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第五話〜苦い青春③〜

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『絃ちゃん今暇? 何してる?』

 高三の冬休みが明ける直前、突然来た連絡に温い布団から飛び起きた。
 ほっしーからのメッセージは、元旦にグループで交わした新年の挨拶以来だ。

『暇過ぎて家でゴロゴロしてた』

 受験生が大事な時期にゴロゴロするな! と言う突っ込みは置いといて、ニンマリ頬を緩ませ軽快に文字を打つ。

『じゃあ、今から会いに行ってもいい?』

 え! え!
 今から? 私に会いに!?
 歓喜に震える指先で、間違えないよう慎重にフリック入力する。

『いいよ!』

 突然こんな事言い出すなんて、一体何があったんだろう。
 今一番大切な時期なだけに心配だ。

 でもそれよりも、わざわざ会いに来てくれる事がすごく嬉しくて。

 彼の家からだと、ウチまで最低でも電車で一時間はかかる。
 急いでシャワーを浴び、セールで買ったばかりのお気に入りの服を着て、最寄りの駅まで自転車を猛スピードで走らせた。

『絃ちゃん、あけおめ。元気してた?』

『……あけおめ。今年もよろしくね』

 駅の入り口で佇む彼をひと目見ただけで分かった。

 無理に作った笑顔は痛々しくて、図々しくも、彼が私に助けを求めているように思えた。

『……ほっしー、もしかして何かあった?』

『え、何で!?』

 何でって、そんな素っ頓狂な声を出すほど驚くかね。
 分かるよ。
 私がどれだけ君の事見てきたと思ってるの。
 いつも真っ直ぐな背中が、今日はまん丸の猫背になってるよ。
 それに声のトーンも違うし、目なんて所謂死んだ魚みたいになってるじゃない。
 いつものキラキラした瞳の無邪気な少年はどこ行ったの。

『なんか元気無さそうに見えただけ。気のせいならいいの』

『いや……そんな事……でも……』

『……良かったらウチ来る? 今日は誰も居ないから、ゆっくり話聞けるよ。でも話したくなければ別の所に行こう? ここ田舎だから何も無いの。近くにあるファミレスでもいい?』

 押し付けにならないように。
 無理強いしないように。
 こんな時でも〝いいヤツ〟でいたい私は、思い切ったお誘いに全力投球だ。
 馬鹿みたいに必死になって、彼のご機嫌を伺っている。

『じゃあ、少しだけ』

 申し訳無さそうにしてたほっしーだけど、彼女でもない女友達の家に一人で来るくらいだから、よほど聞いて欲しい事があるのだろう。

 駅から自宅までは、徒歩十五分。
 中学から愛用する年季の入った自転車を押しながら、他愛のない話をして帰路についた。
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