアの私室は日当たりも良くて、そして同時に風通しもいい。だからこまめに掃除に入る道具たちを使ってメイド達により私室は綺麗に保たれていたのもそんな背後風景があるからだと言えるだろう。
「んぅ……んー、ここは……」
「アベリア様、少しお休みになられて下さい。朝からずっと同じ作業の連続でお疲れになられてしまいます」
「大丈夫ですよ。私こういう作業は好きなので。シレッダさん、兄さんの好みに合うでしょうかこれ」
「マイロードはアベリア様のお手作りの品を大事にされましょう。ご安心下さい」
 メイドのリーダーも務めている古参の使用人でもあるシレッダはヘルグがルグに、シレッダはアベリアに側近として仕える事になった。そもそも、まだ館に来て日が浅いアベリアの事を気遣ってやれる様にとルグがヘルグと色々と話し合ってシレッダをアベリアに付けたのだが。
 そんなアベリアとルグの生活は思っていた以上に平穏で、館傍の村からもアベリア歓迎の品々として村の特産物であるリンゴのジャムを沢山贈られた。アベリアがルグの仕事を手伝う事はあまり許されないけれども、ルグが手の離せない時はこまめに書類の整理や水分の準備はヘルグに習いながら身に着けていく。
「兄さん?」
「どうしたんだい?」
「村に旅人が来ていると村へ買い物へ行ったら教えてもらって。その旅人さん、兄さんに会いたいと話しているって」
「旅人か。悪くも良くもこの時期に旅をするとは、少し風変りな旅人さんの様だね」
「何かいけない理由があるの? この時期って言うのは」
「このアルード地方の降水期なんだよ。だからメイド達が毎日洗濯をするのを嫌がっているだろう?」
 ルグの右手がアベリアが淹れた紅茶が注がれているカップに伸びる。そう、今ルグとアベリアが住むアルード地方はまさに降水期と呼ばれる雨が降り続ける時期に入っており、この時期がなければアルード地方の植物や生物たち、木々たちにとっては死活問題へと進展してしまう恵みの時期でもあるのだ。
 このルデス大陸を旅している者ならばこの降水期を知らないとは思えない。それも意にせずに旅をしているのであれば話は別になるのであるが。
 アベリアは窓の外を眺めてシトシト降り続けている雨の様子を伺う。ルグとアベリアに来訪者の訪れが聞こえてきたのはそんな時の事だった。
「失礼致します。村より旅人様がお見えでございます」
「噂をすればなんとやら、とはこの事か。エントランスに、行くよ」
「私も行く。気になるもの」
「それではエントランスホールにお通し致します」
 若い執事の言葉にルグは執務の椅子から立ち上がり、アベリアを連れて仕事部屋を後にする。アベリアは兄であるルグの隣を歩きつつルグの左手を握る、そっと。
 ルグはそんなアベリアの行為を微笑みながら受け入れて同じ様にそっと握り返す。そして、そっとアベリアを引き寄せて囁いた。
「あんまり可愛い事をすると、離れたくなくなるから控え目にね?」
「に、兄さん……」
「夫婦とでも間違われたら嫌だろう? アベリアの恋する相手かも知れないのにお客様は」
「そんな事……」
 ない、とはハッキリ告げようとしたアベリアにルグは長い左手人差し指をアベリアの唇に乗せて言葉を塞ぐ。いつかはアベリアにも最愛なる存在は必要だとルグは静かに伝えておく。
 兄の行為に隠された想いをアベリアはまだ感じ取れるだけの時間が経過している訳じゃない。だから、少しだけ頬を膨らませて拗ねてみせるのが関の山であった。
 エントランスホールに入ってみるとフードを被った1人の存在があった。窓の外を眺めたまま背を向けているが、身長的に男だとはルグもアベリアもすぐに分かったのでルグは階段を降りながらアベリアを少し後ろに移動させる。
「お待たせしたようだ。僕がこのアルード地方の領主であるルグ・ディース。アナタは?」
「ん、俺は……旅をしながら各地の魔物退治を請け負っているハンターのリュミ、リュミ・レイスと言う。話をさせてもらいたい」
 リュミ、と名乗ったフードを被った男は静かにフードを脱ぐと蒼色のウルフカットをして、パープルアイを持つ美青年である顔立ちをしていた。その美貌さにはアベリアも少しだけ注視して見つめてしまった程。
 リュミはルグに旅の目的であるある魔物についての情報を持っていないか? と聞きルグはどんな魔物かの特徴を問い掛ける。リュミは一枚の紙を取り出してそれをルグに差し出す。
 紙に書かれていたのは最近このアルード地方の領地に侵略してきている知能がそれなりに高い魔物の特徴が書き込まれていた。ルグはすぐにヘルグを呼び寄せて領地内から集まっている魔物の情報をまとめている書類を持ってくる様に指示を出す。
「どうやら領主様はご存知だったと言う訳か」
「一応なりにも領主として情報を集めていただけだよ。それに君の実力は知らないが、倒してくれるのであれば領主としてはありがたいしね」
