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第36話
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「お嬢様は中庭でお待ちです。こちらへどうぞ。」
うながされて、俺たちは先へすすむ。エントランスホールを出ると、回廊にでた。回廊は中庭をコの字型に囲むように続いており、等間隔に配置された縦長の窓から室内に差し込む外光が、外と室内をつなぐ空間をドラマチックに演出している。
「どうぞ。」
川上さんの開けてくれた回廊のドアより中庭へ出る。
ここまでずっと土足だ。…銀子の生活様式はどうなっているんだろう。
一日中靴を履いているんだろうか。
そこは日本庭園だった。
無理やり曲げられただろうくねくねした松や、置石が独特の雰囲気を醸し出している。
東屋が見えるが、こちらは中華式だった。
この家のコンセプトが分からぬ…。
その立派な東屋で、グラサンをかけた銀子と小学生くらいの少年がお茶をしている。
メイドさんに耳打ちされた銀子がこちらを振り向き、「いらっしゃい」と手をふった。
銀子は優雅に立ち上がって、こちらに近づいてくる。
ホットパンツにキャミソール姿。
なかなか露出が多いのな…。
すらりと長い手足にシミ一つない真っ白な肌。グラサンで顔が見えないと、極上の美少女に見える。
グラサンの威力ってすごいな。
俺が感心していると、本山が突然鼻を右手で押さえた。
どうした?
見ると地面にぽたぽた何かが落ちている。
あれ?赤い?
驚いて本山をみると鼻を押さえた手の隙間から赤いものが染み出している。
それはどんどん溢れていって、本山の真っ白なTシャツを前衛的な模様へ変えていく。
ええええ?
鼻血を吹いてる!?
「大丈夫?」
銀子が駆け足で近づくと、ますます本山の鼻血の勢いがましているような…。
本山…。そんな漫画みたいな…。
俺はとっさに本山と銀子の間に立ち、本山の視界から銀子を遮った。
「はい。ティッシュ。」
陣さんが差し出すティッシュで鼻を抑えた本山は顔を上に向ける。
その間、俺は陣さんからもらったティッシュを割いてまるめていく。
しばらくして、本山の出血がおさまったので、まるめたティッシュを本山の2つ鼻の穴に詰めてあげた。
うん。
イケメンがだいなしである。
一段落ついたので、俺は銀子に近づいて、
「悪いけど、露出の少ない服に着替えてきてくれない」
と、頼んだ。
銀子は口をひきつらせて、無言でその場を去った。
本山は血で汚れた服の替えを用意してもらえるらしく、うながされて川上さんについて行く。
本山の去り行く背中に漂う哀愁が悲しい。
…ドンマイ。
残された俺と陣さんは互いに顔を見合わせ微妙な顔をした。
「お姉さまのお友達?」
かわいい声に視線をさげる。小学生くらいの美少年が俺の前に立っていた。
少し色素の薄い茶色の髪に整った目鼻立ち。ダークブラウンの瞳がとても魅力的で一目で、外国の血が流れているのが分かる。
俺がとまどっていると、陣さんが代わりに応えてくれた。
「正宗くん、こんにちは。そうだよ。山根君って言うんだよ。
山根君、銀子の弟の正宗くんだよ。今小学3年生だったかな?」
「うん。今年小学3年生になった。山根君、遊ぼう。」
未だかつてこんな風に初対面から純粋な好意を向けられたことがあっただろうか。
俺はどぎまぎしながら、中腰になって目線の高さを合わせて正宗くんに返事をした。
「うん。遊ぼう。何をして遊ぶ?」
山根君は、俺の手をつかむと東屋へ引っ張っていく。
正宗くんはいそいそとテーブルに将棋盤を出してきた。
