オレの体の部位たちがオレに「ダメ出し」してきた件

咲良きま

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第41話

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「よし、15分の休憩をはさもう。」
鈴木先生が声をかけると音楽はいったん止められた。生徒はそれぞれ水を飲んだり、トイレに行ったりしている。
俺もダンスホールの隅へとひっこんで立ったままペットボトルの水を飲む。
くーーっ。
乾いた体に染み渡る。
美味しい。
「ふーっ」と深呼吸をすると顔の汗が新たにしたたり落ちた。
ちらっと鏡をみると、全身汗だくでグレーのスウェットがところどころ濡れていた。
ちょっと恥ずかしいな…。
「ユキピロ、すごくよかったよー!
 鈴木先生もダンス部員もみんなが褒めてたねー。鼻が高いなー。」
瞳がウキウキと話しかけてくる。
「俺の力じゃないけどね。」
俺はむっつりと答えた。
「何を言っているのさ。ユキピロの力だよ。
 ほら、目を閉じてごらん。
 さっきの体の動きを思い出して。」
言われて目を閉じる。
脳内で体が動いた時のイメージを再現する。
不思議なことに俺は体の動きを全て覚えていた。
筋肉の動きも…。
すごい!マスターしている。
俺もう、踊れるじゃん!
マジか。
裏技すぎる。
こんなんでダンスを踊れるようになっていいのだろうか…。
「いいのだ!」
瞳が右手の親指をぐっと立てて、にやりと笑った。
いや…。よくないだろうよ…。
「いいんだってば!
 ダンスは、現時点で開花したユキピロの唯一の才能なんだから!
 僕らはちょっと、いやかなりお手伝いをしたけれども…。
 ちょーーーっとだけ近道しただけで、いずれは習得できていたはずだから!
 うん。問題ナッシング!」
本当に?
それにしても、唯一の才能って…もっと他の才能はないのかよ…。銀子みたいなやつ。
「一つあるだけでも、素晴らしいことだよ!
 だから、体のみんなはユキピロに眠れる才能を知って欲しくて、すっごく張り切ったんだよ。
 もっと、自分に自信をもって欲しくてさ。
 ユキピロも音楽にのれて、楽しかったでしょう?」
「確かに。
 うん。
 すごく楽しかった。」
そうか。
俺にも一つ得意なものがあったんだな。
心地よい疲労の中、心の奥底からぽかぽかと嬉しい気持ちとワクワク感が湧いてくる。
知らず知らずのうちに、俺は右足のつま先で地面を打って、ダンスのカウントをとっていた。脳内イメージで、一人自由に踊る。
こんなんじゃ、まだまだ足りない。
俺は、踊ることを渇望していた。
「よし、時間だ。再開するぞ。」
鈴木先生が2回手をたたく。
「田中前に出てこい。」
左側の頭髪だけを短く刈り上げた中に、2本の剃りこみの入った、個性的な髪型の男子部員が鈴木先生の隣に立った。
来ている黒のウェアーがすごくかっこいい。
本格的にヒップホップをやってます感がゴリゴリ出ている。
顔つきも、強面でゴロツキ感満載だ。ちょっと怖い。
先輩だよな?
「今日はレギュラーチームのメンバーは午後からのレッスンだが、田中だけにはちょっと早めに来てもらった。
 田中、コンディションは問題ないか?」
「はい。大丈夫です。」
「よし、それじゃ今から一曲、フリーで踊ってみてくれ。
 みんなは田中の踊りからぜひとも、盗めるものを盗んでくれ。
 ダンス部のエースだ。いいお手本となるだろう。」
そうして、田中先輩の演技が始まった。
圧巻だった。
ただひたすらかっこいい。
あ、あの技は俺もできそうだな。
俺は田中先輩から片時も目を離さずに、体は動きをコピーしていた。
うん。やれそう。
そんな感じで見ている間に俺はいくつか新技を会得していた。
自分で、自分の天才っぷりがヤバい。
万能感に酔いしれそうだ。
田中先輩の演技が終わると、割れんばかりの拍手がダンスホールに轟いた。
あまりの大音量に驚いて、ホールを見渡すといつの間にかギャラリーがたくさんいて…。ちょっと、意味が分からない。
バスケ部の男子やバレー部の女子もいるし…。
なんでみんな練習着のままなの?
慌てて駆けつけてきた感じなのかな?
別の部の生徒が勝手に入ってきて見学するのってありなの?
田中先輩って、それほど有名人なの?
驚愕のあまり色んな疑問が浮かぶ。
まじまじとギャラリーを見渡していると、なぜかいるはずのなさそうな本山と目が合った。
なんで、おまえがここにいるんだ?
俺が首をかしげるのとほぼ同時に、本山も変な顔をして首をかしげている。
いや、だからなんでおまえも、腑に落ちないって顔をしているんだよ…。
「鈴木先生、せっかくだから、新聞部のルーキーにもフリーで踊ってもらいましょう。」
田中先輩が突然、やけに爽やかに言い放った。
はい!?
え?おかしくない?
俺、単なる体験入部だから!
何をぶっこんでくれちゃっているの?
「お!いいね!
 山根君は筋がいいからなー。俺も可能性をみてみたい。
 お願いできるかな?」
えーーーーーー!!ちょっと鈴木先生!?
いや、おかしいでしょう。
俺は無言で首を横に激しくふる。
すると誰からともなく、「やーまーねー!やーまーねー!」と言う、コールが始まった。
悪乗りしたギャラリーがすぐさま手拍子を加えて、やがて大音量のコールとなってホールに響く。
うそでしょ?
「これはもう、後には引けないね…。」
瞳が同情をこめた言葉とは裏腹に、ウキウキしながら俺の背中を押す。
俺はダンスホールの中央に進み出て、よくわからないままに一礼した。
「よし、じゃ、同じ音楽をかけて!」
鈴木先生の合図でスピーカーから曲が流れ始める。
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