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第39話
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せっかくの日曜日なのに俺は朝っぱらから登校している。
「なんでこんなことに…。」
俺は空き教室で上下灰色のスウェットに着替えながら一人、ため息をつく。
「バッカもーん!みなぎる若い力を爆発してこそ男だろ!
貴様はどうしてそうもやる気がないのだ!」
ビスマルクが唾を飛ばして怒鳴るように言った。
顔を近づけてくるのを止めれ。
顔の濃さも相まって、圧がすごいのよ…。
「まぁ、まぁ、落ち着いて。」
瞳が、ビスマルクをちょっと遠ざけてくれた。
うん。
パーソナルスペースは大事だから!本当にな!
「せっかく綺麗な生足を見せない手はないと思うんだ。」
今度はシオンが喜々として左足のズボンを裾から太もものあたりまで、くるくる折り曲げていく。
「ぎゃっ。」
俺は慌ててめくりあげられたズボンを元にもどす。
「マジで…。てめー。何しやがる。ふざけんな!」
「えー…。こんなに綺麗でつやつやなのに。」
シオンよ…。人差し指を口にくわえて物欲しそうな目で見るの…やめれ。
こんなに潤っているのは、お前が毎日のケアをかかさないからな…左足だけ。
なんで右足はカサカサなんだよ…。
「男は素のままで美しいのだ!」
すかさずビスマルクが前に出てくる。
「荒々しさこそ男の美学!」
いや、だから…。顔が近いって。
背中に荒れた日本海を背負うのはやめろ。波しぶきまでの細やかな再現…すごいな。いらんクオリティ…。
あ、キスしそうじゃないか!!マジで顔が近い!!お願い…。離れて…。
ビスマルクの血走った目が怖くて俺は思わず目を閉じる。
あ、これはキス待ち顔じゃないからな!勘違いするなよ!
「な!貴様!愚弄する気か!!」
益々ヒートアップしたビスマルクを瞳が羽交い絞めにして俺から引き離す。
瞳!グッジョブ!
そもそもスキンケアはちゃんとした方がいいと思うんだ。
右足だけカサカサと乾燥しているのもどうかと思うよ…。体のコンディション的に。
「ぬぁーーーんーーだーとー!」
ああ!ごめんなさい。ごめんなさい。
怖いし…。
うん。もういいや。好きにして…。
それよりも…。
あーーーーー。行きたくない。けれど行くしかない。
俺は深いため息をついた。
うじうじしても仕方ないかー。
ペットボトルの水と体育館シューズを持って俺は空き教室を後にする。
今日は新聞部の先輩に頼まれてダンス部の取材を行う予定だ。
先輩の補佐をすればいいんだろうと軽く考えていたら…。おどった感想が聞きたいと先輩に頼まれて…。
なぜか俺が1日体験入部をするはめに…。
なんで俺なんだよ。マジで…。
ダンスとか…絶望しかない。
しかもヒップホップだと!?
無理でしょ。
体にビートを刻むって…なんだよそれ。できないよ。
コンテンポラリーよりはましだけども…。
いや、どっちも無理だな。うん。
俺、絶対奇妙な動きをして、見知らぬダンス部員たちに笑われる…。
あー…。嫌だ…。
「安心して!僕らがついてるよ!」
瞳がいい笑顔でガッツポーズをとる。
いや…何もしなくていいから…。
むしろ…お願いだからおとなしくしててください。
「何を言う!今日は我々のポテンシャルをお前自身に分からせてやるいい機会だ!
本来の秘めたる力をおまえは思い知るがいい。」
ビスマルクが自信満々にふかしてくる。
もう…。不安でしかない…。
おうちに帰りたいよー…。
このスウェットだってさ。運動するために買ったんじゃないんだ。
ドラマの主人公がニートのユニフォームだって言ってたからさ。俺も欲しくなって同じものを買っただけなんだ。
本来は、家でゴロゴロする用のものなんだよ。
なんてったって、ニートのユニフォームだからな!
