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第三話〜アオハル②〜(回想)
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結局試合には負けてしまったけど、帰りに一言だけ伝えたくて、他の生徒の手前偶然を装い体育館の入り口で彼を捕まえた。
下を向いていた彼は私が声をかけると、フニャフニャした柔らかい笑顔を見せた。
「残念だったね」
「せっかく小澤が来てくれたのにカッコ悪……」
「ううん、カッコ良かった! バスケの事は良く知らないけどゴール決めてたし、パスも早くて凄かったよ!」
「ほんと? また見に来てくれる?」
「うん!」
「次は彼女として」
「うん! って……え!?」
これが、私達の始まり。
拙いながらにも少しずつ、でも確実に二人の距離は近づいていった。
物理的にも精神的にも。
秋――
私の誕生日に、リボンモチーフの可愛いヘアゴムをプレゼントされた。
淡い薄ピンク色が私のイメージにぴったりだったと言われて、私の頬は濃いピンク色に染まった筈。
そして体育館横の金木犀が花落ちし始め、地面が橙色のカーペットで覆われる頃。
私達は、体育館の外階段でこっそり初めてのキスをした。
秋らしい爽やかな風に乗って、金木犀の甘ったるい芳香と彼の匂いが鼻先をくすぐる。
今まで同じだった目線が合わなくなっていた事に、その時やっと気がついた。
その日から、私達はお互いを下の名前で呼ぶようになった。
急速に変わり始めていた心と身体に、私は気がついていなかった。
年明け――
受験ラストスパートの時期だと言うのに、お互い志望校の判定が余裕だった私達は、バレンタイン当日も二人で会っていた。
その日は日曜日、たまたま家に誰もいないからと呼ばれて、なんの警戒心も持たずに彼の部屋に入りベッドの縁に腰を下ろした。
あの頃の私は、あまりにも浅はかで幼過ぎたと思う。
初めて作った彼の為のトリュフ、想像以上に喜んでくれて、私もすごく嬉しかった。
その日の為に着ていった、セールで買ったフワフワでモコモコの可愛いニット。
うさぎみたいで可愛いって褒めてくれて、天にも昇る気持ちになった。
だから――
押し倒されても初めは意味が分からなかった。
キスがいつもと違う。
口の周りがヨダレでベチョベチョになって、初めて彼とのキスを不快に思う。
彼の目つきが違う。
いつもの優しくて爽やかなサキ君じゃない。
まるで、大人の男の人みたい。
ささやかな胸の膨らみに手をかけられた瞬間。
あまりの恥ずかしさと見た事ない彼が怖くて、力の限り拒絶した。
よく覚えていないけど、もしかしたら蹴り飛ばしてしまったかもしれない。
床に置いたバッグを拾い上げて勢いよく階段を降りる。
その後の事はもう全く覚えていない。
どうやって家に戻ったのかさえも。
サキ君と話したのも、二人で会ったのも、その日が最後になった。
下を向いていた彼は私が声をかけると、フニャフニャした柔らかい笑顔を見せた。
「残念だったね」
「せっかく小澤が来てくれたのにカッコ悪……」
「ううん、カッコ良かった! バスケの事は良く知らないけどゴール決めてたし、パスも早くて凄かったよ!」
「ほんと? また見に来てくれる?」
「うん!」
「次は彼女として」
「うん! って……え!?」
これが、私達の始まり。
拙いながらにも少しずつ、でも確実に二人の距離は近づいていった。
物理的にも精神的にも。
秋――
私の誕生日に、リボンモチーフの可愛いヘアゴムをプレゼントされた。
淡い薄ピンク色が私のイメージにぴったりだったと言われて、私の頬は濃いピンク色に染まった筈。
そして体育館横の金木犀が花落ちし始め、地面が橙色のカーペットで覆われる頃。
私達は、体育館の外階段でこっそり初めてのキスをした。
秋らしい爽やかな風に乗って、金木犀の甘ったるい芳香と彼の匂いが鼻先をくすぐる。
今まで同じだった目線が合わなくなっていた事に、その時やっと気がついた。
その日から、私達はお互いを下の名前で呼ぶようになった。
急速に変わり始めていた心と身体に、私は気がついていなかった。
年明け――
受験ラストスパートの時期だと言うのに、お互い志望校の判定が余裕だった私達は、バレンタイン当日も二人で会っていた。
その日は日曜日、たまたま家に誰もいないからと呼ばれて、なんの警戒心も持たずに彼の部屋に入りベッドの縁に腰を下ろした。
あの頃の私は、あまりにも浅はかで幼過ぎたと思う。
初めて作った彼の為のトリュフ、想像以上に喜んでくれて、私もすごく嬉しかった。
その日の為に着ていった、セールで買ったフワフワでモコモコの可愛いニット。
うさぎみたいで可愛いって褒めてくれて、天にも昇る気持ちになった。
だから――
押し倒されても初めは意味が分からなかった。
キスがいつもと違う。
口の周りがヨダレでベチョベチョになって、初めて彼とのキスを不快に思う。
彼の目つきが違う。
いつもの優しくて爽やかなサキ君じゃない。
まるで、大人の男の人みたい。
ささやかな胸の膨らみに手をかけられた瞬間。
あまりの恥ずかしさと見た事ない彼が怖くて、力の限り拒絶した。
よく覚えていないけど、もしかしたら蹴り飛ばしてしまったかもしれない。
床に置いたバッグを拾い上げて勢いよく階段を降りる。
その後の事はもう全く覚えていない。
どうやって家に戻ったのかさえも。
サキ君と話したのも、二人で会ったのも、その日が最後になった。
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