メイドさんが紅茶をそっとだしてくれる。至れり尽くせりだ。
陣さんが見守る中、俺たちは対戦した。
そして、俺は小学生に秒殺された。
流石…天才の弟も天才だった。
「山根くん、ごめんね。得意じゃないこと頼んじゃった。」
更には気遣いまでされてしまった。できた子だ。立つ瀬がないとはこのことである。
「えっと。あ、トランプもあるよ。」
正宗くんが将棋盤を片付けて取り出したトランプはレトロな絵柄のオシャレなものだった。
「へー。これ、素敵だねー」と言うと、天使のような笑顔がかえってくる。
なんだろうな。このかわいい生き物は…。
それからは、陣さんも含めて3人でババ抜きをした。
これが、けっこう…。いや、かなり楽しかったのである。
家族以外とトランプするのが初めてだったからかもしれない。
ババを引いた時の正宗くんの真剣な悔しがり方がとってもかわいい。
そして、憧れの陣さんと対面してトランプを引くのである。
この距離感…。ドキドキする。緊張でトランプを引く手が震えてしまった。
俺も鼻血を吹くかもしれない。死んでも嫌だが。
ありがたや、ありがたや。
脳内は興奮でお祭り状態である。
楽しんでいるうちに、着替えた銀子と本山が2人そろって戻ってきた。
本山はブランドのシャツをパリッと着こなして、まるでモデルのようだ。イケメンのグレードが一つ上がっている。
おまえ…。さっきまで、鼻にティッシュをつめていたくせに…。
ちょっとずるい。
そうは思うものの、銀子と話す度にデレデレ顔になっていく本山を目にすると…生暖かい気持ちになってどうでもよくなった。
銀子は真っ青なワンピース姿で先ほどよりも肌の露出がましになっていた。
本山の鼻の健康のためにも一安心である。
「お姉さま。」
正宗くんが銀子のそばにかけよった。
一方は立派なおたふく。一方は西洋の天使。
全く似ていない姉弟だ。
「二人とも本当に美形すぎる。なんて麗しい姉弟だ。」
本山がほうっとため息をつく。
マジで言ってんのか!?
俺は目をむいた。
盲目恋愛フィルターが相変わらず発動している。
恋とは本当に恐ろしい。
うながされて、俺たちは先へすすむ。エントランスホールを出ると、回廊にでた。回廊は中庭をコの字型に囲むように続いており、等間隔に配置された縦長の窓から室内に差し込む外光が、外と室内をつなぐ空間をドラマチックに演出している。
「どうぞ。」
川上さんの開けてくれた回廊のドアより中庭へ出る。
ここまでずっと土足だ。…銀子の生活様式はどうなっているんだろう。
一日中靴を履いているんだろうか。
そこは日本庭園だった。
無理やり曲げられただろうくねくねした松や、置石が独特の雰囲気を醸し出している。
東屋が見えるが、こちらは中華式だった。
この家のコンセプトが分からぬ…。
その立派な東屋で、グラサンをかけた銀子と小学生くらいの少年がお茶をしている。
メイドさんに耳打ちされた銀子がこちらを振り向き、「いらっしゃい」と手をふった。
銀子は優雅に立ち上がって、こちらに近づいてくる。
ホットパンツにキャミソール姿。
なかなか露出が多いのな…。
すらりと長い手足にシミ一つない真っ白な肌。グラサンで顔が見えないと、極上の美少女に見える。
グラサンの威力ってすごいな。
俺が感心していると、本山が突然鼻を右手で押さえた。
どうした?
見ると地面にぽたぽた何かが落ちている。
あれ?赤い?
驚いて本山をみると鼻を押さえた手の隙間から赤いものが染み出している。
それはどんどん溢れていって、本山の真っ白なTシャツを前衛的な模様へ変えていく。
ええええ?
鼻血を吹いてる!?
