オレの体の部位たちがオレに「ダメ出し」してきた件

咲良きま

文字の大きさ
上 下
36 / 48

第36話

しおりを挟む
「お嬢様は中庭でお待ちです。こちらへどうぞ。」
うながされて、俺たちは先へすすむ。エントランスホールを出ると、回廊にでた。回廊は中庭をコの字型に囲むように続いており、等間隔に配置された縦長の窓から室内に差し込む外光が、外と室内をつなぐ空間をドラマチックに演出している。
「どうぞ。」
川上さんの開けてくれた回廊のドアより中庭へ出る。
ここまでずっと土足だ。…銀子の生活様式はどうなっているんだろう。
一日中靴を履いているんだろうか。
そこは日本庭園だった。
無理やり曲げられただろうくねくねした松や、置石が独特の雰囲気を醸し出している。
東屋が見えるが、こちらは中華式だった。
この家のコンセプトが分からぬ…。
その立派な東屋で、グラサンをかけた銀子と小学生くらいの少年がお茶をしている。
メイドさんに耳打ちされた銀子がこちらを振り向き、「いらっしゃい」と手をふった。
銀子は優雅に立ち上がって、こちらに近づいてくる。
ホットパンツにキャミソール姿。
なかなか露出が多いのな…。
すらりと長い手足にシミ一つない真っ白な肌。グラサンで顔が見えないと、極上の美少女に見える。
グラサンの威力ってすごいな。
俺が感心していると、本山が突然鼻を右手で押さえた。
どうした?
見ると地面にぽたぽた何かが落ちている。
あれ?赤い?
驚いて本山をみると鼻を押さえた手の隙間から赤いものが染み出している。
それはどんどん溢れていって、本山の真っ白なTシャツを前衛的な模様へ変えていく。
ええええ?
鼻血を吹いてる!?
「大丈夫?」
銀子が駆け足で近づくと、ますます本山の鼻血の勢いがましているような…。
本山…。そんな漫画みたいな…。
俺はとっさに本山と銀子の間に立ち、本山の視界から銀子を遮った。
「はい。ティッシュ。」
陣さんが差し出すティッシュで鼻を抑えた本山は顔を上に向ける。
その間、俺は陣さんからもらったティッシュを割いてまるめていく。
しばらくして、本山の出血がおさまったので、まるめたティッシュを本山の2つ鼻の穴に詰めてあげた。
うん。
イケメンがだいなしである。
一段落ついたので、俺は銀子に近づいて、
「悪いけど、露出の少ない服に着替えてきてくれない」
と、頼んだ。
銀子は口をひきつらせて、無言でその場を去った。
本山は血で汚れた服の替えを用意してもらえるらしく、うながされて川上さんについて行く。
本山の去り行く背中に漂う哀愁が悲しい。
…ドンマイ。
残された俺と陣さんは互いに顔を見合わせ微妙な顔をした。
「お姉さまのお友達?」
かわいい声に視線をさげる。小学生くらいの美少年が俺の前に立っていた。
少し色素の薄い茶色の髪に整った目鼻立ち。ダークブラウンの瞳がとても魅力的で一目で、外国の血が流れているのが分かる。
俺がとまどっていると、陣さんが代わりに応えてくれた。
「正宗くん、こんにちは。そうだよ。山根君って言うんだよ。
 山根君、銀子の弟の正宗くんだよ。今小学3年生だったかな?」
「うん。今年小学3年生になった。山根君、遊ぼう。」
未だかつてこんな風に初対面から純粋な好意を向けられたことがあっただろうか。
俺はどぎまぎしながら、中腰になって目線の高さを合わせて正宗くんに返事をした。
「うん。遊ぼう。何をして遊ぶ?」
山根君は、俺の手をつかむと東屋へ引っ張っていく。
正宗くんはいそいそとテーブルに将棋盤を出してきた。
メイドさんが紅茶をそっとだしてくれる。至れり尽くせりだ。
陣さんが見守る中、俺たちは対戦した。
そして、俺は小学生に秒殺された。
流石…天才の弟も天才だった。
「山根くん、ごめんね。得意じゃないこと頼んじゃった。」
更には気遣いまでされてしまった。できた子だ。立つ瀬がないとはこのことである。
「えっと。あ、トランプもあるよ。」
正宗くんが将棋盤を片付けて取り出したトランプはレトロな絵柄のオシャレなものだった。
「へー。これ、素敵だねー」と言うと、天使のような笑顔がかえってくる。
なんだろうな。このかわいい生き物は…。
それからは、陣さんも含めて3人でババ抜きをした。
これが、けっこう…。いや、かなり楽しかったのである。
家族以外とトランプするのが初めてだったからかもしれない。
ババを引いた時の正宗くんの真剣な悔しがり方がとってもかわいい。
そして、憧れの陣さんと対面してトランプを引くのである。
この距離感…。ドキドキする。緊張でトランプを引く手が震えてしまった。
俺も鼻血を吹くかもしれない。死んでも嫌だが。
ありがたや、ありがたや。
脳内は興奮でお祭り状態である。
楽しんでいるうちに、着替えた銀子と本山が2人そろって戻ってきた。
本山はブランドのシャツをパリッと着こなして、まるでモデルのようだ。イケメンのグレードが一つ上がっている。
おまえ…。さっきまで、鼻にティッシュをつめていたくせに…。
ちょっとずるい。
そうは思うものの、銀子と話す度にデレデレ顔になっていく本山を目にすると…生暖かい気持ちになってどうでもよくなった。
銀子は真っ青なワンピース姿で先ほどよりも肌の露出がましになっていた。
本山の鼻の健康のためにも一安心である。
「お姉さま。」
正宗くんが銀子のそばにかけよった。
一方は立派なおたふく。一方は西洋の天使。
全く似ていない姉弟だ。
「二人とも本当に美形すぎる。なんて麗しい姉弟だ。」
本山がほうっとため息をつく。
マジで言ってんのか!?
俺は目をむいた。
盲目恋愛フィルターが相変わらず発動している。
恋とは本当に恐ろしい。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ザ・青春バンド!

