上 下
33 / 44

第三十二話〜思いがけない告白①〜

しおりを挟む
 何故、彼はいつも私の邪魔ばかりするのだろうか。

「そんなすぐ帰るなよ。ゆっくりしていけば?」

「ううん、今日は帰る。寄るところあるの」

 本当はどこにも寄る予定なんてない。
 家に帰って、ベッドで大好きな異世界ものの新刊でも読み、ひたすらダラダラしようと思ってる。
 愛のない白い結婚をしたヒロインとヒーローの気持ちが、もう少しで通じ合う一番良いところなのだ。

「だから今日はそんなお洒落してるんだ。可愛いね」

 お出かけ用の花柄ティアードワンピと、お気に入りのカゴバックは、彼の為のお洒落ではない。
 いつも休みの日はノーメイクがデフォルトの私だけど、今日は動画を見ながら三十分も時間をかけて丁寧にメイクし、アイロンで髪まで巻いた。
 これは、〝この後用事があって急いでる風〟を装う為の偽装工作だ。
 おかげで彼は微塵も疑っていない様子。

「うん、だから離して。っっ……!」

「……嫌だって言ったら?」

 急に背後から抱きしめられ、驚いた弾みでカゴバッグを落としそうになり、慌てて持ち手を強く握りしめる。

「きゅ、急にびっくりするでしょ!」

「ごめん、でもせっかく会えたからまだ帰したくない」

 またいつもの甘えるような切ない声で私を誘惑しようとするんだから。
 そのうち、お腹に回された手まで怪しい動きを見せ始めた。
 
「待って、こういう事はもうしちゃダメ」

「何で? かなり今更感あるけど?」

 クスクス笑う彼は、弄る手を止める気配は全くない。
 そんな彼に向き合うよう半ば強引に身を翻すと、パチクリと見開いた赤茶色の瞳は、私を見下ろしながら困惑に揺らいでいた。

「何でって、こういう事はそもそも好きな人とするもんでしょ? お前が言うなって感じかもしれないけど、私達は違うもの。だから――」

「俺は絃ちゃんの事好きだよ」

 間髪入れずに彼は口を挟む。
〝好き〟の二文字に身体が反応しなかったと言えば嘘になる。
 それでも。

「ほっしーが言いたいのは、友達の好きで〝like〟でしょ? 私が言ってる〝好き〟は――」

「ねぇ、俺の事馬鹿にしてる? ガキじゃないんだから、今更〝like〟がどうとか言われなくても、んな事分かってるよ」  

「違うの、違う。ほっしーは高校の時の事があるから、多分私に対して負い目みたいなものが今もどこかにあって……それで、今回もエッチしたから責任を……」

「……さっきから、何で絃ちゃんが俺の気持ちを勝手に決めつけるワケ?」

 響くのは、湧き上がる苛立ちを喉元で押し殺すような低い声。
 まるで取り調べでも受けてるような鋭い視線は、とにかく居心地が悪くて身体が勝手に強張る。

「だって! ほっしーは、今も昔も私が誘ったからそれに乗っただけで――」

「ヤリたい盛りならともかく、今の俺は何とも思ってない子を抱いたりしないよ」

「でも、今たまたま彼女いないから、そう言う事したかったとか――」

「絃ちゃんで性欲解消してるって? 随分と酷い事言うんだね」

「だって……だって、私はほっしーが好きになるような女じゃないし、私達は元々友達で――」

「友達って、あんなにヤリまくっておいて? それに、まだそうやって勝手に俺の気持ちを決めつけるんだ」

 言葉を詰まらせた私をソファへ追いやるように彼はジリジリと距離を詰め、更に追い打ちをかけるように口を開いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた――― ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。 それは同棲の話が出ていた矢先だった。 凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。 ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。 実は彼、厄介な事に大の女嫌いで―― 元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...