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第三話〜苦い青春①〜

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 高校生活にも慣れ始めた四月半ば、入学後初めて出来た友人のきょうちゃんに誘われて見学に行ったのが、視聴覚準備室で活動する軽音楽同好会だった。

 そこで椅子に座って楽しそうにベースを弾いていたのが〝ほっしー〟こと同級生の星野君で、ベースの事なんて詳しくは知らないけど、一目で彼の姿に釘付けになった。
 なんて言うか、そこにいるだけで絵になるって言うか、独特の存在感があるって言うか。
 要するに、彼の醸し出す華やかな雰囲気自体に惹かれたんだと思う。

 制服のないウチの学校は、髪型も比較的自由がきく。

 綺麗に染まったミルクティ色のマッシュヘアが、家に帰ってからもずっと頭から離れなかった。

 翌日、きょうちゃんと入部届を出して放課後部室に行ったけど、その日は彼に会えなくて。

 この同好会自体、特にコンテストや大会を目指す訳ではなく、音楽好きが集まって楽器を弾き、文化祭のステージで演奏する事を一番の目標に掲げているから、普段の練習も強制ではなくて自由参加だったらしい。

 そもそもこの学校は塾で忙しい人も多いから、彼も毎日は来てないのだろう。

 でもそこに行けば、もしかしたら星野君に会えるかも。

 そう思って、私は毎日のように放課後部室へと向かった。

 中学時代吹奏楽部でドラムを叩いていた私は下手なりにも重宝されて、先輩達から可愛がってもらえたから余計に。

杉山すぎやまさんて、もしかして経験者? 上手だね』

 だから、初めて彼から話しかけられた時は、スキップしたいほど舞い上がった。
 あまりに嬉しすぎて、その日の練習はリズムが全然キープ出来ず、部長さんから『走り過ぎ!』と何度も注意されたっけ。

 それ以降、同じリズム隊という事もあり、星野君とはよく話すようになった。

 好きなバンドの話から始まり、彼のよく行く楽器屋の話と、お互いの好きなアニメの話が初めの頃は多かったかな。

 きょうちゃんも含めて三人で夏フェスにも行ったし、文化祭では、スリーピースで観客の前での初演奏もした。

 選んだ曲は、ストレートに恋心を綴った、疾走感溢れる長年愛される名曲。
 思ったよりもドラムパートが難しかったけど、何とか練習と本番のノリで乗り切った。
 
 文化祭の練習の為に毎日部室に集まり、下校時間ギリギリまで三人で合わせた。
 練習のし過ぎでスティックがボロボロになり、どんな物を新調したら良いのか悩んでいれば、ドラムをやっている星野君のお兄さんが相談に乗ってくれ、楽器屋さんに星野兄弟と一緒に行く事もあった。
 それだけ一緒に過ごしていれば、嫌でもお互いをよく知り仲を深めていく事になる。

 そのうち星野君呼びが〝ほっしー〟呼びになり、杉山さんが〝絃ちゃん〟に。

 誰とも付き合った事ない私は、一年、二年と仲良くなる度に勘違いに勘違いを重ねていき――

 話も合うし、優しいし、一緒にいるとほっしー楽しそう。
 もしかして、彼も私の事が好きかも?
 本気でそんな馬鹿な事を思っていた。

 今思えば、そんな事ある訳ないのに。

 
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