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第十四話〜初めての夜③〜

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「おかえり」

「お風呂ありがとう。さっぱりした」

「それは良かった。絃ちゃんおいで」

 目の前には、ソファに腰掛け両手を広げる同級生の姿が広がる。
 無地のTシャツを着て、スウェットを履いたリラックス姿の同級生が。
 さっきは目のやり場に困っていたから、服着てくれて本当に助かった。

 でも急に何? 
『おいで』って、ちょっと意味が分からなくて戸惑うんだけど。
 彼の意図が分からず、脳内は完全フリーズでその場に立ちすくむ。
 借りたTシャツは、ミニワンピどころか、角度によってはお尻が見えそうなギリギリのラインで脚がスースーしているし。

「ごめん、ほっしー何?」

「抱っこ。こっちおいでよ」

 柔らかい笑顔で、こっちこっちと手招きする彼。

「嫌だよ!」

「そんな即答されると傷つくんだけど」

「私重いし、それに、それに……そーゆう事は彼女とやってください!」

 コイツさては酔ってるな?
 よく見ると目の周りが赤く染まってるし、さっきより目がとろんとしてる。
 テーブルの上に潰れた空き缶が転がってるところを見ると、すでにビール二本は空にしてるぽい。

「何で? 絃ちゃんを慰めようと思ったのに」

 あぁ、そう言う事ね。
 結局はエッチな事するんじゃなくて、惨めな女に〝癒し〟を与えてくれるつもりか。
 そっか、そっか。
 なーんだ、せっかくピカピカに身体洗ってきたのに期待して損した。
 ……って嫌だ、今の感情何よ。

 そうだよ。
 変な事して後で面倒な事になるくらいなら、人肌の温もりと癒しを与えてもらって、有り難く慰めて貰えばいいじゃない。
 イケメンに抱っこしてもらえるなんて、そんな美味しい機会そうそうないもの。
 お風呂入る前にキスしてくれたのは、何て言うかスキンシップの一環で、あれ自体に深い意味なかったんだ。

「抱っこしてヨシヨシってしてくれるの?」

「うん」

「そっかぁ。じゃあせっかくだから、お言葉に甘えちゃおうかな」

 ソファに片脚を乗せ、ほっしーの膝を跨ぐようにして彼の上に座った。
 でもが密着するのは困るから少しだけ腰は引いておく。
 二人分の重みでソファはギシっと音を立てた。

 息がかかるほどの至近距離に耐えきれず、そのまま広い背中に手を回して彼の肩口に顔を埋めると、私と同じシャンプーの香りが鼻に抜けた。
 でも、同じようで同じじゃない。
 シャンプーの良い香りに、やっぱり男の人ぽい彼の匂いが少しだけ混じってる。

「絃ちゃん良い匂い」

 耳元で喋るのはやめてくれ。
 生温い吐息がかかって、変な気分を誘発しそうではないか。

「ほっしーも同じ匂いでしょ」

「そうだけど。やっぱりちょっと違う。絃ちゃんの匂い」

 お酒の香りを伴った、低めの少し掠れた声が私の耳孔を刺激する。
 さっきからやめて欲しい。
 さては、コイツ私をキュン死にさせようとしてるな?
 このままだと本気でヤバい。
 さぞかしおモテになる君はともかく、こちらは相当ご無沙汰なんだぞ。
 おかしな気分になる前に離れなきゃ。

「温かくてすごく安心する。ほっしーありがとう、元気出た」

 一度だけギュッと強く抱きしめて、身体を離そうとした時――

 逞しい男の人の腕が私を丸ごと包み込んだ。
 
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