これを着てアグレッシブに運動する気力なんて1ミリも持ち合わせていないのに…。
「うじうじしないの!」
瞳にスパーンとハリセンで頭をはたかれた。
日々雑になっていく扱いに俺はチベットスナギツネの顔になる。
俺はふらふらと体育館へ足を踏み込んだ。
3FのA教室がダンス専用ホールになっている。
授業でも利用するのだが、一面が鏡張りになっている為、自分の体の動きを確認しながら練習できるちゃんとした施設だ。
「お!きたな。こっちこっち!」
新聞部の中村先輩が笑顔で手をふっている。
先輩、ちくしょーー。お気楽だな…。
中村先輩はダンス部の顧問、鈴木先生といっしょにいる。鈴木先生はフレッシュな新米の男性教師だ。生徒からとても人気があると聞いている。
中村先輩が、「今日、取材のために体験入部をさせていただく山根です」と、俺を紹介した。
「今日はよろしくお願いします」と、俺はぺこりと頭を下げる。
鈴木先生はうなずいて、
「初心者の為の補講レッスンだから参加しやすいだろうと思って、体験日を今日にしてもらったんだ。
この後時間になったら、準備体操をしてアイソレーションの後に簡単なダンスをするから、まずは見よう見まねでやってみてくれ」と、言った。
俺はうなずくと、一礼してその場を離れた。そして、時間までダンスホールの隅にちょこんと座って待つことにした。
部員がちょこちょこと集まり始めている。
鈴木先輩は部員に取材で話を聞いている。
ヒップホップとか…未知の領域すぎる…。
俺は頭をかかえた。
「まかせろ、まかせろ」とやる気満々の俺の部位達の異常なはりきり方が恐ろしい…。
気づけば俺は、不安のあまり体育座りでうつ向いていた。
頭の中でドナドナの歌がかかり始める。
俺は子牛の気持ちになって時が来るのをおびえていた。
「なんでこんなことに…。」
俺は空き教室で上下灰色のスウェットに着替えながら一人、ため息をつく。
「バッカもーん!みなぎる若い力を爆発してこそ男だろ!
貴様はどうしてそうもやる気がないのだ!」
ビスマルクが唾を飛ばして怒鳴るように言った。
顔を近づけてくるのを止めれ。
顔の濃さも相まって、圧がすごいのよ…。
「まぁ、まぁ、落ち着いて。」
瞳が、ビスマルクをちょっと遠ざけてくれた。
うん。
パーソナルスペースは大事だから!本当にな!
「せっかく綺麗な生足を見せない手はないと思うんだ。」
今度はシオンが喜々として左足のズボンを裾から太もものあたりまで、くるくる折り曲げていく。
「ぎゃっ。」
俺は慌ててめくりあげられたズボンを元にもどす。
「マジで…。てめー。何しやがる。ふざけんな!」
「えー…。こんなに綺麗でつやつやなのに。」
シオンよ…。人差し指を口にくわえて物欲しそうな目で見るの…やめれ。
こんなに潤っているのは、お前が毎日のケアをかかさないからな…左足だけ。
なんで右足はカサカサなんだよ…。
「男は素のままで美しいのだ!」
すかさずビスマルクが前に出てくる。
「荒々しさこそ男の美学!」
いや、だから…。顔が近いって。
背中に荒れた日本海を背負うのはやめろ。波しぶきまでの細やかな再現…すごいな。いらんクオリティ…。
あ、キスしそうじゃないか!!マジで顔が近い!!お願い…。離れて…。
ビスマルクの血走った目が怖くて俺は思わず目を閉じる。
あ、これはキス待ち顔じゃないからな!勘違いするなよ!
「な!貴様!愚弄する気か!!」
益々ヒートアップしたビスマルクを瞳が羽交い絞めにして俺から引き離す。
瞳!グッジョブ!
