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第二十六話〜次の約束②〜

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 はい、そしてやってきました。
 週末土曜の夜。

 前もって住所をメッセージで送ってもらい、職場からここまで直行しました。

 今日は少し早めに上がれたとは言え、なんだかんだで彼のアパートここに着いたのが十九時過ぎか。

 当然、化粧も髪も仕事上がりのまま、制服のポロシャツを脱いだだけのなかなか酷い状態です。

 でもいいんだ、これで。
 忘れ物だけ受け取って、お礼のお菓子渡したらすぐ帰るもの。
 まるで雪の上を歩いてるかのように、彼の部屋までの足取りがとにかく重いけど。

 ピーンポーン♪

 ため息混じりにインターホンを押せば、待ってました! とでも言わんばかりの勢いでドアが開く。

「おつかれ」

 私を気遣う柔らかい声音は、さっきまでの重苦しさと仕事の疲れを一気にどこかへ吹き飛ばした。

 それだけではない。
 彼の柔和な表情は、私の心臓をズキュンと簡単に撃ち抜く力まで秘めている。
 早鐘を打つ心臓を深呼吸で整えて、脳内を賢者モードへと切り替えよう。
 さあ、これで私は彼を性的な目で見るような煩悩とは無縁になったのだ。

「週末にごめんね。これどうぞ」

「何? とりあえず中入ったら」

「お邪魔します」とだけ言って、さっそく玄関のたたきで茶色の紙袋を手渡した。
 袋の中には、私の地元では有名な人気洋菓子店の焼き菓子セットが入っている。

「これ、この間のお礼のお菓子。後忘れ物もごめんね」

「そんなの別にいいのに」

 手を引きいつまでも受け取らない彼を見て、半ば強引に紙袋を押し付けた。

「あの、ネックレス」

「あぁ、向こうにあるよ。とりあえず上がって」

「ここで大丈夫。忘れ物だけ受け取ってすぐ帰るから」

 一旦踵を返そうとした彼が、私の言葉に振り向く。

「絃ちゃんカルボナーラ好き?」

「好き、だけど……」

「良かった。絃ちゃん夕飯まだでしょ? サラダ作ったから後はパスタ茹でるだけなんだ。一緒に食べようと思って準備してある」

「えっ、わざわざ準備してくれたの?」

「絃ちゃんの為に用意したから、食べてくれると嬉しい。一人だと食べきれないし、捨てるの勿体ないじゃん」

 そこまで言われると断りづらい。
 殊勝な事をされるとすぐ絆されるし、押しに弱いと言うか、私は典型的なNOと言えない人間なのだ。
 そう、だからこれは、断じて変な気持ちなど一切ないという事をここで宣言しようではないか。

 お言葉に甘えて夕飯をご馳走になり、ネックレスを回収して、すぐ帰る。

 それだけだ。
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