6 / 44
第五話〜苦い青春③〜
しおりを挟む
『絃ちゃん今暇? 何してる?』
高三の冬休みが明ける直前、突然来た連絡に温い布団から飛び起きた。
ほっしーからのメッセージは、元旦にグループで交わした新年の挨拶以来だ。
『暇過ぎて家でゴロゴロしてた』
受験生が大事な時期にゴロゴロするな! と言う突っ込みは置いといて、ニンマリ頬を緩ませ軽快に文字を打つ。
『じゃあ、今から会いに行ってもいい?』
え! え!
今から? 私に会いに!?
歓喜に震える指先で、間違えないよう慎重にフリック入力する。
『いいよ!』
突然こんな事言い出すなんて、一体何があったんだろう。
今一番大切な時期なだけに心配だ。
でもそれよりも、わざわざ会いに来てくれる事がすごく嬉しくて。
彼の家からだと、ウチまで最低でも電車で一時間はかかる。
急いでシャワーを浴び、セールで買ったばかりのお気に入りの服を着て、最寄りの駅まで自転車を猛スピードで走らせた。
『絃ちゃん、あけおめ。元気してた?』
『……あけおめ。今年もよろしくね』
駅の入り口で佇む彼をひと目見ただけで分かった。
無理に作った笑顔は痛々しくて、図々しくも、彼が私に助けを求めているように思えた。
『……ほっしー、もしかして何かあった?』
『え、何で!?』
何でって、そんな素っ頓狂な声を出すほど驚くかね。
分かるよ。
私がどれだけ君の事見てきたと思ってるの。
いつも真っ直ぐな背中が、今日はまん丸の猫背になってるよ。
それに声のトーンも違うし、目なんて所謂死んだ魚みたいになってるじゃない。
いつものキラキラした瞳の無邪気な少年はどこ行ったの。
『なんか元気無さそうに見えただけ。気のせいならいいの』
『いや……そんな事……でも……』
『……良かったらウチ来る? 今日は誰も居ないから、ゆっくり話聞けるよ。でも話したくなければ別の所に行こう? ここ田舎だから何も無いの。近くにあるファミレスでもいい?』
押し付けにならないように。
無理強いしないように。
こんな時でも〝いいヤツ〟でいたい私は、思い切ったお誘いに全力投球だ。
馬鹿みたいに必死になって、彼のご機嫌を伺っている。
『じゃあ、少しだけ』
申し訳無さそうにしてたほっしーだけど、彼女でもない女友達の家に一人で来るくらいだから、よほど聞いて欲しい事があるのだろう。
駅から自宅までは、徒歩十五分。
中学から愛用する年季の入った自転車を押しながら、他愛のない話をして帰路についた。
高三の冬休みが明ける直前、突然来た連絡に温い布団から飛び起きた。
ほっしーからのメッセージは、元旦にグループで交わした新年の挨拶以来だ。
『暇過ぎて家でゴロゴロしてた』
受験生が大事な時期にゴロゴロするな! と言う突っ込みは置いといて、ニンマリ頬を緩ませ軽快に文字を打つ。
『じゃあ、今から会いに行ってもいい?』
え! え!
今から? 私に会いに!?
歓喜に震える指先で、間違えないよう慎重にフリック入力する。
『いいよ!』
突然こんな事言い出すなんて、一体何があったんだろう。
今一番大切な時期なだけに心配だ。
でもそれよりも、わざわざ会いに来てくれる事がすごく嬉しくて。
彼の家からだと、ウチまで最低でも電車で一時間はかかる。
急いでシャワーを浴び、セールで買ったばかりのお気に入りの服を着て、最寄りの駅まで自転車を猛スピードで走らせた。
『絃ちゃん、あけおめ。元気してた?』
『……あけおめ。今年もよろしくね』
駅の入り口で佇む彼をひと目見ただけで分かった。
無理に作った笑顔は痛々しくて、図々しくも、彼が私に助けを求めているように思えた。
『……ほっしー、もしかして何かあった?』
『え、何で!?』
何でって、そんな素っ頓狂な声を出すほど驚くかね。
分かるよ。
私がどれだけ君の事見てきたと思ってるの。
いつも真っ直ぐな背中が、今日はまん丸の猫背になってるよ。
それに声のトーンも違うし、目なんて所謂死んだ魚みたいになってるじゃない。
いつものキラキラした瞳の無邪気な少年はどこ行ったの。
『なんか元気無さそうに見えただけ。気のせいならいいの』
『いや……そんな事……でも……』
『……良かったらウチ来る? 今日は誰も居ないから、ゆっくり話聞けるよ。でも話したくなければ別の所に行こう? ここ田舎だから何も無いの。近くにあるファミレスでもいい?』
押し付けにならないように。
無理強いしないように。
こんな時でも〝いいヤツ〟でいたい私は、思い切ったお誘いに全力投球だ。
馬鹿みたいに必死になって、彼のご機嫌を伺っている。
『じゃあ、少しだけ』
申し訳無さそうにしてたほっしーだけど、彼女でもない女友達の家に一人で来るくらいだから、よほど聞いて欲しい事があるのだろう。
駅から自宅までは、徒歩十五分。
中学から愛用する年季の入った自転車を押しながら、他愛のない話をして帰路についた。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
Promise Ring
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。
下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。
若くして独立し、業績も上々。
しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。
なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。
ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。
イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。
きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。
そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……?
※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。
※他サイトにも掲載しています。
ネカフェ難民してたら鬼上司に拾われました
瀬崎由美
恋愛
穂香は、付き合って一年半の彼氏である栄悟と同棲中。でも、一緒に住んでいたマンションへと帰宅すると、家の中はほぼもぬけの殻。家具や家電と共に姿を消した栄悟とは連絡が取れない。彼が持っているはずの合鍵の行方も分からないから怖いと、ビジネスホテルやネットカフェを転々とする日々。そんな穂香の事情を知ったオーナーが自宅マンションの空いている部屋に居候することを提案してくる。一緒に住むうち、怖くて仕事に厳しい完璧イケメンで近寄りがたいと思っていたオーナーがド天然なのことを知った穂香。居候しながら彼のフォローをしていくうちに、その意外性に惹かれていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる