オレの体の部位たちがオレに「ダメ出し」してきた件

咲良きま

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第40話

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「さぁ、みんな!気合を入れるために円陣を組もう!」
瞳の元気な声が響く。
つっぷした頭をそろりと上げて横目でうかがうと、実体化した俺の部位達が大集合。
神経線維の姿のままで実体化したやつとかいる。リアルにグロイ…。止めて…。
「うるさいなー。ユキピロ。」
瞳はぶつくさ言いながらも、みんながファンシーな姿に変わるようにお願いしてくれた。
モフモフチェンジに成功した部位達は、モコモコふわふわのぬいぐるみ姿になってかわいらしく円陣を組んでいる。
くまさんに、うさぎさん、コアラにパンダもいる!いいじゃないか!
これなら見ていてかわいらしい。
はっ。ちがう、ちがう!
流されるところだった。
止めなきゃ!
「あのー…盛り上がっているところ…非常に申し訳ないんですけど…。何もしなくて結構です。」
俺は低姿勢でお願いしてみた。
「大丈夫だ。何も心配ない!ただ、我々の動きにその身をゆだねればよい!」
ビスマルクがどーんと煙とともに現れて、胸をたたきながら刺激的すぎるウィンクをよこす。
別の意味でズキューンときた…。
誰得なサービスだよ…。それ、いらないから。
もう…。俺の話を聞く気ゼロじゃん。あああ。
俺を無視して、ビスマルクが円陣に堂々とはいっていって野太い声をあげる。
「いいか!よく聞け!魂をこめろー!」
「おう!」
「見せつけてやれー!」
「おう!」
「ぶちかますぞー!」
「おう!」
最後はみんなで揃っていっせいに「どーん」と右足を床にたたきつけて、いい感じに声かけが終わった。
俺はあきらめといらだちで気持ちがずーんと落ち込んだ。
一体誰にかますんだよ。とほほ。
「時間だ!始めよう。」
鈴木先生が2回手をたたく。
ストレッチをしていたダンス部員たちが、機敏に鏡の前に並んだ。
それぞれすでに定位置があるらしい。
おれは一番後ろの列の隅におじゃまさせてもらう。
ヒップホップの音楽がスピーカーから流れだした。
ドゥン、ドゥンと響く重低音が体に響く。
どうやらここは音響も整備されているようだ。
「まずは首から。one、two、three‥」
先生が流れるラップに乗せてカウントをとっていく。
まずは準備運動から始めるみたいだ。
たかが準備運動がなんだかかっこいい。
ヒップホップ系男子がある種の層にモテルのが分かった気がする。
俺はなんとか先生の真似をする。
意外となんなくついていける。
音楽と体を合わせる作業は思ったよりも楽しくてちょっと驚きだ。
俺もしかして今、体にビートを刻んでいたりするのか!?
「次はアイソレーション。one、two、three‥」
これは体の部位を動かして体をほぐしていく作業のようだ。
うぬ。
動かしたことのない体の動きをするんだな。
体のどこに力をいれてどんな動きをすればいいのか、先生を見ているだけじゃ分からない。
見よう見まねで何とかついていこうとすると、「今こそ、僕たちの出番だね」と、聞きたくない瞳の声が頭の中で響いた。
その瞬間から俺は体の主導権を奪われた…。
うそだろ!?
最悪だ。
「やあ、やあ、我こそは右肩なり。ピロユキの助太刀の為、ここに見参!」
初登場の右肩くんが俺の右肩をうまいこと動かしていく。
続いて登場したのは左肩くんだ。そうして、あちこちの部位たちが、それぞれ名乗りをあげながら楽し気に現れる。すると俺の体は信じられないくらい神がかった動きになっていく。
そうなると、先生に劣らない滑らかな動きをする初心者が現れるというおかしな事態になるわけで…。
「山根くん、本当に初めてなの?素晴らしいね」と、鈴木先生が手放しでほめてくれる。
ダンス部員の目が一気に俺に集まった。
は…恥ずかしい。
注目を集めると俺の部位達はますます張り切っていく。
そうして一連の流れがここに出来上がった。
何をするにも先生にいちいちほめられ、部員の視線を集め、さらに張り切る部位達という無限ループ。
踊りの振りに入ると益々上がる注目度。
そこに俺の意思はいっさい介在しない。
なんなの、マジで…。
「山根くん、かっこいい。」
「すごいね。」
「素敵。」
「キレッキレじゃん。」
人生で初めて女子からかけられる賞賛の言葉と数々の羨望の眼差し。
更には、男子から向けられる嫉妬が宿るぎらついた目線。
俺は単純に喜べるはずもなく…。
だって、俺の実力じゃないし…。ある意味実力なのか!?
俺だけの力でまた同じことするのは無理なわけで…。
変に目立つといいことなんてあるはずないじゃん!?
ひきつった表情のままに俺の体はキレッキレな動きをし続ける。
「すごいでしょー!やるでしょー!」
部位達はますます得意満面になり、しまいには「ユキピロ―!」と絶叫連呼の大合唱を始める。
なんだ、コレは。
キャパオーバーで気が狂いそうだ。
口から魂が抜けていく感覚ってこんな感じかな。
俺は自分の瞳からハイライトが消えたのを自覚した。

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