そもそもスキンケアはちゃんとした方がいいと思うんだ。
右足だけカサカサと乾燥しているのもどうかと思うよ…。体のコンディション的に。
「ぬぁーーーんーーだーとー!」
ああ!ごめんなさい。ごめんなさい。
怖いし…。
うん。もういいや。好きにして…。
それよりも…。
あーーーーー。行きたくない。けれど行くしかない。
俺は深いため息をついた。
うじうじしても仕方ないかー。
ペットボトルの水と体育館シューズを持って俺は空き教室を後にする。
今日は新聞部の先輩に頼まれてダンス部の取材を行う予定だ。
先輩の補佐をすればいいんだろうと軽く考えていたら…。おどった感想が聞きたいと先輩に頼まれて…。
なぜか俺が1日体験入部をするはめに…。
なんで俺なんだよ。マジで…。
ダンスとか…絶望しかない。
しかもヒップホップだと!?
無理でしょ。
体にビートを刻むって…なんだよそれ。できないよ。
コンテンポラリーよりはましだけども…。
いや、どっちも無理だな。うん。
俺、絶対奇妙な動きをして、見知らぬダンス部員たちに笑われる…。
あー…。嫌だ…。
「安心して!僕らがついてるよ!」
瞳がいい笑顔でガッツポーズをとる。
いや…何もしなくていいから…。
むしろ…お願いだからおとなしくしててください。
「何を言う!今日は我々のポテンシャルをお前自身に分からせてやるいい機会だ!
本来の秘めたる力をおまえは思い知るがいい。」
ビスマルクが自信満々にふかしてくる。
もう…。不安でしかない…。
おうちに帰りたいよー…。
このスウェットだってさ。運動するために買ったんじゃないんだ。
ドラマの主人公がニートのユニフォームだって言ってたからさ。俺も欲しくなって同じものを買っただけなんだ。
本来は、家でゴロゴロする用のものなんだよ。
なんてったって、ニートのユニフォームだからな!
これを着てアグレッシブに運動する気力なんて1ミリも持ち合わせていないのに…。
「うじうじしないの!」
瞳にスパーンとハリセンで頭をはたかれた。
日々雑になっていく扱いに俺はチベットスナギツネの顔になる。
俺はふらふらと体育館へ足を踏み込んだ。
3FのA教室がダンス専用ホールになっている。
授業でも利用するのだが、一面が鏡張りになっている為、自分の体の動きを確認しながら練習できるちゃんとした施設だ。
「お!きたな。こっちこっち!」
新聞部の中村先輩が笑顔で手をふっている。
先輩、ちくしょーー。お気楽だな…。
中村先輩はダンス部の顧問、鈴木先生といっしょにいる。鈴木先生はフレッシュな新米の男性教師だ。生徒からとても人気があると聞いている。
中村先輩が、「今日、取材のために体験入部をさせていただく山根です」と、俺を紹介した。
「今日はよろしくお願いします」と、俺はぺこりと頭を下げる。
鈴木先生はうなずいて、
「初心者の為の補講レッスンだから参加しやすいだろうと思って、体験日を今日にしてもらったんだ。
この後時間になったら、準備体操をしてアイソレーションの後に簡単なダンスをするから、まずは見よう見まねでやってみてくれ」と、言った。
俺はうなずくと、一礼してその場を離れた。そして、時間までダンスホールの隅にちょこんと座って待つことにした。
部員がちょこちょこと集まり始めている。
鈴木先輩は部員に取材で話を聞いている。
ヒップホップとか…未知の領域すぎる…。
俺は頭をかかえた。
「まかせろ、まかせろ」とやる気満々の俺の部位達の異常なはりきり方が恐ろしい…。
気づけば俺は、不安のあまり体育座りでうつ向いていた。
頭の中でドナドナの歌がかかり始める。
俺は子牛の気持ちになって時が来るのをおびえていた。
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