モカ☆まった〜り
青春
北海道・札幌に住む「悪ガキ4人組」は、高校一年生になっても悪さばかり・・・ある日たまたまタンスの隙間に挟まっていた父親のレコード「レッド・ツエッペリン」を見つけた。ハードロックに魅せられた4人はバンドを組もうとするのだが・・・。

Missing you

廣瀬純一
青春
突然消えた彼女を探しに山口県に訪れた伊東達也が自転車で県内の各市を巡り様々な体験や不思議な体験をする話

Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都
青春
幼なじみへの気持ちの変化を自覚できずにいた中2の夏。ライバルとの出会いが、少年を未知のスポーツへと向わせた。 美少女と手に手をとって進むその競技の名は、アイスダンス!! 【2022/6/11完結】  その日僕たちの教室は、朝から転校生が来るという噂に落ち着きをなくしていた。帰国子女らしいという情報も入り、誰もがますます転校生への期待を募らせていた。  そんな中でただ一人、果歩(かほ)だけは違っていた。 「制覇、今日は五時からだから。来てね」  隣の席に座る彼女は大きな瞳を輝かせて、にっこりこちらを覗きこんだ。  担任が一人の生徒とともに教室に入ってきた。みんなの目が一斉にそちらに向かった。それでも果歩だけはずっと僕の方を見ていた。 ◇ こんな二人の居場所に現れたアメリカ帰りの転校生。少年はアイスダンスをするという彼に強い焦りを感じ、彼と同じ道に飛び込んでいく…… ――小説家になろう、カクヨム(別タイトル)にも掲載――

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

善意一〇〇%の金髪ギャル~彼女を交通事故から救ったら感謝とか同情とか罪悪感を抱えられ俺にかまってくるようになりました~

みずがめ
青春
高校入学前、俺は車に撥ねられそうになっている女性を助けた。そこまではよかったけど、代わりに俺が交通事故に遭ってしまい入院するはめになった。 入学式当日。未だに入院中の俺は高校生活のスタートダッシュに失敗したと落ち込む。 そこへ現れたのは縁もゆかりもないと思っていた金髪ギャルであった。しかし彼女こそ俺が事故から助けた少女だったのだ。 「助けてくれた、お礼……したいし」 苦手な金髪ギャルだろうが、恥じらう乙女の前に健全な男子が逆らえるわけがなかった。 こうして始まった俺と金髪ギャルの関係は、なんやかんやあって(本編にて)ハッピーエンドへと向かっていくのであった。 表紙絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

信仰の国のアリス

初田ハツ
青春
記憶を失った女の子と、失われた記憶の期間に友達になったと名乗る女の子。 これは女の子たちの冒険の話であり、愛の話であり、とある町の話。

処理中です...