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1章

4話「子供達から知らされた現状」

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 ヘルグ達に1週間の休暇を与えて、1人で過ごしているルグは館の入口に立ってソワソワとしていた。2階の踊り場には犬のように座っているケルベロスがソワソワしているルグを見下ろして尻尾が揺れている。
 ルグがこうしてソワソワしているのには理由がある。ヘルグ達がいる時もたまに来てくれる存在が本日、ルグの館に来ることが決まっていたので出迎える為にルグは入口にいるのである。

『来たようだ』
「!!、いらっしゃい皆」
「ルグ様~!」
「ルグ兄~!」

 入ってきたのは3~7歳の子供達であった。子供達はルグを恐れるでもなく本当に大好きだと言える程に足元に抱き着いたり、手を引っ張られて甘えたりしてくる子供達にルグはヘルグとシレッダ以外にはあまり見せない笑顔で対応している。
 子供達はルグに甘えながらもルグに村で起こった事やここに来るまでの事を話してくれるのをルグは嬉しそうに聞いていた。だが、1人の子供だけ子供達の集団から離れて立っているのに気付いたルグが視線を向けて首を傾げる。
 子供はルグに怯えている訳ではないが自分が邪魔ではないのかと、不安に思っているのがルグにはすんなり感じ取ってしまう。そのルグに子供達は1人だけの子供について話してくれた。

「ルグ様、あの子数日前にね~少し離れた村から来た子なの」
「大人達と来たけれど、大人達はあの子にご飯食べさせないんだよ~!」
「君は……どこの村から来たんだい?」
「っ、あ、あの……」

 声を聞いて分かったがその子供は髪が長いから女の子かと思ったが男の子だと分かったルグは、その子が口にした村の名前にルグはすぐに記憶から色々な地名と村の名前を引き出していく。そして、ルグの脳裏に浮かんだのはアルード地方に山村である事を。
 村に何かあって大人達とこのアルード地方にやってきたのだろう、だが、その理由に関係するのだろう。食事を与えないというのに理由が必要なのだ。
 男の子は涙をこらえたままルグの手招きを受けて近付いてきた子供をルグは優しく抱き上げる。男の子は驚きながらルグの首筋に手を回して見上げていた。
 ルグは静かに男の子に優しく見つめながら食堂に子供達を連れていく。そこには温かな料理が沢山並べられており子供達は嬉しそうに騒ぎながら椅子に座ってルグを見上げていた。

「皆が沢山食べれるようにお代わりもあるから沢山食べていいから。さぁ、君もしっかり食べていい。そして、村の事をお話してくれるかな?」
「で、でもっ……」
「君の村は僕が預かっている村でもある。領主として異変があるなら解決する為にも知りたいんだ。それに、君は帰りたいだろう? 大好きなご家族の元に」
「……あの、ね……僕の村、ご飯食べれない人と食べれる人に分かれてて……大人達は国王様に直訴しに行く為に村から出てきたの……」
「……格差が出ているって事か。それで村ではどんな状態で分かれているんだい?」
「食べれない人達は食べれる人達のお世話してて、でも……お金は貰えないの。だからお父さんもお母さんも僕にご飯を食べさせようとして食べれる人に頭を下げて……殺されたの……」
「!!」

 ルグは言葉を失った。子供達は興味があったのか話を聞いていたがすぐにその男の子に椅子から降りてきて抱き締めるように集まってからルグを見上げる。
 ルグはそのせいか子供達の視線に隠されている意図を悟ってしまう。この子供の村を助けて欲しい……、そう訴えているのだ。
 子供達はその男の子を優しく包みながら男の子に安心感を与えていた。だからこそルグは子供達に視線を合わせるようにしゃがんで静かに話し始める。

「君の村を僕は助ける為に領主として約束したい。領主としてもあるがそれだけじゃない……子供は笑顔で子供時代を過ごして欲しい。そう願う大人として君達の未来を守る為にも僕は動くよ」
「っ、ルグ様!!」
「ルグ様、この子の為に僕達もお力になります!」
「私も!」
「うん、ありがとう。……皆はここにあるお料理をこの子と一緒に食べてくれるかい?」
「「はぁ~い!!」」
「いいんですか……ルグ様?」
「いいよ。僕の手料理で悪いけれどお腹沢山食べて笑顔を見せてくれるかな?」
「うんっ!」
「髪の毛も整えてあげよう。皆もあとで美味しいお菓子も用意しているからゆっくりしておいき」
「ありがとうルグ様!」
「ありがとうございます!」

 その日は子供達はルグの手料理を沢山食べて、美味しいお菓子をお土産に包んでもらって、そして山村から来た男の子と共に村へと帰って行った。ケルベロスが少し距離を開けて子供達が無事に村に戻るまで見守る為に着いて行ってくれているので安心はしている。
 食器と子供用のコップを片付けて洗いながらその作業の合間に色々と考えていた。子供がいた村については色々と考える必要がある、それは領主としては大事な意味もあるということを考える事である。
 そして、ヘルグ達が1週間の休暇を終えて戻ってくる頃。山村の村に関する情報を集め調べて内情を知る為に使い魔を使っていた。
 使い魔たちから得られる情報を整理しながら内情を確認していた時にヘルグが休暇から戻った報告をしに執務室に現れた。ヘルグは執務机に広がるメモや資料を見て首を傾げる。

