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第十五話〜初めての夜④〜

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 ドクン、ドクン、規則正しく響く胸の音。

「……何?」

「絃ちゃんは頑張ったよ。だから、辛い時は我慢しないで泣いていいんだよ」

 頭上に降り注ぐ優しい言葉は、前に私が失恋した彼に言ったのと同じような台詞。
 彼がその事を覚えていて、あえて同じ事を言ってくれたのかは分からない。
 でも、私の胸を打つには充分過ぎるほどの言葉だった。

「……泣かない。もう涙枯れるほど泣いたもの」

「たくさん泣いたの?」

「うん」

「一人で?」

「うん」

 いっぱい泣いた。
 お風呂場では家族にバレないよう声を殺して、一人寝が寂しい夜には人知れず枕を濡らした。
 もう元カレあんな奴の事で涙を流したくはない。
 

「そっか。絃ちゃんが辛い時にそばにいなくてごめんね」
 
 やめてよ、そんな台詞。
 あの後、表面上は普通にして私達は卒業を迎えた。
 けど、卒業してすぐに私は携帯の番号を変えて、県外に進学した彼とはそこで音信不通になった。
 お互いにきょうちゃんを介せば連絡出来たかもしれないけど、私はともかく、ほっしーだってそれはしなかったじゃない。
 
 私の背中を撫でる大きな掌。
 これは、友人に与える優しさなのに。
 それ以外に意味なんて何も持たないのに。

「絃ちゃん、ご飯ちゃんと食べてる?」

「何で? 普通に食べてるよ? むしろ、いっぱい食べてるけど」

 今度は何? どゆこと?
 あまりに唐突過ぎて首傾げちゃうんだけど。

「何て言うか、痩せた? 腰なんて細過ぎて折れそう。心配になる」

 あぁ、なるほど納得した。
 ほっしーの記憶にある私はポッチャリさんだから。

 高三の冬、受験のストレスか失恋の痛手か分からないけど、卒業式までに一気に二、三キロは痩せて……大学入学してからバイトやら初彼氏で更に二、三キロ勝手に落ちたから、見た目だけならけっこう変わったのかもしれない。
 でも折れそうって……んな訳あるかいっ!

「ほっしーは女子を喜ばせるのが上手いね。そうやって上手い事言って、女の子を落とすんだ」

「いや違うけど。本気で心配したのに」

 ちょっとムッとした彼に、クスクスと笑いが込み上げる。

「ごめんごめん。心配してくれてありがとう。でも私、まだまだ太いから大丈夫だよ。お尻も太腿もムチムチだもん!」

「へぇーそうなんだ。じゃあ今夜いっぱいムチムチ触らせてね」

「ちょっ……冗談……っ!」

 その冗談笑えない。
 やめてよ。

 笑って返したいのに、あまりにビックリして言葉が出ない。
 まるで金魚みたいに、口をぱくぱくさせるだけになってる。

「冗談じゃないよ。気晴らしにエッチしよって誘ったのは絃ちゃんでしょ?」

「いや、あれは……んっ」

 急に塞がれた唇に、思わず変な声が漏れ出た。
 背中を撫でていた掌は、いつの間にか私の後頭部をガッチリ押さえている。
 それだけじゃない。
 唇を重ねた瞬間、スウェットのあの部分・・・・が、こんもりと小高い丘を形成したのが分かった。
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