癒して、愛して、そして離さないで

雪白ぐみ

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第六話〜苦い青春④〜

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 好きな人が失恋した、らしい。

 好きな人の好きな人は、彼ではなく、彼のお兄さんを選んだ。
 この半年間彼の話を聞いて、背中を押すように励まし続けてきたけど、彼の恋は実らなかった。

 私と同じで。

『兄貴のアパートに遊びに行ったけど、彼女来てて……。俺はお邪魔虫だからさ……』

『連絡しないで凸った俺が悪いんだけど』

『あ、でも邪魔にされた訳じゃないよ。仲良く三人で話してたけど、俺が二人の空気に耐えられなくて出てきちゃっただけ』

『兄貴より俺と話してる方が多かったけどなー。俺のが兄貴より仲良くなれたと思ってたのに』

 うん、うん、そうだね。
 否定せず、ただ彼の話に相槌を打つ。
 余計なお世話のアドバイスもしない。

『それは辛いね。私で良ければいつでも話聞くよ。大して役には立てないけど』

『そんな事ないよ。話聞いてくれて助かった』

『気晴らしに今からカラオケでも行く? ちょっとここから遠いけど』

『うーん。今日はいいかな……』

 俯き、何度も大きなため息を吐く彼を見て、自然と身体が動いた。

『い、と……ちゃん……?』

 私の部屋のベッドに腰掛けた彼を抱きしめ、子供にしてあげるみたいに背中を上下にゆっくり撫でる。
 好きな人に触れたいと言う下心が一ミリも無かったかと言うと、そうではない、けど。
 下を向いた彼が、何かを必死に我慢する幼い子供のように私には映ったから。
 泣きたいのを必死に堪えているように辛そうに見えたから。
 
『ほっしーはいっぱい頑張ったよ。だから、辛い時は我慢しないで。泣いてもいいんだよ?』

『流石に泣きはしないけど』

『そっか』

『うん、それは大丈夫かな』

 彼が胸の中でフッと笑ったような気がして、少しだけ胸を撫で下ろす。

『じゃあ……気晴らしに、今からエッチする?』

 何故こんな弱った人間につけ込むような真似をしてしまったのか。
 やはり、彼に触れたいと言う下心からだったのかもしれない。

 
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