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第十二話〜初めての夜①〜

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 ジャーーーーと長めの水音が勢いよく響くのは、入ったばかりの見慣れないこの部屋。

 自由にしていてとは言われたけど、何をして待っていようかな。

 初めて入った同級生の部屋。
 当たり前だけど、自分の部屋とは全く匂いが違う。
 でも不快ではなくて、むしろこの男性ぽい匂いに混じる、ルームフレグランスだろうか? 森林のように爽やかな香りが何とも心地良い。

 木製の家具に、白とグレーを基調としたファブリックの、シンプルだけどお洒落な部屋。
 掃き出し窓には、カーテンではなく白いブラインド、壁には黒い額縁に入ったアーティスティックな絵、至る所にインテリアグリーンまで飾られている。
 あ、あのベースは見た事がある。
 何年もお年玉貯めて買ったって、高校の時に見せてくれたやつだ。
 この部屋では、楽器さえもお洒落なインテリアの一つになるのか。
 しかも突然来たのにも関わらず、部屋の中は綺麗に整理整頓され、掃除も行き届いて見える。

 顔だけでなく部屋まで綺麗なんて、何だか癪に触る。
 何か恥ずかしいものでも出てきたら面白いのに。


 バタン、ガラッ。

 しっかりとした座り心地のソファに腰掛け、舐めるように部屋を隅々まで見回していると、バスルームのドアの開閉音がした。

 いよいよだ。
 ここまで来たからには、堂々と迎え撃とうではないか。
 
 と言っても、そこまでの気合いは必要ないのかもしれないけれど。

 いや、やっぱり必要だ。
 だって、どうやっても見られてしまうもの。
 お粗末な私の身体。


「あ、いた」

 カチャリ。
 リビングのドアが開いたと同時に、彼はソファに腰掛ける私に目を向ける。
 お風呂上がりの彼は、バスタオルを腰に一枚巻いただけの上半身は裸のスタイルだ。
 別に処女って訳ではないし、彼の上半身なら前にも見た事がある。
 でも正直言って、大人になった同級生のこの格好は、かなり目のやり場に困る。

「いるに決まってるでしょ。もしかして、ほっしー今になって怖気付いた?」

 キッ――
 恥ずかしさを誤魔化すように挑むような視線を投げかければ、色気ダダ漏れの彼は手に持つ缶ビールをテーブルに置き、私の隣にストンと腰を下ろした。

「そんな怖い顔しないでよ。それとも、絃ちゃんこそ怖気付いた?」

 にっこり、楽しそうに目を細めながら、私の後頭部を大きな掌で支え一気に唇を塞ぐ。
 自分から訊ねておいて、返事をする間も与えてくれない。


「ん、んっ……はっ、んんっ……」

 唇をこじ開けるように侵入した舌先に導かれるようにして絡み合う。
 元カレとは、別れる数ヶ月前からエッチな事をしていない。
 だからこんな熱っぽい大人のキスは、けっこう……いやかなりご無沙汰だ。

 お風呂上がりの上気した肌から香るのは、爽やかだけどほんのり甘い魅力的な香り。
 キスだけでトロトロに蕩かされた私は、座っているのに腰ガクガクの状態。


「シャワー浴びてきたら?」

 私をこんな風にしておいて平然とビールに口をつける彼は、色香溢れる大人の余裕ある男性に見える。
 以前の色気とは全く無縁な私達の関係性を考えると、にわかには信じがたい光景だ。

 それにその、喉をコクコクと鳴らし一気飲みする姿も、唇を指先で拭う何気ない仕草も、腰に巻いたバスタオルが相まって反則級に色っぽい。
 これ以上、無駄にドキドキさせるのはやめてもらいたい。
 黙って頷いた私は、意を決してスタスタとバスルームへ向かった。
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