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第二十一話〜帰宅〜
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「ん~朝焼けが眩しい!」
やけに清々しい気分で、一晩お世話になったアパートを出て私が向かうのは、ここから一番近い駅。
同じ県内とは言え、ここは全く馴染みのない土地で一瞬焦ったけど、今は本当に便利な世の中になったもんだ。
地図アプリを起動し〝最寄りの駅〟と検索するだけで、一番近い駅を親切にアプリが教えてくれる。
昨日飲み過ぎた身体には、一キロちょっとの早朝ウォーキングは何とも丁度良い。
足元がお呼ばれのパンプスと言うのが、少しだけ心許ないけど。
あの後、彼の昂りは一度では収まらず、一晩で三回も身体を求められた。
後背位なんて久々にしたせいか、自分でも信じられないほど盛り上がってしまったし、正直言ってほっしーとのエッチ自体、元カレとは比べ物にならないくらい良かった。
今は彼女いないって言ってたから、健康な成人男性としてはあれも普通の回数なのかもしれない。
でもね、ほっしー。
久々にあんな事した私にとっては、ちょっと辛いですよ。
腰はガクガクだし、お股もちょっとね……。
それに黙って出てきた事は良くなかったよね。
分かってる。
本当は、ちゃんと昨日のお礼を伝えてから出ようと思ったの。
慰めてくれてありがとうって。
泊めてくれてありがとうって。
ほっしーのおかげで元気出たよって。
でもね、隣でスヤスヤと無防備に眠る君を見ていたら、昨晩の事全てを都合良く解釈してしまいそうな自分がいて。
あの行為が深い意味を持たない事くらい充分承知してる。
彼にとっては、失恋して落ち込む友人を優しく慰めただけ。
昔私がした事の、恩返しみたいな意味合いもあったのかもしれない。
あるいは、友人相手に性欲処理をしただけ、とも言えるかもしれないし。
それでも私には彼の優しい手が、自分に向けられる柔らかい眼差しが、時々頭上で漏れる甘い吐息が……まるで彼女に向ける特別なものに思えて、これ以上そばにいたらいけないと、勘違いしてはいけないと、心が警告音を鳴らしていた。
彼に抱かれたら、あんなに大好きだった元カレの事なんか一瞬でどうでもよくなってしまって。
ダメなの。
ほっしーといると、どうしてもあの頃の気持ちを思い出しちゃって。
だから会いたくなかったのに。
後悔するから、エッチなんて絶対にしちゃダメだったのに。
こうなる事くらい、分かってたはずなのに。
彼の優しさに縋ったらいけないと、ちゃんと分かっていたはずなのに。
あれから何年も経つのに、少しも割り切れていないじゃない。
私って本当に浅はか過ぎる。
だんだんと自己嫌悪に陥り、お洒落パンプスのせいで踵は悲鳴を上げ始め、引出物の紙袋はウォーキングのお供には不向き過ぎて、今にも心がポッキリ折れそう。
複数の要因が絡み合い、足取りはかなり重たくなっているけど、それでもここで立ち止まるわけにはいかない。
休日の早朝だから、きっと座席にも座れるだろう。
それまでの辛抱だ。
さっきお兄ちゃんにも連絡したし、最寄りの駅に着いたら車に乗れるぞ。
頑張れ、私には人気テーマパークのチケットがあるじゃないか。
特別嬉しくもない事で自らを励まし、やっとの思いで訪れた彼の地元の駅は、整備されたロータリーと新しい駅舎がとても印象的な、複数の路線が乗り入れる立派な駅だった。
交通系電子マネーに入金し駅の改札をくぐると、タイミングよく目的地への電車がホームに進入してくる。
よし、ここまできたら、後一時間もすれば家に帰れるから頑張ろう。
プシュッ。
良き良き、予想通り中はガラガラだ。
ドアの横、特等席に座りながら滅多にお目にかかれない車窓を楽しもうではないか。
そう思ってたのに。