「大丈夫?」
銀子が駆け足で近づくと、ますます本山の鼻血の勢いがましているような…。
本山…。そんな漫画みたいな…。
俺はとっさに本山と銀子の間に立ち、本山の視界から銀子を遮った。
「はい。ティッシュ。」
陣さんが差し出すティッシュで鼻を抑えた本山は顔を上に向ける。
その間、俺は陣さんからもらったティッシュを割いてまるめていく。
しばらくして、本山の出血がおさまったので、まるめたティッシュを本山の2つ鼻の穴に詰めてあげた。
うん。
イケメンがだいなしである。
一段落ついたので、俺は銀子に近づいて、
「悪いけど、露出の少ない服に着替えてきてくれない」
と、頼んだ。
銀子は口をひきつらせて、無言でその場を去った。
本山は血で汚れた服の替えを用意してもらえるらしく、うながされて川上さんについて行く。
本山の去り行く背中に漂う哀愁が悲しい。
…ドンマイ。
残された俺と陣さんは互いに顔を見合わせ微妙な顔をした。
「お姉さまのお友達?」
かわいい声に視線をさげる。小学生くらいの美少年が俺の前に立っていた。
少し色素の薄い茶色の髪に整った目鼻立ち。ダークブラウンの瞳がとても魅力的で一目で、外国の血が流れているのが分かる。
俺がとまどっていると、陣さんが代わりに応えてくれた。
「正宗くん、こんにちは。そうだよ。山根君って言うんだよ。
山根君、銀子の弟の正宗くんだよ。今小学3年生だったかな?」
「うん。今年小学3年生になった。山根君、遊ぼう。」
未だかつてこんな風に初対面から純粋な好意を向けられたことがあっただろうか。
俺はどぎまぎしながら、中腰になって目線の高さを合わせて正宗くんに返事をした。
「うん。遊ぼう。何をして遊ぶ?」
山根君は、俺の手をつかむと東屋へ引っ張っていく。
正宗くんはいそいそとテーブルに将棋盤を出してきた。
メイドさんが紅茶をそっとだしてくれる。至れり尽くせりだ。
陣さんが見守る中、俺たちは対戦した。
そして、俺は小学生に秒殺された。
流石…天才の弟も天才だった。
「山根くん、ごめんね。得意じゃないこと頼んじゃった。」
更には気遣いまでされてしまった。できた子だ。立つ瀬がないとはこのことである。
「えっと。あ、トランプもあるよ。」
正宗くんが将棋盤を片付けて取り出したトランプはレトロな絵柄のオシャレなものだった。
「へー。これ、素敵だねー」と言うと、天使のような笑顔がかえってくる。
なんだろうな。このかわいい生き物は…。
それからは、陣さんも含めて3人でババ抜きをした。
これが、けっこう…。いや、かなり楽しかったのである。
家族以外とトランプするのが初めてだったからかもしれない。
ババを引いた時の正宗くんの真剣な悔しがり方がとってもかわいい。
そして、憧れの陣さんと対面してトランプを引くのである。
この距離感…。ドキドキする。緊張でトランプを引く手が震えてしまった。
俺も鼻血を吹くかもしれない。死んでも嫌だが。
ありがたや、ありがたや。
脳内は興奮でお祭り状態である。
楽しんでいるうちに、着替えた銀子と本山が2人そろって戻ってきた。
本山はブランドのシャツをパリッと着こなして、まるでモデルのようだ。イケメンのグレードが一つ上がっている。
おまえ…。さっきまで、鼻にティッシュをつめていたくせに…。
ちょっとずるい。
そうは思うものの、銀子と話す度にデレデレ顔になっていく本山を目にすると…生暖かい気持ちになってどうでもよくなった。
銀子は真っ青なワンピース姿で先ほどよりも肌の露出がましになっていた。
本山の鼻の健康のためにも一安心である。
「お姉さま。」
正宗くんが銀子のそばにかけよった。
一方は立派なおたふく。一方は西洋の天使。
全く似ていない姉弟だ。
「二人とも本当に美形すぎる。なんて麗しい姉弟だ。」
本山がほうっとため息をつく。
マジで言ってんのか!?
俺は目をむいた。
盲目恋愛フィルターが相変わらず発動している。
恋とは本当に恐ろしい。
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