「これは……」
「ケルード村から離れた山間部にある山村の情報だよ。この村から国王陛下に直訴に行く人間が出たんだ。その人間の子供が山村の状況を僕に話をしてくれたんだけれど……貧富の差が激しいって感じでね。それも子供の親を殺す程にね……」
「それはあまり悠長な話ではありませんね。内情をお調べに?」
「使い魔を使って調べているけれど、どうして山村にそこまでの貧富の差を生んだのかが分からない。戻って早々で悪いが調べてくれるかい?」
「分かりました。シレッダがお傍に付きますのでご入用があればお申し付け下さい」
「分かった。もし調べてみて分かる事があったらすぐに使い魔を飛ばしてくれ」
「御意」

 ヘルグが部屋を出て行くのを見送ってはルグは机に広げている地図に視線を向ける。ルグが領主として与えられているアルード地方はルデス大陸の中でも領地では広いので移動だけでも時間は掛かる。
 だから中心から離れている村の情報があまり入ってこない。それでも領主としてルグは出来るだけの情報把握をしようと色々と手を打ってはいたのである。
 臣下達はそんなルグの為に手足になって領地を動いて情報を集めてきてくれる。ルグが領主として頑張れるのはそんな臣下達の頑張りに応えたいとの想いがあるからだ。
 ヘルグはルグが人生を終える為の方法も探しているというルグの心情を知っている、知っているから支えたいと思っていた。シレッダはルグの事を全力で支えたい、自分の命を救ってくれたマイロードを最後の瞬間にまで付き従おうとする。

「山村に金山があった……?」
「はい、それに目を付けた貴族達に雇われた炭鉱夫達が村に住み込んで村人達を支配下に置こうとしているようであります」
「なるほど……それで村人達が圧力に押し潰されているんだね。それで貧富の差が激しい理由もそれが原因なんだな」
「えぇ。結果的に貴族達は金山を自分の物にして資産を肥やす為に色々と手を回しているようです」
「視察、という名目で動いてみる方がいいかも知れないな……他の村の視察も兼ねて動こう。ヘルグ、準備を」
「はい、お任せ下さい」

 ヘルグが準備の為に執務室から離れるとルグの顔には少しだけ考えると複雑そうな表情を浮かべる。だが、結果としてその考えはあまりにも現実的に真実に近いと言えると思えた。
 メイド達の声が聞こえてくるのに気付いてすぐ思考を切り替えた。そこに同じように休暇から戻ってきたシレッダの声が聞こえてくる。

「失礼します」
「お帰り、休暇は堪能出来たかい?」
「はい、お気遣いありがとうございます。そして、休暇を頂いている間に少し面白い事が分かりまして。ご主人様にお知らせしておきたいと思いまして」
「面白い事? それはどんな情報かな?」
「アルード地方の端にある森に産まれたばかりの馬がおりまして。その馬が……魔馬のようです」
「……へぇ? それは”珍しい”情報だね」
「はい。まだ仔馬でもはありますが備えている魔力は強くて、瞳には強い意思を宿しているのが分かります」
「ふむ。でも、その状態で産まれたとなると村人達が警戒するんじゃないかな?」
「えぇ、なので私の独断ではございますが、こちらの敷地にある馬小屋に連れて来ています」
「いい判断だね。会ってみようか」

 シレッダがもたらした情報である魔馬という情報は今のルグには面白いと言えるだけの情報である。魔力を持った馬は基本的に産まれるのは極僅かであり、生存率は極少量の確立でしかない。
 そして、魔馬は乗り手を選ぶというのでルグは馬小屋にシレッダと共に来ると1頭の仔馬に視線が寄せられる。仔馬はルグの存在を確認すると鼻を鳴らしながらも近付いてきてジッとルグを見上げている。
 魔馬はルグの瞳を見つめたまま何かを訴えてはいるのをルグもしっかり受け止めている。それはルグにも分かる事ではあるので右手を仔馬に差し出すルグに仔馬は鼻先をピクピクさせて匂いを嗅いでいる。

「どうもこの仔馬はご主人様を主と認めた様でございますね」
「この魔馬はどうも”ジェネラル”の種だな。でも、天然で生まれる筈がない」
「ではやはりこの仔馬は……」
「間違いない。”デスナロ”が産まれたんだと思う」
「調べてみますか?」
「アルード地方の森を重点的に調べないといけないだろうね。でも、それが生息地が生活範囲を脅かすようであれば駆除する必要と判断する場面も出てくる」
「では首都に救援を依頼してみますか?」
「うん、この仔馬を死なせないように馬小屋の者にお願いするよ。僕は執務室に戻って首都に手紙を書くよ」
「分かりました。それでは馬世話の者に知らせます」

 シレッダは頭を下げて執務室に戻っていくルグの背中を見送って礼を尽くす。ルグは静かに廊下を歩きながら今後の予定を組み立てていく。
 そして、ルグの中に強い怒りが生まれ始めているのもルグは察していた。だからこそ、ルグは一領主として動く事を決める……それがルグの決意でもあった――――。
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