温かい座席は大層心地良く、電車の揺れはまるでゆりかごのようで、夜中までえっちな事をしていた寝不足人間は、後少しで危うく乗り過ごすところだった。
やけに清々しい気分で、一晩お世話になったアパートを出て私が向かうのは、ここから一番近い駅。
同じ県内とは言え、ここは全く馴染みのない土地で一瞬焦ったけど、今は本当に便利な世の中になったもんだ。
地図アプリを起動し〝最寄りの駅〟と検索するだけで、一番近い駅を親切にアプリが教えてくれる。
昨日飲み過ぎた身体には、一キロちょっとの早朝ウォーキングは何とも丁度良い。
足元がお呼ばれのパンプスと言うのが、少しだけ心許ないけど。
あの後、彼の昂りは一度では収まらず、一晩で三回も身体を求められた。
後背位なんて久々にしたせいか、自分でも信じられないほど盛り上がってしまったし、正直言ってほっしーとのエッチ自体、元カレとは比べ物にならないくらい良かった。
今は彼女いないって言ってたから、健康な成人男性としてはあれも普通の回数なのかもしれない。
でもね、ほっしー。
久々にあんな事した私にとっては、ちょっと辛いですよ。
腰はガクガクだし、お股もちょっとね……。
それに黙って出てきた事は良くなかったよね。
分かってる。
本当は、ちゃんと昨日のお礼を伝えてから出ようと思ったの。
慰めてくれてありがとうって。
泊めてくれてありがとうって。
ほっしーのおかげで元気出たよって。
でもね、隣でスヤスヤと無防備に眠る君を見ていたら、昨晩の事全てを都合良く解釈してしまいそうな自分がいて。
あの行為が深い意味を持たない事くらい充分承知してる。
彼にとっては、失恋して落ち込む友人を優しく慰めただけ。
昔私がした事の、恩返しみたいな意味合いもあったのかもしれない。
あるいは、友人相手に性欲処理をしただけ、とも言えるかもしれないし。
それでも私には彼の優しい手が、自分に向けられる柔らかい眼差しが、時々頭上で漏れる甘い吐息が……まるで彼女に向ける特別なものに思えて、これ以上そばにいたらいけないと、勘違いしてはいけないと、心が警告音を鳴らしていた。
彼に抱かれたら、あんなに大好きだった元カレの事なんか一瞬でどうでもよくなってしまって。
ダメなの。
ほっしーといると、どうしてもあの頃の気持ちを思い出しちゃって。
だから会いたくなかったのに。
後悔するから、エッチなんて絶対にしちゃダメだったのに。
こうなる事くらい、分かってたはずなのに。
彼の優しさに縋ったらいけないと、ちゃんと分かっていたはずなのに。
あれから何年も経つのに、少しも割り切れていないじゃない。
私って本当に浅はか過ぎる。
だんだんと自己嫌悪に陥り、お洒落パンプスのせいで踵は悲鳴を上げ始め、引出物の紙袋はウォーキングのお供には不向き過ぎて、今にも心がポッキリ折れそう。
複数の要因が絡み合い、足取りはかなり重たくなっているけど、それでもここで立ち止まるわけにはいかない。
休日の早朝だから、きっと座席にも座れるだろう。
それまでの辛抱だ。
さっきお兄ちゃんにも連絡したし、最寄りの駅に着いたら車に乗れるぞ。
頑張れ、私には人気テーマパークのチケットがあるじゃないか。
特別嬉しくもない事で自らを励まし、やっとの思いで訪れた彼の地元の駅は、整備されたロータリーと新しい駅舎がとても印象的な、複数の路線が乗り入れる立派な駅だった。
交通系電子マネーに入金し駅の改札をくぐると、タイミングよく目的地への電車がホームに進入してくる。
よし、ここまできたら、後一時間もすれば家に帰れるから頑張ろう。
プシュッ。
良き良き、予想通り中はガラガラだ。
ドアの横、特等席に座りながら滅多にお目にかかれない車窓を楽しもうではないか。
そう思ってたのに。
温かい座席は大層心地良く、電車の揺れはまるでゆりかごのようで、夜中までえっちな事をしていた寝不足人間は、後少しで危うく乗り過ごすところだった。
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