「確実に狩猟する事は約束する。だから数日村にいる事を許してもらいたい」
「君さえ良ければこの館の空き部屋に寝泊りするといい。宿代も取るつもりはないから好きに使ってくれていい」
「……何か裏がありそうだが?」
「なに、僕達に旅の話を聞かせてもらえればなと思ってね。君のその手に持つ武器は……シグナルス種だね?」
「……分かったよ。この武器は確かにシグナルス種の武器ではある。それだけの代価は……支払っている」
「だからこそ、君の話を聞かせてもらいたい。僕の為にも」
「領主様の為にも?」
「あぁ。僕の運命を変える為にも」
「兄さん……」
 ルグの言葉にアベリアが悲痛な顔をしながら胸の前で両手を組んで息を詰める。どうしてだろう、どうして兄であるルグはこんなにも運命に縛られている必要があるのだろう、と考えてしまう。
 そして、リュミとそのリュミの持つ武器が兄であるルグにとっては何かしらの意味を持つ事をアベリアは何となく察していた。シグナルスと言う武器種に何か意味があるのだろうと。
 アベリアがシレッダを呼んでリュミの部屋の用意をお願いしていると、ルグはアベリアを紹介する様にリュミの前に肩を抱いて連れ出す。リュミは優しく、そして綺麗な笑みを浮かべると一礼する。
「この子は妹のアベリア。最近アルード国から帰ってた自慢の妹なんだ。君にも仲良くしてもらいたい」
「あ、初めまして。アベリア・ディースと言います。宜しくお願いします」
「初めましてミスアベリア。兄妹揃って人間とは違った魅力のお持ちの様だ。少しの間ではありますがお世話になります」
 リュミの前にススッと一歩出て頭を下げて挨拶を交わしたアベリアは、リュミの右手首にされている革の2連ブレスレットに自然と視線が行く。男性がするには少し地味の様なアクセサリーではあるのだが、魔力を感じるからだ。
 アベリアはなんとか平然を装ってルグの背後に戻るとルグとリュミの会話を黙って聞く事に徹した。まずは食事をしてから旅の話をする、でまとまり用意が出来た部屋にリュミを案内していくメイド達もリュミの美貌にはヒソヒソと話をする程だ。
 一度仕事部屋に戻るルグとアベリアは仕事部屋で待っていたシレッダとヘルグを下がらせてアベリアはルグに問い掛ける。ルグの考えを知りたかったのである。
「兄さん、あのリュミって人は……信用しているの?」
「腕前は確かだろうし、信頼に値する人間だろう。まぁ、本心を聞き出すまでは完全には信頼しないけれどね。所詮、人間だ」
「……」
「アベリアの心には大きな存在になりそうかい?」
「だから! 兄さんはどうしてそんな風に私をからかうの? 私は今は恋愛とかしているつもりはないんだよ? 兄さんが一番なんだから!」
「それでも、あのリュミという人間はアベリアの心には何かしらの変化をくれたのではないかい?」
「それ、は……」
 違うとは言えなかったのは、アベリア自身が変化を感知していたからである。それをルグはアベリア本人よりも充分に察知してこうして言葉にしているのあった。
 食事の時間までは少し間がある、そこでアベリアはルグの執務に使われていた書類の整理を終わらせに取り掛かる。ルグはアベリアにある話をし始めた。
「このルデス大陸の4大エレメントは分かるかな? 錬金術師なら分かるとは思うけれど」
「炎・水・風・大地、だよね?」
「そう。それの下位種と上位種の存在は?」
「下位種がコロポックル等の精霊が属していて、上位種はマナと呼ばれる魔力で身体を形成している非人型の存在、だとまでしか……」
「そこまで分かっていればいい。その上位種を僕達吸血鬼一族は代価を支払って使役しているのは知っているね? その上位種や下位種を総称してマナール一族と呼ぶ。そのマナール一族の武器をあのリュミは使っているんだ」
「つまり……魔力の塊でもあるって事? あの大剣が?」
「そういう事だ。だから……使い手はそんなにいない。そもそもマナール一族の住む世界とこのルデス大陸がある世界とは別離した世界だとも言われているからね」
 ルグの言葉にアベリアは自分なりの解釈をして知識としていく。そしてルグの言葉は時にアベリアに知識以上の意味を持たせて刻まれる。
「シグナルス種と言うのはマナール一族の中でも支配級の威力を持つキング種の力を秘めた武器種だ。それを使うにはどの一族だろうと身体の一部を代価に支払わなければならない。だが、あのリュミは目立った外傷はなかった。さぁ、アベリアここで問題だ。僕がリュミの何を気にしてこの館に招き入れたか……考えてごらん」
 ルグがそう話を締めるとアベリアはポカーンとした表情を浮かべてルグの言葉を聞いていたが、すぐに我に返り色々と考え込み始める。そして、ルグはそんなアベリアを見つめながら小さく微笑んだ――――。
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